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わが国の周回衛星の寿命と電力システムへの私見

   --「だいち」運用終了を機に --

白子悟朗

 1.「だいち」運用終了を機に

陸域観測技術衛星「だいち(ALOS)」は、東日本大震災(2011年3月11日発災)の被災地・緊急観測を続けていた最中の4月22日に電力異常が発生し、その後3週間に亘り交信回復を試みていましたが、5月12日をもって運用終了と発表(JAXA-HP他)されました。

「だいち」は、2006年1月の打ち上げ以来、衛星画像による地図作成、世界の災害時緊急観測を含む地球観測ミッションに加え、大型衛星技術の軌道上検証・評価を5年3ヶ月(設計寿命3年、目標寿命5年)実施し、多くの社会的貢献や技術的成果があったと高く評価できます。

(「だいち」の実績・成果はJAXA-HP等、参照)。

しかしながら、「だいち」が担ってきた災害時緊急観測を含めた地球観測ミッションに 供される衛星は、未曾有の大震災においても国民にその活動を広報することが無かった情報収集衛星(光学2〜3機)を除けば、次期衛星ALOS-2の打ち上げ(2012年度予定)までは自前は無くなり、国際協力による海外衛星からの提供や商業衛星の画像購入による衛星画像を用いることになり、大変残念なことです。

さらに、「だいち」の軌道上運用が設計目標3年を超え、更なる5年目標をも達成したのに、後継機計画に空白期間がありと懸念されていたことが、「だいち」の運用終了で、わが国の地球観測の継続性や災害等への緊急対応に少なからず支障が生じることは現実となり、衛星のミッション継続性に対する寿命のあり方を改めて痛切に感じました。

 そこで「だいち」運用終了を機に、わが国の周回衛星の開発における寿命実績を、類似の海外衛星と比較すると共に、寿命の長短を左右している要因傾向を概観し、その一つとして衛星の電力システムを抽出した私見を示させていただきます。

2.周回衛星の寿命等の比較とそこから見える傾向

 図には、当時、わが国では最大級の周回衛星といわれた海洋観測衛星「もも1号(MOS-1;1987〜1995年)」から、現在までに打ち上げたGOSATまでと、海外の代表的な地球観測ミッションの衛星の寿命(設計寿命と軌道上実績)と衛星規模(質量と発生電力)を打上年の時系列で凡そを表しています。

図1 代表的な周回衛星(JAXA/諸外国)の軌道上寿命等の比較(2011年5月現在)

図2 代表的な周回衛星の質量 vs 発生電力 

これらを概観して見えることは;

・国内衛星がその設計寿命を2〜3年、〜5年に設定しているのに対し、海外衛星は5〜7年と長い

・さらにその軌道上実績では、国内衛星でミッション運用を完遂して4〜8年余、何らかの故障で運用を途中断念した衛星の寿命は1年未〜4年である

・それに対し海外の衛星は4〜16年経過した現在もすべて運用中であり、5年以上に設定した設計寿命を2〜3倍超えている

・寿命比較は”国内衛星<海外衛星”であることは明らか。

もう一つの見方は;

・衛星規模では質量に対する発生電力の関係が、国内衛星は外国より密度が高い。例えば、2t級でも

4Kkw超え、3.5t〜4t級で4.5〜7kw、外国衛星では3〜8t級でも2〜4kwと、衛星形状(容積、表面積)とある程度リンクする質量/発生電力比が2倍以上で電力にまつわる熱処理能力や耐性が高く要求される傾向がある

・特に国内衛星で軌道上故障を起こしている4衛星でみると、ADEOS/ADEOS-2はその原因が太陽電池パドルの破断と電力線の発熱によるショートと同定し、後続機へ対策も採られたが、情報収集衛星「IGS-R1/-R2」の2機は5年の設計寿命に対しいずれも4年未満での電源系の異常による運用停止と公表された


・「だいち(ALOS)」は5年3ヶ月の軌道上運用を達成し、設計/目標寿命を満足したものの、類似規模の外国衛星に比べると明らかな差を感じるとともに、運用終了が電力異常であったことは、国内衛星の寿命が共通して衛星の電力システムに左右されているのではないかとの私見される。

(「だいち」の電力異常の原因は引き続き調査し公表予定)

3.周回衛星の電力システムへの私見

「だいち」の打上げ1年/2年後の本論壇で”それまでの衛星開発の課題であった大型衛星技術と多機能ミッションへの適合システム設計・開発技術を着実に克服でき、今後の衛星開発に資する技術を経験験・蓄積できたことを評価し、「だいち」の今後の運用に当たっては、衛星ヘルスチェックの徹底(経年変化等の予兆把握他)と人的ミスの徹底的な排除、必要時の冗長系の利用などを適切に駆使して技術目標の5年を超える運用を達成して、後継計画に確実につなぐことを期待したい”と論評させていただきました。

一般的に地球を低軌道で周回する衛星の寿命は、日照/日陰サイクル、バンアレン帯の放射線や原子状酸素の影響を受けることから、


・バッテリのサイクル寿命

・部品・材料レベルの宇宙放射線等での劣化

・機構系の磨耗劣化による動作寿命

・電子機器類の熱/動作サイクル寿命

・太陽電池発生電力の劣化

ならびに、

・搭載する燃料量で決まることが多く、衛星の設計寿命は〜5年、さらに長寿命に設定された場合は
6〜7年です。

そして、現実は上述の通り、海外衛星では長寿命であるばかりでなく、軌道上での不具合事例等を調査しても電力システム/電源系による故障はほとんど見当たりません。

 一方、国内衛星は「だいち」で5年超えを実現したものの、「IGS-1R/2R」、「ADEOS/ADEOS-2」を含めた4kwを超える衛星の軌道上実績は4年以下であり、加えれば、ADEOS〜ALOS、IGSシリーズでのほぼ共通化、使い回しされたと見られる電源系構成機器の設計・製造にも踏み込んだ、寿命に関る再評価に一考の余地があるのではないかと具申させていただきたい。

 以上の私見につきましては、「だいち(ALOS)」の運用終了を機に、その調査を含めて、周回衛星の長寿命確保の知見を広げるためにも、関係者の頭の片隅に置いて頂ければ幸いです。


本論壇の関連タイトル

1)”「だいち」の開発評価と後継計画の考察;白子悟朗”

)”「だいち」の軌道上運用2周年;白子悟朗”

3)”小型衛星vs大型衛星の対峙構図;白子悟朗”

4)”今こそ情報収集衛星の姿を!パート3(「だいち」の後継に一石)他;白子悟朗”

その他;JAXA-HP情報