アルツハイマー病の大規模臨床研究「J―ADNI(アドニ)」をめぐる問題が混迷を深めている。

 疑惑の渦中にあるのは日本の学界の頂点に立つ東大である。

 研究のデータをめぐる不正の疑惑のさなかに、さらに不正を重ね、問題を隠蔽(いんぺい)しようとした疑いが浮上している。

 決して許されない行為の疑惑だが、東大は、ほとんど説明責任を果たそうとはしていない。ゆゆしい事態である。

 研究データの改ざん疑惑を朝日新聞が報じたのは、ことし1月だった。その後、厚生労働省が被験者データの保全を求めたにもかかわらず、研究の事務局がデータを書き換えていた。

 製薬会社エーザイからの出向者が、事務局の室長格として書き換えにかかわっていた。

 さらに代表研究者の岩坪威(たけし)・東大教授が書き換えを知ったうえで、共同研究者に釈明と口止めのメールを送っていた。

 証拠隠滅を図ったと疑われても仕方ない行為だ。

 当初から疑惑の解明に及び腰を続ける厚労省の姿勢も問われる。疑惑の対象は、巨費を投じた国家事業なのである。

 調査を東大に丸投げするのではなく、自ら直接調査に乗り出すべきだ。岩坪教授がアルツハイマー病研究の権威だからといって、遠慮してはならない。

 東大の責任は大きい。調査のさなかのデータ書き換えを防げなかったことは、そもそもの改ざん疑惑について解明を求める国民への裏切りである。

 「アルツハイマー病の原因究明につながるから」と説明されて協力した被験者。データ取得に汗を流した共同研究者。そして多額の税金を負う国民。そうした無数の人びとの存在を関係者は胸に刻んでいるだろうか。

 東大はいまだに調査メンバーの顔ぶれも、調査の途中経過も公表していない。沈黙を続けるのは無責任すぎる。

 この事案に限らない。

 製薬大手ノバルティスの白血病治療薬の研究では、事務局の東大病院で、患者の個人情報が会社に渡っていた。しかし、いまだに製薬会社との癒着を断つ対策は打ち出されていない。

 東大の分子細胞生物学研究所では、加藤茂明元教授のグループの組織的な論文不正が疑われたままだ。多くの論文の撤回が勧告されたが、2年以上も「調査中」とし、誰がどんな不正をしたかも明らかにしていない。

 東大には官民の資金が集中するが、その半面、モラル感覚が世間から逸脱しているのではないか。社会的責任を改めて自覚し、猛省してもらいたい。