こうした声を聞いた時私たちはどう向き合っているでしょうか。
「そのうちよくなる」と言って子どもたちをいじめの現場へと送り出しているのではないでしょうか。
カナダのケベック州にあるハドリー中学とフィレモン・ライト高校。
テリーは両校の校長を務めています。
中学高校合わせて1,000人の生徒が学ぶこの校舎で彼は日々目に見えない問題と戦っています。
私はいじめの実態を探るためこの学校で1週間を過ごす事にしました。
よろしく。
どうも。
我が校へようこそ。
学生に戻った気分です。
月曜の朝に登校する気持ちを思い出します。
よい思い出ならいいですが。
どうかな〜。
校長室送りにはならないように。
そうですね。
気を付けます。
まずはその校長室でいじめがどの程度深刻なのか話を聞きました。
いじめられている生徒はどれくらいいますか?ケベック州では毎年教育委員会が合同で調査を行っています。
我が校では20〜22%の生徒がいじめられているという結果が出ています。
ほかの学校と同じくらいの割合です。
教育関係者でもそんなに多いのかと驚いています。
親の立場なら一人でもいじめられていたら許せないでしょう。
私はいじめられている生徒を見つけて胸の内を語ってもらいたいと思っています。
でもうまくいくでしょうか。
校長は我々と生徒たちの距離が縮まるようにと集会を開いてくれました。
生徒たちはまるで関心がなさそうです。
距離が縮まるどころか広がってしまったように感じました。
私たちは校内にいじめの告白部屋を設置しました。
好奇心旺盛な生徒が既に集まっています。
ここはいわば聖域。
1人きりでカメラに向かって自らの体験を語ってもらおうという訳です。
生徒の中には自分の話に耳を傾けてくれる人を探している子もいます。
ディランもその一人でした。
ディランは16歳の高校生。
私はそれ以上の事は知りません。
でもこの学校では5人に1人がいじめられているといいます。
ディランもその一人ではないかと感じました。
ディランはもう自殺を考える事はなくなったといいます。
しかし彼を見ていると成長して強くなったのではなく単に生き残るすべを身につけただけなのではないかと考えてしまいます。
カナダでは10代の死因で2番目に多いのが自殺です。
ディランのような体験をしながら勇気をもって相談できずにいる子がほかにどれだけいるのでしょうか。
2日目。
告白部屋の前には列が出来ていました。
どの告白も生々しくてストレートです。
思い出すのもつらい経験を生徒たちは語り続けます。
いじめとは強い子が弱い子を攻撃する事だと考えていました。
しかし実際にはそれほど単純ではありませんでした。
もっと根深く陰湿なものです。
その原因を探るため高校生のクラスで生徒に話を聞きました。
チャディアには話したい事がたくさんありそうです。
いじめられているのは自分ではないと言い張りますが…。
本当でしょうか。
教育こそがいじめと戦う最良の方法だと言う人もいますがそれは生徒たちが学校で何を学んでいるかにもよります。
食堂で観察してみました。
人づきあいのうまい生徒もいれば…。
そうではない生徒もいます。
ディランのような生徒は1人でいれば傷つかずにすむと学んだのです。
彼は自分で書いた詩を朗読してくれました。
多くの生徒が同じような問題を抱えているのになぜそれぞれが孤立してしまっているのでしょうか。
チャディアが話しに来てくれました。
(拍手)この日はピンクシャツデー。
「結束しよう」といういじめ撲滅運動のスローガンがプリントされたTシャツが全員に配られます。
校長もこの日はピンクのTシャツ姿。
いつもどおり生徒たちに指示しています。
Tシャツを着ただけで何か変わるのでしょうか。
この運動の趣旨などお構いなしで楽しんでいる生徒もいるようです。
それにしてもこの学校でいじめられている生徒は本当に20%だけなのでしょうか。
私は独自に調べてみる事にしました。
これほど多くの被害者がいるなら加害者もいるだろうと思いあえてこんな質問をしてみました。
弱さや不安がいじめをエスカレートさせる事が分かってきました。
よい生徒でさえ自分を守るため他人を傷つけるのです。
オオカミの群れにピンクのTシャツを着せてどうなるのか少し疑問です。
ピンクシャツデーを企画した教師は生徒たちが置かれている状況を理解しているのでしょうか。
アマンダに話を聞いてみました。
校内を見回してみてどうですか?大勢の生徒たちの中でどの子がいじめに遭っているか分かりますか?私もいじめられた経験があるのでそういう子はすぐに見分けられます。
でも私は教師なので生徒たちは私の事を信用してくれません。
心を開いて相談してほしいんですが。
私にもいじめられた経験があるという事を生徒たちに伝えたいと思っているんですが私自身がまだその時の痛みを心に抱えているのでなかなか話題にできないんです。
本当はいじめられている子と一緒に泣いてあげたいけど教師としてそれはできません。
でも時にはそういう姿を見せる事も必要なのかも。
見ているのがつらいんです。
だからこれを企画しました。
なぜ泣いているのですか?いじめは人を変えます。
元気いっぱいだった子が自分の殻に閉じ籠もるようになってしまう。
人が信じられなくなるから。
そういう子を見るのが…。
間違っています。
一人の人間が相手と自分とに優劣をつけるなんて。
いじめはつらかった?はい。
傷ついていたのは生徒だけではありませんでした。
いじめ反対の意思を示す集合写真を撮影するため校長が生徒たちに校庭へ出るよう呼びかけました。
その時一人の教師が告白部屋に入りました。
卒業が危うかったある生徒について話します。
私がよく知る人物です。
ホモやオカマといった言葉を浴びせられていました。
四六時中彼を罵る生徒がいたのに教師たちはただ傍観していました。
高校を卒業するなんて無理だと思っていました。
学校に行かない日もあったし生きているのさえつらい日もあったから。
学校は戦場で自分は最前線に立つ兵士のような気分でした。
周りも諦めていましたがなんとか卒業できました。
これが彼。
つまり昔の私です。
ハンサムでしょう?今は教師として当時の事を忘れないよういつも持ち歩いています。
あんな思いは二度としたくありません。
生徒たちが楽しい学校生活を送れるように自分を奮い立たせたい。
この少年は今でも私の中に生き続けています。
彼は一人の教師に生まれ変わりました。
今週の取り組みを通して以前より絆が強まった学校で働く事を誇りに思っています。
今教師をしている事だけでなく高校という戦場を生き抜いた自分を誇りに思います。
校庭では校長の呼びかけに応え予想を超える数の生徒が集まっていました。
いじめられていた生徒たちは孤独ではありません。
もちろんそれは教師たちにも言える事です。
いじめが至る所に存在しているという事が分かってきました。
誰もがいじめる側になりうるのです。
彼らを責める前にもう少し生徒たちの話に耳を傾けてみましょう。
学校は普通いじめの加害者をまず停学処分にしその後退学させます。
しかしテリー校長はある生徒のために奮闘しています。
ほかの学校ならとっくに退学となっているような生徒です。
名前はオヨ。
これまでに何度も停学処分を受けています。
ネット上でのいじめ暴力問題などを繰り返し起こしてきました。
テリー校長はなぜ彼を擁護するのでしょうか。
たとえ1,000人の生徒がいても教師と生徒の関係は常に1対1であるべきだと思いました。
たった一人の人間が大きな力になる事もあるのです。
昔から教師志望だったそうですね。
なぜ教師になりたいと思ったのですか?高校時代に私を支えてくれた人たちに感謝しているから。
私の母はシングルマザーで週7日休みなく働いて私を育ててくれました。
そろそろリタイアしてほしいのですが今でも現役です。
それに近所の人たちもいろいろと面倒を見てくれました。
あなた自身も落ちこぼれていたかもしれないと?ええ。
生徒たちを見ていると当時の自分を思い出します。
生徒たちにも時々私が昔助けられたように私も君を助けたいんだと言っています。
かつて私を助け希望を与えてくれた人たちや学校そして地域社会に感謝の気持ちを伝えたい一心でやってきました。
この1週間大勢の生徒からいじめについて話を聞きました。
中でもオヨの話には感銘を受けました。
オヨは見限られてもおかしくない自分が今も学校にいられるただ一つの理由。
それは校長がいてくれたからだと言ったんです。
ほかの学校ならとっくに退学になっていたかもしれない。
でも今彼は希望を胸に抱き学校生活を続けている。
あなたが与えた希望です。
あなたが彼を変えたんです。
ありがとう。
でもほかの多くの人たちの支えもあったはず…。
そうかもしれません。
でもあなたも彼を信じ続けていたんです。
今でも信じています。
どんな時もあなたはオヨを信じ続けた。
どうすればいじめを解決できるのか模索する中で彼は大きなヒントをくれました。
オヨが解決策を示してくれたのです。
ええ。
すごい事です。
オヨはこれから私が彼を支えた事が無駄ではなかったと証明しなければなりません。
学校側はあまりに多くの子どもたちを切り捨ててきました。
でも諦めなければうまくいく事もあるのです。
我が校ではこれからもできるだけ可能性を信じて対応していきたいと思っています。
この1週間であの子たちのためなら戦い続ける価値があると分かりました。
どんな事をしても。
戦い続けます。
頑張って下さい。
オヨは今学期一切問題を起こしませんでした。
授業のあと家に帰る姿を見て彼はもう大丈夫だと確信しました。
この1週間で生徒たちに対する見方が変わりました。
今もいじめられている生徒はいますがそれを乗り越えた子も大勢います。
そしていじめている子も助けを必要としているのです。
私と同様生徒たちも互いを見る目に変化があったのでしょうか。
(拍手と歓声)
(拍手と歓声)
(拍手と歓声)
(拍手と歓声)
(拍手と歓声)
(拍手と歓声)誰よりも生徒たち自身が問題をよく理解していました。
彼らが歩み寄ってきた時私たちはそれに向き合うべきなのです。
2014/05/24(土) 16:00〜16:47
NHKEテレ1大阪
BS世界のドキュメンタリー「いじめを語ろう〜カナダ ある学校の試み〜」[二][字]
カナダのケベック州の学校で、生徒たちの議論やインタビューからいじめの実態を明らかにする。問題と向き合い、学校全体がいじめをなくそうというムードに包まれていく。
詳細情報
番組内容
カナダのジャーナリスト、マーク・ケリーがケベック州の学校に滞在し、教室でのオープンな議論や被害者と加害者、両方との対話からいじめの実態を明らかにしていく。番組が学校に設置した撮影ブースでは、数十名の生徒が、無人カメラに向かって自分の体験を率直に語った。一週間の取材過程で、学校全体がいじめをなくそうというポジティブなムードに包まれていく。近年、反いじめ法が整備されつつあるカナダで制作された番組。
制作
〜2012年 カナダ CBC制作〜
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – ドキュメンタリー全般
ニュース/報道 – 特集・ドキュメント
ニュース/報道 – 海外・国際
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 1/0+1/0モード(デュアルモノ)
日本語
外国語
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