ひとくちに大阪といっても、真っ先に思い浮かべるものは人それぞれ。たとえばグリコ の巨大ネオン、かに道楽 の動くカニ看板、ユニバーサル・スタジオ・ジャパン、たこ焼きなどでしょうか。その大阪でもひときわディープなスポットといえるのが新世界。背は低くても大阪のシンボルとして愛される通天閣に幸運の神様 ビリケンさん、づぼらやの空に浮かぶ巨大フグなど、街全体があたかもテーマパークのような様相を呈しています。
そして大阪にはもうひとつの シンセ界 があります。「ナニワのシンセ界」はそんな大阪で独自に進化してきたアナログシンセシーンを発掘する映画。具体的な内容はまだ公になっていませんが、公開に先駆けて3本のショートトレイラーをYouTubeで公開しています。
1本めのトレイラーはは非常に短くシンプルです。アップで映しだされるのはトグルスイッチやボリュームなどがわんさかと取り付けられた謎の物体。スイッチ類の並び方には、大阪でハンドメイドシンセを製作している J.M.T Synth の作品を思わせる雰囲気が漂います。
2本目のトレイラーはとにかく異様な雰囲気。おどろおどろしい音とともに現れる赤鬼の傍らには、セミモジュラーシンセサイザー ARP 2600 の姿が。ARP 2600 はかつて Depeche Mode が使用していたり、初代「機動戦士ガンダム」の SE 制作に使われたことでも知られます。そして映像はなぜかざるそばのカットを挟んで、「トメルナ」と書かれたエフェクター、さらに壁に掛けられたキー ボードと続き、最後は謎のヒゲ男...。
このカオスな映像は、実は手打ちそば屋「電氣蕎麦」の店内。この店には複数の ARP をメインに KORG、Roland のシンセが設置してあり、お店の営業中は常にこれらのシンセが BGM というかノイズを発しています。電氣蕎麦では、たまにアーティストがライブを行うこともあります。ちなみに蕎麦は毎日打っているとのこと。
3本目は一転、明るい室内で少年が Roland SH-101 で音を出している姿がみられます。ここは先ほどの電氣蕎麦から歩いていける距離にあるシンセサイザーショップ implant4 。お客さんに長くくつろいでもらいたいという理由から店内にラグマットを敷き、こたつまで置く変わった店です。ただ、もうすぐ夏になろうかといういま現在もこたつがあるのかはわかりません。
ほかにも、本編では大阪のシンセメーカーをいくつか取り上げるようで、NAMM ショウにも drift box シリーズを出品するメーカー REON などを取り上げる模様。大阪生まれの世界的な電子楽器メーカー、Rolandの存在も忘れてはいけません。もしかしたら、家電の巨人こと松下電器が Technics ブランドで発売したシンセサイザーなども紹介されるのでしょうか。
近年は KORG がニンテンドー DS で MS-10 を再現した DS-10 を皮切りに、スマートフォンやタブレットアプリでもモジュラーシンセサイザーを再現したものがいくつかリリースされました。リアルな世界でも MS-20 や ARP Odyssey の復刻があり、Moog がキース・エマーソンの巨大モジュラーシンセをふたたび制作するなど、アナログシンセサイザー再評価の機運が高まっています。
現在も制作進行中の映画「ナニワのシンセ界」の公開予定時期は2014年9月。一般受けはしないまでも、電子音楽好きにはなかなかインパクトのある作品となっているようです。また、音響・映像クリエイターでこの映画の監督を務める 大須賀 淳 氏には、電子楽器をテーマとした映画をシリーズ化する計画もあるとのこと。ひとつ気がかりなのは、上映館がまだ決まっていないところ。ぜひとも多くの映画館で上映に漕ぎ着けてほしいものです。