25才で上京、コネはなし。最相葉月はどのようにノンフィクションライターになったのか。今年4月、『最相葉月 仕事の手帳』(日本経済新聞出版社)が上梓された。取材の依頼から話の聞き方、資料の集め方、執筆まで、自身の経験をもとに仕事論を綴っている。今回は、編集者・ライターの心得について、著者の最相葉月さんにお話を伺った。(聞き手・構成/山本菜々子)
若い人の困難と結びつく
―― 『仕事の手帳』では最相さんの仕事論を書かれていますね。どのような本か簡単に説明していただけますか。
日経新聞夕刊の「プロムナード」という随筆欄で連載した記事を中心に構成しています。私は25歳で神戸から上京しました。はじめは編集者をしていて、そののちにライターになったのですが、とにかく土地勘も人脈もゼロからのスタートでした。その中で感じたことや自分なりの仕事術をまとめた内容だったのですが、連載中からとても反響があったので編集者が本にしましょうと提案してくれたのです。
―― 執筆のきっかけは何だったのでしょうか。
5年ほど前だったでしょうか、30代前半の編集者に、仕事のやり方を細かく聞かれたことがあるんです。どうやって取材依頼をしているのか、取材時に録音するのか、リード文はどうやって書けばいいのか……と。「そんなこと、会社の先輩に教えてもらえないんですか」と聞いたら、会社では教えてくれないと言うのです。
出版の世界では先輩と一緒に外に出て仕事をしながら覚えるオン・ザ・ジョブ・トレーニングが主流だったと思います。でも近年の出版不況で採用人数が減り、毎年の定期採用ができない会社も増えてきた。その編集者の会社も例外ではなく、自分はいつまでたっても新入社員だし、先輩とも年が離れている。誰も仕事の仕方を教えてくれない、と言うんです。
今は、デジタルの時代です。メールひとつで原稿の依頼ができます。いろんなところに行かなくても世界的な情報を瞬時に手にすることもできる。
ですが、インターネットの情報と、実際に人に会って得られる情報にはギャップがあります。今はマイナーになってしまった、アナログな仕事のやり方の中にも、今の仕事に生かせるところがきっとあると思っています。
手紙の書き方、電話での話し方、お礼状の書き方、本の読みこみ方……。デジタル化することで抜け落ちてしまったものの中にも大切に受け継いでいくべきものがあるし、もしかしたら今の時代にこそ要求されていることなのかもしれません。
時代は違えど、私が若いころ、手探りで仕事していた感覚が、もしかしたら若い人たちの困難と通ずるところもあるんじゃないか。私自身の拙い体験でもお役に立つのであればと思ったのがきっかけです。
実際に、この本を読んだ若い編集者やライターの方が声をかけてくれます。やっぱり、みんな悩んでいるんだなぁと。私も悩んでいたので。時代によって変わらないものもあるのかなぁと。
―― 『仕事の手帳』読んでいて、「ああー、こういうことあるなぁ」と、思わず何度もつぶやいてしまいました。たとえば、対談しているのに、二人とも対談相手ではなくこっちを向いてしゃべってしまって、一対二のインタビューになってしまうとか。私だけではなく、最相さんも同じことがあったんだと思うと勇気が湧いてきます。
ありがとうございます。みんな悩みながらやっているんですよね。対談の会話が弾まなかったり、インタビューの録音を聞き直したら、自分の質問が相手の言葉をさえぎっていることに気が付いたり。私がこの一言を挟まなければ、相手は絶対ここから良いことを言おうとしていたのに、と頭を抱えたり(笑)。そういうことの連続ですよ。
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