先日、神戸地裁で5人が死傷した事件で運転手に対し、無罪判決が出ました。
報道によりますが、時事通信2013年10月28日記事によれば、
「
駐車場から国道に出ようと左折した男性の車が、右側から来た車と接触。さらに、その車が対向車2台に衝突し1人が死亡、4人が重軽傷を負った。
飯畑裁判長は、右側から来た車が制限速度を約20キロ超過しており、男性が一時停止地点で右方向を確認しても目視できる距離になかったと認定。「男性に安全確認を求めると、永久に発進できなくなる」」
というものです。
その駐車場から国道に出る道がどのような視界なのかは報道からはわかりませんが、非常に考えさせられる問題です。
幹線道路であってもそこに出るまでに非常に視界が悪い道路があります。
また違法駐車のために視界が遮られることも少なくありません。
そのような道路から出るには、
普通乗用車の場合、運転席が前方部分よりも後ろになりますから、そろそろと車体の頭出しをしながら右側から車が来ていないかどうかを確認しつつ、ある程度のところで踏ん切りよく速度を出さないと道路に出られないこともあります。
そのようなときに衝突でもされようものなら、判決がいうように「
永久に発進できなくなる」状況に陥ります。
このような問題は何も上記事例の場合に限りません。狭い路地から出るときも同様なのです。
例えば、

この車が優先道路に出ようとしても壁があって左右の見通しは悪く、ほとんど視界ゼロです。
この場合、そろそろと前に出て左右を確認することになります。

ところがその車から死角であるところから車が来ることが少なくありません。

そのままだと、どうしてもぶつかります。
この場合、優先道路であっても前方にそろそろと出ている車(A車)があれば、それを発見すれば止まったり徐行してくれないとそのままぶつかります。
この場合、事故が起きた場合、どちらが悪いと考えるのかです。
優先道路と言ってみてもどちらが先に行くのかというルールに過ぎません。「そこをどけどけ!」という運転を認めることではありません。
少なくとも見通しが悪いことは、優先道路であっても同様に見通しが悪いということなのですから、それを見越した運転をする必要があります。
明らかにA車の方が先入しているのであれば、B車は止まってくれなければ困ります。優先だから「どけどけ!」という運転をしていては、A車はそれこそ「永久に発進できなくなる」のです。
ましてやそろそろと出てきた車(A車)を発見しても止まれない、あるいは避けられない速度で走るのは論外です。
ところが、B車のような運転をする人が少なくありません。
死角が多い道路で速度超過は論外ですが(
狭い住宅街、路地を時速30キロ、40キロで走るのは狂気の沙汰です。あれで幼児や子どもが飛び出してきても間違いなく止まれない速度です。これでは「殺人」と同じと言われても仕方ないでしょう。もちろん殺人罪にはなりませんが。)、そのような場合に刑事責任を問われるのはたまったものではありません。
またこれは民事責任も同様です。
B車の運転手は、自分は優先道路だ、被害者だという人が少なくなく、現在の実務も実は優先道路側の過失が当然のように少なくなっています。
上記図でいえば、基本的な過失割合は損害賠償額算定基準(赤本)によると
A車:B車 70~90:30~10
(道路幅、一時停止の標識の有無などにより異なる。その他、種々の事情により増減。)
また前掲判例で問題になった事案の過失割合は
A車:B車 80:20(種々の事情により増減)
A車が頭出しをして待機している場合では 70:30
B車が30キロ以上の速度違反では 60:40
(30キロ超過でも10%の修正だけ!)
B車の運転手は、この少なくなっている過失割合すら不平をいいます。自分が「どけどけ!」という運転をしている人ほど、そのような傾向にならざるをえません。
自分が「優先」という意識しかないからです。
ぶつからないまでもA車が頭出ししているだけで怒り出すB車の運転手もいます。
しかし、このような発想はとんでもないし、民事上の過失割合も再検討されるべきものです。
B車から見て出てきたのがA車だったから「優先だ」などと言えたとしても、
それが歩行者や自転車だったらどうしますか。 無謀極まる自転車の運転は少なくありませんが、現に見通しの悪い道路から飛び出してくることなど多々あるのですから、見通しの悪いところでは速度を落としたり、場合によっては徐行するのが当たり前のことです。
以前、JAFの冊子で、何故、事故が起きるのかという点について「
優先意識が強すぎる」という指摘がありました。それはそれで正しいと思うのですが、実態としては「
優先の意味をはき違えている」というところです。
今回の刑事事件の判決は、私が普段、非常に問題だと思っていた点に正面から向き合ってくれたものです。
B車が善意の運転をしている大前提で物事を過失の有無や過失割合を見るのは明らかに誤っています。現実には、「どけどけ!」という運転をする者が少なくない中で、現状の実務は非常に問題です。
「どけどけ!」などのような運転をする者は、いずれ大きな事故を引き起こします。このような者に運転の許可が与えられていることが一番の問題なのです。
またこのような「どけどけ!」運転を助長するような実務の慣行も改められるべきなのです。
そうでない限り、自動車事故を撲滅することはできません。
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