すし天ぷらと並ぶ江戸前料理の代表格…そのうなぎを極め気品あふれる味わいを生み出す名職人がいる。
うなぎ一筋実に70年。
86歳の今も現役を貫く。
その姿勢の陰にはある「言葉」の存在があった。
「プロフェッショナル」運命を変えた「言葉のチカラスペシャル」。
プロはいかにしてプロになったのか。
言葉を巡る物語。
「言葉のチカラスペシャル」まずはあのうなぎ職人のもとを訪ねた。
うなぎの世界を極めた匠。
作業の随所に金本ならではのこだわりがある。
例えば余分な脂を落とす…生臭さのもととなる皮と身の間の脂を繊細な作業で焼き切る。
更にせいろでの「蒸し」。
通常30分程度の工程だが金本は1時間近く蒸し軟らかい食感を追求する。
そしていよいよ仕上げの「焼き」の段階。
炭の置く位置うちわをあおぐスピード。
たれが焦げないギリギリまで勝負して見事な黄金色に焼き上げる。
道を極めてなお今も現場にこだわり続けるのはなぜか。
金本には今も忘れられない言葉を巡る物語がある。
昭和33年店を継いで間もなくの金本は時代の波を受けもがき苦しんでいた。
天然うなぎが急激に減少し入手が難しくなったのだ。
代わって市場に出回り始めたのは養殖物。
だが金本は当初どうしても使う気にはなれなかった。
金本の店は江戸時代から200年続く伝統ある老舗。
金本が5代目を継ぐまで店には天然物しか使わないという強いこだわりがあったのだ。
金本は一計を案じた。
豊漁の時に仕入れた天然うなぎを借りた田んぼに放って確保した。
ところが間もなく病気でほぼ全滅してしまった。
ついに数年後金本は養殖物を使う事に踏み切った。
だが時折「本当にこれでいいのか」という思いが湧き上がってくる。
そんなころだった。
当時金本は友人に誘われ経営の勉強会に参加していた。
その中で北海道の著名な菓子職人小田豊四郎さんと出会った。
小田さんはホワイトチョコレートなど新しい菓子に意欲的に挑んできた職人だった。
ある時その小田さんに関する一つのエピソードを聞いた。
小田さんが以前店の名前を変える事になった時客が離れてしまうのではないか悩みは尽きなかった。
その時小田さんは周りからこんな声をかけられたという。
その話を聞いた時金本はもやもやとした思いが晴れていく気がした。
天然物という伝統に自分はとらわれ過ぎていた。
養殖も工夫次第で本当においしいものに出来るはずだ。
金本の挑戦が始まった。
脂が多い養殖物。
その脂をギリギリまで焼き切る繊細な技術。
身がふっくらとする蒸し方。
伝統にこだわらずうなぎをもっとおいしく食べる工夫も惜しまなかった。
それから30年。
職人として名声を高めた金本に再び転機が訪れた。
気がつけばうなぎのおいしさを探求して半世紀以上。
金本は引退を考え始めていた。
そんな時金本はあの菓子職人小田豊四郎さんからもう一つ大事な言葉をもらう事になる。
(鐘)それは奇しくも小田さんが亡くなりそのお別れ会が開かれた時の事だった。
生前語っていた言葉があると聞いた。
小田さんは90歳で亡くなるまで菓子作りの新たな可能性を追求していたという。
金本は今年86歳。
うちわのあおぎ方や炭を置く位置に今も工夫を凝らす。
尊敬する先輩との出会いがくれた言葉。
それを胸に探求を続ける。
「言葉のチカラスペシャル」。
時代の荒波と闘い続けるプロたちに心に刻む座右の銘を聞いた。
(太鼓)今中国を席巻している日本のスーパー。
年間4,500万人が訪れ売り上げは1,000億円を突破した。
巨大市場中国にこの男あり。
小売りのプロ…だって蛇は皮を脱ぐ度にどんどん大きくなっていくんですよね。
それは僕たちも一緒だと思いますよ。
「脱皮できない蛇は死ぬ」って言われるけど脱皮する度に自分たちは新しい自分になっていく。
だから今はいいからっていう事でとどまったとしたら大きなマーケットの流れからすればいずれにしても衰退していくんじゃないかなと。
ロボット開発のエキスパート…そのロボットはリハビリや難病に苦しむ人たちの新たな希望になると世界が注目する。
数万回にも及ぶ失敗にもくじけずに開発を続けた山海さんには呪文のような座右の銘がある。
これはちょっと困ったなって事いくつかありますね。
そういう時はねそこでいきなり負のスパイラルに入らないでそれすら人生の中の調味料みたいな気持ちでですね「スパイシー」と叫びながら次にまた歩んでいくんですね。
私たちが歩む時にはとにかく苦痛という部分を感じないでワクワク爽やかに走り抜くというのがとにかく全ての部分の基本だと思います。
世界を驚かせる精緻なフィギュアを生み出し続ける…作りたいものしか作らないという自由奔放常識破りの経営でなんと年間売り上げ24億円を誇る。
好きな事を仕事にした宮脇さん。
そんなプロならではの座右の銘がある。
自分で自分にやっぱりツッコミは入ってますよね。
ついつい他人にもそれは求めるし自分に対しても求めてる。
次は言葉によって自らを変え活路を切り開いたプロフェッショナル。
(カッターの裁断音)生涯を製品を包む「包装」にささげてきた。
そうじゃないやん。
楽な方考えんなっちゃ。
温水洗浄便座などを包む包装の設計で業界に革命を起こした男。
その技術は独自の工夫の塊だ。
段ボールに細かな切れ目を入れるだけで複雑な立体を組み上げる。
材料費は従来の5分の1。
作業の手間や製品の破損も激減。
これまで実に数十億の利益をもたらし今「会社の宝」と呼ばれる。
だが岡崎はかつて手のつけられない不良社員だった。
そんな岡崎を変え支えたのは若き日に出会った一つの言葉だった。
岡崎は北九州の生まれ。
高校を卒業するとすぐ今の会社に入った。
負けん気が強くけんかに明け暮れた岡崎は会社に入っても問題ばかり起こした。
最初に任されたのは風呂釜を作る仕事。
だが事あるごとに上司とぶつかった。
頭ごなしに命令されるのがとにかく我慢ならない。
「なぜ俺がお前の指図を受けなければならないんだ」と上司の胸倉をつかんだ事もあった。
そんな時だった。
一人の上司と出会った。
腫れ物扱いの岡崎にただ一人「面倒を見る」と言ってくれた。
「指図されたくない」と突っ張ってきた岡崎に重松さんはこう言った。
まず会社上司からこれをやんなさいあれをやんなさいとかいう話があった時に僕らっていうのはそのころまだ若いですしできない理由を先に述べるんですよね。
やってもないのにできない理由を述べる。
会社に対しての批判だとか上司に対しての批判だとかそういう事を先に言ってしまうんですよ。
だからその上司は「まず岡崎やって成果を出してそれから言いなさい」と。
これまで適当に仕事をこなしてきた。
だが初めて自分と向き合ってくれた上司からの言葉。
自分なりに目の前の仕事を見つめ直してみた。
そんな岡崎に重松さんは少しずつ仕事を任せるようになった。
次第に岡崎は変わった。
業務が優秀だと社内の表彰を受けるまでになった。
だが28歳の時。
岡崎はそれまでにない屈辱的な思いを味わう。
社の花形開発部に異動になったと聞き岡崎は意気揚々と乗り込んだ。
ところが連れていかれた場所にあぜんとなった。
階段下の物置。
岡崎が命じられたのは製品の開発ではなく誰からも軽んじられていた包装の開発だった。
何でこんな階段の下かなと。
まして60ワットの電気1個しかついてないし。
階段の吹きっさらしの所ですし。
もう考えられなかったですね。
僕らみたいな荒くれとか高卒をなめんなよと。
高卒だってちゃんとやってるんだよ。
岡崎の心にあの言葉がよみがえってきた。
岡崎はすぐ動いた。
この包装の仕事で周りを絶対に認めさせる。
段ボールメーカーに頭を下げ設計を基礎から教えてもらった。
製品を運ぶ時どこでどんな衝撃を受けるか徹底的に調べ上げた。
仕事が認められず包装から営業に回された事もあった。
どうもお世話になります。
今日はよろしくお願いします。
だが岡崎はくさらなかった。
日夜営業に走り回り包装の仕事に戻れるチャンスを待った。
「言いたい事があるんだったらちゃんとやれ」。
その言葉を胸に歯を食いしばった。
そんなある日。
ついに待ち望んだ電話がかかってきた。
「包装を改良するリーダーになってくれ」。
あの階段下から15年がたっていた。
すみません…。
すみませんちょっとごめんなさい。
とにかく「お前に3年やるから何とかせえ」ってそれしか言われてませんけどそのひと言で僕にとってはもう十分ですし。
包装の現場で岡崎は再び腕を振るい始めた。
僅か1年で大幅なコストダウンを実現。
社内から驚きの声が上がった。
(岡崎)ほんとに一生懸命やるとねいろいろついてくるんだなっていうのは思いましたね。
だからあそこでね仮に僕が営業でまた投げ出してねちゃらんぽらんやってたらこういう話も来てなかったかなと思いますね。
今思えば。
かつてはけんかに明け暮れた。
その人生を変えてくれたのは自分と正面から向き合ってくれた上司の言葉だった。
「言葉のチカラスペシャル」。
続いてはどん底の日々をある言葉に救われたという女性。
過去40年日本と世界をつないできた同時通訳のプロ。
先進国の首脳が集まるサミット。
そして…。
TOKYO!
(歓声)その招致でも水面下の交渉などで大きな力を発揮した。
「中小企業を高い次元に…」。
71歳の今も最前線で働く長井さん。
その原動力はかつて母にもらった一つの言葉だ。
昭和18年3姉妹の末っ子として生まれた長井さん。
幼い頃からやんちゃで物おじしない子供だった。
そんな長井さんに通訳になるきっかけを与えてくれたのが…大正生まれでは珍しく英語が達者。
戦後GHQの通訳を務めるほどの腕前だった。
すごく頭が良い人だっていう事も子供心に分かったのですごく尊敬もしたし。
手に職あるいは経済力女は経済力をつけなければダメっていうのをすごく子供の時から言われてた。
そんな母の生き方に憧れて長井さんはアメリカに留学。
帰国すると母と同じ通訳の道に進んだ。
しかし想像以上に過酷な同時通訳の仕事。
長井さんは会議に臨む前必ず単語帳を作っては専門用語を一つずつ書き出した。
次第に評価は上がり35歳で先進国首脳会議サミットの通訳を任されるまでになった。
だが40代に入り人生の試練に直面した。
2人の子供をもうけていた夫との離婚。
仕事も家庭も子供の世話も全てを完璧にこなしたいと願ってきた。
なぜそれをかなえられなかったのだろう。
そんな中事件が起きた。
ある国際シンポジウムの通訳。
手慣れた仕事に長井さんは思わず準備を怠った。
それは致命的な結果を招いた。
発言者は早口で専門用語を連発。
訳が全く浮かばずしどろもどろになった。
全てが終わったあとこう告げられた。
そんな失意の中で迎えた誕生日。
一通の手紙が送られてきた。
差出人は母の三枝子さん。
手紙に添えられていたのは一枚の新聞記事。
水辺を駆け回る少女が写っていた。
「あまりにもあなたの子供時代を思わせる写真が載っていたので切り抜いて送ります」。
「がんばれマリコ!母より4月30日1996年」。
こういう手紙です。
子供の頃のあの物おじしない自分を誰より知っている母ならではの言葉だった。
今のあなた大人になっていろいろあるだろうけどそれでいいのよと。
ちっちゃい時のこの気持ち精神あるいは気概というかそれを失わないでいいのよって言ってもらったような気がするんですね。
すごくだから感動したし涙出たしだけどそれと一緒にこうやって見ててくれたんだって思いがすごくうれしかったです。
すごくうれしかったです。
自分らしく生きればいい。
長井さんはその後一心に仕事に突き進んでいった。
その生き方は今世代を超えて受け継がれている。
大学を卒業後日本を飛び出しアメリカに渡った娘の雪子さん。
結婚し子供を育てながら子供服やバッグなどのデザイナーとしても活躍している。
自分らしく何事にも一心に。
母の言葉は脈々と息づいている。
番組の最後はさまざまな人の人生に寄り添うプロフェッショナルの言葉を巡る物語。
指や耳など体の一部を補う…本物そっくりの義肢を作り上げるのがこの男の仕事だ。
アハハッすごい。
その義肢は見た目がそっくりなだけではない。
依頼主の暮らしやその事情に合わせた機能性をも併せ持つ。
例えばプロのダンサーを目指している女性。
その左手は義手。
ダンスでの激しい動きに耐えられしかも手の表情が豊かになるよう工夫されている。
それこそ…林には仕事をする上で大切にしている言葉がある。
その言葉は林がまだ10代の頃に出会った言葉だ。
高校時代の林は将来の夢もなく無気力な日々を送る青年だった。
卒業したあとも仕事に就かずぶらぶらしていた。
心を開けるのは一人の女性だけだった。
後に妻となる香苗さんだった。
大学院で児童心理学を学ぶなど前向きな香苗さん。
その姿は林にはまぶしく見えた。
しかし自分には何もない。
自信を持てない林は次第に香苗さん以外の人と話す事を避けるようになっていった。
人と話をし何かを伝えようとすれば結局自分の小ささに気づかされる事になる。
それが怖かった。
そんなある日当時つけていた交換日記に香苗さんがこんな言葉を記していた。
「気づき」。
あまり耳慣れない言葉。
その意味を深くは理解できなかった。
だがほかならぬ香苗さんがかけてくれた言葉。
林は折に触れ「気づき」の意味を考えるようになった。
次第に林は人と向き合う事への怖さを和らげていった。
それから間もなく林は一念発起して義肢装具士になった。
その中で身にしみて感じる事があった。
依頼主はそれぞれの事情を抱えて相談にやって来る。
その期待にどこまで自分は応えられるか。
重圧に押し潰され途中で投げ出しそうになった事もあった。
だがそんな時心に浮かぶ言葉があった。
あの「気づき」という言葉。
「気づき」という言葉を胸に林は自らの仕事を突き詰めていく。
本物そっくりに見せるため指の血管までをも描く技術。
指の付け根を半透明にしてつなぎ目を分からなくする技術。
いつしか林は業界でも屈指と言われる職人となった。
この日林は新たな製作に取り組んでいた。
あのダンサーを目指す女性の義手だ。
以前初めてダンスの練習を見学した時義手のある動きに気づいたのだという。
もっと…こんにちはお久しぶりです。
こんにちはどうぞ。
林は指先の部分をより軟らかい樹脂で作り直した。
(林)ちょっと感じが変わると思うよ。
手ついた時の。
はい。
すごい軟らかくなりました。
そうですねきっと。
そうですね。
(笑い声)妻に教えてもらった「気づき」という言葉。
今林の人生に根づいている。
(主題歌)ありがとうございました。
運命を変えた「言葉のチカラスペシャル」。
プロフェッショナルたちの闘いは続く。
夢にまで見たビッグクラブへの移籍。
それは茨の道だった。
2014/05/23(金) 00:40〜01:30
NHK総合1・神戸
プロフェッショナル 仕事の流儀▽言葉のチカラSP3 運命を変えた8つの言葉[解][字][再]
言葉には、人生を支え苦難を乗り越える力がある。うなぎ職人、義肢装具士、ロボット研究、同時通訳のプロなどの、言葉をめぐる珠玉のエピソードを集めたスペシャル第3弾!
詳細情報
番組内容
母からの言葉。妻からの言葉。先輩からの言葉。これまで番組に出演してきたプロフェッショナルもさまざまな挫折や困難に直面したとき、自らを奮い立たせる「言葉」と出会い、支えられ乗り越えてきた。そんな珠玉のエピソードを紡ぐ“言葉SP”第3弾。今回は、うなぎ職人、義肢装具士、ロボット研究、同時通訳のプロなどが登場。仕事や人生に悩むあなたの、明日を生きるヒントがきっと見つかる。人は、言葉とともに生きている!
出演者
【出演】金本兼次郎,三枝富博,山海嘉之,宮脇修一,岡崎義和,長井鞠子,林伸太郎,【語り】橋本さとし,貫地谷しほり
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – ドキュメンタリー全般
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化
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