2014.06.03 お知らせ
「IT奴隷化に反旗を翻そう」 VASILY技術顧問 まつもとゆきひろ氏インタビュー
まつもとゆきひろさんが弊社の技術顧問に就任する事となりました。せっかくなので、「ベンチャーの重要性」「世界での勝ち方」「SIerのヤバさ」「モルモン教とエンジニアリング」など、まつもとさんに色々聞きたかった事をぶつけてみました!
質問
我々は、小さい会社ながらも技術によって世の中にインパクトを与えようと頑張っています。
他にもそういった会社が増えていますが、思う所など教えてください。
まつもと
その逆は大企業とかだけど、関わっている人が多くなればなるほど、辛くなりますよね。
僕はビジネスマンじゃないので、エンジニアが幸せかどうかしか分からないけど、自分で決められないエンジニアは不幸なんですよね。
この技術の方が絶対いいのに、「上司が説得できないから従来のやり方で頑張りましょう」みたいな空気で腐りながらやるのは、エンジニアにとっては不幸なんですよね。
小さなとこだと自分で何をするか決められるじゃないですか。それはエンジニアにとっては幸せなことだと。
あとは、ネットのスピード感を維持するっていうのはむしろ、小さな組織でなければできない。
「大企業があります。ビジネスがあります。大企業がそのシステムが欲しいから発注します。」みたいな構図はもう、なくなっていくかなと。
テクノロジーを担うのは動きの速い小さな組織しかないんじゃないかな、と思いますね。
質問
我々はテクノロジーを足がかりにして世界と戦おうとしています。
Rubyは世界進出に成功したプロダクトだと思いますが、その経験を踏まえて成功するのに必要な事は何だと考えますか?
まつもと
なんでも人間が相手なので、人気が出るとか広く使われるとかは人が決める。一人一人がサイトだったりサービスだったり、あるいは言語だったりを選ぶ事によって決まるわけですよね。
それを選ぶかどうかっていうのは、好きかどうかとか、便利かどうかで、それって文化に依存する。
Rubyの場合はプログラマーのマインドとか、ハッカー文化みたいなものに寄り添って、そこに最適化していて。そこが特定の国に依存してないものだったので、上手く行ったと。
現状、本当に世界規模で何かをやるには、国に依存しない共通な何かの文化を見つけ出して、それに最適化しないと難しいんじゃないかと思いますね。
iQONは成功するために日本の文化・ファッションの文法によりそっているわけですが、これを海外に持っていくためには、この日本への最適化そのものが障害になる可能性が出てきますよね。
あるいは、この日本のファッションという文化ごと世界共通語を目指すといいのかもしれないけど。
質問
エンジニア、プログラマーの幸せって何だと思いますか。
まつもと
満足しているかどうかってことかな。
自分の待遇だったり境遇だったりに対して、満足しているかどうかっていうのは一番大事だと思っていて、プログラマーとして満足なのは何っていうと、
一つは面白いものを作っているかどうか。
テクニカルもエキサイトできるかだし、もちろん収入もそうだし、忙しいかどうかも。時間の使い方だとか。
あとは自由とか裁量。
自分がほんとうに素晴らしい、正しいと思う事を聞いてもらえるか、説得できる余地があるかどうか。
エンジニアが何を言っても駄目だって諦めていると、そこは違うだろうみたいな。
で、最後にそれに繋がるものっていうのは、自分がエンジニアとして、技術を持っている人として、テクノロジーを使ったパワーを持っている人としてリスペクトされているか。
「お前の持っている技術だったら俺のやりたい事ができるかもしれない。一緒にやってくれないか」って言われたら、リスペクトされている気になるじゃないですか。そうするとすごい力が出てくる。
逆に「お前がどう思ってようが関係ない、俺の言った物作れ」っていうのはリスペクトされないわけですよね。
質問
リスペクトされていない状態の人達もいると思いますが、そういう人はどうしたら良いですかね?
まつもと
やめる。
すごく我慢する人が多くて、景気がすごく悪いのは続いていて、ここにいないと僕はニートになってしまうかもしれないっていう恐怖感はあると思うんだけど、そのリスペクトしない人に対して奉仕しちゃうと、どんどん立場が下がっていく。
最終的には奴隷になっちゃう。IT奴隷に。
それはダメだと思うので、どうするかっていうと、昔からそういう時は反乱を起こす。そういうエンジニアをリスペクトしない連中は見捨てるっていう。
どうせエンジニアがいなけりゃシステム作れないんだから。
そういうのをみんなでやって、技術者を大切にしないと自分の事業は立ちいかないっていう状態に追い込まないと、良くならないと思うんですね。
例えば、金山さんが「ファッション界に変革を起こしたい、ITは単なる道具」という態度であればVASILYと共感できなかったと思います。
しかし、実際には金山さんも魂はエンジニアで、「テクノロジーが世の中を変えることができる、我々のフィールドはファッションだ」というテクノロジードリブンな発想だったので、これならお手伝いできるなと思いました。
質問
ちなみに、「こういう会社は気をつけた方が良い」っていう物はありますか?
まつもと
「SI」っていう単語が使用されている会社は8割9割ダメ。
SIの、お客様の為にシステムを作るっていう構造が、Win-Winになりにくい。
顧客は出来るだけ安く、出来るだけ良い物を作ってもらいたい。作る方は出来るだけ少ない仕事で出来るだけ沢山お金を貰いたい。一緒の方向を向いていないんですよ。
作る方も最初に作りますって言った仕様を満たす最低ライン出せば良くて、納めてしまえば終わりで、お客様が成功したかなんて関係ないんですよね。
ほとんどの会社はシステムを売ってはいないから間接部門なのでコスト部門なんですよ。
社内でも切れ切れって言われていて、ちょっとでも安くしないとって物なので買い叩かれるのですけど、それだとエンジニアは幸せになりませんよね。
最悪のビジネス構図です。
なので、SIはもう見捨てるしかないかなと。
システムインテグレーションっていう業種が壊滅したらもうちょっとマシになるんじゃないかな。
大企業にいて苦しんでいる人には「辞めたらいいんじゃない」って毎回言っているんですけど、やっぱ怖いんですね。フリーランスになるとか小さな会社に行くとかは。
心理的な障壁が大きいんですね。「頑張って大企業に入りました。それを辞められますか」と。
心理的な障壁に甘えて、SIみたいな幸せにならない構造を維持していくのはどうかというのはありますね。
質問
まつもとさんはモルモン教の宣教師だったのですが、それがプログラミングやエンジニアリングに与えている影響ってあるのでしょうか?
まつもと
相対化できないので、同じ条件でそういう経験のない私と今の私とは比べられないので、なかなか難しいですが。
大学生の時に2年間宣教師として奉仕したんですけど、人と凄くたくさん話をしたんです。何万人と。
その時割と人間を見たんですね。そういうのが役に立っているかもしれないなと思う時はありますね。
ITってテクノロジーなんだけど、最後のファクターは人間なんですよね。
テクノロジー的にはトレードオフを提供できる。このボリュームをこっちにあげるとこうなって、こっちをあげるとこうなってっていうのはできるけど、じゃあ、そのトレードオフのボリュームをこうしますっていうのは人間が決めるんですよ。
絶対的な真理はなくて、100人が100人納得する意見っていうのはないので、テクノロジーを人間に合わせる部分が大事なんですね。
そこは多くの人と話をしたのが役に立っているかもしれないですね。
あとは2人1組で活動する事が多くて、だいたい僕の相棒はアメリカ人とか外人が多かったので、英語を使っていましたね。
今、僕が英語を喋っているのも基礎みたいなのはそこでできたと思いますね。
この2つは影響があったんじゃないかと。
質問
ざっくりとした質問で恐縮ですが、プログラミングの将来ってどうなるのかをお伺いしたいです。
まつもと
近い未来だと、ソフトウェアの規模はどんどん小さくなるんじゃないかな。小さいのをたくさん作るみたいな感じになるんじゃないかと思います。
それは何かというと、フレームワークであるとか、ライブラリであるとかが充実してきて、それを組み合わせるだけで一通りの事ができるという。
その時にRubyみたいな言語ってのはクラスライブラリとかを提供していって、プログラマーはスコアリングの調整やAPI取り込めば良いだけみたいになって。
ターンアラウンドタイムがだんだん短くなっていくんじゃないかと思います。
遠い未来だと、コンピュータが人間の言葉を理解して、人間に変わってコンピュータが計算してくれてとか、いい感じにビジュアライズまでして出してくれるとかっていう感じになると思うんですけど。
そうするとプログラミングの楽しみがなくなるんだけど、僕はちょっとおじいさんになってもプログラミングしていて、「おじいちゃんがまた年寄りの趣味やってるよ」とか、「もう何十年前のやり方なんだろうね」っていうのをプログラムやりながら言われてそうな気がします。
今でも現実に普通の人はいろんな事を探すより先にGoogleしますよね。
あれがどんどん自然言語に近づいていって、「何かが知りたい」とかいうと、今でも普通に文章を打ち込む人結構いるんだけど、適当に出てきて用が済んじゃうみたいな。あれがどんどん進んでいくんじゃないかな。
あとはフロントはSiriみたいになって、どんどん自然に。
質問
その仕組みを作る側にも人はいるんですよね。
まつもと
もちろん、当面はいますね。
でも、それもどっかから自動化されて。コンピュータの知能が十分高まっていくと、聞いただけで言葉を理解して、持っている情報からそれっぽいのを作り出してくれるような気がしますけどね。
プロプログラマーの仕事は2極化して、アカデミックな最先端のことやるのと、本当に簡単な事をやるのと。
個別のニーズに合わせて、「この業種だからこういう組み合わせをする」というのをやるエンジニアは当面はいると思います。
でもそれは誰でも出来ちゃうんで、何を差別化するかっていうところはキーポイントですね。
以上、当日話した内容のごく一部ですが紹介いたしました。
他にもエンジニア同士で言語や仕事、マネジメントについてなど、踏み込んだ話で盛り上がりました。
VASILYでは、一緒に切磋琢磨できるエンジニアの仲間を探しています。
まつもとさんを迎え、VASILYはエンジニアにとってさらに成長できる環境になりましたので、ご興味ある方は是非是非↓こちらまで!