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私がまだ小学校低学年の頃、ちょっとしたレジャー感覚で家族3人山登りをした時の話。
山登りといっても"少し傾斜がキツ目のハイキングコース"といったレベルなので幼い子どもでも十分楽しめるからと週末よく遊びに行っていたことを覚えている。
登り始めは父が家族を牽引するように先頭を歩き、真ん中に私を挟んで後方を母が支える。そんな隊列で三人力を合わせて登山していたのだが、途中休憩を挟んだ当たりから若干隊列が乱れ気づけば父、母、私という順番になっていた。
幼心に一番後ろを歩くのは少し不安だった。しかし私は黙々と登り続ける。
何度も登っているので慣れもあるし、何より両親がまるで付き合いたてのカップルのように楽しんでいるところを邪魔したくなかったから。
いくつになってもそうだが、子どもは両親の楽しそうな姿が大好きなのだ。それに少し離れているからとは言え常に二人の背中が見えているから、安心だった。
ところでここの登山コースは以下のような螺旋状の山道を経て、山頂に到達するような造りになっており
角度によって一瞬見えなくなってしまうものの、大した規模の山ではないので少し登ればすぐ両親の背中が現れるそんな繰り返し。
だが山の8分目を超えた当たりだったろうか。それは突然起こった。
両親が忽然と姿を消したのである。
これまでと同じく一瞬見えなくなった父と母を追い、駆け足で山道を登ってみても姿が見えない。それどころか人の気配がまるでないのだ。
この先は山頂まで一本の坂道になっているので隠れる場所もないし、私が両親から目を切ったのはほんの0コンマ何秒の話なのでこの坂を登り切って山頂に到達しているとも思えない。だが目の前にいたはずの両親はまるで煙のように消えてしまったのである。
私は突如言い知れぬ不安に襲われた。目の前にいたはずなのに何故消えてしまったのか。もう二度と会えないのではないか、もう二度とあの背中を見れないのではないか。恐怖と不安が迫り来る波となって、私の体の内側を埋め尽くしていく。
「お父さん!!お母さん!!」
泣き叫ぶことはなかったが、自然と涙が溢れた。恐怖、不安、そしてパニック。とにかく両親に会いたい。
私はなんとなく山頂に向かってみようと思った。そこに何かロジックが合ったわけではない。漠然とだが、山頂に着けば全て解決するような気がしたからだ。
山道は樹に覆われて少し暗かったため、その差異なのか日の光りの影響なのか山頂は輝くような光を放ち、私に
「こっちに二人がいるぞ。早く来なさい。」
と囁いているように見えた。きっと大丈夫。このまま進めば両親に会える。
その時だった。
「なにやってるのっ!!!」
突然後ろから大きな声が聞こえ、心臓がひどく高鳴った。よく聞く懐かしい声。まさか!後ろを振り向くと、目の前に二人が立っていた。
_____
二人は必死の形相で、駆け寄り私を抱きしめながら「どうしたのか」と問いかけている。
だが私にも状況が全く分からない。ありのまま自分が陥った状況を伝えると不思議な顔をして自分たちの体験を語ってくれた。曰く
・山の景色に見とれて少し進み過ぎてしまったので、心配になって後ろを振り返ると私がいなくなっていた。
↓
・どこかで止まっているのか山を下りようとしたが、ふと山頂の方に目をやったら私が山頂に登っていく姿が見えた。
↓
・驚きながらも声をかけて追ったが、全く反応しないので近くまで駆け寄った。
その後私達は、恐怖のあまりすぐに山を下った。そして今日に至るまでその山を登ったことはない。
真相は分からないがどうやら私はワープをして両親を飛び越してしまったようだった。いやもしかしたら二人がワープをしたのかもしれないが。
あれから20年近く経ち、あの時感じた不安も恐怖も忘れてしまうくらい時は流れたが山頂に一体"何"が待っていたのだろうか。
あの時、二人が止めてくれていなかったら私はどうなってしまったのか。今となっては確認する術もない。
そう言えばもう一つ分からないことがある。私を助けてくれた二人が"本当の両親"なのかどうかだ。
- 作者: リサ・ランドール,向山信治,塩原通緒
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