労働安全の実態に詳しい専門機関「安全保健公団」ソウル地域本部のイ・チュンホ本部長は今月7日「事故現場で企業の経営陣は、例外なくひどい表情を浮かべて『事故のせいで工場を稼働できず、大変だ』と訴える」と語った。事故の正確な原因を突き止めて根本的な問題点を解決するのではなく、「運悪く事故が起こって悔しい」というわけだ。イ本部長は「先日、事故が起こった大企業の工場で会った経営者も、工場の稼働中断による損害額ばかり計算していた」とため息をついた。
イ本部長の指摘通り、韓国企業の経営者にとって絶対的な信条は「費用節約と生産性向上による収益性アップ」だ。安全管理につぎ込まれる資金は、生産性や利益とは無関係な捨て金、と考えられている。企業のオーナーやCEO(最高経営責任者)のこうした誤った判断が、大小の事故の根本的な原因だ。効率だけを優先した「安全不感症」が、より大きな費用と非効率性を招くという、悪循環が生じているのだ。
■「安全管理」の見落としで数十人が死亡
「安全への投資は捨て金」という発展途上国的な考え方は、既に相当の代償を強いている。昨年11月、現代製鉄唐津工場(忠清南道)の発電所でガス漏れが発生し、作業員1人が死亡、8人が負傷した。発電設備はそれから1カ月後に再稼働したが、推定150億ウォン(現在のレートで約15億円、以下同じ)を超える生産損失が発生したという。この損失額の10%でも安全管理に投資していたなら、貴い命を守り、経済的損失も避けることができた。
事故はこれだけにとどまらない。今年1月19日午前5時10分ごろ、同じ現代製鉄唐津工場で、協力会社の社員の男性(53)が、70-80度もある高温の冷却水の中に転落した。この事故で男性は全身にやけどを負い、病院に搬送され治療を受けたが死亡した。事故当時男性は、スラグ冷却水による冷却の程度や水位を確認するため、安全用の手すりを越えて移動していて転落した。