クローズアップ現代「主婦パワーを生かす(2)検証103万円・130万円の壁」 2014.05.20

夫が外で働き妻が家庭を守る。
そんなよくある日本の家族の姿が問い直されています。
女性の活躍を成長戦略の柱に据えた政府。
今、2つの制度の見直しを始めました。
問題とされているのは103万円、130万円の2つの壁。
税金や年金の保険料を抑えようと多くの働く主婦が収入を低く調整しているのではないか。
国は女性の社会進出を阻むとされる壁を取り払おうと動きだしたのです。
しかし見直しを巡っては女性たち自身から戸惑いの声が上がっています。
壁がなくなれば女性の働き方は変わるのか。
家計はどうなるのか。
検証します。
こんばんは。
「クローズアップ現代」です。
今や共働きの世帯の数が片働き世帯を上回り妻の収入は多くの家計にとって不可欠になっています。
きのうからシリーズでお伝えしています「主婦パワーを生かす」。
今夜は女性の就業意欲をそいでいるといわれている税制社会保障制度。
いわゆる103万円130万円の壁です。
国は女性の社会進出の妨げになっているとして見直しの議論を始めました。
なぜ103万円130万円が壁といわれるのか。
まず103万円の壁ですが年収が103万円以下の場合パートの収入に対して所得税がかかりません。
また配偶者控除があるため夫の所得税の負担も軽くなります。
続いて130万円の壁。
例えば妻の収入が130万円未満ですと年金の保険料を払わなくても国民年金の受給資格を得る第3号被保険者制度などが適用されます。
これらの壁によってサラリーマン家庭の主婦の多くが働く時間を抑え収入が壁を超えないようにしているといわれています。
30代既婚女性の所得分布がこちらです。
ご覧のように実際、多くの女性の収入が130万円までに集中。
とりわけ90万円から100万円稼いでる女性たちが多く女性たちは自分の働き方を制限していると見られています。
国はこの2つの壁を取り払うことで就業意欲を促進し人口減少社会に備えるとしていますけれども増税につながったり社会保障の負担が増えることでねらいとは逆に働くことを控える人たちも出てくると見られていまして見直しの在り方が問われています。
まず初めに壁を意識して働く女性たちの実情からご覧いただきます。
子育て中の母親の就職を支援するハローワークです。
ここで仕事を見つけた女性の4割が年収103万円以下。
そして年収130万円未満だと半数を超えます。
漠然と意識されている2つの壁。
実際、その2つの壁とはいかなるものなのか。
103万円の壁を意識している人の場合です。
都内に住む36歳の女性。
3人の子どもを育てながらパートタイムで事務の仕事をしています。
1日6時間、週3日から4日働き年収を100万円程度に抑えています。
そのほうが家計にとって有利だと考えているからです。
この女性の年収が103万円以下なら、夫の所得に配偶者控除が適用されるため所得税が減りその分、この世帯の手取りは7万6000円増えます。
しかし、女性の年収が103万円を超えるとその額が徐々に減っていきます。
さらに、自分の収入にも所得税や住民税がかかるようになり負担感が増すといいます。
それだけではありません。
女性が最も気にしているのが夫の会社から支払われる扶養手当です。
自分の収入が増えると夫の会社の手当が支給されなくなることがあるため世帯の年収はおよそ14万円ほど下がります。
こうした負担感のアップを避けようと、自分の働き方に制限を加えてしまうのが103万円の壁なのです。
では、この103万円の制度がなくなれば女性は思い切って働けるのでしょうか。
女性は、かつて得意の英語を生かして正社員として働いていた経験があります。
出産後も、その経験を生かした仕事ができないか模索しましたが子育てをしながら今以上働くことは難しいとしています。
末の子は、まだ1歳。
保育所には入れなかったので今は栃木に住む母親に週4日来てもらってなんとかパートを続けています。
しかし、親も高齢なのでこれ以上は頼れません。
区の保育所に申し込んでいますが待機児童は70人以上。
半年たった今も空きがなく入れないでいます。
夫も残業が多く育児になかなか関われない中3人の子育てをしながら働くのは今の状態が精いっぱいだといいます。
もう一つの壁、130万円の壁にとどまっている人の場合です。
首都圏に住む40代の女性です。
時給800円で通販ショップの運営をサポートする仕事をしています。
1日6時間働き年収は110万円ほど。
税金の負担はあるもののより収入を増やそうと103万円の壁は意識せずに働いています。
夫と4歳の子どもの3人暮らし。
警備の仕事をしている夫の手取りは月11万円ほど。
世帯年収は240万円になります。
こうした年間の所得が200万円台前後の世帯は今の日本で最も多いグループとされています。
毎日の買い物は400円。
苦しい家計の中どうやりくりしていくかいつも頭を悩ませています。
ではなぜ、この女性は130万円の壁を超えて働けないのでしょうか。
年収130万円以上になるとこの女性の場合自分の会社の社会保険に加入しなければなりません。
その場合、保険料を年間およそ22万円負担することになります。
元の手取り額を実現するには年収154万円以上働く必要があります。
ところが女性の場合仮に1日8時間フルで働いても年収は146万円ほど。
保険料の負担があるためかえって家計が悪化するのです。
正社員として働こうにも資格や年齢に条件を設ける企業が多いため40代のこの女性には転職は難しいのが現状です。
年金制度の改正で130万円の壁が見直されることに不安を感じています。
女性の前に立ちはだかる103万円と130万円の2つの壁。
今月、政府の税制調査会で配偶者控除について議論が始まりました。
控除の見直しは家計への負担が重くなるとして慎重な議論をすると表明しています。
制度の見直しに合わせて政府は女性が働きやすくなるよう保育所や学童保育の充実家事支援サービスの利用促進などの施策を同時に進めていくことを検討しています。
今夜は、社会保障政策がご専門でいらっしゃいます、中央大学教授、宮本太郎さんと共にお伝えしてまいります。
壁を取り払ったら、女性たちはより活躍できるのでないかというこの強い期待があるわけですけれども、むしろ、103万・130万の壁のほかの壁も非常に高いですね。
そのほかの壁のほうが高くそそり立ってるんじゃないか、これはVTRからうかがえることだと思うんですよね。
例えば一つは低賃金の壁、130万円の壁を超えることで、いったん所得が落ち込むことで、なんとか8時間、フルに働いてみる。
それでもその元が取れないっていう、ここにパートの低賃金の構造がありますよね。
さらに、保育や学童保育のサービスが確保できないという壁。
これ、政府は一貫して、保育の拡充をいってるんですけれども、現実の予算の組み方だとか、審議会の議論の中身を見ると、特に保育の質的な拡充というのをどうも先延ばしにされている。
結局、働くことを考えている女性が、働くことを支え、そして働いた見返りをきちっとしたものにしていくと、そういう施策を抜きに、配偶者控除だけを取り去るということになると、これは単なる増税といわれてもしかたがないわけですよね。
やっぱり、包括的なパッケージをきちっと、その中身を明らかにしていくということが、必要だと思います。
制度が変わって、むしろ家計が悪化したとなると、むしろ働くことを手控えてしまう人たちが出るんではないかとすら、思ってしまうんですけれども、そういったことがあったとしても、この制度を変えていくことの、今の時代に変えることの意義というのはどう捉えていらっしゃいますか?
そうは言っても配偶者控除自体が、かなり問題含みだというのは明らかで、一つはその就労の拡大を抑えているという、今の話に加えて、この仕組みが相対的に豊かな層に有利な制度になっているということなんですね。
配偶者控除というのは、配偶者自身の所得が103万円以下の場合に課税されないことに加えて、恐らく、夫である納税者の給与所得から38万円が控除されるわけでありまして、これは税率が高い分、控除額が大きくなるわけですね。
そういう意味では、豊かな層に有利であるということが一つと、もう1つは、この制度が存在すること自体によって、実は、所得の調整がされて、パートの賃金が抑制される傾向がある。
結果的に、こうした制度の恩恵を受けられないシングルマザーと、働かざるをえないシングルマザー等の環境が厳しくなってくる、こういう関係もあるんですね。
したがって、ここはもうちょっと現実に見合った形で、貧困や格差を考えた形で、見直していく必要があるかなと思います。
結果として、パート賃金全体が抑制される方向を生み出しているのではないかというお話でしたけれども、では、その制度を見直していく中で、こうした不利益を被る可能性のある人々にとって、どういう対応、どういう制度設計が必要だとお考えですか?
配偶者控除などの所得控除というのはですね、やはり、納税者に一定の額を残しておくという、生活保障という面があるんですね。
だけども、配偶者控除のように、女性は家にいるという形を前提にした生活保障というのは、これは時代とずれてきているわけですね。
しかし、生活保障の必要そのものは、むしろ昨今、高まっているわけですね。
したがって、相対的に豊かな層に有利な生活の保障としての配偶者控除ではなくて、もう少し、厳しい環境にある世帯に、ちゃんと行き届く生活保障。
例えば、税制の中でも、所得が低すぎて、税金を取りきれない人たちに対して税金を取る代わりに、一定額、働いていることを前提に、一定額を給付しようという給付付き税額控除という制度もあります。
こんな仕組みも一つの選択肢として考えていく必要があるのかなというふうに思います。
お伝えしているように見直しが検討されている、2つの壁ですけれども、130万円の壁に、大きな影響を及ぼす制度改正は、2年後に行われることがすでに決まっています。
こちら、ご覧ください。
新しい制度は、年金の財源を確保するために、一定の条件はあるものの、社会保険料を負担する人を、年収130万円以上から、およそ106万円以上まで拡大することになったのです。
この制度で大きな影響を受けることになるのは、パートで働く女性たちだけではありません。
パートの女性たちを多く雇っている企業も影響を受けます。
130万円の壁をなくすと何が起こるのか。
この研究所では制度の改正がパート労働者の雇用にどのような影響を与えるのか調査してきました。
全国3600の企業を調査した結果、およそ3分の1が勤務時間をより短くしたパートの数を増やしたいと答えました。
実は社会保険料は従業員が支払うだけでなく企業も同じ額支払わなくてはなりません。
保険料を支払う従業員が増えると企業が負担する保険料はばく大な額に上ることになるからです。
研究所の調査に対し勤務時間を減らして対応したいと答えた大手外食チェーンです。
従業員1万人のうち実に9割がパート労働者です。
この会社は優秀なパート女性を正社員にするなど女性の登用に積極的に取り組んできました。
それでも制度改正で新たに増える保険料の負担には頭を悩ませています。
試算したところ、会社が負担する保険料はパート1人当たり最低でも月々1万5000円。
全体では年間1億円近くも増えることが分かったのです。
ところが、この会社は今勤務時間の短いパートを増やすという方向性を見直そうとしています。
店の運営に支障を来しかねないという懸念が生じてきたからです。
勤務時間の短い人ばかりが増えるとシフトの調整が難しくなり時間によっては穴があくおそれがあります。
また短い時間の人でもその教育に手を抜くことはできずコストと手間がかかります。
にもかかわらず、短時間の人ほど簡単に辞める傾向があるというのです。
そこで考え方を大転換。
短時間の人を増やすのではなくむしろ、より長い時間働きたいパート女性を積極的に活用しようと考えました。
そのために今準備を進めているのがパートであっても店長になれる制度を新たに作ることです。
月々3万3000円の役職手当に加え業績に応じてボーナスも支給。
年収は最大で340万円を想定しています。
会社が社会保険料を負担することになっても女性が今よりももっと活躍すれば会社の業績は上がると見込んだのです。
この方針にパートの女性たちの反応は。
パート店長は責任が重すぎるとして、尻込みする人が7割を占めていました。
女性たちの多くが、今よりも責任の重い仕事をためらうのは一体なぜなのか。
会社では今、パート女性から聞き取りを行っています。
責任ある仕事に安心して取り組めるよう職場のシステムを整えてほしいという女性の本音。
会社は、その声に向き合おうとしています。
企業はどう動くのか、今の企業のように、初めは短時間働く人を増やそうと考えていたものの、結局、保険料を払ってても、長時間働いている人を増やそうという方向に向かった。
しかし、これ、迷っている企業って多いでしょうね、どっちに向かうのか。
そうですね、まず企業の社会的責務というのはあると思うんですよ。
社会保険に加入するっていうのは、配偶者控除のように、単なる負担増ではなくて、やっぱり将来のセーフティーネットを、強めるという面があるわけですよね。
第3号被保険者の人、いったん、保険料負担、増えるかもしれないけれども、やっぱり、将来の年金給与は増えるわけですよね。
これを支える企業の責任というのはあるだろう。
確かに負担が増えていくというご苦労は、察することができます。
しかし、これまでと同じように、低労働コスト頼みの経営を続けていくというのは、どうなんだろうかっていうことですね。
むしろ、細切れの労働に頼ろうとすると、サービスの質も悪くなるし、働き手の生きがいも確保できないし、細切れの労働をつなぎ合わすと経営管理コストも肥大化していくということで、いいところは一つもない。
むしろ、ちゃんと長い労働で、女性のやる気を引き出したほうが、すべて丸く収まるという面も見えてきてると思うんですね。
実際、大阪のあるフィルムメーカーなどでは、130万円の壁を、もう積極的に従業員に超えて働いてもらうために、いったん落ち込んだ所得を企業が補填して、長く働いてもらおうという、こういう試みをしているところもあって、業績伸ばしてます。
こんなところも見習いたいと思いますね。
こうした長年続いてきた制度の見直しを行ううえで、何を、どういうことをイメージして、何を大切にしながら、制度改革を行うべきなのか。
こうしたほかの壁がある中で、もちろんそうした壁をパッケージとして直していくというところもあるでしょうけれども、大きなイメージとしては、どういうようなものを描くべきでしょうか。
こういう改革っていうのは、決して、専業主婦の人たちを無理に働かせるということではない、そんな次元のことではないと思うんですね。
やはり、日本社会で働くこと、家族を持つこと、そのスタイルっていうのを、大きく考えていこうということで、実は、これまでありがちだった、専業主婦と働く女性っていう、固定的なロールモデル、それを隔ててた壁そのものが、実は崩れていってるんじゃないか。
専業主婦も、これから子育てのあと、どう働こうかと考え始めてるし、働く女性も、もっと家族といる時間を大切にしたいというふうに考えている。
つまり人生が複線化して、相互乗り入れをしているわけですね。
こうしたその時代に合った改革。
例えば、130万円の壁の大元になっている、第3号被保険者の問題も、やはり、これまで専業主婦の人が家で頑張ってきた、そういうところも大いにくんで、すべての人が、ある時期、家庭で家族ケアに携わったり、あるいは、働いてからまた勉強し直したりすることを支えるために、国民年金でも厚生年金でも、育児・介護期間中の年金保険料の免除を強める、学習期間中の年金保険料の免除を強める、こうした多元的な社会に見合った改革にしていくということが必要だと思います。
2014/05/20(火) 19:30〜19:58
NHK総合1・神戸
クローズアップ現代「主婦パワーを生かす(2)検証103万円・130万円の壁」[字]

女性の就労拡大を抑制しているとして、「配偶者控除」などの見直しが検討されている。子育てとの両立や雇用の壁がある中、見直しは女性の活躍推進につながるのか、検証する

詳細情報
番組内容
【ゲスト】中央大学教授…宮本太郎,【キャスター】国谷裕子
出演者
【ゲスト】中央大学教授…宮本太郎,【キャスター】国谷裕子

ジャンル :
ニュース/報道 – 特集・ドキュメント
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事

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