映画「風の谷のナウシカ」で主人公の少女が空を駆け巡ったあの乗り物。
この空想の飛行機を実際に飛ばせてみせた男がいます。
卓越した技術で不可能を可能にする航空エンジニアです。
その技を学びたいと四戸さんの工房には全国から若者が集まってきます。
人呼んでヒコーキ野郎のトキワ荘。
昭和30年代漫画の神様手治虫を慕う若者たちが切磋琢磨したアパートトキワ荘にちなんでそう呼ばれるようになりました。
そんな感じです。
トキワ荘に集ったヒコーキ野郎たち。
今新たな挑戦を始めています。
太陽の光だけで飛び続ける夢の飛行機を生み出そうというのです。
成功すれば日本初の快挙。
四戸さんと若者たちの半年間を見つめました。
奥多摩の山々に抱かれた東京・青梅市。
住宅街の一角に四戸さんの工房はあります。
小さいながらも日本で数少ない飛行機専門メーカーです。
スカイスポーツ愛好家などの依頼を受け小型飛行機やグライダーを作っています。
四戸さんはこの工房の経営者兼エンジニア兼クリエーター。
自らの技と発想力を武器に30年にわたって飛行機づくりを続けてきました。
今の日本で飛行機づくりにじかに触れる事のできる場所はほとんどありません。
飛行機の速度そのものは…。
週末や長い休みになると航空工学を学ぶ学生からアニメファンまで20人ほどの若者が集まってきます。
この日工房にクラシックな飛行機が修理のため運び込まれました。
長年の飛行で翼を支えるパイプが曲がっていたのです。
中心にあるだ円形のパイプを交換する事になりました。
じゃあやりましょうか。
普通なら業者に特注するところですが自分で作ってしまうのが四戸流。
今度は2周ずつか。
はい。
お願いします。
よろしくお願いします。
上下を挟みゆっくり締め上げていきます。
すると円形だったパイプが…。
(一同)お〜!特注すれば数十万円するものが材料費だけで済みました。
四戸さんの卓越した技術を世に知らしめたのがこの飛行機。
ナウシカの乗り物を作ってほしいという依頼に応え開発しました。
あるのはカモメのような翼だけ。
機体を安定させる尾翼はありません。
宮崎駿監督も「あれは飛ばない」と語ったといいます。
そんな常識を四戸さんは覆してみせました。
秘密は翼の形にありました。
羽は途中から下に折れ曲がっています。
更に先端に向けてひねりを加えていく事で安定性を高めたのです。
航空工学の第一人者…この翼には飛行機づくりを実際にしてきた人にしか分からない技術が隠されていると言います。
航空界の権威も舌を巻く四戸さんの技。
その原点は世界のトップを競っていた頃の日本の航空技術にありました。
四戸さんが学生の時日本大学航空宇宙工学科にはこの2人がいました。
四戸さんは直接学んだ最後の世代です。
大学を卒業してすぐに飛行機メーカーを興した四戸さん。
その時資金調達を手伝うなど背中を押してくれたのは恩師たちでした。
先駆者たちが築いた技術の継承と発展を四戸さんは託されました。
「ヒコーキ野郎のトキワ荘」。
おはようございます。
ここに来る若者たちは仕事を手伝っても給料はもらえません。
そのかわり四戸さんは授業料を取る事なくその技を惜しみなく教えています。
去年の春からトキワ荘に通い始めた若者がいました。
工業高等専門学校に通う19歳です。
この日は翼のフィルムを熱でピンと張る作業。
あ〜!熱し過ぎて破いてしまいました。
学校の先輩に誘われここに来るようになった浅野さん。
教科書には載っていない本当のものづくりに触れたいと考えたのです。
お昼ごはんを食べている間も話題は飛行機の事ばかり。
四戸さんは技術だけでなくものづくりに対する独自の哲学も伝えようとしています。
設計して製作してそれで…。
飛行するっていうこういう順番で教わる事が結構多いじゃない。
ここがちょうど学校でやる授業勉強のところだよね。
勉強を最初にやっちゃうとつまらんのだよね。
だもんで一等最初にやるのはむしろ楽しい遊びの方。
遊びをやってみて…。
つまりこれカレーライスで言ったら食ってみるって事ね。
カレーライスのレシピを書いてそれから作った事もないのに作ってみて。
ここが料理でね。
料理してそれからここで食す訳だ。
作った事もないものをレシピ書いてみてそれから何となく作ってみて食えるものができるかって言ったらまあできないわね。
だもんでまずはカレーは食ってみる。
頭であれこれ考える前に体感してみる。
ものづくりの最前線で格闘してきた四戸さんの信念です。
一番最初に新しい事をする時には既にやった人を探してその人の作ったものをまず味わってみる事なんです。
…で食ってみて改めて「自分だったらこれはこう作るぞ」「いやもうちょっとこういう味あったらどうだ」って事でレシピを書く。
…で食ってみる。
「いやちょっとこれ食えねえな。
もうちょっとこうじゃないか」ってやっていくうちに新たなレシピが出来上がって新たなメニューが出来上がる。
いわば新たな飛行機が出来上がるという事なんですよね。
そこです。
だから…飛行機もまず乗ってみろ操縦してみろっていう事です。
飛行機はまず乗ってみろ。
浅野さんはグライダーを体験してみる事にしました。
飛行機づくりの前に飛ぶ事を味わっておこうというのです。
じゃあ…閉めます。
視界いっぱいに広がる空の雄大さ。
翼を持ち上げる空気の力強さ。
うお〜うお〜…!すごい。
次は自分の作った飛行機で空を駆け巡りたい。
思いが高まります。
下がります。
…下がって下さい。
下ろします。
四戸さんと若者たちが大きな目標に向けて動き始めました。
太陽光発電で空を飛ぶ夢の飛行機の開発です。
実現すれば日本初の快挙。
トキワ荘に通う若者20人が挑みます。
ソーラープレーンは翼に太陽電池を貼り生み出される電気でプロペラを回し飛行します。
太陽電池を貼る事で重くなったりバランスが崩れたりする事をどう克服するかが成功の鍵です。
ベースとなる機体は10年前に四戸さんと若者たちが一緒に作ったグライダー。
動力のない飛行機です。
総重量は60kg余り。
その軽さが僅かな電力で飛ぶソーラープレーンに最適だと考えたのです。
取り付けるモーターは高性能なハイブリッド車用のものを企業から分けてもらいました。
使える資金は寄付金などごく僅かです。
300400500600700…。
大企業や研究機関でさえ開発が難しいソーラープレーン。
そんな夢の飛行機を若者と一緒に体感したいと四戸さんは挑戦を決めました。
ソーラープレーンをやると「ソーラープレーンは一体いくらで売れるんですか?」とかっていうような話がやっぱり聞こえてくるんですね。
それを「いやいやソーラープレーンが商品として売れる日は来ません」。
ただその技術を開発する事によって得られる波及効果って本当に大きいですよと。
もし自分にそのチャンスが回ってくるのならば少なくとも国内を縦断するぐらいの事はやりたいですね。
十分できます。
とにかく飛んでみようと始まったソーラープレーンづくり。
しかし大きな壁が立ちはだかっていました。
肝心の太陽電池が手に入らないのです。
御社の方ではそういう…。
飛行機の翼に貼れる薄くて軽い太陽電池は買えば数百万円はします。
メーカーに無償での提供を依頼するしかありません。
はい了解しました。
ありがとうございます。
しかしビジネスにどれだけ結び付くのか分からない中関心を示す企業はなかなか現れません。
まだ駄目ですね。
それでも四戸さんは諦めません。
太陽電池の展示会でメーカーに手当たりしだい交渉する事にしました。
飛行機に使えそうな太陽電池を作るメーカーは多くはありません。
そうですか分かりました。
この日も手応えはありませんでした。
何としても実現させる。
奔走する四戸さんの背中を見て若者たちも変わってきました。
10年前に作られあちこちが傷んでいる機体。
接着剤で丁寧につなぎ合わせていきます。
トキワ荘に通うようになって7か月がたった浅野さん。
ものづくりの厳しさそして楽しさを実感していました。
3月中旬ソーラープレーンについて話を聞きたいというメーカーが現れました。
(取材者)おはようございます。
おはようございます。
このメーカーでは薄いフィルム状の太陽電池の開発を進めています。
日本で最初にソーラーパワーで人が空を飛んだという事実を早く作りたいなと思ってます。
このモーターが2キロワットなんです。
つまりヘアドライヤー1個半ぐらいなんです。
ヘアドライヤー1個半ぐらいの出力で普通に飛べるんです。
これを実際に貼って飛ばすのはいつになるんですか?もし可能でしたらば5月連休前には飛ばしたいなと…。
えっ?まあ可能でしたらばなんですけど。
四戸さんの夢にメーカーも賛同し太陽電池を提供してくれる事が決まりました。
メーカーからは更に軽くできるという提案もありました。
ソーラープレーンにとっては願ってもない話です。
じゃあ今日はありがとうございました。
またよろしくお願い致します。
おはようございます。
失礼します。
手に入れたばかりの太陽電池のサンプルを持って四戸さんはサレジオ工業高等専門学校を訪れました。
浅野さんをはじめソーラープレーンづくりの中心メンバーが通う学校です。
ソーラーパネルのスポンサーがつきました。
おお〜!うわ〜すごいな。
すごい曲がってますねこれ。
おお〜!太陽電池はもう手に入らないのではないか。
浅野さんたちは諦めかけていました。
しかし四戸さんの執念が勝りました。
四戸さんのものづくりに対する情熱チャレンジ精神は若者たちの将来にも影響を与えています。
高専の最終学年5年生になった浅野さん。
大学への編入も考えましたが少しでも早く現場に飛び込みたいと就職の道を選びました。
目指すは大手自動車メーカー。
エントリーシートにつづったのは四戸さんから学んだものづくりへの熱い思いです。
トキワ荘を離れたあとも飛行機づくりの夢を追い続けている若者もいます。
新潟県佐渡市にある宮大工を養成する専門学校です。
横山慎二さん21歳。
まずはここで自らの木工の技術を磨き将来の飛行機づくりに生かしたいと考えています。
ただやっぱり僕は…四戸さんから受け継いだ飛行機づくりへの情熱は今も変わりません。
横山さんは休みには必ず四戸さんのもとに戻り泊まり込みで手伝いを続けています。
4月の末。
トキワ荘に待ちに待った太陽電池が届きました。
移動します。
ソーラープレーンづくりの最終段階です。
またね前縁サイドが…あっごめん今度は後縁サイドの方がやりやすいかな。
後縁サイドで合わせます。
前縁下ろしました。
翼は飛行機にとって命とも言うべき部分。
しわがよればそれだけ飛ぶ力が落ちてしまいます。
本来なら翼の曲面に合わせたオーダーメードにしたいところですがぜいたくは言えません。
「まずカレーは食え」の精神でチャレンジです。
ああでもいい感じじゃないですか。
つきました。
かっこいいですね。
今回の太陽電池で発電できるのはおよそ700ワット。
電気ポットに必要なのと同じくらいの電力です。
初飛行へのチャレンジは大型連休に決まりました。
5月1日北に向かう四戸さんの車がありました。
とにかく飛んでみようと始まったソーラープレーンづくり。
いよいよ日本初となる太陽光発電での飛行です。
今回の挑戦に合わせてトキワ荘の卒業生たちも集まりました。
ホンダヤマハコマツなど日本を代表するメーカーで活躍するエンジニアたちです。
バラバラだった機体は僅か1時間で組み上がりました。
宮大工の修業をしている横山さんも駆けつけました。
今回はパイロットの重責を担います。
こんなもんかな?うん。
この日風は強め。
しかも安定しません。
初日はまず機体のバランス調整です。
太陽電池を貼り付けた分重くなった事と翼の表面が滑らかでなくなった事の影響を車で引いて確認します。
ゴーゴーゴー…!スタート!ゴー!OK!いいよ。
強い風の中でしたがなんとかバランスをとる事ができました。
ついに電気の力を使った飛行が始まります。
上反…。
今ではトキワ荘の中心メンバーに成長した浅野さん。
横山さんの操縦で飛行が成功すればそのあと第2パイロットとして搭乗する事が決まっています。
まずはバッテリーにためた電力を使い自力で飛ぶ事を目指します。
まだソーラー飛行ではありませんが電気の力で飛ぶ事自体成功すれば日本で初めての快挙です。
1回回転テストしてみます。
はい。
マックスまで行けますか?はい。
当然当然。
すげえ力っすよこれ。
やばいっす。
(無線)「スタート」。
(横山)了解しました。
ゴーゴー!フックアウト。
OK!ゴー!うまい!見事成功です。
うまい!
(拍手)これまで国の研究機関などもなしえなかった電動飛行をトキワ荘のメンバーが成功させました。
しかし喜んでいる暇はありません。
成功といっても安定した飛行とは言えませんでした。
ラダー差したらもう一回振ってみて。
トキワ荘のメンバーは尾翼に不具合があるのではと感じていました。
更に安定した飛行を目指します。
何でだろう?あいつが引っ張られてたからか?もう一度バッテリーでの飛行が成功すればその次はついに夢のソーラー飛行です。
風が強まる中2回目の電動飛行。
その時でした。
突然の横風に機体が大きく揺さぶられバランスを崩します。
機体は大きく壊れてしまいました。
すごい振動を感じました。
すごくボンボンボンって動いた?体感する事がものづくりの第一歩。
そう信じてトキワ荘の若者たちはソーラープレーンに挑んできました。
しかし結果は失敗でした。
太陽電池感電しないように気を付けて下さい。
メンバーが気を落とす中四戸さんの反応は少し違っていました。
四戸さんは言います。
それでも飛んでみてよかったと。
3日後。
トキワ荘を訪ねてみると若者たちの姿がありました。
福島から帰ってそのままここに泊まり込み機体を修理し続けていたのです。
卒業まであと1年を切った浅野さん。
既に次の挑戦を心に決めていました。
たとえ挑戦が失敗に終わっても必ず次につながる。
四戸さんは自分の信じるものづくりを伝え続けていきます。
それはいつも思っています。
まだ頑張りますよ。
「ヒコーキ野郎のトキワ荘」。
今日もまたここで夢は育まれ若者たちに受け継がれていきます。
(涼)
コミュニティーソーシャルワーカー。
2014/05/20(火) 00:40〜01:25
NHK総合1・神戸
地方発 ドキュメンタリー「ヒコーキ野郎のトキワ荘」[字]
東京・青梅市にある、航空エンジニアの四戸哲さん(52)の工房には、飛行機づくりに憧れた若者たちが集まってくる。寝食を共にしながら飛行機づくりに向き合う姿を追う。
詳細情報
番組内容
飛行機づくりに憧れた若者たちが集まる場所が、東京・青梅市にある。アニメに登場する“夢の乗り物”さえ作って飛ばしてみせる、航空エンジニアの四戸哲さん(52)の工房だ。モットーは“まず作ってみる”こと。勉強が苦手だったという若者も、一緒に工場に寝泊まりしながら技術を覚え、少しずつ自信をつけていく。いま、飛べば日本初になるソーラー飛行機づくりに挑んでいる若きエンジニアたち。工房での成長の日々を記録した。
出演者
【語り】森山春香
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz
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