2014年06月02日

新聞ブランドを切り捨て、記者ブランドで成功した「Re/Code」

 アップルが約3000億円でビーツ(Beats)を買収すると発表してから数時間もたたないうちに、カンファレンス会場にアップル上級副社長のEddy Cue氏とビーツ共同創業者のJimmy Iovine氏が駆けつけ、買収の狙いなどを語った。同じ会場でその2日前には、グーグル共同創業者のSergey Brin氏が、同日に公開した自社設計の自動運転車についての抱負を語った。

 5月27日から29日までカリフォルニア州Rancho Palos Verdesで開催された「Code Conference」では、Microsoft、Netflix、Comcast、Qualcomm、Intel、Dropbox、 Flipboard、Salesforce.com、Twitter、Uberなどの有力IT企業のCEOがこぞって、カンファレンスに登壇した。ソフトバンク/Sprintの孫氏もその一人である。他に、女優のGwyneth Paltrow 氏も登場した。またKPCBのパートナーであるMery Meeker氏も恒例のインターネットトレンド・レポートの2014年版をこの場で発表した。

RECODESon20140529.png

 このCode Conferenceのホスト役を演じたのが、ウォルト・モスバーグ(Walt Mossberg)氏とカラ・スウィシャー(Kara Swisher)氏である。シリコンバレー業界のカリスマ的な存在のコラムニストとライターである。2人にとって、今回のカンファレンスは格別の意味があった。

 2人は昨年末まで、WSJ(ウォール・ストリート・ジャーナル)傘下のITニュースブログ「AllThingsD」の看板記者であった。AllThingsDはWSJの姉妹サイトとして運用されていたが、WSJ本体の技術分野ページよりも人気が高く、業界での影響力も大きかった。

 そのAllThingsDの目玉事業が「D Conference」であった。2007年から定期的に実施されており、2人の求心力もあってIT業界のビッグネームが登場する充実したカンファレンスとして確立していった。ところが、WSJブランドの下にありながら、AllThingsDの編集・企画はWSJ本体から事実上独立していた。そこでWSJとしては、もっと収益性を高めるためにも、AllThingsDをWSJ本体の制御下に置きたかったのだろう。自由な独自路線を貫きたい2人は反発し、昨年末にNews Corp(WSJ)との契約を継続しないで、縁を切ることになった。

 2人は、AllThingsDの何人かのブロガーを引き連れて新会社を設立し、新たにITメディアサイトを立ち上げることにした。ところが、なかなかスポンサーが見つからず足踏みが続いた。WSJブランドがあったらこそ、経営者を含むビジネスパーソンに信用され、AllThingsDがやってこれたのでは・・・。個人の記者ブランドでは難しいのではとの不安がよぎった。でもNBCUniversal News Groupなどからの出資もなんとか受け、今年の年明けに新サイト「Re/code」を立ち上げたのだ。また、目玉事業であった「D Conference」を引き継ぐ形で、「Code Conference」を5月27日から実施することを宣言した。その時すでに、Sergey Brin氏やMery Meeker氏の登壇が決まっていたというから、WSJを離れても2人の求心力は変わらない。WSJのような新聞ブランドに頼らなくやっていけそうだ。

 WSJも対抗心を燃やした。AllThingsDブランドは捨て去り、WSJ本体の技術分野ページ「WSJD」を年初に立ち上げた。編集力を強化するために、外部から評判の高いIT分野記者を複数人採用した。そのせいか、WSJのIT関連記事の質が良くなってきている。

 Kara Swisher氏もWSJDの動向が気になっていたのだろう。4月2日のツイートでRe/codeがWSJを越えたと喜んでいる。技術系ニュースのアグリゲーターであるTechmemeは、ニュースサイトの掲載数ランキングをLeaderboardとして公表している。Re/codeとWSJは春先から抜きつ抜かれつのシーソーゲームを展開しているのだ。ちなみに彼女のツイッターアカウントは約95万人のフォロワーを擁している。

RecodeSwisherTechmeme201404.png
 最新のLeaderboardは次のようになっていた。

*TechmemeのLeaderboard、2014年5月の月間掲載数ランキング
TechmemeRecode201405.png

 昨年12月のLeaderboardでは、AllThingsDがWSJ本体よりも上に位置していた。WSJとしては面白くない状況だったのかもしれな い。

*TechmemeのLeaderboard、2013年12月の月間掲載数ランキング
Techmeme20140101.png

 そのAllThingsDからWSJブランドのないRe/codeに変わっても、WSJ本体と渡り合っていけるのである。Re/codeの月間ユニーク数は、Quancastの調査によると米国内で約700万人に達している。一般コンシューマーではなくてビジネスパーソンを対象にしたニュースサイトで、700万人に届いているのは評価できる。また心配していたカンファレンス事業「Code Conference」も、6500ドルのチケットがすぐに完売したことからも、成功したと言える。カンファレンスの内容は、例えばWalt Mossberg氏からインタビューを受けた孫氏の発言は、すぐにRe/codeに掲載されていた。

◇参考
Code Conference (re/code)




posted by 田中善一郎 at 00:39 | Comment(0) | TrackBack(0) | 新聞 ニュース
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