クローズアップ現代「転勤できない社員続出〜企業・個人の模索〜」 2014.05.29

パソコンの向こうにいるのは夫と幼い子どもを残し単身赴任中のママ。
こちらの家族はパパが、この4月から単身赴任を始めたばかり。

大切な家族と、しばしの別れ。
じゃあ、いってきます。
サラリーマンってつらい。
サラリーマンの宿命ともいわれる転勤。
その在り方が今問い直されています。
番組が行ったアンケートには2000人以上の視聴者から転勤のつらさなどの声が寄せられました。
この女性は夫の転勤をきっかけにやむをえず仕事を退職。
転勤族のため再就職に踏み出せずマイホームなど将来の見通しも立てられないといいます。

この男性は30年の間に7回もの転勤を経験。
しかし、ここにきて親の介護のため転勤が難しくなりました。
今、家庭の事情で転勤が難しいとする社員が増え企業は転勤制度の見直しに乗り出しています。

会社の都合と個人の事情をどう折り合わせるか。
これからの時代の働き方を考えます。

こんばんは。
「クローズアップ現代」です。
会社からの辞令一つで全国各地のみならず全世界どこにでも異動を命じられる社員。
転勤はサラリーマンにとってやむをえないともいえる人事制度ですが今、企業はその転勤を命じることが難しくなってきています。
キャリアアップのためと打診されても転勤をちゅうちょする社員が増え転勤をきっかけに仕事を辞める人も少なくなく企業は大事な人材を失う可能性があります。
転勤の運用が難しくなっている大きな要因がご覧のように共働き世帯の急増です。
子育て世代では夫婦のどちらかが転勤になると家事、育児と仕事の両立が立ち行かなくなるとして男女を問わず転勤を望まない傾向が強まっています。
加えて介護に直面する社員も増えさらに定年延長で高齢社員も増加していますが健康上の理由などから転勤を望まない人が多いのが実情です。
つまり正社員であっても個人の事情で、働く時間や住む場所に制約がある社員が増え逆にどこにでも転勤できる社員が減っているのです。
とはいいましても事業の再編や新規事業を立ち上げる企業にとって社員を動かさざるをえないですし人材の育成の観点から新たな環境で仕事をさせることも大事だとされています。
さらに不正や癒着の防止などにも転勤が必要不可欠であるという見方もあります。
企業のニーズと社員一人一人の実情との折り合いをどうすればつけられるのか。
新たな制度を模索する企業の動きが活発になっています。
そうした中で、転勤と向き合わざるをえない社員もキャリアと個人的事情を考えながらの選択を迫られています。
初めに企業や個人の転勤を巡る模索をご覧いただきます。

番組が転勤について聞いたアンケートです。
2000人を超える視聴者から意見が寄せられました。
「仕事に就いてから38年転勤回数15回」。
この男性は、定年間際の今も単身赴任中です。
「転勤うつになる一歩手前だった」。
この女性は、夫の転勤についていくために仕事を辞め経済的にも精神的にも消耗したといいます。
「終身雇用と引き換えに辞令一つでどこへでも」だった従来の転勤。
今、そんな転勤が難しいとする社員が増えています。
金融機関に勤める栗林浩昭さんは入社して30年。
名古屋や千葉など全国8つの支店を回ってきた転勤族です。
しかし4年前心臓の持病を抱えた母親を自宅に引き取り介護することになりました。
転勤は厳しいと思ったそのやさき会社である制度が始まりました。
転勤を一時的に免除する特例制度。
これによって最大5年、転勤が免除されることになりました。

栗林さんが勤める金融機関は全国に152支店。
転勤は4、5年ごとにあります。
この制度を導入したきっかけは女性社員の離職率の高さでした。
全社員に行ったアンケートです。
「将来、離職の要因になりうるものは?」との問いに対して女性だけでなく男性も転居・転勤を第一に挙げたのです。

そこで社員の多様な事情に配慮しようと結婚、出産、育児や介護を理由とした転勤を一時的に見合わせる特例制度を整えました。
男女を問わず申請でき賃金や昇格にも影響ありません。
ユニークなのが結婚特例。
若手の男性社員に人気です。
結婚後2年は転勤が免除。
この男性はようやく共働きの妻と同居することができました。

これらの転勤免除制度を利用している社員は300人近く。
懸案だった離職率は改善しました。
しかし、新たな課題も見えてきました。
希望の勤務地が想定以上に大都市に偏っていたのです。

今後一層増えると見られる転勤免除の要望と全国への人事配置をどう両立させるか。
さらなる制度の見直しを進めています。
こうした転勤を一時免除する取り組みが企業に広がり始める中社員の側も働き方の選択を迫られています。

起きて。

東京都に住む大島資正さんは2人の幼い子どもと暮らしています。

あっ、ママの顔。

パソコンの向こうにいるのは関西に単身赴任している妻の季子さんです。

たっくん、食べてる?食べてないじゃん。

季子さんが単身赴任を始めたのは先月。
インターネットをつないで一緒に朝ごはんを食べるのが日課です。

妻の転勤を後押ししたのが資正さんでした。
出産後、仕事を抑え気味だった妻にとって転勤はキャリアアップの機会。
自分が家事・育児を引き受け妻を全力で支えようと考えたのです。
一方、自分は、働き方に制約が出ることを会社に相談し極力残業なしで働いています。

関西に単身赴任中の季子さんは飲料メーカーに勤めています。
出産後、しばらくは内勤で働いていましたが転勤をきっかけに、再び営業の最前線に立つようになりました。
子どもが、まだ幼いのにあえて、この時期に季子さんが転勤を決断したのは会社が女性社員の育成に大きく力を入れ始めたことと関係があります。
会社は、女性のリーダーを7年後までに現在の3倍300人にするという数値目標を掲げたのです。
子育て中の女性といえども転勤などによりさまざまな経験を積んでほしい。
そこで個人の事情に合わせ転勤の時期を選べる制度を作りました。
最大5年の転勤回避措置です。

季子さんは悩んだ末今は制度を使わず転勤を受け入れることにしました。
転勤回避の権利を使うなら今ではなく将来、子どもが勉強や友達関係で悩みを抱えがちな時期にしたい。
その分、今は転勤を受け入れてでも仕事に力を入れたほうがよい。
そう考えたのです。

季子さんは毎週末東京の自宅に帰ります。
ただいま。

かんぱーい!
乾杯!1週間お疲れさま。

新しい家族の形をみずから選んだ大島さん夫妻。
この生活はあと3年ほど続く見込みです。

今夜は、企業の人事制度にお詳しい、学習院大学教授、今野浩一郎さんにお越しいただいています。
キャリアのことを考えながら、家庭の事情もあって、転勤をいつ受け入れるか、みずから決めた女性、どうご覧になられましたか?
今の女性もそうなんですが、全体的にいろんな意味での家庭の事情等で制約のある社員が増えているんですね。
そうすると、制約っていうのは非常に多様ですので、したがって、多様な事情を会社と話して、それで、会社は会社で事情がありますから、会社と相談をして、それでどういう仕事をする、どういうキャリアを取るかということを、しなくてはいけない時代になってきてますので、私、そういうのはよく働いている人は、賢い交渉人になれって言うんですけど、そういう形で、選んでいって、それで例えば転勤もそうですが、仕事もそうですが、キャリアもそうですが、チョイスをしていくということが求められる時代になってきたと。
したがって、先ほどのVTRも結局、そういう形でチョイスをされた事例かなというふうに見てましたけど。
かつては本当に命令一つで、あっち行け、こっち行けということで、社員は従ったわけですけれども、そうではなくなってきた中で、この転勤制度っていうのは、ある程度、限界に今、きていると思いますか?
少なくとも、見直さざるをえないような状況になってきていると。
一つは今、言ったように制約を持った社員たちが増えてきているということがあります。
もう一つは、特にホワイトカラー系の社員ですが、キャリアの作り方が変わってきているということがあります。
昔であれば、多くの人たちが管理職に向かって、幅広い能力を持つためには、幅広い経験をする。
そのために、みんなで転勤をするという人事政策が取られてきましたけれども、今は多くの人たちがエキスパートです。
専門性を生かしたエキスパートで生きるってことになってきていますので、そうすると、そういうことに合わせて、転勤政策も変えざるをえないという状況になっていると。
そういう意味で、転勤政策は見直しかなというふうに思いますけど。
今のVTRにありましたように、特例を設けるとか、免除期間を設けるといったその企業は、まだ少ないんですけども、こうした制度の導入というものを考えざるをえなくなって、そういう制度を持った企業というのは、働く側からすると、どう見えるんでしょうか?
それは先ほど言いましたように、制約を持っている社員が増えてるわけですから、そうすると、制約と折り合いをつけながら働くということが、当然必要になってきますので、そうすると、折り合えないと働けないということになりますから、そうすると、会社からすると、折り合えないで辞められれば、優秀な人材を失うってことになりますから、ですから、働く側からもそうですが、雇う側からも同じようにそういう制約を持った人たちが働きやすいような状況を作るということが非常に重要で、その点からも、転勤の見直しということが必要になってくるんだろうと思いますけど。
必ずしもそうした制度を持っているところは多くない中で、やはり、上司というのは、いい聞き手にならなければいけないということになりますよね。
そうですね。
先ほど言いましたように、個人の事情と会社の事情をすり合わせるということですから、それはやっぱり、昔以上に話し合わなきゃいけないじゃないですかね。
昔は本当に、男性で、そして転勤も受け入れる。
楽だったでしょうね、人事っていうのは。
それはいろいろあるでしょうけど、人を配置するっていう意味では、楽だったんじゃないでしょうかね。
しかし、転勤できる人とできない人がいろいろ出てきた中で、転勤の制約のない方が、どんどん転勤ばかりさせられて、不公平感が生まれるんではないかという気がしますけれども。

そういう点については企業も少しずつ制度的な対応していて、一つの典型的な例は、転勤のない社員というタイプを作って、普通、勤務地限定社員といいますが、それと転勤のある社員とタイプを分けて、それで処遇すると。
そのときに転勤のある社員は、転勤ってやっぱり負荷がかかりますから、それに対して配慮をしなきゃいけないので、その分だけ少し2つのタイプの社員で賃金差をつけるという政策で、大体大企業の場合だと、1、2割ぐらいの賃金差をつけるというのは多いと思いますけど。
転勤ができない制約のある社員が増えている中で、企業は、非正規雇用の人たちの活用の在り方を改めて見直しています。
非正規から正社員へ登用する動きが目立ってきています。
大きな特徴が、転勤しなくていい正社員という働き方です。

全国に2600店舗を展開する外食チェーンです。
宮城県の石巻店で店長を務める及川満枝さんです。

おはようございます。

及川さんは15年前からこの店でパートや契約社員として働いてきました。
子育ては一段落しましたが高齢の両親と同居しているため転勤はできないと、正社員になることは諦めていました。

こんにちは。
いらっしゃいませ。

ところが契約社員で店長を務めていたことし1月会社の方針によりほかの店への転勤がない店舗限定の正社員になりました。

全国チェーンの企業ながら転勤なしで正社員として定年まで働けることになったのです。

基本給は全国転勤がある社員より25%少ないですが正社員になったことで通勤に使う自動車の保険など福利厚生が充実。
責任もありますがやりがいは増したといいます。

この制度が出来たきっかけは非正規の契約社員の訴えでした。
正社員と同様の仕事をしているのだから収入や雇用も同様にしてほしいというのです。
今、外食産業では人材の囲い込みが激化しています。
地域に根ざした優秀な人材を確保するために転勤のない店舗限定の正社員という制度が必要でした。

転勤なしの正社員店長になった及川さん。
地域の知り合いから売り上げアップにつながる情報をいち早くキャッチ。
独自のサービスを展開しています。
例えば、近所の主婦が誕生会や子ども会の会合向けの場所を探していると聞き貸し切りスペースを設置しました。

ファイト、オー!
こうした企画を実現するために欠かせないのがパートのスタッフの力です。

パートのスタッフにとって及川さんは社員の店長といえどつきあいが長く気心が知れた存在。
抜群のチームワークを生かして全国有数の業績を誇っています。

宮城エリア1位!全国7位!
イエーイ!
すばらしい!
これまでは、それまで転勤ができないということで、正社員になれなかった人が地域限定、あるいは店舗限定という正社員というポジションが出来たことで、正社員になれる。
これ、雇用の安定化にもつながっていきますし、収入も増えていくということになりますよね。
この点を理解していただくために、いくつか重要な事実をお話をしたいと思うんですが、一つは、ご存じのように、非正社員の人が増えているということがありますが、それと同時に、正社員と同等の仕事をしている非正社員の人が増えているということが、大切。
能力の高い方々ですよね。
もう一つ、重要なことは、そういう非正社員の人たちに意欲を持って働いてもらわないと困る会社が増えてきているということです。
したがって、今度会社からすると、そういう意欲を持った、能力のある非正社員の人には、どんどんいい仕事をしてもらって、経営成果を上げるということが非常に重要になってきますので、そうすると、そのための一つの制度っていうか、施策として、転勤のない正社員に移っていただいて、またキャリアを伸ばしていただくということだと思います。
そういう点からすると、従来の非正社員の人たちをもっともっと活用するという政策として、非常に重要だ、非常に注目すべき政策だというふうに思いますけど。
特に人材不足が外食や小売り業では今いわれていますよね。
15歳から34歳の若年の生産労働人口が10年で2割減ったという数字もありますから、本当に人材確保という意味でも、こういう施策というのが取られてるのかなと。
日本社会全体で考えると、今言った非正社員の例は少しこう、ひるがえってみると、そういう社員の人たちを十分に活用しなかったってことですよね。
こういう非正社員の人たちっていうのは、多くは転勤ができない、制約的な社員なので、そのほかいろんなタイプの制約社員の人がいらっしゃるんですが、全体として、やっぱり制約社員の人たちを十分に活用しきれてこなかったというのは、これまでの日本の状況で、そういう点では、今出てきたような政策で、そういう人たちの活用を進めるというのは、日本経済全体にとっても非常に重要だというふうに思いますけど。
とにかく、企業にとっては制約ある社員の方々を、どう活用していくのか。
人事制度の見直しも進みそうですね?
そうですね。
従来と違って、一人一人を見る、一人一人を見て評価するという、こういう人事制度が必要になってくるだろうというふうに思います。
どうもありがとうございました。
2014/05/29(木) 00:10〜00:36
NHK総合1・神戸
クローズアップ現代「転勤できない社員続出〜企業・個人の模索〜」[字][再]

介護や育児などを理由に、転勤できないとする社員が続出、転勤制度を見直す企業が相次いでいる。一方、非正規から転勤しない社員への登用やママが単身赴任という家族も登場

詳細情報
番組内容
【ゲスト】学習院大学教授…今野浩一郎,【キャスター】国谷裕子
出演者
【ゲスト】学習院大学教授…今野浩一郎,【キャスター】国谷裕子

ジャンル :
ニュース/報道 – 特集・ドキュメント
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事

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音声 : 2/0モード(ステレオ)
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