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成人以前のCT検査とそれによる発癌リスクの上昇について [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
CTと発癌リスク.jpg
今月のBritish Medical Journal誌に掲載された、
お子さんの時期のCT検査の、
医療被爆の影響についての論文です。

CT検査の有用性は、
医療の検査としては、
揺るがないものですが、
この検査による医療被爆は、
血管造影などを除けば、
量的には多いので、
その特にお子さんの時期の施行により、
将来的な発癌のリスクが増すのではないか、
という危惧は、以前から指摘をされていました。

しかし、
その被爆線量は、
通常の各臓器をターゲットとした検査において、
1回のCTで高く見積もっても、
5~50mSv(ミリシーベルト)程度ですから、
そうした低線量で、
実際に人間で検出出来るような、
発癌リスクの上昇があるかどうかについては、
未だ議論のあるところです。

CT検査と発癌リスクとの関連性を、
検証した研究データの多くは、
原爆の被ばく者のデータを元に、
そのリスクを推計する、
という手法を取っていました。
つまり、CT検査を受けた人と受けない人とを、
直接比較するのではなく、
CTによりこれこれの線量が組織に吸収されるので、
原爆の被ばく者のデータから推測すると、
発癌のリスクがこれこれくらいは上昇する筈だ、
というようなものです。

ただし、
原爆の被ばく線量は、
CTと比べれば桁が違いますから、
それをそのまま低線量のリスクに活用する、
という手法には批判も多く寄せられました。

2012年に初めて、
18万人を解析したイギリスの疫学研究において、
小児期のCT検査による医療被爆による発癌リスクの上昇が、
白血病と脳腫瘍という2種類の癌に限って、
統計的に有意であるとの結果が報告されました。
これは初めて直接の疫学データの比較において、
CTによる発癌リスクを計算したものです。

それを更に大規模に検証したのが、
今回の論文です。

今回のデータでは、オーストラリアにおいて、
1985年時点で0~19歳であったか、
1985年~2005年の間に生まれた、
1090万人あまりのお子さんを対象とし、
そのうち0~19歳でCT検査を施行された、
68万人あまりのその後の経過を、
CT未施行群と比較して、
CT検査後1年経過以降に、
癌を発症するリスクを検証しています。

CT検査施行群の平均観察期間は9.5年で、
現時点でも観察は継続中です。
CT検査の平均被爆線量は、
4.5ミリシーベルトですから、
比較的低線量の検査が行なわれています。

この分野においては、
間違いなく最大の規模の疫学研究です。

その結果はどのようなものだったのでしょうか?

経過観察中に60674例の癌が報告され、
そのうち3150例がCT検査施行群です。

全ての癌の発症の確率は、
CT検査を施行したお子さんでは、
有意に1.24倍増加していました。
この発癌リスクの上昇は、
CTの撮影回数が多いほど増加しており、
放射線量との間に用量依存性が成立しています。

CT検査によるその後の発癌リスクは、
その検査時の年齢が低いほど、
高い傾向にあり、
1~4歳時の検査では、
その後のリスクは1.35倍と最も上昇していました。

今回注目すべき点は、
この発癌リスクの上昇は、
白血病や脳腫瘍ばかりでなく、
消化器系の癌や女性器由来の癌、皮膚癌や甲状腺癌など、
広範な種類の癌で認められている、
という点です。
これは今回初めて得られた知見です。

今回の観察の範囲で、
608例の癌がCTの被爆により発症したと考えられ、
その内訳は脳腫瘍が147例、
48例が白血病や骨髄組織由来の癌、
57例がリンパ組織由来で、
356例がそれ以外の固形癌でした。

発癌リスクの上昇は、
CT検査後1年で既に認められ、
2007年までの解析において、
年間10万人当たり9.38人の癌が、
CT検査により過剰に発症する、
という頻度となっています。
これは生涯のリスクではなく、
患者さんの最高齢はまだ40代ですから、
今後また修正される可能性が残っています。

今回の発癌リスクの上昇は、
概ね2012年のイギリスの研究結果や、
これまでの推測値とほぼ符合しており、
CTという低線量の被爆においても、
僅かながら発癌リスクが上昇し、
それが臨床的に一定の意味を持つレベルに達している、
ということを示唆するものです。

勿論この分野はまだ結論の出ているものではなく、
こうした低線量での、
発癌リスクの上昇自体を、
否定する意見もありますから、
現時点でそのまま事実として認識するのは時期尚早です。

ただ、
臨床医として、
特に小さなお子さんにおける、
CT検査の適応については、
充分に慎重に検討し、
不要な検査は行なわないことが、
求められているように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 6

tosh

CT検査が必要な疾患を持った子と、なかった子の違いという可能性はどうでしょうか?
by tosh (2013-06-06 11:02) 

fujiki

tosh さんへ
コメントありがとうございます。
これは医療レコードから、
CTの記録と病名の記録を抜き出して、
照らし合わせたものですから、
そうした可能性は否定は出来ないのです。
本当はCT以外の条件を一致させて、
ランダムにCTを行なえば良いのですが、
それは倫理的に問題があり不可能です。
従って、病名によるバイアスのようなものは、
こうした研究では排除困難だと思います。
ただ、CT検査は癌の診断の付く、
1年以上前のもののみを取り上げていて、
癌の診断との関連性は、
否定されるようにデザインはされています。
by fujiki (2013-06-06 22:34) 

radiologist

CTを受ける必要があった群とそうではない群が同一のバックグラウンドであるはずはないでしょう。全く健康な小児や若者がCT検査を受けたりしますか?何回も繰り返しCTを受ける人はそれだけバックグラウンドに何かを持っている可能性が高いことでしょう。この2群間の発癌率の差を放射線被曝のせいにしようとする著者らは、科学者として失格と思います。
by radiologist (2013-07-01 17:31) 

fujiki

radiologistさんへ
貴重なご指摘ありがとうございます。
by fujiki (2013-07-02 08:06) 

GG

癌の診断は排除されてるのだから、多くは事故やけがでCTとった場合じゃないですかね。
by GG (2014-04-02 00:19) 

fujiki

GGさんへ
コメントありがとうございます。
そうかも知れません。
by fujiki (2014-04-02 08:06) 

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