があると思いますね。
日本はそうした議論というものを、今まであまり。
得意じゃなかったというふうに思います。
そういうことをやはりやれるような社会に変わっていく。
そういうことが求められるようになったんだろうと、そういうふうに思います。
そのクリーニング店には全国から特別な服が届く。
20年以上前のドレス。
娘に着てほしいと母が残していたものだ。
教え子から贈られた記念のトレーニングウエア。
手がけたのはこの道60年の職人。
74歳の今も未知の汚れとの格闘を楽しむ。
業界で神様と呼ばれる男。
他の職人が落とせなかったシミや汚れ。
古田は経験に裏打ちされた高い技で果敢に挑む。
名だたる高級ブランドも古田の腕を頼ってくる。
(主題歌)古田はこれまで洗えないとされてきたシルクや毛皮などにも新たな手法を開発。
クリーニングの可能性を広げた。
飛躍を誓った30代の挑戦。
だが客は全く来なかった。
古田のもとに40年以上前のワンピースが届いた。
難しい修復を古田は息子に託した。
形見の服に込められた亡き母の思い。
クリーニングに人生を懸けた男の熱き闘いに密着。
古田のクリーニング店は東京・南麻布にある。
(取材者)おはようございます。
おはようございます。
開店前必ず行う事がある。
おはようございます。
おはよう。
元気?はいいってらっしゃい。
おはよう!おはようございます!おはようございます。
(2人)おはようございます。
はいいってらっしゃい。
おはようございます。
店の前を通学する小学生との挨拶だ。
おはようございます。
古田の店は一般的なクリーニング店とは一線を画している。
作業場には洗うのが難しい高級ブランド品がずらりと並ぶ。
中には100万円を超えるオートクチュールもある。
よそでは扱えないような服を多彩な技術で再生させるのだ。
おはようございます。
店には連日全国から大量の服が送られてくる。
個人客のみならず他のクリーニング店までもが古田の腕を頼ってくる。
それを30人の職人が手分けして取り扱う。
中には裁縫を専門に行う職人もいる。
徹底的に汚れを落とすためあらゆる手段を尽くしている。
古田が一着のカーディガンに取りかかるという。
依頼してきたのは30年来のつきあいだという客。
素材はカシミヤ。
そのあちこちにシミが付着していた。
古田の店ではシミ抜きに50種類もの薬剤が用意されている。
シミはその状況次第で取り除く方法が全く違うからだ。
簡単なシミなら一般的な薬剤で周りを取り囲み水流の力で繊維から引き離す。
だがシミの成分の粘着性が高く水流では引き離せない場合。
シミの分子をバラバラにする薬剤を用いて水に溶けやすくする。
それでも落ちない場合更に強力な薬剤で分子よりも細かいイオンにまで分解する。
だが薬剤は強力になるほど洋服の繊維も傷つけてしまう。
シミの原因を正確に見抜き最も適したものを選び出す。
このシミの原因はしょうゆを用いた介護食の食べこぼしだ。
読みどおりシミが抜けた。
最後の一つに取りかかる。
このシミだけアンモニアでは落ちない。
次の一手をどう打つか。
イオンに分解する薬剤を新たに作り始めた。
化学反応が起きやすい温度まで熱する。
繊維を傷つけないよう慎重に進める。
見事に落としきった。
更に水洗いを行い全体の汚れを落としていく。
古田は一つの自負を胸に洗い場に立つ。
このカーディガンは持ち主が20年前に夫からプレゼントされたもの。
その夫は今寝たきりの生活が続いている。
持ち主はこのカーディガンを着て介護を続けているという。
古田が仕上げのアイロンがけに取りかかった。
3kgあるアイロンを僅かに浮かせてかける。
毛先をなでるようにギリギリの間隔で滑らせる。
巧みに熱を伝え風合いを新品同様まで再生する。
20年着続けてきたカーディガン。
輝くようなつやを取り戻した。
圧倒的な技を持つクリーニング師古田武さん。
そのこだわりは型破りだ。
古田さんはほぼ全ての洋服を水洗いする。
ドライクリーニングしかできないはずのジャケットもこのとおり。
たまったあかやほこりはドライクリーニングでは落としきれないからだという。
だが水を吸った繊維は縮んだり型崩れを起こしてしまう。
そのため特殊な機械を用いる。
「人体プレス」だ。
ジャケットを着せ中から蒸気を当てる事で縮んだ繊維を元の状態に伸ばしていく。
洋服の立体感を追求するため古田さんが自ら設計したという。
あらゆる手間を惜しまない。
その思いは徹底している。
この日店では職人たちが難しい仕事に取り組んでいた。
プリーツが特徴的なこのブラウス。
実は他のクリーニング店からプリーツを誤って平らにしてしまったと復元を依頼されたのだ。
裁縫担当の職人が全てのプリーツにミリ単位で折り目の目印をつける。
その目印をもとに一本一本アイロンでプリーツをよみがえらせていく。
2日がかりで116本のプリーツを復元させた。
また一件古田にSOSが入った。
訪ねてきたのは大手百貨店の婦人服担当。
販売した服の染料が客のバッグやシャツなどに色移りしたという。
原因はこの青色のブラウス。
何とか元に戻せないかと古田を頼ってやって来た。
どうぞおかけになって下さい。
いくつか薬剤を用いてシミの性質を探ってみる。
だが薄まる気配すらない。
想像以上の難敵。
古田は生地を傷める可能性を説明した上で引き受ける事にした。
色移りの原因となったブラウスを調べ始めた。
今度はシャツについたシミを調べる。
経験のない色ジミ。
考えつく薬剤を試すしかない。
染料に金属が含まれているのではないかと考え金属を溶かす薬剤を塗ってみる。
一向に抜けない色ジミ。
だが古田は諦めようとはしない。
古田がブラシを取り出した。
そしてシミをこすり始めた。
なるほど。
ヒントをつかんだ。
いよいよ最も重要なバッグに取りかかる。
未知の染料。
だが溶剤とブラシの両面作戦で初めて効果が上がるとつかんだ。
通常こするのは生地を傷める禁じ手。
古田は生地の強さを見極めギリギリを攻める。
更に洗剤を入れたバケツでバッグを水洗いする。
バッグが干し上がった。
バッグの色ジミはほとんど見えなくなっていた。
服についたものも目立たなくなった。
百貨店の担当者が受け取りにやって来た。
ありがとうございました。
うまいよこれは。
この日古田さんは孫の運動会に出かけた。
珍しく仕事を抜け出しカメラマンを買って出た。
実は古田さんは我が子の運動会には一度も足を運んだ事がない。
365日働きづめに働いてきた。
それは自らの仕事への誇りをかけた闘いの日々だった。
昭和14年古田さんは長野の山村に生まれた。
唯一残っている写真は村祭りで舞台に立った時のもの。
人を楽しませるのが大好きだった。
家が貧しかったため食いぶちを得ようと15歳の時上京。
東京・飾にあるクリーニング店に就職し住み込みで修業を始めた。
3年がたったある日古田さんは配達途中に客の服をなくしてしまう。
店主に頭を下げ謝ったが思わぬ言葉を浴びせられた。
驚きのあとに猛烈な悔しさが襲ってきた。
殴られたり蹴っ飛ばされたりするのはね我慢できるけど信用されないっていうのは一番つらかったですね。
それは我慢できなかったです。
だってお前は泥棒したんだろって言われているのと同じですから。
姉の所に行ってお金借りて弁償してそれで「辞めさせて下さい」って言って辞めたんです。
やむなく都内の別の店に再就職した。
ここで古田さんは運命の出会いをする。
その高い技術は業界でも評判だった。
他の店が断るような服も引き受け夜を徹して洗い場に立っては必ずシミを落としてみせた。
「ここで仕事に打ち込もう」。
古田さんは家族にも恵まれ小池さんのもとでより一層技を磨いた。
だが古田さんはまたもや屈辱的な思いを強いられる。
客の家に配達に出かけ玄関をくぐるとこんな言葉をかけられた。
どれだけ頑張っても所詮この仕事は誰にも誇れないのではないだろうか。
そんな古田さんに小池さんが一つの提案をした。
当時最先端と言われた「アメリカ・ビバリーヒルズのクリーニング店を視察してみないか」。
それは目を見張るような驚きの連続だった。
取り扱うのは数十万もする服ばかり。
それを圧倒的な技術で新品同様によみがえらせていた。
顧客はハリウッド女優などセレブばかり。
職人たちは尊敬を集めていた。
帰国した古田さんは小池さんに「自分もあんな仕事がしたい」と願い出た。
小池さんはその思いをくんだ。
新たに高級服専門のクリーニング店をつくり経営を古田さんに任せた。
だがそれこそが本当のいばらの道の始まりだった。
技術に見合った高い料金を設定したが理解してくれる客は少なく受付のアルバイト代すら稼げない日々が続いた。
半年たったある日出入りの業者から思わぬ事を聞いた。
社長の小池さんが支払いを3か月も滞らせているという。
原因は古田さんが立ち上げた店の赤字だった。
すぐさま小池さんにわびを入れに出かけた。
店の閉鎖も覚悟した。
だが小池さんは古田さんにこう言葉をかけた。
涙が出るほどうれしかったですね。
という事は私を信用してくれたわけでしょ。
だから絶対成功させなきゃならないっていう事だけはあの時に思ったんですよ。
古田さんは「仕事の鬼になる」と決めた。
シミ抜き洗いアイロンがけ。
全てにおいて圧倒的な仕事をする。
来る日も来る日も研さんを積んだ。
次第に右腕に激痛が走るようになった。
アイロンの浮かせがけが原因だった。
それでも古田さんは更なる技術を求め続けた。
365日働きづめの日々。
次第に店の評判が広がり難しい服の依頼が次々と届くようになった。
店を開いて6年目の事。
古田さんは社長の小池さんに呼び出され思わぬ言葉をかけられた。
その日から30年古田さんは小池さんとの日々を忘れた事はない。
ずっと…ずっとずっと死ぬまであの社長には感謝して生きる事になると思いますけどね。
あんな人間になれたらいいと思いますけどね。
(古田)おはようございます。
(子供たち)おはようございます。
(古田)はいいってらっしゃい。
6月上旬。
古田は病院に向かっていた。
肩の痛みがひどくアイロンを持つ事すらできなくなっていた。
古田の肩は長年の酷使で骨にひびが入りこれまで2度手術を受けている。
痛み止めを打ちながら仕事を続けてきたが古田は引き際を考え始めていた。
一人の弟子に後を託そうとしていた。
古田のもとで修業を始めて20年。
社長として店の切り盛りも既に任せている。
だが最後に最も大事な事を伝えなければならない。
古田はその時を待っていた。
この日陽祐が一着の服を預かった。
母の形見だという40年以上前のワンピースだ。
レースの内側をオーガンジーと呼ばれる極薄の生地が覆う複雑な構造。
30か所以上もシミがある上生地の劣化も進んでいる。
極めて難しいケースだ。
古田がワンピースを確認する。
あらららら…。
その日の夜陽祐は古田にこのワンピースを担当してほしいと頼んだ。
しかし古田の答えは意外なものだった。
陽祐の技術力は今や古田に引けを取らない。
だが難しい服の多くはこれまで父が受け持ってきた。
レースの部分だけ取り外せばあそこは丈夫なんですよ。
だからあれは多分大丈夫だと思う。
だけどあれだけきれいにしてで本体は洗わないでそのまんま取り付けて返して納得するのかどうかっていう。
はいどうぞ。
どうぞお入り下さい。
ワンピースを依頼したのは2人の姉妹だった。
去年10月に亡くなった母。
姉妹はまだその悲しみを克服できずにいるという。
この時はこうだったねとかこれ着てどこどこ行って楽しかったねとかってそのころの記憶がすごいよみがえってくるとかありますよね。
母は大切にしていた洋服をいつか娘たちに着てほしいと願っていた。
それはやっぱり母が着てたっていう思い出があるので自分が着られたらなんかうれしいですけどね。
陽祐はワンピースを前に悩みを深めていた。
シルク製のオーガンジー。
繊細な扱いが求められる。
20年前陽祐は古田の反対を押し切ってこの道に入った。
仕事にかまけ全く遊んでくれなかった父。
それでも父が働く姿に憧れを抱いてきた。
古田はあえて陽祐に声をかけずにいた。
一つの思いがあった。
何でうちに持ってきたの?何とか着たいからでしょ。
…って事は期待を持って来てるわけだからそれを裏切っちゃってで「すいません」じゃすまない。
そういう怖さをまだ分かんないからみんな。
引退を意識し始めた古田。
全国にいる弟子たちにもできるだけの事を伝えようとしていた。
この日も目をかけていた弟子を訪ねた。
あっこんにちは。
古田のもとで5年間修業し地元福岡で独立した。
古田はスーツの仕上がりを見始めた。
平土井さんはかつて自分の仕事に誇りが持てずクリーニングを辞めようとしていた。
この日古田は帰る時間ギリギリまで職人たちを指導し続けた。
店では陽祐が夜遅くまで洗い場に残っていた。
明日いよいよワンピースを洗う。
失敗の恐怖と一人向き合い続けていた。
それはプレッシャーはありますよね。
正直「よしやってやるぞ」っていうよりかはやっぱりまだ怖いっていう気持ちの方が大きいかな。
ただ何だろうな負けたくないっていう気持ちもそれはあるんですよ。
勝負のシミ抜きが始まった。
選んだ薬剤をまずは目立たない箇所で試してみる。
シミは落ちたが繰り返し塗るとオーガンジーが白く変色してしまう。
1回の塗りでシミを抜ききらねばならない。
加える熱の温度に細心の注意を払い次々とシミを落としていく。
だが一つ難しいシミがあった。
肩口にあるシミ。
繊維の奥深くまで入り込んでいる。
だが一回では抜ききれない。
慎重にもう一度挑む。
それでも僅かにシミが残った。
これ以上やると台なしにしてしまうおそれもある。
あと1〜2滴だけ薬剤を試したい。
つまようじならピンポイントでシミを攻められる。
1滴垂らした。
更にもう1滴。
ついに抜ききった。
その時だった。
(主題歌)あっどうもいらっしゃいませ。
姉妹がワンピースを受け取りにやって来た。
出来上がりがこちらになるんですけども。
大丈夫ですか?
(陽祐)よかったです。
親子は再び服と向き合う。
飽くなきチャレンジかな。
挑戦。
自分の知らない事がいっぱい出てきた時に何とかそれを可能にするための挑戦。
挑戦していかないとプロじゃなくなっちゃう。
2014/05/30(金) 00:44〜01:32
NHK総合1・神戸
プロフェッショナル 仕事の流儀「クリーニング師・古田武」[解][字][再]
神様の異名を取るクリーニング師、古田武。百貨店や高級ブランド、同業者までもが頼りにする。謎の色ジミとの闘い、姉妹が依頼した母の形見のワンピースに向き合う職人魂。
詳細情報
番組内容
「神様」の異名を取るクリーニング師・古田武(75歳)。個人客のみならず、百貨店や高級ブランド、同業者までもが頼りにするスゴ腕だ。古田の店には100万円を超えるオートクチュールや母の形見の洋服など、難しい品が全国から送られてくる。それを多彩な技を駆使し、新品同様に洗い上げるのだ。番組は、どんな薬品を用いても落ちない謎のシミと格闘する古田に密着。クリーニングに人生をささげた職人の飽くなき挑戦を追う。
出演者
【出演】クリーニング師…古田武,【語り】橋本さとし,貫地谷しほり
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – ドキュメンタリー全般
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化
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