福島第一原発へと通じる一本の道。
この道沿いにここ数年売り上げを伸ばしているスーパーがあると聞いた。
生鮮食品から日用品まで。
何でもそろうこの場所に震災後いろんな背景を持った人がやって来るようになった。
東京都知事選で原発問題が争点の一つとなった2月上旬。
福島のスーパーにカメラを据え人々の声に耳を傾けた。
撮影初日は金曜日。
お昼どきを狙ってカメラを回し始めた。
原発から僅か39km。
どこにでもあるごくごく普通のスーパー。
安く品ぞろえ豊富な生鮮品がここの売り。
いわき市を中心に展開するチェーンでもう50年地元の暮らしを支えてきた。
早速生鮮品コーナーで熱心に話し込む女性たちを発見。
偶然出会ってつい話に花が咲いたらしい。
またお知り合い。
やっぱりお昼どきのスーパーは地元の社交場のようで。
それにしても目立つのは年配の人ばかり。
何を買っているのかな?働きに出る若い世代のため孫の食事の世話はおばあちゃんたちの仕事。
でも食品の産地には細かく気を遣ってるみたい。
あれ?お年寄りの中に学生服の若者。
しかも男子と女子の4人組。
高校3年って事は震災の1か月後に入学したんだ。
いろいろあったこの3年を一緒に駆け抜けた仲間。
卒業を前にどんな事語り合うのかな?夕方近く今度はお総菜コーナーが慌ただしくなってきた。
お弁当やおかずがどんどん並べられていく。
それにしてもすごい数。
震災後なぜかこのお総菜コーナーが急激に売り上げを伸ばしているという。
作業着姿の男性ばかりが買っていく。
年明けに神戸から復興関連の仕事で来たらしい。
あっまた作業着の人だ。
事故のあった原発がある大熊町に通い放射能で汚染された町全体を除染して回っているという。
そうですね。
もうここの…今度はちょっと怖そうな感じの人。
(取材者)NHKでお邪魔しまして。
何の?お客さんにいろいろお話聞くっていうスーパーに密着する番組で。
おっポイントためてるんだ。
通い慣れた様子。
今日はお酒ですか?肉食うからビール飲もうかな思うて。
いいですね。
めったに飲まないけど。
羨ましい。
もう今酒飲酒運転できんから家で飲むしかねえんだわ。
何でももう27年全国各地の原発を転々と渡り歩いてきたという。
スーパーを通り過ぎるいろんな人たち。
震災から3年たった福島の日常。
この日は全国各地に大雪警報が出されていた。
いわきは東北とはいえ比較的温暖で雪が少ない地域。
しかし朝から警戒が呼びかけられていた。
それを聞いてか店には開店直後からお客さんが詰めかけてくる。
すみません。
NHKなんですけど…みんなが急いでいる中どことなくのんびりとした男性。
仕事は大工さん。
震災で壊れた家を直して回っているらしい。
腕には自信があるという。
ならば自慢のご自宅を拝見。
雪道を走る事40分。
結構遠い。
原発から20km圏内に入った。
でもここってまだ住む事が禁止されている区域のような…。
ホントだ!全く壊れた様子がない。
だけど人だけがいない。
広いですね。
14年前家族みんなで住むために建てた家だったという。
今子どもたちは孫を連れて茨城に避難し彼だけが仕事でいわきに残った。
丹精込めて造った家。
少し空気を入れ替えて夕方にはまたいわきの仮住まいに帰る。
いらっしゃいませ。
何買いに?翌日ようやく雪はやんだ。
でもお客さんの出足は鈍い。
ヤッホー!駐車場で雪遊びしながら親の買い物を待つ兄弟がいた。
震災以降避難区域になった自宅に帰れず各地を転々としている。
だけど底抜けに明るい。
わ〜パパ!ちょっと待って!早く。
行くよほら。
は〜い!すみません。
どうも。
(2人)バイバ〜イ!失礼します。
お客さんが少ないせいか従業員もはやばやと休憩してお昼を食べていた。
(テレビ)「東京都知事選挙には新人16人が…」。
この日はちょうど東京都知事選挙の投票日だった。
(テレビ)「記録的な大雪となった関東甲信地方に続き…」。
やっぱり地元の関心は記録的な大雪の情報なのかな?午後店先で休憩している人がいた。
あれ?喪服?震災のあと地元のお葬式の形も大きく変わったという。
休憩もつかの間次の現場へと向かっていった。
少し客足が戻ってきた店内。
すごい量の食品を買い込む人がいた。
なんと買い物かご3段重ね。
ひゃ〜すごい。
どんどん積み上げてもうかごから落っこちそう。
駐車場にご主人が待っていた。
それにしてもミーティングって何の集まりだろう?仲間と桜の苗を植え町に新しい名所を作る計画を進めている。
現状を嘆いてばかりはいられない。
みんな少しずつ前に進んでいる。
8時過ぎ副店長が休憩室で一息ついていた。
テレビでは都知事選の結果が流れていた。
「東京都知事選挙舛添要一さんの当選が確実になりました」。
「原発に依存する体制を少しずつ減らしていくというのはこれは重要です。
しかし…」。
結局原発問題は争点としていまひとつ盛り上がらないまま終わった。
初日に出会ったあの原発を渡り歩くおじさんから宿舎を見に来ていいと連絡が入った。
すみません。
お邪魔します。
ここが作業員3人で暮らす民家。
この6畳一間が彼の部屋。
意外にきちんと整頓されている。
おじさんはずっと独り身。
こうした宿舎で寝起きしながら各地の原発を転々としてきた。
半端者なんですか。
一時は寺の後継者として期待もされた。
でもいろいろあって寺を飛び出す事になった。
たどりついたのが原発の仕事。
以来この道一筋でやってきた。
今年63歳。
毎日の仕事は楽じゃない。
ささやかな楽しみはスーパーで買った漬物をつまみに1人でお酒を飲む事なんだって。
そうですか?一杯やったら一眠り。
朝が来ればおじさんはまた原発事故の現場に戻っていく。
今日は雪の影響で材料遅れているんですよ。
すみません。
2014/05/30(金) 03:30〜03:55
NHK総合1・神戸
ドキュメント72時間・選「福島 早春のスーパーから」[字]
毎回ひとつの場所にカメラをすえるドキュメント72時間。今回は福島県いわき市の食品スーパーに密着する。原発事故から3年、福島の人たちが胸に秘めた思いとは?
詳細情報
番組内容
福島県いわき市。原発に向かう街道沿いに、「あの日」以来、売り上げを大幅に伸ばしているスーパーがある。主力商品は弁当や総菜。夕方になると、仕事帰りの原発作業員や除染作業員たちが大勢押し寄せる。同市は、事故以降、復興のために人が集まり、逆ににぎわっているという。「夕食の材料を買う地元主婦」「原発近くの村から避難してきた人たち」「復興を手助けする作業員」が行きかうスーパーで、福島の今を見つめる。
出演者
【語り】吹石一恵
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
ドキュメンタリー/教養 – 歴史・紀行
情報/ワイドショー – 暮らし・住まい
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音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz
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