この連載のタイトルは「スポーツカーは甦るか?」。各自動車メーカーがここ2~3年急激にスポーツカーあるいはスポーティカーに力を入れ始めた流れを解説してきたつもりだ。

 過去10年を振り返れば、自動車メーカーのラインナップからスポーツカーやスポーティーカーはほぼ消滅していたと言ってもいい。その間屋台骨を支えてきたのはミニバンと、軽自動車も含むエコカーだ。しかしブームにはいつか必ず陰りがやってくる。これから先10年、自動車メーカーは一体何を売るのか?

ポスト「ミニバン&エコカー」への期待

[写真]4輪を別々に駆動・制御するシステムを開発中の次期NSX(写真はコンセプトモデル)

 これまでの連載で書いてきた通り、各自動車メーカーはしばらく途絶えていたスポーツカーやスポーティーカーの復活プログラムを着々と進めている。この連載でレポートしたクルマだけでも、マツダとダイハツはロードスターとコペンのモデルチェンジ。ホンダはNSXとS660を開発中。トヨタは次期スープラのリサーチ中と言った具合で、クルマを作る側の人たちの間で、スポーツカーへの期待が高まっているのは間違いない。

 しかし、そもそもスポーツカーとは何だろうか? 元々定義があいまいな言葉だが、唯一言えるのは「運転を楽しむことを目的としたクルマ」ということだろう。だから精神的に言えば「例え軽トラでも運転そのものを目的として乗るならばスポーツカーだ」という人の意見も必ずしも否定できないが、しかしそれではハードウェアの定義にならない。なので、ここでは「運転を楽しむために実用性をある程度犠牲にしているクルマ」と定義したい。

 ミニバンやエコカーなど、道具としてのクルマは競争を経て成熟期に入り、実用性での勝負が行き詰まりつつあるのではないかとも考えられる。もはや有為な差別化が難しくなった結果、メーカーとしてはこれ以上実用車だけにリソースを割き続ける意味が失われたか、あるいはそういう未来がそこはかとなく予見されているということなのかもしれない。

商品が成熟すればコモディティ化が始まるからだ。コモディティ化とは、参入障壁が低くなった結果、前述のように有為な差別化ができなくなることを言う。均質化によって製品の差は価格だけになり、価格競争が激化して利益率がどんどん落ちていく。商売の旨みが失われるのだ。

 それにしても、ポスト・ミニバン&エコカーが何故スポーツカーなのか? 実はそこがよく解らない。スポーツモデルをイメージリーダーに据えて、セダンやハッチバックを売りまくった時代が強烈に記憶にあるのか、消去法的にスポーツカーだけが残ったということなのか。はたしてそれがメーカーの経営を支え得るものになるかと言えば難しいだろう。

 確かにこの10年で確立された技術的進歩を、その間カタログからほぼ消えていたスポーツカーに注入すれば、長足の進歩はあるだろう。そう言う意味では非コモディティ商品足り得る資質は確かにある。しかし、それが売れるかどうかは別の話だ。売れなければ事業の継続はない。スポーツカーの未来はまだ何もわからないのだ。