ノーベル賞経済学者のクルッグマンが、"Cheese-eating Job Creators"(邦訳:フランス版「雇用創出者」さま)と言うエッセイで、米国とフランスの25から59歳の就業率を比較すると実はフランスの方が高い事を指摘している。就業率は人口に占める実際に働いている人の割合で、失業状態の人や、さらに求職をあきらめた人が多くなると低くなる。指摘の詳細は邦訳を確認してもらうとして、米国よりも充実した失業保険のあるフランスの就業率が高いのは興味深い。幾つかのマクロ経済理論では、失業保険などが労働意欲を抑えることになっているからだ。
1. 失業手当てはフランスが充実
失業手当の金額や期間で考えて、フランスの方が福祉国家なのは間違いない。制度変更も頻繁にあるし、給付資格は複雑だし、細かい比較をしだすと切りがないのだが、米国よりもフランスの方が失業保険は充実している。米国の失業保険は会社都合で解雇・退職した人に約半年*1支払われるもので、給付金額も月換算で平均1,233ドル程度とされている(米国の失業保険制度)。フランスは失業保険は就労期間以下で最長2年の間、上限はあるが従前賃金の57.4%から75.0%支払われ、失業保険切れになると半年間の失業扶助を受けられる可能性があり、さらに積極的連帯所得手当と言う生活保護制度がある*2。
2. 米仏年齢階級別の就業率
クルッグマンが出したグラフだけではなく、2012年の就業率を「データブック国際労働比較」から確認しておこう。
年齢 | 米国 | フランス | 差 |
---|---|---|---|
16-19 | 26.06 | 9.71 | 16.35 |
20-24 | 61.51 | 47.06 | 14.45 |
25-29 | 74.04 | 74.89 | -0.85 |
30-34 | 75.82 | 79.45 | -3.63 |
35-39 | 76.53 | 82.41 | -5.88 |
40-44 | 77.68 | 83.81 | -6.13 |
45-49 | 76.65 | 83.11 | -6.46 |
50-54 | 73.88 | 80.44 | -6.56 |
55-59 | 68.12 | 67.10 | 1.02 |
60-64 | 51.99 | 21.70 | 30.29 |
65-69 | 29.94 | 5.88 | 24.06 |
70-74 | 18.21 | 1.77 | 16.44 |
75~ | 7.24 | 0.37 | 6.87 |
16-64 | 67.14 | 63.91 | 3.23 |
65~ | 17.30 | 2.25 | 15.06 |
25-59 | 74.65 | 78.89 | -4.23 |
計(16~) | 58.56 | 51.11 | 7.45 |
米国の方が働き出すのが早く、引退するのが遅い傾向が分かる一方で、フランスの方が青年時代は働く人が多いことが分かる。定年が60歳のフランスで55から59歳の就業率が急激に落ちる理由が良く分からないのだが、フランスでそれ以上の高齢者の就業率が低いのは年金制度が充実しているからであろう。
働らいても働らかなくても生活が同じ状態になれば働かない人が多数出るとは思うが、フランスぐらいの福祉では若者や中年の労働意欲にさほど影響は無いようだ。最近は米国でも福祉が充実すると労働供給を減らすようなモデルは嫌味の一つも言われるらしいが、少なくとも米仏を比較する限りでは安易な仮定は問題なことが分かる。
なお、2009年版のデータブック国際労働比較でリーマンショック前の2007年の数字も確認したが、ほとんど変化は無かった。
*1リーマン・ショック後に長期失業者に給付する緊急失業保険制度と言うのができたし、そもそも半年以上の州もあった。
*2「求職者の約51%が失業保険手当の受給できず(フランス:2013年6月)/労働政策研究・研修機構(JILPT)」と言うフランスも厳しいのかと思わせるトピックの中で、このような充実ぶりが分かる。
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