(2014年5月30日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
5月末に米国の防衛、外交について相次ぎ演説を行ったバラク・オバマ大統領〔AFPBB News〕
バラク・オバマ米大統領が5月28日に行った外交政策に関する演説について奇妙なことは、大統領が言ったことではなく、言わなかったことにある。
オバマ氏は、同氏のことを無気力で無力だと見なす批判の高まりに反論した。オバマ氏は同氏の特徴的なテーマになりつつある外交姿勢の中で、新たな危機が生じるたびに駆けつけるよりも「高い代償を伴う過ち」を避ける方がいいと述べた。
だが、非軍事的な形の影響力に力点を置いた演説の中で、オバマ氏は自身が欧州とアジアで交渉している2つの大きな貿易協定には触れなった。一度に小さくかじりついて新たな領土を素早く手に入れている中国やロシアといった大国にどのように対処するかについてもほとんど言及しなかった。
大統領は米国の影響力の先行きに関するもう1つの厄介な問題も回避した。米国の同盟国は手助けする意欲を持っているのか、という問題だ。
オバマ氏に対する主な批判は、同氏の本能的な用心深さが抑止力を弱めており、同盟国を無防備な状態に置いているというものだ。英エコノミスト誌の最近の表紙に書かれたように、「米国は何のために戦うのか?」ということだ。
だが、オバマ氏は同盟国に妥当な問いを投げかけられるかもしれない。それほど心配なら、そのことについてなぜもっと手を打たないのか、と。
米国の助けに依存し、国防費を削る同盟国
オバマ氏のリーダーシップを密かに中傷してきた政府の多くは、自分たちがトラブルに巻き込まれた時は米国が救援に駆け付けてくれるという想定の下で、自国の防衛にごくわずかしか支出してこなかった。
これは言うまでもなく、米国と北大西洋条約機構(NATO)の関係における長年続く恨みの種だ。冷戦時代でさえ、米国政府は欧州諸国のタダ乗りについてよく不満をこぼしていた。ロバート・ゲーツ氏は2011年に国防長官を退任する直前、欧州に厳しい警告を発した。欧州の防衛費が回復しなければ、将来の米国の指導者は「NATOに対する米国の投資のリターンが費用に見合わないと考えるかもしれない」と述べたのだ。
ゲーツ氏の言葉はほとんど影響を及ぼさなかった。米国を除けば、NATO加盟国にとって最低限であるはずの国内総生産(GDP)比2%の防衛費を支出しているのは、英国、エストニア、ギリシャだけだ。