【記者手帳】専門家の声を遠ざけた遺族への「配慮」

 海中に沈む旅客船「セウォル号」の内部を捜索する潜水士の通路を確保するため、4階部分の外壁の一部を切断することが決まったのは5月27日だ。この日午前10時、汎(はん)政府事故対策本部のコ・ミョンソク報道官は定例の記者会見で「切断の方法など具体的な内容については、(現時点で)家族からの最終的な同意はまだ得られていない」と述べた。当初は潜水士が少量の爆発物を外壁に設置し、一度海上に戻った上で爆破する方法が検討されていた。これは潜水士らの安全を確保するためだ。

 しかしこの方法に行方不明者家族会の一部が反対したため、「爆破」に関連する方法が再び検討されることはなくなった。遺体の破損や流出を恐れた家族らが「爆破」という言葉に拒否反応を示したからだ。その後、作業を迅速かつ効率的に進められるもう一つの方法として「酸素アーク切断法」が採用された。だが複数の専門家は、当初検討された方法について「爆破という言葉を使ってはいるが、実際は船の外壁だけを破壊する少量の爆薬しか使わない。そのため(遺体が)破損したり、流出したりする恐れなどほとんどなかったのだが」と語っていた。

 27日に外壁の切断方法を公表したのは対策本部ではなく家族会だった。この日午後3時、家族会の代理人を務めるペ・ウィチョル弁護士が「家族会は外壁の切断に同意した」としながらも「酸素アーク切断法と超高温切断棒を使用するのが条件だ」とくぎを刺した。これを受けて海洋警察庁の金錫均(キム・ソクキュン)庁長は一昨日「行方不明者16人の家族全員が外壁の切断に同意した」として作業の開始について明言した。しかしこの酸素アーク切断を行っていた潜水士のイ・ミンソプさん(44)が作業中に死亡した。イさんは民間の潜水士だった。

 イさんが死亡したとのニュースに接したある家族は「(イさんには)中学校に通う娘が2人いたそうだが、その子たちまでが突然父を失い遺族になってしまった」とつぶやいた。この家族はさらに「われわれは罪人だ。今からでも政府に対して捜索の中止、船体の引き揚げを含むあらゆる事項について一任したい」と思いを語った。

 行方不明者家族会は、自分たちと血のつながった子どもたちが48日にわたり海に沈んでいるという現実と向き合っている。しかもここ10日間は捜索に全く進展も見られない。「髪の毛1本、1かけらの骨でもいいからもう一度子どもと触れ合いたい」というのが家族たちの率直な願いだ。時には「もっと作業を急げ」などとあからさまな不満が聞こえてくることもある。もちろんこれも普通の人間なら当然の思いであり感情の発露だろう。海洋水産部(省に相当)長官と海洋警察庁長は毎日午後5時、家族らが待機する彭木港(全羅南道珍島郡)の現場に足を運び、捜索の状況について詳しく説明すると同時に、また必要な場合は捜索方法などについて家族に同意を求めている。しかしさまざまな「意志決定」についてはまた別の問題ではないだろうか。

 政府はイさんが死亡した後になって、潜水に関するベテランや専門家による委員会を立ち上げ、外壁の切断についてより安全な方法を検討すると発表した。政府は行方不明者家族の思いに十分配慮しなければならないが、それと同時に最も合理的な方法を選択して捜索作業を指揮してほしい。これ以上悲しい犠牲を繰り返してはならない。

珍島=ウォン・ソンウ記者(社会部)
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