米国キャンプの意義を考察する

日本代表タンパ合宿レポート(5月31日)

2014/6/01 19:44配信 宇都宮徹壱/スポーツナビ

なぜ日本代表は米国での合宿を選んだのか?

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タンパの美しいビーチ。当地はニューヨーク・ヤンキースのキャンプ地としてもつとに有名だ【宇都宮徹壱】

 5月30日、成田からアトランタ経由で、日本代表のワールドカップ(W杯)直前の合宿地であるフロリダ州タンパへ向かう。トランジットを含めて18時間かかったにもかかわらず、日本との時差が13時間あるため、現地のホテルに到着しても日付はそのままであった。太陽に背を向けて移動するのと、太陽に向かって移動するのとでは、時差ボケの疲労度が違う──というのは、学説でもなんでもなく単なる私の経験則でしかない。とはいえ、ヨーロッパと日本を何度も行き来している選手からも、極度の時差ボケをにおわせるコメントが聞こえてくるので、あながち間違いではないようにも思える。

 ここで、極めて個人的な想いを開陳させていただく。私は米国という国がどうにも苦手だ。私には米国人の友人も、米国在住の友人もいるのだが、今回の日本代表の合宿地を知った時、思わず「うーむ」と腕組みしてしまった。かの国が苦手な理由は、政治や経済や歴史の話を持ち出さずとも、いくらでも挙げることができる。やたら早口の英語をまくしたててヒアリングに難渋すること。車がないとどこにも行けないこと。距離はマイル、長さはフィート、重さはパウンド、気温は華氏で表示されるので、何だかよく分からないこと。脂っこい料理が発泡スチロール制の皿にてんこ盛りで出てくること。やたら体格がでかくて、しかも「HAHAHA!」と大声で手をたたきながら笑い転げること、などなど。

 とはいえサッカー的に考えれば、米国での直前合宿というものは、それなりに理にかなった判断であったことは認めざるを得ない。その最たるものは、時差調整。前述したとおり、米国東部時間との時差は13時間。ブラジルとの時差は12時間と非常に近い。実際、米国で体内時間を調整してから、ブラジルに乗り込もうと考えているのは、日本だけではない。前日(30日=現地時間)には、セントルイスでボスニア・ヘルツェゴビナ対コートジボワールが(2−1)行われており、6月に入ると日本戦2試合を含めて実に16試合が予定されている。今回のタンパ合宿は、本大会直前のマッチメークという意味でも、非常に魅力的なものだったことは、容易に想像できよう。

代表スタッフが重視する「オンとオフの明確化」

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手を使ったパス回しの練習でアップする日本代表。この日のメディア公開は冒頭20分で終了【宇都宮徹壱】

 もうひとつ、米国キャンプの利点を挙げるとすると、それは「環境の素晴らしさ」と「情報管理のしやすさ」である。以前、米国サッカーを取材して強く感じたのだが、この国にはサッカーのキャンプ地に適した芝のフィールドが各地に無数にあり、それらの多くは車がないとアクセスできない場所にある。そのため、選手がトレーニングに集中できる環境作りと、取材に殺到するメディアをコントロールしやすいという利点もある。今回の日本代表合宿についても、練習場は私が投宿しているホテルから車で15分ほどのところに位置していた。芝の状況は、可もなく不可もなくといったところ。それでも、冒頭20分の公開のあとはしっかり非公開にできる環境は整っていた。

 その一方で選手の取材に関してJFA(日本サッカー協会)は、今合宿からこれまでとは異なるスタイルでのメディア対応を実施している。すなわち、毎日トレーニング後に選手全員がミックスゾーンで対応するスタイルから、練習がない午前の時間帯にホテルにて2日に分けて全員の選手が対応するスタイルに変更したのである。前者の場合、目当ての選手に毎日話を聞けるのはありがたいのだが、コメントを発することなく記者の前を素通りする選手も少なくないという問題もあった。後者の場合、目当ての選手に毎日話を聞くことはできなくなるが、その代わり2日に一度はすべての選手がきちんといすに座ってメディアからの質問に応じることになる(時間にして10分から15分くらい)。どちらが良いかは判断の分かれるところだろうが、お互いがより新鮮な気持ちと緊張感を持って対峙(たいじ)できるという意味で、個人的には後者のやり方を支持したい。

 さて、今回の日本代表スタッフが一番に心がけているのは、選手の「オンとオフの明確化」である。取材する時間はきちんと設けるから、それ以外はそっとしておいてほしい、ということだ。この日は取材対応後に、「選手が散歩している時にカメラを回すことは控えていただきたい」という明確な申し出が、広報スタッフからあった。メディア(とりわけテレビ関係者)にしてみれば、「もう少しバリエーションがある画(え)がほしい」というリクエストが上層部からあったことは容易に想像できる。私自身も、もう少し練習公開の時間を長くしてほしいと常々思っている。だが、それ以上に望んでいるのは、我らが日本代表が万全の態勢で本大会の初戦に臨むことだ。そのために、取材現場で多少の不自由があったとしても、そこは譲歩すべきだと思う。逆に言えば、それだけ「言い訳ができない状況」で送り出した日本代表には、それ相応の結果を出してもらわねば、とも思うのである。

<6月1日に続く>

宇都宮徹壱(うつのみやてついち)

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)。近著『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。自身のWEBサイト『徹壱の部屋』(http://supporter2.jp/utsunomiya/)でもコラム&写真を掲載中。また、有料メールマガジン「徹マガ」(http://tetsumaga.com/)も配信中

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