特設の舞台で、カウントダウンと共に白いヴェールが落ちる。それは新車の発表会のように派手だった。
5月29日、米スペースX社は、カリフォルニア州ホーソンの本社で、新型有人宇宙船「ドラゴン・バージョン2(V2)」を公開した。同社は現在、米航空宇宙局(NASA)との契約で、国際宇宙ステーション(ISS)へドラゴン無人貨物輸送船を打ち上げている。ドラゴンV2は、ドラゴンを有人型に発展させたもので、7人の宇宙飛行士を乗せてISSと往復する能力を持つ。NASAの有人宇宙船開発補助金プログラム「C3PO」の資金を使い、米シエラネバダ・コーポレーション(SNC)の「ドリームチェイサー」(民間有人宇宙船、ドリームチェイサーが一番乗りか参照)、米ボーイング社の「CST-100」と共に開発中の有人宇宙船である。
同社のイーロン・マスクCEOは、ドラゴンV2の技術的概要を説明した上で、「ドラゴンV2は、宇宙へのアクセスのコストを劇的に下げる可能性を持っている」と語り、「2015年に無人打ち上げを実施し、2016年には最初の有人打ち上げを開始。2017年以降ISSへの有人輸送をロシアが独占している状態を打破したい」「現在NASAは、ISSへの人員輸送でロシアに1人当たり7000万ドル以上払っているが、ドラゴンV2では2000万ドル以下を提示したい」と語った。
ウクライナ情勢を巡り、現在米ロの宇宙協力は微妙な状況にある(ウクライナで“困った”。米ロの宇宙での共依存参照)。このタイミングでのドラゴンV2お披露目は機を見るに敏な同社が、まず第一に米政府へ及び世界の潜在的カスタマーへの売り込みを狙ったパフォーマンスと考えるべきだろう。
しかし同社は決して見込みのない“ベイパーウエア”を公開しているわけではない。ドラゴンV2の中核技術のひとつである「スーパードラコ」エンジンはすでに認定試験をパスしている。これまでの同社の実績を見るに、ドラゴンV2はどんなに遅くとも2017年には有人打ち上げを実施すると考えておくべきだろう。
ロケット噴射で垂直着陸、再利用を可能に
ドラゴンV2は直径4.6m、7人乗りのカプセル型有人宇宙船だ。発表では、マスクCEO自らドラゴンV2に乗り込み、操縦系統を説明した。横一列に並んだ4枚の液晶パネルに情報を表示する完全なグラスコクピットで、操作系は中央に集中している。
ドラゴンV2が従来のカプセル型有人宇宙船と大きく異なるのは、大推力の液体ロケットエンジン「スーパードラコ」8基を装備しており、打ち上げ時の緊急脱出、再突入時の軌道変更、さらに地上への軟着陸に使用することだ。従来のカプセル型有人宇宙船は、打ち上げ時の緊急脱出には専用の固体ロケットモーターを使用、軌道変更には専用のエンジンを搭載し、帰還時はパラシュートを開いて降りてきていた。ドラゴンV2は、これらの役割をすべてスーパードラコに任せ、着陸脚を展開して「ヘリコプター程度の精度」(マスクCEO)で地上の狙った地点にピンポイントで着地する(次ページにドラゴンV2の飛行と着陸のCG映像を掲載)。