DNAの分析画像と論文不正 違う実験を合体し改竄 デジタル化で不正増加
産経新聞 6月2日(月)7時55分配信
新型万能細胞とされる「STAP(スタップ)細胞」の論文で、理化学研究所の調査委員会が改竄(かいざん)と認定したDNA解析画像。「電気泳動」と呼ばれる実験手法で得た画像を不正に切り張りしたと判断された。調査委員の論文で浮上した切り張りは問題ないというが、どこが違うのか。不正が増えている電気泳動画像の問題点を探った。(黒田悠希)
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■電気的に分離
電気泳動はDNAやタンパク質などの生体高分子を、その大きさごとに電気的に分離して調べる方法だ。DNAが水溶液中などでマイナスに帯電する性質を利用する。低コストで使い勝手が良く、生命科学の実験で広く使われている。
一般的な手法では、ゼリー状に固化したゲルという寒天状の物質を使う。板状にしたゲルを水平に置き、末端に複数の穴を開け、それぞれの穴にDNA試料を入れて電気を流す。
マイナスに帯電する物質はプラス側に引き寄せられる性質があるため、DNA試料は徒競走のように一斉にプラス極側へ移動する。ゲルの内部には微細な網目が張り巡らされており、DNAの大きな断片は網目に引っかかりやすいのであまり移動しない。小さな断片ほど速く移動し、プラス極に近づく。
このふるい分け効果により、ゲル上にはさまざまなDNA断片がしま模様になって現れる。この模様から断片の大小や、目的の遺伝子が試料に含まれるかなどを調べることができる。
ゲルに紫外線を当てて撮影すると、DNA断片は白く、背景は黒く写る。科学論文に掲載されるのは主にこの白黒の写真だ。
■引き伸ばし
STAP論文で改竄とされた電気泳動の画像は、STAP細胞をマウスのリンパ球から作ったことを示す重要な証拠の一つだった。しかし、比較対照となるリンパ球のDNA画像は、別の実験から切り張りされていた。
この別実験では長いゲルを使ったため、元の画像を縦方向に1・6倍に引き伸ばして帳尻を合わせて張り付けた。100メートル走の順位を160メートル走と比べたようなもので、条件が違う実験を同じものと誤解させる恐れがあり、不正とされた。
電気泳動の実験結果は、しま模様の位置を基に判断する視覚的なデータだが、同じ試料でも、ゲルの状態などによって位置は変わる可能性がある。このため別の実験画像を切り張りして合体すると科学的な意味が失われ、データの正しさを証明できなくなる。
では、1枚の画像のうち不要な部分を削除し、残りをそのまま切り張りした場合はどうか。この場合、実験条件は同じなので直ちに不正とはいえない。ただ、近年は切り張りした画像の間に白線を入れ、加工したことを明示するのが論文掲載時のマナーとされる。
疑義が指摘された理研の調査委員の論文には白線がなかったが、理研は元の画像を調べ、条件が同じ1つの実験に由来する画像と確認できた論文について、不正に当たらないと結論付けた。
■ネットで発覚
日本で電気泳動の実験が普及し始めたのは1970年代。当時は現在のようなデジタル画像ではなく、アナログの写真だった。切り張りすると濃淡の違いがすぐに分かるため、不正を行うことは困難だったが、今ではパソコンや画像処理ソフトで巧妙な加工が可能になった。
科学論文の不正や疑義は近年、電気泳動の画像が特に目立つ。専門家でなくても使い回しなどが分かる上、インターネット上での論文公開が一般的になったことで、より多くの目にさらされるようになり、発覚しやすくなった。
最近は電気泳動の手法を応用し、DNAの塩基配列を自動的に解読する次世代シークエンサーなど信頼性の高い装置が普及してきた。論文の査読経験が豊富な自然科学研究機構の岡田清孝理事(植物分子遺伝学)は「電気泳動の画像を重要なデータとして単独で使う時代ではなくなってきた。仮説の証明には塩基配列などを併記すべきだろう」と話している。
最終更新:6月2日(月)9時6分
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