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 東京電力福島第一原発事故の損害賠償が迷走している。国が指針で示している賠償額が国の別の機関によって覆されたり、東電が勝手に賠償の打ち切りを発表したりするケースが相次ぐ。あいまいな賠償のルールが、元凶となっている。

 「10万円」か、「15万円」か――。避難指示区域の元住民の精神的な苦痛に対する慰謝料の月額を巡り、混乱が広がっている。

 発端は昨年5月、福島県浪江町の元住民が集団で、個別紛争を扱う原子力損害賠償紛争解決センター(原発ADR)に慰謝料の増額を申し立てたことだ。今年3月に原発ADRが約1万5千人の申立人に示した和解案は「15万円」。原子力損害賠償紛争審査会(原賠審)が決めた賠償指針では10万円とされているが、避難が長引いていることを考慮し、上乗せした。東電が和解案に応じれば、申立人には原則2年分の上乗せ額120万円が支給される。

 これに動揺したのが、福島県だ。村田文雄副知事らは5月、原発ADRと原賠審の上部機関である文部科学省を訪問。「長期避難は浪江町民だけでなく、全避難者(約8万人)に共通の問題」と述べ、原賠審の賠償指針を見直して、避難者全員に慰謝料の増額を適用するよう求めた。