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この記事については、読売新聞2月17日付朝刊では1面で掲載していて、各紙はこの報道後に後追い記事のような形で報道しています。しかし、読売新聞の記事をよく読むとかなり妙なところがあるのです。そこで、読売新聞と毎日新聞の記事を比較検討してみたいと思います。
なお、この点は、すでに別のエントリーのコメント欄で語学教師さんがコメントして下さっているので(そちらのコメントもご覧下さい)、重複する形になりますが、色々な意味で価値ある記事なので、エントリーとして紹介することしました。
1.まずは、この問題についての読売新聞と毎日新聞の記事です。
(1) 読売新聞平成19年2月17日付朝刊1面
「梅毒やB型肝炎、万波医師が感染患者から4人に腎移植
宇和島徳洲会病院(愛媛県宇和島市)の万波(まんなみ)誠医師(66)らによる病気腎の移植問題で、B型肝炎ウイルスや梅毒の反応が陽性だった患者、感染性の腎膿瘍(のうよう)の患者から摘出された腎臓が、市立宇和島病院(同市)で万波医師により4人に移植されていたことが16日、わかった。
移植後の患者は免疫抑制剤を使うため感染症に弱く、今回のケースもB型肝炎ウイルスなどに感染した可能性がある。
関係者によると、血液検査でB型肝炎ウイルスが陽性だったのは、2000年12月に市立宇和島病院でネフローゼ症状を理由に両方の腎臓の摘出を受けた患者(数か月後に死亡)。
2種類の検査が陽性で、ウイルスが体内にいる状態だった。感染してB型肝炎が慢性化すると、肝硬変や肝がんになる可能性がある。移植を受けた患者2人は生存しているが、感染の有無を調べる検査は行われていなかったという。
同病院では1995年11月、腎膿瘍の腎臓も70歳代の女性から摘出し、移植に使っていた。腎膿瘍は細菌感染などで腎臓が化膿した状態。移植患者は術後1か月で腎機能が低下し、人工透析に戻っていた。
梅毒に対する抗体が陽性だったのは、三原赤十字病院(広島県三原市)で2003年、がんを理由に腎摘出を受けた男性(のち死亡)。元主治医は「疑陽性で、いくつかの検査をしたが、若いころ感染した時にできた抗体で、病原体はすでにいないと判断し移植に提供した」としている。
これらの移植で、移植を受ける患者に感染症の説明があったかどうかは不明。
移植医療では、感染症のある患者の臓器は原則として使わない。死体腎移植の臓器提供者(ドナー)の選定基準では、血液内に少しでも細菌があれば除外。B型肝炎やHIV(エイズウイルス)など、ウイルスの検査が陽性でも除外する。
肝炎などに詳しい飯野四郎・聖マリアンナ医大客員教授(内科学)は「B型肝炎ウイルスは、ほぼ間違いなく感染する。免疫力が抑えられていれば慢性化しやすい。腎膿瘍も、細菌感染が全身に広がる可能性がある」と指摘している。
万波医師らによる病気腎移植は昨年11月に宇和島徳洲会病院で発覚。同病院や万波医師が以前勤めていた市立宇和島病院など、計5県10病院に入院する腎臓がんやネフローゼ症候群などの患者から腎臓を摘出し、判明しているだけで計42件の移植に利用していた。
(2007年2月17日3時1分 読売新聞)」
(2) 毎日新聞平成19年2月17日付夕刊9面
「病気腎移植:感染症患者から移植、万波医師が実施
愛媛県宇和島市の宇和島徳洲会病院の万波誠医師(66)らによる病気腎移植問題で、B型肝炎ウイルスや梅毒の抗体の反応が陽性の患者、腎臓が細菌感染などで化のうする腎膿瘍(じんのうよう)の患者の腎臓が移植に使われたことが分かった。いずれも、万波医師が前任の市立宇和島病院で実施。感染症患者からの移植は移植を受ける患者への感染の恐れがあるため、避けるべきだとされており、病院の調査委員会などで検討を進めている。
関係者によると、B型肝炎ウイルスのケースは00年12月、ネフローゼ症候群で両腎摘出手術を受けた。移植前に検査をしたが「B型肝炎ではない」いう報告を受け、万波医師が腎臓を2人に移植。その後の血液検査でB型肝炎ウイルス陽性が判明したという。腎膿瘍患者の腎臓は95年11月に移植したが腎機能が十分でなく、移植された患者はその後人工透析に戻っている。
万波医師は毎日新聞の取材に「移植前の検査でB型肝炎ウイルスの陽性反応は出なかった。知っていて移植したのではない」と話し、腎膿瘍については「化のうした部分を切除すれば、きれいな腎臓だった。抗生物質を投与すれば問題ないと判断した」と述べている。
一方、梅毒の抗体が陽性だったのは三原赤十字病院(広島県三原市)で03年、尿管がんの男性患者から摘出した腎臓を移植したケース。抗体反応は治ったと判断されるレベルだったため、当時の主治医は問題ないと判断。摘出手術は万波医師の実弟の廉介医師(61)が執刀し、市立宇和島病院で誠医師が移植した。
当時の主治医は「梅毒は昔にかかったもので既に治っており、当時できた抗体が残っている状態。腎臓を移植しても梅毒がうつるわけではなく、医学的に問題はないと判断した」と話している。【津久井達、野田武、堀江拓哉】
毎日新聞 2007年2月17日 11時16分 (最終更新時間 2月17日 20時51分)」(なお、ネット上の記事と異なり、紙面では一番最後の段落は削除されている)
2.読売新聞の記事を先に取り上げて、毎日新聞から同じ内容の箇所を引用して比較してみます。
(1)
「関係者によると、血液検査でB型肝炎ウイルスが陽性だったのは、2000年12月に市立宇和島病院でネフローゼ症状を理由に両方の腎臓の摘出を受けた患者(数か月後に死亡)。
2種類の検査が陽性で、ウイルスが体内にいる状態だった。感染してB型肝炎が慢性化すると、肝硬変や肝がんになる可能性がある。移植を受けた患者2人は生存しているが、感染の有無を調べる検査は行われていなかったという。……
肝炎などに詳しい飯野四郎・聖マリアンナ医大客員教授(内科学)は「B型肝炎ウイルスは、ほぼ間違いなく感染する。免疫力が抑えられていれば慢性化しやすい。……」と指摘している。」(読売新聞)
この記事内容だと、B型肝炎ウイルス感染の有無を調べる検査を調べずに移植された可能性があるというものです。この記事では、はっきりしませんが、移植を受けた患者は生存していても感染した可能性があると、推測できるのでしょう。わざわざ飯野四郎・聖マリアンナ医大客員教授のコメントも引用して、B型肝炎ウイルスの危険性を強調しています。
これに対して、毎日新聞の記事は、
「関係者によると、B型肝炎ウイルスのケースは00年12月、ネフローゼ症候群で両腎摘出手術を受けた。移植前に検査をしたが「B型肝炎ではない」いう報告を受け、万波医師が腎臓を2人に移植。その後の血液検査でB型肝炎ウイルス陽性が判明したという。……
万波医師は毎日新聞の取材に「移植前の検査でB型肝炎ウイルスの陽性反応は出なかった。知っていて移植したのではない」と話し(た)」(毎日新聞)
読売新聞と異なり、どうやら腎移植前に検査をしていて、万波医師は「B型肝炎ではない」いう報告を受けていたようです。それで、万波医師は問題のない腎臓であると判断して、この腎臓を2人に移植したようです。
もしこの記事の通りであるなら、移植前に検査をしている以上、医師としてやるべき義務は尽くしたといえるのですから、移植後に結果的にB型肝炎ウイルスした場合であっても、問題視すべきではないはずです。
さらに朝日新聞の記事(2月18日付朝刊34面)には、
「肝炎感染者から腎移植か? 万波医師、「手術前は陰性」
2007年02月17日21時48分
「病気腎」の移植を重ねていた宇和島徳洲会病院の万波誠医師(66)が、前勤務先の同市立宇和島病院で、B型肝炎ウイルスに感染した可能性のある患者の腎臓を別の患者に移植していたことがわかった。17日に大阪市内であった日本移植学会など関連5学会の合同会議で報告された。
市立宇和島病院や万波医師によると、00年12月中旬、ネフローゼ症候群を患っていた女性(01年死亡)から両方の腎臓を摘出し、別の患者2人にそれぞれ移植した。2人のうち1人は死亡しているが、B型肝炎にかかっていたかどうかは不明。生存しているもう1人は感染していないという。
当時、女性の感染の有無を調べたウイルス検査では、感染性が高いHBe抗原は検出されなかったが、感染していることを示すHBs抗原が見つかった。市川幹郎院長は「他人への感染率は少ないという検査結果だった。ただ、検査の時期については覚えていない」と説明している。
万波医師は朝日新聞の取材に、「内科医から女性は手術前のウイルス検査で陰性だったと聞いていた。手術後、陽性が出たと知ったが、陽性の患者の腎臓を移植に使うことはあり得ない」と話した。」
読売新聞の記事と異なって、2人生存ではなく、1人死亡しているのですし、「生存しているもう1人は感染していない」のです。移植を受けた患者がB型肝炎ウイルスに感染していないのに、ことさらに問題視することはおかしいと思うのです。
しかも、飯野四郎・聖マリアンナ医大客員教授(内科学)は
と断言しているのに、感染していなかったのですから、飯野四郎・聖マリアンナ医大客員教授(内科学)はいい笑いものです。断言した以上、今度は飯野四郎氏の医学的な能力が疑われてしまいます。「B型肝炎ウイルスは、ほぼ間違いなく感染する」
万波医師は、
とまで言っています。朝日新聞の記事によると、院長は検査の時期を覚えていないようですが、万波医師の主張を裏付ける証人は何人もいそうです。「万波医師は市立宇和島病院時代に、B型肝炎感染者の腎臓を移植に使ったとされる問題にも「病院の内科医が十分に検査し、99%ウイルスがないと報告があったから移植をした。当時の複数の同僚医師もウイルスはなかったと言っている」と反論した。」(NIKKEI NET(02月18日00:23))
こうなると、読売新聞は、よく調べてからB型肝炎ウイルスを有する患者からの移植について、記事にすべきでした。読者を誤信させるような妥当でない記事であると考えます。
なお、B型肝炎については、厚労省のHPにある「B型肝炎について(一般的なQ&A)が分かりやすいと思います。ご覧下さい。
(2) 読売新聞の記事では、
「腎膿瘍の腎臓も70歳代の女性から摘出し、移植に使っていた。腎膿瘍は細菌感染などで腎臓が化膿した状態。移植患者は術後1か月で腎機能が低下し、人工透析に戻っていた。
肝炎などに詳しい飯野四郎・聖マリアンナ医大客員教授(内科学)は「……腎膿瘍も、細菌感染が全身に広がる可能性がある」と指摘している。」
これに対して、毎日新聞の記事では、
「 腎膿瘍患者の腎臓は95年11月に移植したが腎機能が十分でなく、移植された患者はその後人工透析に戻っている。……
万波医師は毎日新聞の取材に……腎膿瘍については「化のうした部分を切除すれば、きれいな腎臓だった。抗生物質を投与すれば問題ないと判断した」と述べている。 」
腎膿瘍について「化のうした部分を切除すれば」大丈夫なのかどうかの判断はつきかねますが、読売新聞にも毎日新聞にも、移植を受けた患者に「細菌感染が全身に広がる」といった事態になっているとは書いていないのですから、そういった問題は生じていないのでしょう。もしそうであるなら、問題視すべきではなかったと思います。
読売新聞としては、術後1か月で腎機能が低下し、人工透析に戻ってしまったのは、あたかも腎膿瘍のあった腎臓だったからと推測させたいのでしょう。しかし、腎膿瘍のあった腎臓と腎機能低下との間に因果関係があることを明確に示していないのですから、腎機能が低下したことをもって、腎膿瘍のあった腎臓を移植したことを非難できません。
読売新聞は、腎膿瘍のあった腎臓移植を問題視したいのであれば、「細菌感染が全身に広がる」事実があったことを示すか、腎膿瘍のあった腎臓と腎機能低下との間に因果関係があることを明確に示すべきです。調査不足の記事であると考えます。
(3) 読売新聞の記事によると、
「梅毒に対する抗体が陽性だったのは、三原赤十字病院(広島県三原市)で2003年、がんを理由に腎摘出を受けた男性(のち死亡)。元主治医は「疑陽性で、いくつかの検査をしたが、若いころ感染した時にできた抗体で、病原体はすでにいないと判断し移植に提供した」としている。」
これに対して毎日新聞の記事では、
「梅毒の抗体が陽性だったのは三原赤十字病院(広島県三原市)で03年、尿管がんの男性患者から摘出した腎臓を移植したケース。抗体反応は治ったと判断されるレベルだったため、当時の主治医は問題ないと判断。摘出手術は万波医師の実弟の廉介医師(61)が執刀し、市立宇和島病院で誠医師が移植した。
当時の主治医は「梅毒は昔にかかったもので既に治っており、当時できた抗体が残っている状態。腎臓を移植しても梅毒がうつるわけではなく、医学的に問題はないと判断した」と話している。」
どちらの記事も、昔梅毒にかかっていたが既に治っていることが分かります。読売新聞ははっきりしませんが、毎日新聞の記事では、梅毒は治っている以上、腎臓を移植しても梅毒は移らないとはっきり分かります。
このように、梅毒はうつらないのですから、読売新聞は、梅毒の抗体が陽性だったことを問題視するような記事を書くべきではなかったのです。毎日新聞は、読売新聞の記事を意識して、その記事を検証することを意識してたのかも知れませんが、問題視する必要はなかったのですから、梅毒にかかったことのある患者のことをわざわざ取り上げる必要はなかったと思います。
3.このような検討を経てみると、万波医師らによる病腎移植問題について、B型肝炎ウイルスや梅毒の反応が陽性だった患者、感染性の腎膿瘍の患者から摘出された腎臓が移植されていたことについて、どれも問題視するべきではなかった、又は問題視するには調査が足りないものであったのです。
おそらく、日本移植学会など関連5学会は、2月17日の合同会議で報告する前に、読売新聞の記者にだけリークしたのでしょう。だから、読売新聞は、日本移植学会など関連5学会の言われるままに、十分調べることなく報道したのだと思います。
リークされた情報をそのまま報道してしまうというのは、度々なされることではありますが、病腎移植問題について、日本移植学会など関連5学会が流す情報は、怪しいものが多いのですから、いい加減に止めるべきではないでしょうか?
<追記>
読売新聞の記事を再構成すると、共同通信配信のような記事(2007年02月17日 11:07)になります。
「B型肝炎感染者の腎臓移植 万波医師、前任病院で
2007年02月17日 11:07 【共同通信】
宇和島徳洲会病院(愛媛県)の万波誠医師(66)らによる病気腎移植問題で、万波医師がB型肝炎ウイルス検査で陽性だった患者から摘出された腎臓を04年3月まで勤務した市立宇和島病院で移植に使っていたことが17日、分かった。
死体腎移植の基準ではB型肝炎ウイルスに感染している場合、腎臓の提供はできない。生体移植の規定はないが、移植医療の専門家は「移植では大量の免疫抑制剤を使うため、患者に感染する可能性が高まる。常識では考えられない」と指摘している。
関係者によると、万波医師はB型肝炎ウイルスの血液検査で陽性だったネフローゼの患者から摘出された両方の腎臓を、2人に移植した。B型肝炎は感染して慢性化すると、肝硬変や肝臓がんに進行する恐れがある。
万波医師は、腎臓が化膿する感染症の腎膿瘍の患者から摘出された腎臓も移植に使っていたほか、03年に三原赤十字病院(広島県)で尿管がんのため腎臓を摘出した男性は、梅毒の抗体検査で陽性だったが同様に移植に使ったという。」
これだと、万波医師が、B型肝炎ウイルス検査で陽性だったことを知りながら、移植したように誤解して読めてしまいます。もちろん、よく読めば、万波医師が知っていたのか不明な記事なので、「知らなくても問題になるのか?」と妙に思う読者もいるはずです。
また、未だに梅毒に感染している患者の肝臓を移植したように読めてしまいます。もちろん、「梅毒の抗体検査で陽性だった」という書き方なので、「あれっ?何が問題なのか、よく分からない」と思う人もいると思います。
病腎移植問題は誤解されるような記事でも構わないというつもりなのでしょうか? よく読めば、問題視しているようでよく分からない意味不明な記事でもあります。共同通信の記事も、読売新聞の記事と同じように妙な記事にする必要はないと思います。
私も、毎日、朝日を読んでいて不思議に思う点がありました。それが貴ブログを拝読し、「問題視すべきではない記事」だと、思われたからでしょう。読売は、ひどいですね。
学会主導の記事として読めました。患者の気持ちを全く無視した記事で、学会は「百%否定はしない」と言いつつも腰をドシンと下ろして立ち上がろうとしない学会の怠慢さ身勝手さが感じ取れました。
毎日は、「不要な摘出7件」とあり、投薬治療、一部切除で対応可能と書かれていますが、「患者さんの意思」や「再び戻すという困難性」にも触れられていない、一方的なものだと思いました。
朝日では、「専門家『(万波医師)ルール逸脱多い』」とありましたが、私から言わせると、「専門家こそ患者中心のルールから逸脱」と見だしつけたいですね。尿管がんの患者の腎臓移植記事でも因果関係が分かっていないものを「さらに疑問が広がる」と書くのでしょう。明らかに、公平な記事ではありません。いじめに近い。さらに続く記事も親切な内容ではありません。読者を惑わすようなもので唖然としました。
本当に真実を伝えるのでしたら、一面に取り上げ、公平な立場でまんべんなく議論すべきだと思いますね。
URL | rikachan #-[ 編集 ]
>本当に真実を伝えるのでしたら、一面に取り上げ、公平な立場で
>まんべんなく議論すべきだと思いますね
仰るとおりです。
どんな問題であっても、最初から怪しんで公平性を欠いていると、また報道被害が生じ、マスコミ不信が増大するのだと思います。
妙だと思うのは、通常、医師たちは、問題視すべきでない医療について、ことさらに問題視するような報道をされることを嫌うのです。患者側としても問題ない医療なのに疑われるのは困ってしまいます。ご存知だと思いますが。
病腎移植だから、何でもかんでも非難しているような報道にするべく、リークしているようですが、今後、病腎移植以外の医療でも、何か起きたら、医師を犯罪者のように非難し、問題視してしまう恐れがあります。調査委員会の医師たちは、分かってリークしているのかな~と不思議に思います。
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