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“誤訳”で増幅される「政治家発言」を憂う

参院選でのみんなの党と維新の会の選挙協力が解消された。両党にとって大きなマイナスだろうと思う。政策が近く、味方であるはずの両党が、橋下徹・大阪市長の従軍慰安婦発言をきっかけに一気に「破綻」に至ったのである。

維新の会との連携に力を尽くしてきた江田憲司・同党幹事長と、渡辺喜美・同党代表との確執も理由に挙げられているが、それにしても来たるべき参院選で両党がお互いを口汚く罵る場面は有権者の一人としてあまり見たくないものだ。

私は、この従軍慰安婦発言に対して、一昨日のブログでも書かせてもらったように橋下氏に同情している。あの貧困が支配した時代に、家族を助けるために金銭の見返りに“身売り”し、色街で働く薄幸な女性は数多くいた。

望んで行くわけではないが、家族を助けるために彼女たちは自らの身を売り、幸せ薄い人生を送ったのである。その中で、のちに「従軍慰安婦」と呼ばれ、「P屋」と称された慰安所で働く女性たちもいた。

それは、日本国内だけでなく、朝鮮半島やさまざまな地域の出身女性がそういう職に就いた不幸な時代だった。しかし、それは、日本が国家として「嫌がる婦女子を強制連行」して売春をおこなわせたということではない。

「嫌がる婦女子を強制連行」して「慰安所に閉じ込め」て「性交渉をさせた」というのがもし真実なら、日本は「拉致・監禁・強姦国家」ということになる。いま国際的に「日本は“レイプ国家”だ」というレッテルが貼られつつあるが、橋下氏がこれに「違うことは違うと言わなければならない」と発言したことは、私には当然と思えるのである。

橋下氏のこういう発言、つまり、歴史の微妙な事柄が発生した時によく登場するのが「誤訳」問題である。今回の場合、どうだったか少し考えてみたいと思う。

外国では、今回の橋下氏の発言は、「日本の大阪市長が、“日本軍には性奴隷が必要だった”と語った」と捉えられている。最初にAP電をはじめ外紙が橋下氏の発言を「sex slaves(性奴隷)」という言葉を用いて報じたことがきっかけだ。

Osaka mayor says wartime sex slaves were needed to ‘maintain discipline’ in Japanese military.(大阪市長は、戦争時、日本軍が「規律を維持するため」には性奴隷が必要だった、と語った)

さすがに、軍の規律を維持するために「性奴隷が必要だった」と発言する政治家が日本では大阪市長をしているのかと、報道に接した外国の人々は仰天したに違いない。非難が巻き起こったのも当然である。

だが、私は、従軍慰安婦を「性奴隷」とした表現には、明らかに悪意が潜んでいると思う。従軍慰安婦とは「性奴隷」のことであり、奴隷とは「強制的に」連行されるものであり、すなわち日本国は「レイプ国家」である、という明確な決めつけと刷り込みのために用いられたのではないのか、ということである。

「性奴隷」という一言には、あとの議論は不要になるぐらいの強烈なインパクトがある。そこには、女性の人権を無視したレイプ国家・日本には、「人権」を語る資格などない、という明確な「メッセージ」、言いかえれば「悪意」が潜んでいるように思う。

私は、日本を貶めるこういう報道が、これから世界に羽ばたこうとする日本の若者たちに大きな障害となっている現状を憂える。それと同時に私は、こういう報道や外交交渉の中での「誤訳」問題をどうしても考えてしまう。

思い出されるのは、1972年に日本と中国との間であった「誤訳事件」である。有名な「添了麻煩(ティエンラ・マーファン)事件」だ。

日中国交正常化のために訪中した当時の田中角栄総理が晩餐会の席上、「わが国が中国人民に対して多大のご迷惑をかけたことについて、私は改めて深い反省の念を表明するものであります」と挨拶した時、中国側はこの「多大なご迷惑をかけた」という部分を「添了麻煩」と訳したのである。

「添了麻煩」というのは、ちょっとしたミスに対して「ご迷惑をお掛けしました」という時に使うもので、田中が言った「多大なご迷惑をかけ」、「深い反省の念を表明する」というものとは天と地ほど違う訳だった。

この瞬間、晩餐会の会場はざわめき、日中の友好ムードは一変したのである。そして、日中共同声明には、過去の歴史認識についてどういう言葉を入れるかという交渉が中国側のペースで進み、「日本側は過去において、日本国が戦争を通じて中国国民に重大な損害を与えた責任を痛感し、深く反省する」という“損害”と“責任”という文言が書き入れられることになった。

これは、中国研究者の間では有名な「事件」だが、誤訳によって行き違いが生じるのは、珍しいことではない。また誤訳問題ではないが、「通訳の有無」自体が問題化する場合もある。

1990年に自民党の金丸信が訪朝した際、突然、金日成主席との会談が入り、日本側の通訳が入っていなかったことから、その後たびたび北朝鮮側が「これは金日成主席と金丸先生が会談の中で約束されたことです」と、真偽不明の“合意”が持ち出されるもとになった。

今回の飯島勲・内閣官房参与の訪朝でも、真っ先に「日本側の通訳の有無」が話題になったのと同じだ。

私は、利害や面子(めんつ)、そして策謀が渦巻く国と国との交渉の最前線、あるいはそれを伝える報道の中で、日本国内の日本人ジャーナリストたちを含めて「日本を貶める人々」がいかに多いか、愕然とすることがある。

今回のように「性奴隷(sex slaves)」という言葉によって、より大きな反発を生じさせ、その上で起きた外国の反応を、さらに大きく報じて問題化していく日本のジャーナリズムの手法に、私はかねて疑問を抱いている。何度も繰り返されるこのジャーナリズムの手法を見るたびに、溜息が出てくるのである。

私は、歴史認識にかかわるこの手の微妙な問題に右往左往せずに、冷静に対応していく識見と落ち着きを持ちたいものだと、いつも願っている。

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