和食に牛乳は合わないのでは――そんな素朴な問いかけが、思わぬ反響を呼んでいる。

 米どころで知られる新潟県の三条市が、学校給食につきものだった牛乳を試験的に停止すると決めた。地元の米や野菜を使った和食中心の給食を提供し始めたところ、保護者らから「牛乳と合わない」の声が出たことがきっかけだった。

 例えば、5月のある日の献立はこんなふうだ。ぜんまいと筍(たけのこ)の煮しめ、マスの塩焼き、豆入り赤飯、卵豆腐入りすまし汁。こんな昔ながらの和食にも、必ず牛乳がつく。学校給食では、戦後始まった脱脂粉乳の提供以来、当たり前の風景だ。

 それだけに、常識を覆す試みとしてネットやテレビなどで賛否両論がうずまいた。

 「やはり和食にはみそ汁、お茶」と賛同する声の一方で、個人の好みの問題だと反発の声が上がる。栄養面でも「成長期の子がカルシウム不足になる」と懸念する人がいれば、「そもそも牛乳は日本人の体質に合わない」と主張する人もいる。

 背景には、豊富な食事情の裏で、人々が抱える不安や迷いがひそんでいるのではないか。

 日本初の学校給食は、弁当を持参できない貧しい生徒のため、明治時代に始まった。おにぎりに焼き魚、漬物。家庭でもこんな素朴な献立が当たり前だった。それが高度成長期に入り人々が都会に集中し始めると、高級品からジャンクフードまであらゆる食べ物があふれる一方で、食の伝統は細り、グルメ情報や健康情報に振り回されて右往左往する人が増えはじめた。

 だからこそ、栄養バランスが取れた学校給食に対する期待が高いのだろう。

 立ち止まって考えたい。望ましい食事とはいったい何か。

 ユネスコの無形文化遺産に「和食」が登録されたことは記憶に新しい。豊かな風土で育まれた季節の素材を生かした食文化が、ヘルシーでおいしいと世界的な評価を受けた。

 肝心なのは牛乳の是非論ではなかろう。牛乳は効率の良いカルシウム源で、給食を通じて子の成長に寄与してきた。だが食品はサプリメントではない。日本人のカルシウム不足は、魚やゴマなどを取る伝統的な食生活が失われたことも大きい。

 牛乳をなくした分、米の量やおかずの内容を工夫して、米どころらしい献立で必要な栄養を満たす。そんな三条市の試みに、素直に注目したい。本当にぜいたくな食事とは、実は私たちの身近なところにあるのかもしれないのだから。