(夕子)
犯人は必ずこの中にいる
(勝男)うーん。
(バイブレーターの音)
(刺す音)
(黒田)ああっ。
ううっ。
(トイレの水を流す音)
(勝男)びっくりした。
(陽子)ちゃんと勉強してた?
(勝男)当たり前だろ。
(陽子)ねえ?目覚ましちゃんとかけなさいよ。
起こしたってすぐに起きないんだから。
(勝男)ああ。
(陽子)うん。
(夕子)さあ。
(夕子)じゃあお母さん。
お願いね。
(彩子)はい。
夕子とお休みが重なるなんてめったにあることじゃありませんからね。
楽しんでらっしゃい。
(友行)しかしこうして3人で映画なんて何年ぶりだろうなぁ?
(夏子)浸ってないで。
忘れ物ない?
(友行)えっ?うん。
たぶん。
(夏子)たぶんって。
お財布は?眼鏡も。
(友行)眼鏡?眼鏡掛けたら3Dの映画見られないだろ?
(夏子)あのね。
眼鏡の上から3D眼鏡は掛けるんだよ。
(友行)眼鏡の上から眼鏡?4Dになっちゃうぞ。
なっちゃんったら。
夕子と出掛けられるのがうれしくてしかたがないのね。
何かあったらすぐに連絡して。
(彩子)大丈夫。
心配なのは夕子の方。
こういうときに限って。
いってきます。
(彩子)いってらっしゃい。
もしもし?ええ。
すぐに。
(友行)まさか仕事かい?ごめんね。
なっちゃん。
(彩子)仕事だから仕方ないわね。
(友行)そうだ。
映画はお父さんと行こう。
なっ?なっちゃん。
夏子。
大丈夫よ。
ハァー。
(彩子)夕子と出掛けられるって楽しみにしてた分ちょっとすねてるだけ。
ああ。
それより早く支度しなさい。
ああ。
(占部)じゃあ梅ちゃん。
頼む。
(梅野)分かりました。
(占部)ご苦労さまです。
被害者はこの部屋の住人の黒田光彦さん。
(占部)あっ。
犯人のものと思われる足跡です。
(占部)致命傷は心臓への一突きのようですが。
ご覧のように凶器のナイフは刺さったままでした。
死後10時間程度は経過しているもようです。
(桜木)第一発見者は表の?
(占部)ああ。
被害者の母親だ。
昼すぎに訪ねてきたときには部屋の鍵は掛かっていなかったらしい。
被害者に抵抗した痕跡がないことから泥酔して眠っているところを襲われたとみて間違いないでしょうな。
(桜木)荒れた部屋の感じからして被害者は普段から鍵を掛ける習慣がなかったのかもしれませんね。
(桜木)あの方ですか?
(梅野)はい。
被害者の第一発見者でして。
(敏江)いつかこんな日が来ると思ってました。
なぜそのように?
(敏江)だって毎日遊んできちゃ借金しまくって踏み倒して。
恨んでた人も多かったはずです。
今日だって私に金持ってこいって。
でも私は殺してなんかいませんから。
検事さん。
(占部)検事。
詳しい話は署の方で。
あの。
お母さまは今どちらに住まわれて?
(敏江)調布の娘のところです。
(敏江)毎日ろくでもない仲間が遊びに来て光彦とはとても一緒には住んでいられませんでした。
そうですか。
(占部)失礼。
おう。
梅ちゃん。
頼む。
(梅野)はい。
(桜木)金品を盗まれた形跡がありませんでしたから母親が言うように怨恨の線が濃厚かもしれません。
・
(陽子)あら!あっ。
ああ。
あら。
まあ。
もうちょっとびっくりしちゃって。
まさか殺人事件だなんて。
明日香ちゃんが担当してんの?この事件。
(桜木)明日香ちゃん?
(占部)いや。
何だ。
あの。
偶然にもな兄貴の家があそこでさ。
姉さん。
あの。
(占部)こちら東京地検の霞検事。
(陽子)検事さん?日ごろ明日香がお世話になっております。
こちらこそ。
ゆうべは何時ごろお休みになられました?
(陽子)これって聞き込み?
(占部)いいから答えて。
正直にね。
(陽子)はい。
えーっと。
あの。
主人が今胆石で入院してまして。
もう病院に朝一番でこう着替えやら何やら持っていかないといけないもんですから10時すぎには寝ました。
明日香ちゃんと違ってうちのはもう体が弱くて。
余計なことは言わなくていいから。
それでは夜中に悲鳴や物音を聞いたようなことも?はい。
残念ながら。
(占部)一言多いっていうの。
ウフッ。
(陽子)フフッ。
(梅野)それで現場に残っていた足跡ですが。
(岩瀬)ちょっと待て。
また出しゃばって。
チッ。
続けろ。
(梅野)はい。
えー。
足跡ですがサイズ26のスニーカーの類いのものと判明しました。
あくまで平均ですが身長170cmから180cmの人間だと思われます。
(岩瀬)男か。
指紋はどうだ?
(梅野)それが多数の人間のものが検出されておりまして犯人の特定は困難かと。
(占部)遊び仲間のたまり場になっていたってことか?
(梅野)アパート周辺の聞き込みでも男女数名が頻繁に出入りしていた情報を得ています。
ただしこの1カ月の間のことではありますが。
そりゃどういう意味だ?
(梅野)被害者は2年前にバイクによる死亡事故を起こしておりまして約1年の刑期を終え3カ月前に出所したばかりでした。
(岩瀬)バイクの事故で服役?ああ。
ちょっと待て。
えー。
アパートには被害者のバイクがあったという報告がある。
(梅野)バイクの名義は被害者のものではありませんでした。
おそらく遊び仲間のものを被害者が。
(岩瀬)出所後反省もなく無免許でバイク乗り回してたっていうのか?・
(山岸)失礼します。
(山岸)霞検事からの指示で報告に上がりました。
また勝手に。
こう見えても懐は深いつもりです。
一言伝えていただければ。
霞検事。
留意します。
で何調べたんだ?
(山岸)凶器です。
致命傷である心臓に達したナイフと腹部に3カ所の傷を残したナイフは同一のものではありませんでした。
違う凶器なのか?
(山岸)微量ですがあばら骨に残った刃物の金属片を調べたところ犯人が残していったナイフのものではないと判明しました。
それから検視報告と重複するかもしれませんが腹部の3カ所の刺し傷には生活反応がなく死後つけられたものだと付け加えておきます。
(桜木)犯人は刺殺した後別のナイフで被害者を傷つけ逃走した。
(山岸)報告は以上です。
ご苦労さまでした。
なぜ犯人は致命傷を与えたナイフを持ち去り別のナイフを残していったのかと検事はお考えのようですな?はい。
(岩瀬)簡単なことです。
持ち去ったナイフは持ち手の柄の部分などが特徴的だった。
例えば象牙で特殊な模様を彫り込んであったとか。
足のつく可能性のあるものですな。
最初から犯人はナイフを2本用意していたということでしょうか?
(岩瀬)そういうことです。
ナイフが折れた場合を想定していたに違いない。
つまり犯人には強い殺意があった。
死んでからも死体に傷を残したとなれば相当な恨みを被害者に抱いていた者の犯行に違いない。
被害者の周辺を徹底的に洗え!
(一同)はい。
・
(ノック)
(桜木)はい。
ああ。
お忙しいところありがとうございます。
(並木)桜木君のコーヒーに誘われてね。
彼が入れたコーヒーは絶品だろ?
(桜木)恐れ入ります。
それでは早速。
(並木)うん。
話は黒田光彦のことですね?はい。
2年前黒田さんが起こした死亡事故の捜査主任が並木検事だったと伺ったものですから。
(並木)うん。
痛ましい事故だったな。
亡くなったのはまだ8歳の女の子だった。
忘れもしない2年前の6月20日のことだ。
黒田は遊び仲間の女のところへバイクで向かった。
(並木)バイクが転倒した痕跡はなくタイヤ痕や遺留品も確認できなかった。
そしてもしすぐに救急車を呼んでいたら助かったかもしれない三吉紗月ちゃんを残して逃走した。
(並木)だが1週間後黒田は自首をしてきた。
1週間後に?
(並木)女のところに身を隠してたんだが女から自首をするよう説得を受けたと言ってね。
しかし私には信用できなかった。
目撃者などがいたというもしもの場合を想定しての出頭だとにらんでね。
なぜそう?黒田には事故当日脱法ハーブを使用した疑いがあったからだよ。
脱法ハーブの成分を抜くための1週間。
刑を軽くする目的だろうな。
結果黒田の体内からは証拠となるほどの成分は検出されず自首によって裁判の心証もよくなった。
何もかも計算ずくさ。
黒田はずる賢い男だ。
何とかして薬物使用の事実を証明したかったんだが残念ながら立証には至らなかったよ。
私の力量不足だ。
(並木)いい香りだ。
(並木)うん。
さすがだな。
(桜木)光栄です。
(並木)犯人の目星は?どうせ金と女が絡んだ末のことなんだろうが。
(桜木)それが上北沢のアパートの自室で刺殺されたという事実以外はまだ。
(並木)上北沢のアパート?
(桜木)はい。
(並木)出所しても事故当時と同じところに住んでたっていうのか?
(桜木)被害者に命じられて服役中も母親がずっと家賃を払い続けていました。
何て男だ。
あそこからは亡くなった三吉紗月ちゃんの家は目と鼻の先だぞ。
そんな場所でのうのうと。
残された家族の気持ちなんか考えてなかったのか。
(桜木)事故現場からは500mほどでしょうか。
(和佳子)あの男が殺されたのはニュースを見て知りました。
黒田さんが2年前と同じ場所に住んでいたこともご存じでしたか?
(和佳子)はい。
お会いになったことは?ありません。
一度も?
(和佳子)はい。
黒田さんがおみえになったこともなかったですか?ありません。
あの男は紗月を亡くした私たち家族のことを面白がっていたのかもしれません。
なぜそう思われるんですか?
(和佳子)そうじゃなきゃ紗月を殺したときに住んでいたアパートに今も。
あり得ないじゃないですか。
そのアパートあけぼの荘ですが。
行かれたことは?いいえ。
行く理由がありますか?あんな男に会いたいと思ったことなんて一度もありません。
関わりたくもないんです。
今は娘の。
紗月の冥福を祈りたい。
ただそれだけです。
お嬢さんのものはもう?主人が嫌がるんです。
主人も紗月が死んでしまったことを受け入れられずにいます。
どうぞ。
(和佳子)紗月のものは全部ここに。
(和佳子)主人と私の母です。
部屋は紗月が生きていたころのままにしてあります。
お母さまのお気持ちは痛いほど分かります。
あなたにもお子さんが?ありがとうございました。
警察の方も話を聞きに伺うでしょうがご協力よろしくお願いします。
(和佳子)お尋ねにならないんですね?どうして今もここに住んでいるのか。
娘が死んだ場所の近くなのに。
紗月ちゃんのためですか?ええ。
紗月を一人にしたくないからです。
(和佳子)おかえりなさい。
主人です。
今日は代休を頂いていて。
検事さんがお話を聞きたいって。
(範夫)検事さん?東京地検の霞と申します。
(範夫)黒田の事件のことで?はい。
代休というと週末はお仕事を?
(範夫)出張で大阪に行ってました。
(桜木)黒田さんが殺された夜も大阪に?
(範夫)ええ。
会社に確認してもらえば分かりますよ。
(範夫)今名刺をお渡しします。
かばんの中に。
恐れ入ります。
(範夫)今夜は妻と2人黒田が殺されたことを娘に報告しようと思ってます。
天国にいる娘と黒田が会うことはないでしょうからね。
(梅野)三吉範夫の勤務先に確かめたところ大阪の出張は間違いありませんでした。
宿泊先のホテルをチェックアウトしたのが事件の翌朝の9時です。
それから検事のご指示で靴のサイズを調べた結果現場付近に残されていた足跡と同じ26cmでした。
(占部)しかしアリバイがある。
(梅野)はい。
奥さんの三吉和佳子さんの方は?
(梅野)はい。
犯行時間の午前1時半から2時半の間自宅で就寝しておりアリバイを証明する人間はおりません。
まあただ深夜のことですから当然といえば当然かと。
ただですね小学校のママ友が気になることを。
(女性)《2年前の事故の後和佳子さん人が変わったみたいに沈みこんでしまって》
(女性)《犯人を殺してやりたいって》
(占部)無理もない話なんですが。
それに加えて流産の話も。
流産?結婚してすぐの話なんですが。
大阪で三吉和佳子は流産を。
医者からは子供は諦めるようにと言われたそうです。
ところが東京の本社に転勤後幸運にも紗月ちゃんが生まれた。
ですから余計に黒田のことを恨んでいたのかもしれません。
(桜木)三吉和佳子には明確な動機があるように思われます。
カワイイわが子を殺した男が目と鼻の先でのうのうと暮らしている。
黒田さんが出所してからの3カ月行動をつぶさに観察し夫が出張のときを狙って犯行に及んだ。
(占部)あり得ないことじゃない。
黒田本人からは謝罪や損害賠償のことは一切出ていないと弁護士の話もある。
(黒田)《あの事故で自賠責保険ってのが下りたんじゃないの?弁護士さん》《なのに何でいまさら俺が金を払わなきゃいけないわけ?》
(占部)ああ。
報告が遅れましたが。
検視の結果黒田の体内からは脱法ハーブの成分が検出されました。
常用していたようで。
人身事故を起こした反省の気持ちなんか黒田は一切持ち合わせちゃいなかった。
(桜木)並木検事の話と重なります。
(梅野)でも三吉和佳子に絞りこむのは時期尚早かもしれませんよ?
(桜木)なぜです?
(梅野)黒田を恨んでいた人間は山のようにいたからです。
黒田は脅迫すれすれで借金を繰り返していました。
加えて黒田に貢がされた女性も20人は下らない。
(占部)黒田の携帯に登録されていた女性のリストです。
彼女たちは黒田に金をせびりとられていた被害者かもしれない。
黒田って男はずる賢い男で法に触れないぎりぎりのところで人をだましてもてあそんでいた節がある。
そういう意味でいうと黒田の母親の黒田敏江や姉の栗林朋子も黒田には手を焼いていた。
無視できない存在です。
(桜木)凶器のナイフが2種類だったのはこの中のいずれか2人が犯人だからだと?
(占部)そういうことだ。
ただしその逆も考えられますよ。
2種類のナイフを用意し複数の犯人を装った可能性も。
(占部)ああ。
それも確かに。
占部警部。
一緒に行ってほしいところがあります。
(陽子)どうぞ。
あの子まだ予備校で。
もうやだわ。
散らかってもう。
ちょっ。
・
(勝男)うわっ!何してんの?ってか何で俺のジャージー着てんだよ?
(占部)霞検事がお前の部屋をご覧になりたいっておっしゃったんでな。
ああ。
おいの勝男です。
東都大学の法学部を狙ってまして。
将来は弁護士になるのが夢なんですよ。
なあ?勝男。
霞です。
将来は法廷で会えるかもしれませんね。
(勝男)アハハ。
いや。
そんななぁ。
(占部)ところで勝男。
事件のことは知ってるな?
(勝男)当たり前だろ。
大騒ぎで勉強どころじゃないよ。
(占部)事件のあった夜何か物音とか悲鳴とか聞かなかったか?別に。
(占部)どんなことでもいいんだぞ。
勝男。
(陽子)そうよ。
勝男。
何か覚えてることない?
(勝男)ないよ。
(桜木)機嫌を損ねましたね。
(占部)うん?名前だよ。
名前?
(占部)俺が明日香で兄貴が円香。
女みたいな名前を兄貴が嫌ってな自分の子供には男らしい名前をっつうんで付けた名前が勝男。
それが気に入らないみたいなんだよ。
法律に携わる人間は嘘を見抜く能力も必要です。
でも弁護士が嘘をついてはいけない。
見ました。
あの夜あそこに入っていく人。
(占部)おい。
勝男!
(勝男)友達とメールしてたんだよ。
だから。
(陽子)勉強してなかったのね?それで嘘を?
(占部)お前な!
(桜木)ちょっ。
時間は覚えていますか?夜中の1時40分ごろです。
ちょうどメールが来たので間違いないです。
(桜木)その人間の顔は?
(勝男)顔は暗くって。
けど黒っぽいコートを着てました。
(占部)で靴は?靴は何履いてた?
(勝男)靴!?
(占部)うん。
(勝男)そんなの分かんないよ。
その人間が出ていくところは見てはいませんか?見ました。
2時ちょっと前だったと思います。
それからトイレに行ったんです。
(陽子)あのとき?あっあの。
私もそのときトイレに行って勝男に会ってます。
嘘ついてません。
勝男。
(桜木)トイレから戻った後は?
(勝男)眠くなって。
けど2人目の人を見ました。
(占部)2人目?ホントか?勝男。
白い野球のキャップをかぶった男の人だったよ。
そういえば靴も白かった。
犯人は2人。
片方は白い靴の男です。
(梅野)えー。
あけぼの荘では現在70代の女性と男子大学生が住んでいますが。
女性は車椅子のため2階の黒田の部屋には行けず大学生は夜9時からコンビニのバイトで帰宅したのは朝の6時すぎでした。
ですから占部勝男君が目撃した人物には該当いたしません。
犯行時刻と照らし合わせてみても目撃された2人は犯人ということだな。
それも片方は間違いなく白い靴を履いた男だった。
さすが占部警部のおいっ子。
立派な目撃者だよ。
はい。
(岩瀬)霞検事。
複数犯と断定できたわけですから疑問に思われていた2本のナイフのことも問題ありませんね?
(岩瀬)黒田が引き起こした事故で娘を失った三吉和佳子も含め黒田に恨みを抱いていた者は多数いた。
何としてもそん中から2人に絞りこめ!いいな?
(一同)はい。
(智子)結婚したいって言われたんです。
(智子)そのことを黒田に言うと結婚しようとは言ってない…。
(男性)最低な男だよ。
おふくろが病気で金がいるとか事故って賠償金がいるとか…。
(敏江)娘も私も光彦にお金をむしり取られるためだけにパートを掛け持ちして…。
(朋子)弟が殺されたのに正直ほっとしています。
(朋子)光彦がいたことで主人から離婚の話が出て…。
・
(陽子)ハァー。
何やってんのかしら?勝男は。
もう。
・
(ドアの開く音)・
(範夫)ただいま。
(範夫)先に風呂でいいか?
(和佳子)ああ。
じゃあ温め直しとくね。
(範夫)和佳子。
引っ越さないか?えっ?黒田はいない。
この町にいる意味はなくなった。
考えといてくれ。
(中村)黒田の事件はナイフで刺した人物が2人と分かり容疑者が徐々に絞りこまれているそうだな?ですがまだ2人と断定する根拠がないのが現状です。
(中村)しかし目撃者がいるそうじゃないか。
事件に関与した証拠はありません。
目撃されたのは2人でも実際は3人か4人の可能性も。
(中村)いいかね?霞検事。
捜査本部というシステムは警察主導で捜査が行われるべきだ。
異論があっても現場は警察に任せて君は指揮を執っていればいいんだ。
(桜木)梅野刑事が検事に報告があると。
お一人で?
(梅野)ええ。
まずは検事のご意見を伺ってから警部には報告するつもりで来ました。
あっ。
(梅野)あのう。
検事。
三吉和佳子は本当に犯人のうちの一人なんでしょうか?それはまだ分かりません。
梅野刑事は違うと思うんですか?えっ?ああ。
いやいや。
あの。
自分も怪しいとは思います。
子供が黒田のような男に殺されたら親ならば復讐したいって思うだろうと。
でも何かこうしっくりこないっていうか。
でその理由が自分でもうまく…。
三吉和佳子が犯人だと認めたくないということでしょうか?親なら復讐するだろうと決め付けたくはない。
(梅野)ええ。
そうです。
そうです。
お父さんになられたんですよね。
以前の梅野刑事ならそうは考えなかったんじゃありませんか?ああ。
あっ。
はい。
そうかもしれません。
ところで報告というのは?
(梅野)えっ?ああ。
そうだ。
えっと。
あの。
えー。
まずはこれを。
(梅野)今日入手した防犯カメラの映像です。
事件の前の日のものが収まってます。
現場に程近い上北沢駅前のパチンコ店です。
黒田が映ってます。
(梅野)ご覧いただいたとおり肩がぶつかったことでのいざこざです。
しかしこの男は立ち去る黒田に向かって「殺してやる」と言っていたことが分かりました。
殺してやる?
(梅野)この後のこの男についても聞き込みをしました。
その結果男はあけぼの荘に姿を現していました。
あけぼの荘に?
(梅野)見ていた主婦に確かめたところこの男で間違いないとのことです。
彼の身元は?
(梅野)はい。
調べはついてます。
重倉覚。
黒田の住所を確かめた後駅前の商店街に戻った重倉は黒田に殴られた際に破損したレンズを眼鏡店で交換していました。
その際クレジットカードで支払いをし身元が。
どう思われますか?検事。
詳しく調べる必要があるかもしれませんね。
(梅野)分かりました。
早速占部警部に報告を。
(重倉)いやー。
お恥ずかしいです。
あのときはついかっとなって。
しかしこのとおりケガの方は大したことないので訴えるつもりありません。
あんなことで地検の検事さんが出向いてこられてそっちの方が驚きです。
でも傷害には違いありません。
(重倉)ああ。
そうでしょうが。
訴えればこっちの恥をさらすようなもんですからね。
でもあの日のあなたはとてもお怒りになられていた。
(重倉)そりゃそうでしょう。
いきなり殴られたんですからね。
そのあなたを殴った男は殺されました。
あの男が?
(桜木)上北沢で起きた殺人事件のことをご存じありませんか?ああ。
知ってますけど。
えっ?あの事件の被害者があの男なんですか?おかしいですね。
名前をご存じのはずですが。
あなたはあけぼの荘であなたを殴った男が何者か確かめていらっしゃいませんでしたか?5月18日の深夜は何をなさっていましたか?家で寝てましたよ。
目黒のマンションですね?
(重倉)もう調べてるんでしょうが私の妻はすでに他界しています。
ですから一人暮らしでアリバイの証明のしようがない。
違いますか?状況にもよります。
状況?そりゃどういう意味だ!?私があの男を殺したとでもいうんですか!?
(桜木)重倉さん。
落ち着いてください。
(重倉)これが落ち着いていられるか?人殺しだっていわれてんだぞ!バカバカしい。
仕事がある。
これ以上話すことはない。
帰ってくれ!わざと怒らせた検事の狙いどおりでしたね。
重倉という男は激高しやすい性格だと分かりました。
靴のサイズを調べるよう占部警部に。
分かりました。
あっ。
占部警部です。
桜木です。
そうですか。
分かりました。
三吉和佳子が任意での聴取に応じるとのことです。
捜査本部に。
すぐにそちらに向かいます。
(梅野)どうぞ。
(梅野)こちらへ。
(岩瀬)三吉和佳子は一番犯人に近い。
何か引き出せれば一気に畳み掛けますよ。
(和佳子)最初にお話しさせてもらってもいいですか?
(占部)ええ。
どうぞ。
(和佳子)犯人が黒田を殺さなくても私が殺していたかもしれません。
(和佳子)犯人にはよくやってくれたと感謝すらしています。
(桜木)こちらが何も物証をつかんでいないのをまるで知っているかのようですね。
(岩瀬)だがこの女にはアリバイがない。
必ずぼろを出すはずだ。
(占部)黒田光彦さんが殺された夜のことなんですが。
一歩も家からお出になってないんでしたよね?
(和佳子)お話しすることは何もありません。
(占部)何度も同じことを聞かれてうんざりなさってんのはよく分かりますが答えてほしいんですよ。
(和佳子)答えても答えなくても同じです。
(占部)どういう意味ですか?だって私は黒田を殺してないんですから。
心ん中で殺したいと思うことが罪になるのであれば私は数えきれないぐらい黒田を殺しました。
何度も何度も。
何度も何度も。
(和佳子)でも実際には殺していません。
私が黒田を殺したと疑ってらっしゃるんだったら証拠を見せてくださいませんか?証拠なんてあるはずがありませんね。
だって私殺してはいないんですから。
(岩瀬)くそ。
動機やアリバイの面じゃこの女が2人の犯人のうちの1人に違いないんだが。
ですが印象論です。
三吉和佳子が言うとおり物証がありません。
(占部)犯人が残したものはナイフとスニーカーの足跡だけ。
どちらも量販品で。
ナイフが全国で7,000本出回りスニーカーは1万足を下らない。
しかもどちらもどこで販売されたのか特定できずにいる。
(梅野)あのう。
もしも三吉和佳子とこの中の誰かが犯人だという指紋などの証拠があった場合殺人罪で起訴はできるものですか?無理です。
どちらが先に手を下し殺害したかが特定できないと起訴には持ち込めません。
容疑の罪名が決められませんから。
やっぱり。
そうですよねぇ。
これだけ黒田に恨みを持っていた人間がいたにしても5月18日同じ日の同じ晩に。
それもたった1時間のうちに2人が入れ替わり黒田の部屋へ向かった。
こんな偶然ってあるもんなんですかね?不能犯。
まさか犯人は不能犯を狙ってると?
(岩瀬)お…おいおい。
どういうことだ?黒田の腹部の傷には生活反応がありませんでした。
つまり死体にナイフを突きたてたことになります。
すでに死体なんですから殺人には当てはまりません。
殺人未遂での起訴もできません。
不能犯が成立します。
交通事故に例えるんなら先にひき殺された人を後から来た車がひいたとしてもすでに死亡しているわけだから殺人罪には当たらないっていうあれか。
はい。
先ほど検事が説明されたように2人のうちどちらが心臓への致命傷を負わせたかどうか特定できないかぎり2人とも殺人については不能犯でおそらく死体損壊の罪にしか問えないかと。
殺人については起訴できないのか!?死体損壊じゃ懲役3年以下だ。
ただ2人の犯人が無罪を狙って共謀し不能犯を利用したというのなら話は別なんですが。
つまり近しい人間同士だと怪しまれる。
一見無関係に見える者同士が犯人ってことか。
この中でそれに当たるのは。
事件の前の日重倉覚は黒田さんに殴られ殺してやると言った。
そして彼は黒田さんを尾行しあけぼの荘を突き止めた。
(桜木)あの激高ぶりからすれば感情に任せて行動する人間のように思えます。
強い殺意に突き動かされたのかもしれませんね。
でも目立ち過ぎる。
殺そうと思い後をつけたのならもっと慎重になるはずよ。
わざと目立つ行動を取った。
(桜木)確かに。
自宅は目黒であるにもかかわらず飛び込みの眼鏡店でレンズを交換したという点も不自然といえば不自然かも。
計算ずくで怪しい人間に成り済ました。
この中の誰かとつながっていたとしても事件前日の出来事で共謀する時間はなかったと主張もできる。
(岩瀬)容疑を掛けられたとしてもはなっから不能犯として無罪を狙い罪に問われたとしてもせいぜい死体損壊か。
もしそうならわれわれ警察に挑戦状をたたきつけたようなもんだ。
その可能性がないともいえません。
(占部)ちょっと待ってください。
ということはおいの勝男が目撃したのも計算のうちだったってことですか?
(岩瀬)そうだ。
君の優秀なおいは目撃者に仕立て上げられたんだ。
いいか?この重倉とこの中の誰かを結ぶ線を当たるんだ。
特にこの三吉和佳子は怪しい。
いや。
和佳子の夫三吉範夫も視野に入れろ。
アリバイがあったとしても重倉と密な関係にあったのかもしれない。
梅ちゃん。
すぐに全員に招集をかけろ。
(梅野)はい。
(岩瀬)ハァー。
(桜木)もし犯人が不能犯を利用し黒田を殺害したとしたら強敵です。
立件は困難ですし公判維持も難しいです。
不能犯。
(桜木)犯人が不能犯を利用し黒田を殺害したとしたら強敵です。
検事。
復讐は何も生みはしない。
なっちゃん。
お代わりは?
(友行)まだ映画に行けなかったのを。
気にするなよ。
俺が後でがつんと言っとくから。
(彩子)ウフフ。
友行さんのがつんは当てにならないけどね。
心配しなくていいわよ。
なっちゃんだっておかしなことしてるんだって分かってるんだけど。
きっかけが見つからないだけだと思う。
(梅野)この男性が三吉範夫さんを訪ねてきたことはありませんでしたか?
(社員)いや。
見たことないですね。
そうですか。
(占部)この2人が一緒のところを見掛けたことありませんかね?
(一同)えー?
(女性)ないですよね?
(女性)ねっ?ありませんね。
(占部)そうですか。
(梅野)お昼休みにすいません。
この女性をご存じないかと思いまして。
(社員)ちょっと見覚えないですね。
(占部)この男なんだけど見たことないかな?
(業者)いやー。
見たことないですね。
(陽子)明日香ちゃん!あっ。
明日香ちゃーん!ちょっ。
ちょっ。
(夏子)あっ。
おばあちゃん。
(彩子)ウフフ。
うーん。
何年ぶり。
ううん。
何十年ぶりかしら?ブランコ。
(夏子)ちょっと。
危ないよ。
(彩子)バカにするんじゃないわよ。
こう見えたってね。
あっあっ。
うわー!ああー!ハァハァ。
ハァー。
怖かった。
フフフ。
情けないわね。
昔はね夕子を膝に乗せてよくこいだものよ。
(夏子)お母さんを?
(彩子)うん。
夕子ねブランコ大好きだったの。
空を飛んでるみたいだって言ってね。
ウフッ。
雲や木の枝が近づいてくるのが楽しかったみたい。
どうかしたの?
(夏子)お母さんは覚えてるかな?
(彩子)うん?私が好きだったもの。
うーん。
仕事忙しいから忘れちゃってるよね?そんなことないわよ。
母親はね子供のことは何だって覚えてるの。
万が一忘れたとしてもうっかり忘れちゃってるだけ。
ねっ?安心なさい。
ウフッ。
さあ帰ろう。
(夏子)うん。
(占部)いやー。
うまいな。
(桜木)検事。
どうぞ。
(占部)捜査が行き詰まってるときに飲むと余計にほっとする。
(桜木)三吉和佳子と重倉覚を結ぶものは何も?
(占部)ないね。
会った形跡はおろか接点もない。
このままじゃ捜査方針を見直さなきゃならんだろうな。
犯人が不能犯を狙ったというのはわれわれの勇み足だったかもしれませんね。
三吉範夫はどうでしたか?
(占部)同じです。
重倉の影すら。
あっ。
ただつい先日三吉範夫をあけぼの荘の前で見たという話は拾いました。
あけぼの荘の前で?
(占部)黒田の部屋を黙って見上げていたそうです。
それを見たのは兄貴の嫁さんなんですけどね。
勝男君といい親子揃って好奇心がお強いんですね。
目撃者になりやすいのかもしれません。
まったくだ。
でも三吉範夫は事件の前にも何度かあけぼの荘の前で姿を見られています。
黒田に娘を殺されたんですから気になってたんでしょう。
しかし三吉範夫は犯人にはなり得ません。
事件当日大阪に出張していたという明確なアリバイがありますから。
・
(ノック)
(桜木)はい。
(桜木)中村刑事部長。
警視庁の占部警部です。
事件の報告にみえました。
(中村)ご苦労。
(占部)あっ。
とんでもございません。
(中村)犯人が不能犯を利用している可能性があると岩瀬管理官から聞いた。
一言君に言っておきたいことがあってな。
(中村)法をつかさどる者としてどんなことがあっても犯人を検挙しろ。
法を悪用する者は絶対に許すな。
いいな?はい。
以上だ。
(占部)かっ。
ハァハァハァ。
(範夫)えー?いいなぁ。
(紗月)ママ大好き。
(範夫)アハハ。
(和佳子)うれしい。
うれしい。
(範夫)おっ。
届いた。
俺のほっぺ。
俺のほっぺ。
俺のほっぺ。
(和佳子)いいなパパ。
(範夫)ヒュー。
俺のほっぺ。
(和佳子)ママにもタッチ。
はい。
パパ追い付いてないよ。
(範夫)えー?もう。
速いな。
(和佳子)ピンク大好きだもんね。
(紗月)大好き。
(範夫)ハハハ。
(和佳子)今日洋服も靴もピンクでしょ。
(紗月)パパ。
届かない。
抱っこ。
(範夫)何だよ?いくぞ?せーの。
・
(範夫・和佳子)うわー。
ああ。
・
(範夫)もうちょいもうちょい。
・
(範夫)もう1回もう1回もう1回もう1回。
・
(範夫・和佳子)せーの。
・
(範夫)よいしょ。
・
(範夫)ああー。
届いた?届いた?
(紗月)ありがとう。
(和佳子)はい。
(範夫)あっ。
どう?おいしい?
(紗月)うん。
(範夫)紗月。
紗月。
パパにもちょうだい。
パパにもちょうだい。
紗月。
パパにも。
ちょっと…。
(泣き声)
(桜木)三吉和佳子は長野県富士見町に生まれ高校を卒業するまで一歩も県外は出ていません。
一方重倉覚はその間ヨーロッパやアメリカなど世界中を飛び回っていました。
東京に設計事務所を構えたのは三吉和佳子が大阪の大学に入学した年です。
出身地も年齢も違う2人にやはり接点は見当たりませんね。
重倉の妻真理子さんが病気で亡くなった2年後の4月15日。
三吉紗月ちゃんは生まれています。
和佳子は大阪で夫の三吉範夫と出会い結婚。
その直後流産をして一度は子供を諦めた。
はい。
本社勤務になった三吉範夫と共に東京に来た後失意の中でようやく宿したのが紗月ちゃんってことになります。
何か?紗月ちゃんは本当に三吉夫婦の娘なのかしら?まさか検事は三吉和佳子と重倉の間の不倫の子だと?しかし2人に接点は。
東京で接点はなくても大阪では。
いや。
実家のある富士見町に帰省したときに重倉と出会わなかったとは言い切れません。
設計士なら全国で仕事を。
三吉和佳子の母親は和佳子を産んだ1年後に離婚し東京から生まれ故郷の富士見町へ戻っています。
以来今でも富士見町に。
和佳子と重倉のことを何か知っているかもしれません。
桜木君。
すぐに車を。
占部警部には重倉が設計した仕事を全て洗い直してもらうように伝えます。
・
(チャイム)そうですか。
お父さまのご遺志を継いで郷土の歴史に関するお仕事を。
(緑)でも父ほどのことは何もできてないんですよ。
まるで時間が止まったようですね。
(緑)ええ。
とても気に入ってます。
見せていただいても?ああ。
どうぞ。
木々のぬくもりを感じます。
(緑)ありがとうございます。
今日は和佳子さんのことをお尋ねしたくて来ました。
お母さまの緑さんにとってとても失礼な質問をしなければならないことをおわびしておきます。
あっ。
お気遣いなく。
この年になりますと驚くことはなくなりましたから。
重倉覚という男性にお心当たりはありませんか?重倉さん?申し訳ありませんが。
その方と娘が何か?和佳子さんがお付き合いをなさっていたかどうかご存じではないかと思いまして。
あっ。
和佳子が不倫を?いえ。
娘から何も。
そうですか。
失礼なお尋ねをして誠に申し訳ありません。
その重倉という方はあの黒田の事件と何か関係が?捜査上のことですのでお話しすることは。
でもわざわざお越しになったのは娘も事件と関係があると思われてのことではありませんか?はい。
(緑)はっきり申し上げます。
和佳子は不倫をするような子ではありません。
範夫さんを愛し紗月のことも心から愛しておりました。
まして人を殺すなんて。
たとえ黒田のような男であっても和佳子は人を殺したりはしません。
ああ。
こちらで結構です。
あのう。
一つだけ。
よく紗月ちゃんには会いに行かれたんでしょうか?何かと忙しいものですから。
1年に一度程度でしたが会いに行っておりました。
私の唯一の楽しみでもありました。
それが4月8日だったんですね?紗月ちゃんの部屋に飾られたお母さまと紗月ちゃんの写真の日付。
4月8日のものが多かったと記憶していたものですから。
そうですか。
桜の時季ですからたまたまかもしれませんね。
そうでしたか。
年齢の割にはお若い方でしたね。
霞です。
ああ。
占部です。
岩瀬管理官が三吉和佳子と重倉覚を面通しさせて本当に面識がないかどうか確かめると言いだしたもんですから。
(桜木)私が見てもあの2人に面識があるようには見えませんでした。
(岩瀬)君の意見など聞いちゃいない。
三吉和佳子と重倉覚にこだわる必要はない。
被害者の周辺で共謀関係になり得る人間に的を絞り洗い直せ。
どんなささいなことも拾い上げるんだ!
(占部)参ってますね管理官も。
あっそうだ。
ご命令どおり重倉の仕事の資料揃えておきました。
おい。
梅ちゃん。
(梅野)はい。
(梅野)重倉が設計で関わった建造物は全て入ってるはずです。
ありがとうございます。
いえ。
(桜木)多くは箱物と呼ばれるものですね。
地方の公共施設や美術館を数多く手掛けています。
桜木君。
山梨県の地図を。
はい。
山梨県が何か?この博物館が。
出ました。
山梨県です。
長野県との県境を拡大して。
県境を挟んで北杜市と富士見町は隣同士?ええ。
富士見町は三吉和佳子の出生地です。
・
(和佳子)はい。
もしもし?・
(緑)私。
(和佳子)お母さん?今日東京から検事さんがいらしたわ。
そう。
黒田のことで?
(緑)あなた疑われてるの?大丈夫よ。
心配いらない。
・
(緑)でも…。
ホントに心配しないで。
何かあったら私にすぐ言うのよ。
・
(緑)聞いてるの?和佳子。
・
(和佳子)ありがとう。
(緑)和佳子。
大丈夫。
紗月が守ってくれるから。
ホントに大丈夫だから。
(松井)ええ。
確かに重倉覚さんに設計を依頼しました。
ネットが普及した昨今ですが市民の方々からも好評で。
ここができる10年前よりかなり利用者増えています。
建設がされているとき重倉さんはよくこちらに?
(松井)はい。
細かい指示をお出しになってお忙しいのに熱心な方だと感心した覚えがあります。
(桜木)当時重倉さんを訪ねてみえていた女性はいませんでしたか?お知り合いとか。
(松井)女性ですか。
どうだったかなぁ?あっ。
重倉さんがおみえのときに宿泊などの手配をしていた者がおりますから聞いてみましょう。
お手数おかけします。
(松井)ええ。
(松井)そう。
しょうがないね。
あっ。
あいにくですが担当の者が風邪で休んでまして。
後ほど確かめて連絡を。
お役に立てずすいません。
いえ。
こちらこそ。
お忙しいところを申し訳ありませんでした。
(桜木)ありがとうございました。
(松井)あっ。
いえいえ。
・
(職員)館長。
(松井)はい。
あっ。
どうも。
(桜木)ここと三吉和佳子の郷里が偶然近かっただけかもしれませんね。
検事。
占部警部に連絡を。
(桜木)はい。
了解しました。
おい。
梅ちゃん。
行くぞ。
(梅野)ほい。
(占部)おおっと。
(岩瀬)おいおい。
どこ行くんだ?
(占部)ああ。
あの。
霞検事の要請で三吉紗月の生まれた病院を調べてくれと。
三吉紗月?2年前に亡くなった三吉和佳子の娘じゃないか。
その子が生まれた病院とこの事件と何の関係があるんだ?あっ。
さあ。
(岩瀬)あの検事は捜査本部の捜査員を何だと思ってる!?
(占部)あっ。
とにかく行ってきますよ。
これで捜査が進めば管理官もおこぼれを頂戴できるじゃありませんか。
(岩瀬)まあ確かにな。
そりゃ。
あっ!・
(足音)お食事中申し訳ありません。
(理恵子)いえいえ。
もうこの仕事をしているとねもうゆっくり食事するってのは数えるほどしかないんだから。
あっ。
どうぞ。
どうぞお掛けになって。
ハハッ。
えーと。
確か10年前にここで生まれた女の赤ちゃんのことだったわね。
えーと。
お名前何ておっしゃるの?
(桜木)紗月ちゃんです。
(理恵子)あっはい。
紗月ちゃんね。
はい。
ちょっとお待ちください。
(理恵子)ああ。
はいはい。
ありました。
確かに私が取り上げました。
はい。
(理恵子)2,980g。
それは元気な女の赤ちゃんでしたよ。
母子共に極めて健康。
えー。
2004年の4月の8日。
ああ。
あの日は大雨。
よく覚えてる。
4月15日ではなく1週間前の4月8日ですか?
(理恵子)そうよ。
まあその前の川が氾濫しちゃってざーっときたんだもん。
びっくりしちゃった。
よく覚えてるわ。
もう10年もたつのね。
それ間違いありませんね?
(梅野)そのようですね。
(占部)はい。
占部。
どうだった?何かめぼしいものが?えっ?大阪の?はい。
検事がどうしてもと。
お願いします。
・
(チャイム)お休みの日にすいません。
・・
(緑)はい。
長沢でございます。
(占部)ああ。
警視庁の占部と申しますが。
長沢緑さんですね?はい。
(占部)実はお嬢さまの三吉和佳子さんの容疑について手続きを進めるに当たりお母さまにお伺いしたいことが。
あっ。
手続きって和佳子を逮捕するということですか?あっいや。
ともかく黒田光彦さん殺害事件の容疑についてお話を。
今和佳子さんを連れて北杜市の博物館に来てるんですが。
こちらまでご足労願えないでしょうか?そちらで詳しいお話を。
どうして和佳子が?証拠はあるんですか?詳しい話はあちらでゆっくりと。
お母さん!?
(緑)和佳子。
(占部)ではお話は霞検事の方から。
どうぞ。
こちらの博物館で見つけました。
この博物館が完成したときの記念写真です。
ここに写っているのはあなたに間違いありませんね?そして和佳子さんの娘紗月ちゃんの本当のお母さんは長沢緑さん。
あなただった。
(桜木)向井産婦人科からお借りしたもののコピーです。
ここには紗月ちゃんを出産したのはあなただと明記してあります。
今から10年前の4月8日。
あなたは紗月ちゃんを産みました。
世田谷区役所の出生届には4月15日生まれとなっていますが実際に紗月ちゃんが生まれたのは1週間前の4月8日です。
紗月ちゃんの父親は重倉覚さんですね?この博物館の設計を重倉さんが準備しているとき周辺の歴史にお詳しいあなたに意見を求めた。
館長の松井さんが間に入って重倉さんをあなたに紹介なさっていました。
それがあなたと重倉さんとの出会いだった。
違います。
重倉さんは関係ありません。
嘘をつく必要なんてないじゃないですか。
当時重倉さんは奥さまを亡くされて独身だったんですから。
現にお二人が車で出掛けるところを目撃されてる方もいる。
この博物館の職員の方で裏は取れてるんです。
紗月ちゃんの部屋は生前のままです。
紗月ちゃんの髪の毛があればDNA鑑定をして両親が誰かすぐに分かります。
(占部)それに結婚して間もなくあなたは大阪で流産をなさり子宮摘出の手術をなさってますよね。
手術の後その大阪から夫の範夫さんが東京へ転勤になって間もないころですね。
あなたがお母さんの妊娠を知ったのは。
(和佳子)《お母さん妊娠してるの?》
(和佳子)《いいのよ隠さなくって。
フッ》《分かるの。
女同士だもん》《ホントのこと教えて》《相手はこないだ電話で言ってた設計士の人?》《ねえ?お母さん》《お母さん。
まさかその子のこと》《そんなの駄目よ。
絶対に駄目!》
(緑)《だったらどうすればいいの?》《どうしようもないじゃない》《産んで》
(緑)《えっ?》《その子私が育てる》
(緑)《和佳子》
(和佳子)《フッ。
私の子は生まれてくることができなかったけどその子生きてる》《だからお願い。
お母さん。
産んで》《その子と私のために》
(範夫)《お前の妹なんだよな》
(範夫)《お母さんの子なんだから》《育てよう。
俺たちの子供として》《あなた》
(範夫)《生まれてくるはずだった子の生まれ変わりかもしれない。
いや。
きっとそうだよ》《だから俺たちで育てなきゃならないんだよ》
(和佳子)《うん。
ありがとう》
(和佳子)《じゃあ星はここら辺かな?》《ハートを。
これいいんじゃない?》
(紗月)《ママセンスないなぁ》
(和佳子)《えっ?どうして?》
(紗月)《こういう感じがいいと思うよ》
(和佳子)《そう?じゃあお花ここら辺に入れとこっか?》《ねえ》
(範夫)《ほら》《おい。
早く並んで》
(和佳子)《はーい》《じゃあ持ってきて》
(緑)《和佳子。
早く》
(和佳子)《よっ。
よいしょ》
(緑)《うわー。
かわいくできた》
(和佳子)《カワイイ》
(紗月)《おばあちゃんの隣がいい》
(緑)《ああ。
うれしい》
(紗月)《おばあちゃん》《クッキーありがとう》
(緑)《うん》
(範夫)《よーし。
じゃあいくぞ》
(和佳子)《はーい》
(範夫)《よし。
いくよいくよいくよ》
(和佳子)《きたきた》
(範夫)《きたきたきたきた》《きた。
きた》
(シャッター音)紗月ちゃんは和佳子さんと範夫さんの愛情を一身に受け幸せだったと思います。
そしてあなたもすくすくと成長する紗月ちゃんを見ているだけで幸せだった。
でもその幸せは一瞬のうちに奪われてしまった。
黒田光彦という男は罪の意識をみじんも感じることなく生き続けていた。
あなたはそれが許せなかった。
待ってください。
母が黒田を殺したっていうんですか?はい。
証拠は?証拠はあるんですか!?
(範夫)落ち着け。
和佳子。
(和佳子)母が黒田を殺したっていうんですか?はい。
証拠は?証拠はあるんですか!?
(範夫)落ち着け。
和佳子。
あなたならどうですか?あなたならどうですか!黒田という男を許すことができますか?私はどうしても許せなかった。
私にはあの男を。
《和佳子》
(和佳子)《また聞かれた》《「どうして引っ越さないのか?」って》《紗月の家なのに》《紗月と暮らした私たちの家なのに》《黒田は当たり前のようにまたアパートに帰ってくるのに「人権がある。
どこに住むのも自由だ」って》《どう考えたっておかしいのに。
どうして?どうして私たちがおかしいみたいな言い方されなきゃならないのよ!》《もう変になりそう》・
(黒田)《うるせえな。
開いてるよ》
(黒田)《ハァー。
セールスなら帰ってよね。
おばちゃん》
(緑)《三吉紗月の祖母です》
(黒田)《ああ。
何の用?》
(緑)《あなたは紗月の家族のことを考えたことがあるんですか?》《たぶん考えてんじゃないかな?》《ムショ行ってちゃんと責任果たしてきたし》《だったらせめて和佳子の目が届かないところに行きなさい!》《紗月がいなくなって和佳子がどんなにつらい思いをしてると思ってるの!》
(黒田)《知らねえよ》《あのさ。
がきなんてまたつくればいいじゃん》《そうだ。
何なら俺手伝ってやってもいいっすよ》《アハハ!アハハ!》不能犯のことはお調べになったんですか?娘を守るためでした。
黒田が殺されれば和佳子が疑われるのは目に見えてましたから。
不能犯を利用すればたとえ疑われても起訴はできない。
でも娘に万が一のことがあればそのときは名乗り出るつもりでおりました。
今日も和佳子が逮捕されると聞いて自首するつもりで来たんです。
・
(足音)不能犯を装うには一人では無理です。
だから重倉覚さんに協力を。
僕も自首を覚悟で来た。
紗月を和佳子たちに託した後もう重倉さんとは会わないと決めていました。
でも重倉さん以外に頼めませんでした。
《緑さん》《黒田を殺すっていうのか?》《和佳子も私ももう限界なんです》《私がやらなければいつか和佳子が》《力を貸してください》
(重倉)彼女の言うとおりです。
不能犯を装うため私は彼女に協力しました。
黒田が住むアパートの向かいの家にいる受験生目撃者にしようって言ったのも犯人が確実に2人いると思わせるための2種類のナイフも私が用意しました。
父親らしいことは何一つ紗月にはしてやれませんでした。
そのことがずっと私のような人間にも重くのしかかってたんです。
紗月のために。
そして紗月を育ててくれた和佳子さんや範夫さんのために私がやれることはこれしかないとそう信じて。
そして黒田に接触した?
(重倉)《気を付けろ!》《すいません》《ケガしなかったですか?》
(殴る音)《殺してやる!》
(緑)最初のナイフは紗月のために。
(刺す音)
(黒田)《ああっ。
ううっ》
(緑)二度目のナイフは紗月を愛してくれた範夫さんのために。
(刺す音)
(緑)三度目は紗月の本当の父親である重倉さんのために。
(刺す音)
(緑)そして最後に私の大切な娘和佳子のために。
(刺す音)
(緑)《ああ》・
(ノック)《どうして?》《心配だったからに決まってるだろ》《大丈夫か?》《ええ》《紗月に一度でいいから会いたかった》《ハァー。
父親として何一つしてやれなかったのが心残りだった》《だけどこれで少しは楽になれるかもしれないな》
(緑)範夫さんを巻き込まないために彼の出張している夜を選びました。
2人とも紗月のことをホントによく育ててくれてありがとう。
和佳子と範夫さんには計画のこと話してません。
ですから娘たちには何の関係も…。
(和佳子)知ってたわ。
お母さんが黒田を。
範夫さんも私も。
お母さんのそばに引っ越す準備をしてるところでした。
お母さんのそばにいてあげることしか俺たちにはできませんから。
失ったものは計り知れません。
でも復讐は何も生みはしない。
皆さんが大切に思い愛してやまなかった紗月ちゃんは二度と帰ってはこないんです。
(緑)だけどあなたたちは私たちに何をしてくれましたか?黒田はたった1年の服役で済んだ。
私たちの苦しみは一生続くというのにたったの1年です。
それがあなたたち警察や検察の私たちへの答えじゃありませんか。
黒田が死刑であったのなら緑さんの気持ちは晴れたのですか?黒田が死んだ今緑さんの気持ちは晴れていますか?
(占部)ご同行願えますか?ちょっと待ってください。
お願いがあります。
最後に行きたいところが。
物証は出るでしょうか?凶器のナイフは見つかります。
彼女は捨てずに?和佳子さんに容疑が掛かった場合のために彼女が一番好きな場所に。
(山岸)発見されたナイフの金属片を照合した結果凶器のナイフに間違いありませんでした。
ありがとうございます。
(岩瀬)またぞろあの出しゃばり検事が。
いいか?占部君。
私のような心の広い人間がいるからああした検事が大手を振っていられるんだ。
そこんとこ勘違いするな。
この岩瀬厚一郎あっての霞夕子だっていうことをな。
(占部)おっしゃるとおりで…。
(占部)あっ。
電話鳴ってますよ。
何だ?あっ。
これは1課長。
ご苦労などとそんなもったいない。
いえいえ。
あのいつもの小うるさい女検事の横やりを払いのけ無事逮捕に持ち込んだしだいです。
ああ。
はいはい。
(夏子)ただいま。
(友行)シーッ。
(彩子)急にお休みがもらえたの。
だから。
(友行)それになっちゃんへお土産が。
(彩子)なっちゃんが帰ってくるの待ってたんだけどね疲れてて我慢できなかったのね。
(友行)何だか子供みたいだな。
(夏子・彩子)フフッ。
(彩子)あっ。
開けてごらんなさい。
(友行)絵本?もうそんな子供じゃないのにな。
(夏子)私がちっちゃいころ一番好きだった本だよ。
何度も読んでぼろぼろになってもういらないって思って捨てちゃったけどもう一度読みたいって思ってた本。
夕子。
覚えてたのね。
なっちゃんが一番好きなもの。
2014/05/23(金) 21:00〜22:52
関西テレビ1
金曜プレステージ・検事・霞夕子6〜不能犯〜[字][多]
同じ日の真夜中に複数の無関係な人間が同一人物を刺殺!?こんな偶然あるわけない…!法律を悪用する強敵の意外な正体▽沢口靖子 西村和彦 須藤理彩 仁科亜季子
詳細情報
番組内容
事件の報告を受けた検事・霞夕子(沢口靖子)は、家族との約束を返上して現場にかけつける。被害者・黒田光彦(高濱正朋)の死体には心臓と腹部に刺し傷があり、ナイフが刺さったまま。その後の調べで、心臓と腹部を刺したナイフが同一のものではないことが発覚した。しかも腹部の傷は死後つけられたものだとわかる。夕子は黒田についてさらに調べを続ける。黒田は2年前、バイクでひき逃げ事故を起こし8歳の女の子の命を
番組内容2
奪っていた。黒田は脱法ハーブを使用していた疑いもあったが、服役後、被害者の遺族たちが住む場所からほど近いアパートに再び戻って生活していたのだった。
夕子、桜木(西村和彦)は事故で命を落とした少女の母親、三吉和佳子(須藤理彩)に会いに行く。三吉夫婦の家には、黒田は一度も謝りに来ることはなかったという。そんなとき、黒田の向かいの家に住む占部明日香警部(神保悟志)の甥(おい)、勝男(藤山扇治郎)から、
番組内容3
怪しい人間を深夜に目撃したと聞き出した夕子。そんな中、事件現場にほど近いパチンコ店の防犯映像に、ある初老の男性、重倉覚(三浦浩一)とぶつかり、彼を殴り飛ばす黒田の姿が映っていた。重倉は黒田に向かって「殺してやる」とつぶやいていたという証言も得る。事件の犯人は一体誰なのか。そして何が人々を狂わせたのだろうか…。
出演者
霞夕子: 沢口靖子
桜木洋一: 西村和彦
占部明日香: 神保悟志
霞友行: ダンカン
霞彩子: 松原智恵子
霞夏子: 鍋本凪々美
岩瀬厚一郎: 石丸謙二郎
梅野昭典: 清水伸
長沢緑: 仁科亜季子
三吉和佳子: 須藤理彩
重倉覚: 三浦浩一
三吉範夫: 飯田基祐
スタッフ
【原作】
夏樹静子(「深夜の偶然」より)
【脚本】
吉本昌弘
【編成企画】
水野綾子(フジテレビ)
【プロデューサー】
岩崎文(ユニオン映画)
【監督】
赤羽博
【制作】
フジテレビ
【制作著作】
ユニオン映画
ジャンル :
ドラマ – 国内ドラマ
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
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