「藁の楯」
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◆多分、松嶋さんは良い香りがすると思います◆ 本作の原作小説が発表された頃、漫画家のいしいひさいちさんがパロディ漫画を描いておられました。 10億の報酬に眼が眩んでしまわないよう、護送役をそれ以上の個人資産を持つ富豪刑事で固めてしまおう！というものでした。 10億に眼が眩んでリスクを背負う奴が出る割合と、全国の警察機構の中に大富豪刑事がいる割合と、どちらが大きいでしょうか…。 小学生の女の子が惨殺死体で発見され、同じような罪で出所したばかりの変質者（藤原竜也）が犯人として手配されます。 ところが孫を殺された大富豪（山崎努）が「下手人を殺してくれた方に10億円進呈」と言い出したもんだから、全国の金に困った日人々が一斉に藤原の命を狙い始めました。 仲間に殺されかけた藤原は博多の警察に出頭しますが、警護の警官や看護師までもが10億目当てにヒットマンになってしまいます。 事態を重く見た警察上層部は、要人警護のＳＰ（大沢たかお、松嶋菜々子）に出動を要請。本庁の刑事（岸谷五朗、永山絢斗）、博多の刑事（伊武雅刀）と共に藤原を東京に護送するように命じます。 大沢は妻を暴走トラックに轢き殺されたため、藤原のようにヘラヘラしている奴が大嫌いでしたが、自分の心を殺して職務に没頭します。最初から藤原に敵意むき出しの永山は今回の護衛に不満ブスブスですが、幼い息子を抱えるシングルマザーの松嶋、被害者と同じ年頃の孫がいる伊武も内心では苦々しく思っているようです。 山崎は未遂に終わっても1億の残念賞を出したため、陸路を移動中に爆弾トラックがつっ込んで来たり、ついには博打の金に詰まった機動隊員までもが藤原を襲撃してきました。 移動ルートがネットに流出したことから、上層部（伊吹剛）は移動手段を変更。今度は新幹線の車両を借り切ることになります。 ところがここでも情報が流出し、武装ヤクザ（小沢和義、山口祥行、本宮泰風）との銃撃戦の末、永山が殉職してしまいます。 続いて新神戸駅のホームで藤原目当ての人質事件が発生、犯人（長江健次）を射殺した伊武が戦列を離れます。 線路をふさがれた一行はヒッチハイクで東京を目指しますが、ここでも移動ルートが漏れてしまいます。 情報を漏らしていたのは岸谷でした。大沢はコトの次第を上司（本田博太郎）に報告しますが、先手を打った岸谷によって、「藤原が大沢と松嶋を人質にして逃亡中」というストーリーが出来上がっていました。 これも最終的に警察に藤原を射殺させるための、山崎の計画だったのです。 大沢は断固職務遂行を決意、酒好きそうなタクシー運転手（余貴美子）の協力で検問を突破しますが、油断した松嶋が藤原に殺されてしまいます。 大沢はボコボコにぶん殴った藤原を引っ立てて東京に帰還、自らトドメを刺そうとする山崎と対決します。 うーん、勿体ない。設定は物凄く魅力的なんですよね。 これだけの美味しそうな素材があるのに、残念ながらそれを巧く料理できずに頭でっかちなまま終幕を迎えてしまった感じです。 「正真正銘のクズ野郎」の命を、職務のために守らなければならない苦悩。いたずらに報復感情ばかりを煽って、「悪い奴だ、殺そう」なんて安直な内容になったらショボすぎて目も当てられませんが、その辺を巧くコントロールしてエンタメに繋げるのが作り手の仕事のはず。移動中の藤原君が修学旅行の生徒みたいで金地用かんゼロ。ラストにようやく大沢たかおが渾身の芝居をしてくれますが、ちょっと遅すぎたようです。 「10億円」という報奨金のために大勝負に出る切羽詰まった人たち。「新幹線大爆破」のような「襲撃サイド」のドラマでも入れておけば良かったと思うのですが、尺の関係か予算の関係か、その辺は一切スルーでした。当然、あの手この手でやってくる襲撃者との息詰まる対決も残念ながら無し。頭脳戦らしいのは岸谷との対決くらいでしょうか。 裏切り者は果たして誰なのか…って、本田博太郎が出てきたらバレバレじゃないですか(笑)？いや予想通りで嬉しいんだけど。岸谷五朗はそれ以前に芝居がおかしかったです。 こういった話は小難しい理屈を入れると途端につまらなくなってしまうので、徹底的にエンタメに特化した方が良いと思うのですが、監督がこういうのに不得手な人なのか、それが最後まで維持できませんでした。 序盤は確かに面白く、列車内の銃撃戦辺りまでは邦画も捨てたもんじゃねぇ！と思ったのですが、列車を降りてヒッチハイクし始めた辺りから物語がどんどんショボくなってしまいました。 一人だけ芝居が浮いていた若い兄ちゃんは退場要員なのが何となく分かりましたが、よく分からないのが松嶋菜々子の存在。出世第一主義で職務遂行の鬼みたいなキャラクターかと思いきや、藤原君に銃を向けて「殺しちゃいましょう」と言ったり、本当に何だかよく分かりません。彼女を見つめる大沢たかおの「困ったなぁ」とでも言いたげな眼が全てを物語っています。 『新幹線大爆破』同様、この手の内容ではＪＲがOK出すはずがなく、新幹線の部分は台湾でロケしたそうです。これってミニチュアでも良かったのでは？ 岸谷五朗に触られてオヤジ臭い！となるのは何となく分かりますが、松嶋菜々子がおばさん臭いというのがどうしてもピンときません。原作もそうなっているのかな？ 山崎努はさすがの存在感。人なんか使わずとも、藤原君なんか一撃で仕留められそうなオーラです。 あと、あの主題歌は内容にマッチしているとか言うのではなく、単に大人の事情という奴でしょうね。そう信じたいです。 ―スタッフ― 監督 ： 三池崇史 プロデューサー ： 北島直明、坂美佐子 エグゼクティブプロデューサー ： 奥田誠治 製作 ： 藤本鈴子 原作 ： 木内一裕 「藁の楯」 脚本 ： 林 民夫 音楽 ： 遠藤浩二 撮影 ： 北 信康 照明 ： 渡部 嘉 美術 ： 林田裕至 録音 ： 中村 淳 編集 ： 山下健治 助監督 ： 渡辺 武 装飾 ： 坂本 朗 音響 ： 柴崎憲治 製作担当 ： 掘岡健太 特機 ： 度会誠司 小道具 ： 安部千夏 大道具 ： 木村将博 ヘアメイク ： 荒木美穂 スタイリスト ： 前田勇弥 製作主任 ： 松村隆司 スチール ： 池田岳史 銘苅一基 ： 大沢たかお 白岩篤子 ： 松嶋菜々子 奥村武 ： 岸谷五朗 関谷賢示 ： 伊武雅刀 大木係長 ： 本田博太郎 高峰警視正 ： 伊吹 剛 西野めぐみの父親 ： 高橋和也 神箸正樹 ： 永山絢斗 公安の男 ： 音尾琢磨 出刃包丁男 ： 長江健次 刑事 ： 四方堂亘 列車の暴漢 ： 小沢和義 列車の暴漢 ： 山口祥行 列車の暴漢 ： 本宮泰風 看護師 ： 蜷川みほ 博多のタクシー運転手 ： 諏訪太朗 捜査一課長 ： 菅原大吉 刑事部長 ： 坂田雅彦 蜷川の護衛 ： 須藤雅宏 福岡県警の刑事 ： 橋本一郎 車掌 ： 吉沢眞人 由里千賀子 ： 余貴美子 救急隊員 ： 並樹史朗 田中 ： 新妻 聡 博多の医師 ： 仁科 貴 刑務官 ： 寿大 聡 機動隊員 ： 沖原一生 トレーラーの運転手 ： 勝 矢 ホームの母親 ： 田所二葉 ホームの少女 ： 天野柚希 警備部刑事 ： 榎木薗郁也 警備部刑事 ： 鹿野優志 ニュースアナウンサー ： 藤井恒久 ニュースアナウンサー ： 菅谷大介 ニュースアナウンサー ： 桝 太一 ニュースアナウンサー ： 佐藤 啓 ニュースアナウンサー ： 市野瀬瞳 女の子 ： 澤田萌音 清丸国秀 ： 藤原竜也 蜷川隆興 ： 山崎 努 （敬称略）
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