「聞くだけで彼女ができる着うた」の開発や
「洗脳」のエキスパートとしても有名。
世界中から注目される脳機能学者が
日本のビジネスパーソンに伝えたいこととは。
脳は重要だと思うこと以外、認識しない
情熱を傾けるようなものに出合えず、毎日がつまらないと感じている人が多いと聞きます。やりたいことがなかなか見つからないのは、「スコトーマ(盲点)」が邪魔をしているからなんです。
「スコトーマ」は通常、視覚にのみ使われるものですが、この場合は「認識の盲点」と考えてください。人間には、知識があるがゆえにかえって知識の習得が妨げられてしまうことが多々あります。例えば、「官僚になることが幸せの道だ」と親から教えられて育った人が、官僚以外の職業に対し興味が持てなくなったり、官僚の悪いところがまるで見えなくなる、なんていうことがありますよね。つまり、脳は重要だと思うもの以外、認識しないものなのです。
私はよくワークショップで、「あなたが普段している時計を、改めて見ることなしに、正確に紙に描いてみてください」という課題を出します。しかしながら、ほとんどの人が時計のデザインを正確に描くことはできません。毎日見ているものなのに不思議ですよね。これは、時計は時間がわかるということが重要なのであって、それ以外の要素はあまり重要ではないと脳が感じているからです。そのために毎日見ているのに認識されないんです。
脳が認識しないもの。それは存在していないのと同じことです。例えば、いくつかのグループに分かれてディスカッションをしているとき、自分のグループの会話は聞こえても、隣のグループの会話は聞こえませんよね。重要ではないから、耳に入っているのに認識されない。つまりは存在していないということになるんです。
親を超えることから、すべてが始まる
同じように、やりたいことがわからないという人も、スコトーマが邪魔をして、本当に自分がやりたいことが見えていない可能性が高いというわけです。そういう人の大半が、自分のゴールを「現状維持」に据えています。
現状維持のことを専門用語で「ホメオスタシス」といいますが、これはすべての生物に備わっている能力です。そもそも生物には、現状にいちばん適したものを選択するという本能がある。でも、これでは本当の意味での進化はありません。この「現状維持」という能力のせいで、新しいことをやろうとする気持ちが抑えられてしまうからです。いつまでたってもスコトーマの部分は見えず、同じものを見て日々を過ごすことになる。過去の延長で生きているだけ。これではほかの動物と同じです。
では、やりたいことを知るにはどうしたらいいか。それは、スコトーマの部分、つまり現状の外側でゴールを見つければいいんです。現状の外側にゴールを設定した人だけが、本当の意味での進化が可能となります。
現状の外側にゴールを見つける。一見、難しいように聞こえますが、実は簡単です。現状をすべて否定すればいい。今、自分が正しいと思っていることをすべて疑ってみるんです。
物事の重要性を決める指標を「評価関数」と呼んでいますが、それは、ほとんどの場合、親からきているんです。人が何かを選択する場合、「自分の親だったらどうするか」ということを判断基準にしています。子どものころに親から植えつけられた「評価関数」が、「コーヒーにするか、紅茶にするか」といった日常のささいなことから、「どこの会社に就職するか」といった人生の重要事まで、すべての領域に影響を及ぼしているんです。
親以外には、幼稚園や小学校の先生、小さいころ仲のよかった友達の影響も考えられますが、ほとんどの場合は親。ですから、「親を超える」つまりは「今まで正しいと思っていたことをすべて否定してみる」ことが、「本当にやりたいことを見つける」第一歩なんです。
実は研究者になる前、苫米地氏は
大手デベロッパーである
三菱地所に就職している。
これは親の勧めだったのだという。
希望する職種の欄に「社長」と書いた
私の場合は、小さいころから親の言うことは完全否定だったんです。祖父は政治家で、私は長男でしたから国会議員になるのが当たり前という環境で育ちました。しかし、大学での専攻は政治とは全く関係のない言語学。そんな私が大学卒業後、三菱地所に就職したのは、親から頼まれたからです。「一度でいいからサラリーマンをやってくれ。だまされたと思って」と言われましてね。「一度ならいいか」と、親を尊重して入ってみたら、やっぱり自分には向いてなかった。三菱地所が悪いんじゃなくてね。私は自分に一人でも上司がいると嫌なんです。
だから入社して早々に、希望する職種の欄に「社長」って書いたんですよ。そしたら、人事部から「社長」という職種はありませんって言われて。「なんだ、社長にしてくれないなら、辞めよう」って(笑)。入社1カ月後には退職を考えてましたね。自分でもそんな気がしてたから、ああ、やっぱりな、と思ったくらいで。その後は、小さいころからの夢だった科学者になるべくフルブライト奨学金を受けて、アメリカに留学しました。
親は、「いい大学に入っていい会社に入りなさい」って言うでしょ。「安定、一流、大手」。そういうの、1度すべて否定してみるといい。疑って行動を起こしてみる。そうすると今まで見えなかったスコトーマの部分が見えてくる。自然と本当にやりたいこと、好きなことがわかってくるんです。そしたら、それに向かってまい進すればいい。苦痛でもなんでもありません。好きなことにどれほど時間を費やしても、楽しいだけですから。
日本は勤勉さを評価するでしょ。でも、好きでもないことを一生懸命やるのは、勤勉とは言いません。単なる奴隷です。奴隷のように好きでもないことに縛られて働きたいですか。誰だって、好きなことだけをやって面白く暮らしたいでしょう。ものすごく当たり前のことなんですよ。
日本で食べていけない職業なんてない
好きなことをやって食べていけなかったらどうしよう、なんて言う人いるけど、それも親の定義。親から刷り込まれた間違った定義です。今の日本で、食べられなくて餓死することなんてありません。親が言う「食べていけない」は「有名大学に入って大企業に就職した人より、年収が低くなるよ」っていう意味。決して、食べていけないわけではない。
そもそもほとんどの仕事は、持って生まれた能力なんて関係ないんですよ。肉体労働やスポーツなど、体を使うものは別としてね。頭脳労働で求められているものは、情報空間での付加価値です。それを生み出すために必要なのは、知識とスキルだけ。やる気があれば誰でも習得できるものだし、一定期間続ければ上手にもなる。最低3年、続けられれば、誰でもプロになれるんです。なのに途中で嫌になって辞めてしまうから、ものにならないんです。だからこそ、苦労せず長く続けられる仕事に就かなきゃだめってこと。結局、好きなことをやったほうがいいってことなんですよ。
苫米地英人著
苫米地氏初の勉強本が発売された。氏いわく、頭がいい人というのは、記憶力がある人ではない。「これまで誰も生み出せなかった新しい発想ができる人」のことを指す。では、どうすればそのような人になれるのか。「今までの勉強法をすべて捨てること」から始まるスコトーマ(盲点)の原則に基づいた苫米地流勉強法。本書は、「勉強」の枠を超え、自分自身で道を選び、本当の意味で自己実現していくための具体的な方法論が示されている。生き方の指南書ともいえる本だ。アスコム刊。
- EDIT/WRITING
- 高嶋千帆子
- DESIGN
- マグスター
- PHOTO
- 栗原克己
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