Financial Times

弱体化したフランスが欧州の終わりを告げる恐れ

2014.06.02(月)  Financial Times

(2014年5月30日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

本当の地震はベルリンの壁の崩壊だった。あれから四半世紀経った今、欧州はまだ余震に苦しめられている。

 ロシアのウラジーミル・プーチン大統領はソ連帝国を復活させたいと思っている。フランスは、再統一を果たしたドイツに支配されている欧州で四苦八苦している。プーチン氏は最終的には失敗する運命にあるが、その過程で大混乱を巻き起こせる。フランスは、欧州が今や他国のものだということを認めるよりも、むしろ我が身を苦しめている。

 欧州の指導者たちは、共産主義の終焉後の生活は概ね以前と同じように続くと考えた。欧州連合(EU)は東方の新たな民主主義国を受け入れる。単一通貨はドイツマルクの優位性を薄め、ドイツを既存の欧州秩序にしっかりつなぎ止める。これが当時の話だ。

有権者が抗議票に込めた怒り

 5月下旬の欧州議会選挙は、一部の興奮した見出しが語るほどのポピュリストの圧勝ではなかった。だが、反エリート、反移民、そして一部の例では反EUの抗議は確かに明白だった。フランスと英国、デンマークでは、外国人嫌いの右派政党が躍進した。その他の国では、怒りの票が左派と右派に割れた。

 ポピュリスト政党と欧州懐疑派は今、欧州議会の議席の3割を握った。プーチン大統領は、同氏に負けず劣らず不快な国家主義の仲間たちに声援を送ってきた。

 驚くべきことは、選挙結果に驚いた人が1人でもいたことだろう。欧州大陸は、生活水準の低下、失業率の上昇、政府による緊縮が続く厳しい5年間に苦しんできた。ドイツのアンゲラ・メルケル首相を別にすると、国民の自信を呼び覚ます指導者に恵まれなかった。

 別の時代のために設計された福祉制度は、グローバル化の重圧で崩れかけている。それなりの数の有権者が今回の選挙を、お金をかけずに主流派の政治家を蹴飛ばすチャンスと見なしたことは、衝撃的とは到底言えない。

 EUの指導者は油断すべきではない。EUは一般市民の日々の懸念に気を配り、国民生活の隅々への干渉に抵抗しなければならない。政治家が今、ルクセンブルクのジャン・クロード・ユンケル氏のような旧態依然とした連邦主義者を欧州委員会の新委員長に選出することでこのメッセージを否定したとしたら、非常に残念だ。

 こうした状況にもかかわらず、欧州統合の仕組みは副次的な問題だ。グローバル化から生じる不安と不平等はEUの責任ではない。重大な批判があるとすれば、それはEUが、加盟国は単独でいた場合、はるかに苦しい状況に置かれるということを立証する経済・政治戦略を見つけられなかった、ということだ。

 今回の選挙は、欧州の選挙というよりは国政選挙の色彩…
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