上方落語の会「手水廻し」桂そうば、「住吉駕籠」笑福亭松枝 2014.05.30

ご機嫌いかがですか?落語作家の小佐田定雄でございます。
今日はこの会から笑福亭松枝さんと桂そうばさんの落語を2席お楽しみ頂きましょう。
この番組名物になりましたすばらしいゲストをお呼びしてます。
タレントの河島あみるさんです。
どうぞ。
よろしくお願いします。
ようお越し遊ばせ。
えらいお世話になってます。
ありがとうございます。
こちらこそ。
落語とのご縁はどういうご縁ですか?実は桂南光さんのおうちと我が家の河島英五ファミリーが昔から家族ぐるみで仲良しでですから近所のおっちゃんが落語家さんやったみたいな状況で。
そんなご縁で何度も落語は見せて頂くようになりましたね。
大好きです。
どんな演目がお好きです?南光さんでしたら「初天神」ですとかざこばさんの「子は鎹」。
何せあの小憎たらしい子どもが出てくるのが大好き。
ケタケタ笑いながら見てますね。
そのざこばさんのお弟子さんでございます桂そうばさんの「手水廻し」からお聞き下さい。
どうぞ。

(拍手)はいありがとうございます。
温かい拍手どうもありがとうございます。
まずは桂そうばの方でおつきあい願いたいと思います。
私上方落語大阪の落語をやる人間なんですけれどもね出身は福岡県でございまして九州男児なんでございます。
この九州の人間がこちら関西に出てまいりまして何が一番苦労するかと申しますとやっぱり関西弁でございましてアクセントはもちろんの事なんですけれども単語単語で変わってる言葉なんかございましてね。
私が一番最初に驚きましたのが標準語で言いますところのものもらい。
関西弁でめばちこ。
目がばちこんってなるからめばちこ。
すごいネーミングセンスしてるな思いましてね。
次に驚きましたのがあの寒い時に立つ鳥肌。
関西弁でさぶいぼね。
寒い時に立ついぼやからさぶいぼ。
品のかけらもございませんよね。
言葉っちゅうのは面白いなと思うんですが昔の古い言葉に手水を使うという言葉がございましてね。
手水漢字で書きますと「手」に「水」と書いて手水でございます。
どういう意味かと申しますと昔は顔を洗ったり歯を磨いたりする事を手水を使うと言ったそうでございましてこの手水を使うという表現のほかにも手水を廻すというような表現もございまして。
これどういう事かと申しますとね宿屋か何かに泊まりまして「すんません手水廻して下さい」言いましたらそこのおかみさんか何かがたらいか何かに水を入れて持ってまいりましてその部屋部屋で顔を洗ったり歯を磨いたりする事ができたそうでございます。
この手水を使う廻すという表現が大阪とか京都とかこういう繁華な所では意味が通じたんですけれどもちょっと田舎に行きますと全く意味が通じなかったそうでございましてそういう時分のお話でございましてある大坂のお客さんが田舎の宿屋に泊まりましてさあ顔でも洗おかないうとこから落語が始まりまして…。
「ああ〜よう寝たな。
顔でも洗おかな。
うん」。
(手をたたく音)「これすんませ〜ん!誰ぞ来てもらえませんかいな?これすんませ〜ん!」。
「はいお客さん。
おはようさんでございます」。
「おはようさんでございます。
あ〜すんませんけどねここへ手水を使いたいんで廻してもらえませんかいな?」。
「お客さん何でございます?」。
「手水を廻しとくんなはれちゅうてますねやがな」。
「チョウズを廻すんですか?チョウズを廻す…。
一度私の主人の方と相談してからまた参りますのでしばらくお待ちを。
旦さん旦さん」。
「お〜おなべどんおはようさん。
どないしたんや?」。
「昨晩からお泊まりの大坂のお客さんがチョウズ廻してくれと」。
「何やて?」。
「チョウズ廻してくれと」。
「『チョウズ廻してくれ』と?チョウズチョウズ…。
あ〜チョウズ。
そんなもんわしんとこに言いに来てもあけへんがな。
そういうチョウズってなもんはな皆板場料理人に任してあんねん。
喜助に聞いてこい」。
「さいでございますか。
えらいすんませんでございました。
喜助どん喜助どん!」。
「お〜おなべどんおはようさん。
どないしたんや?」。
「昨晩からお泊まりの大坂のお客さんがチョウズ廻してくれと」。
「何やて?」。
「チョウズ廻してくれと」。
「『チョウズ廻してくれ』と?チョウズチョウズ…。
わし長い事板場やってるけどチョウズってな料理聞いた事ないで。
何?旦さんがわしのとこに聞いてこいって。
あ〜そう。
分かった分かった。
これ旦さんが新しく考えなはった料理かも分からんな。
わしが旦さんにじかに聞いたるさかいな任しとき任しとき。
旦さん旦さん!」。
「お〜喜助。
おはようさん。
どないしたんや?」。
「今ねおなべどんが私のとこへ来て大坂のお客さんがチョウズ廻してくれいうて私のとこに参りましたんやけど私長い事板場やってますけどチョウズってな料理聞いた事ございませんねんけどこのチョウズっちゅうのはどんな料理でございますかいな?」。
「何を言うてんねんお前。
チョウズやがな。
知らんかえ?廻したらええねや廻したら。
廻しんかいな。
あっあんたもしかしてチョウズ知らんの?かぁ〜情けない!あんたええ年してチョウズ知らんのかいな。
かぁ〜情けない!ええ?何?わしかいな。
知らんがな。
あんたも知らんわしも知らん。
もう一遍お客さんとこ行って『すんません。
チョウズっちゅうのは何を廻すんですか?』聞きに行かれへんがな。
これどないしよ。
困ったな。
ええ事思いついた。
あそこのお寺のズク念寺の和尚。
あの人長い事生きてはんねや。
あの人に聞いたら分かるやろ。
あのな『チョウズっちゅうたら何を廻すんですか?』聞きに行きなはれ。
あのな『大坂のお方や』言いなはれや。
頼んましたで」。
「旦さん行ってまいりました」。
「どや?分かったか?」。
「さすがは住職でございます。
『ちょっと待ちや』言うて紙に書いて頂きましたんで。
うわ〜立派な字でございますわ。
『チョウズを廻すとは』と書いてあります。
『チョウズ。
チョウというのは短い刀を短刀長い刀を長刀という。
ズというのは腰痛を腰痛頭痛を頭痛という。
つまり大坂のお客さんがおっしゃったチョウズを廻してくれというのは長い頭を廻しなさい』と。
このとおり絵まで描いてございますわ」。
「ほんまかいな。
ちょっと見してみ見してみ。
うわ〜これ長い頭の人やな。
なるほどな。
長い頭で長頭か。
これは間違いないわ」。
「はあ〜なるほどな」。
「長い頭で長頭か。
長い頭…。
いやちょっと待ちや。
おい。
その長い頭で長頭っちゅう事はよう分かってんけどなその肝心の長い頭ってなもんうちあれへんがな。
そんなやつどこにいてる?」。
「旦さん1人だけございました。
この隣村に住んどります市兵衛ちゅう男。
この男が旦さん頭が長いの長うないの。
3尺の手拭いで頬かむりがでけんというぐらい。
長いなんてもんやおまへんで。
長い長い。
この男連れてきてお客さんの前でビュ〜ンビュ〜ンと廻したらいかがなもんでございましょうか」。
「あ〜そう。
長頭の市兵衛さんちゅうのがいてなさんの。
かぁ〜!知らなんだわ。
ほなな悪いけどあんた心安いのやったらな早い事連れてきなはれ。
頼んましたで」。
「遅いな。
ここの宿屋ほんまにどないなっとんねん。
手水がまだ出てけえへんがな。
これどないなっとんの?」。
(手をたたく音)「これすんませ〜ん!まだですかいな?ず〜っと待ってますねやけど。
これすんません!」。
「はいお客さん。
よいしょ〜!こんちは」。
「わあびっくりした!びっくりした〜。
あんた急に入ってくるさかいびっくりします。
びっくり…」。
「長い頭の人入ってきたで。
すんません。
あの…あんたどちらさんです?」。
「はいお客さん。
長頭廻してくれおっしゃるんで長頭廻させて頂きますんで」。
「待ってたんやがな。
どないなってんねやろか思て。
ほな悪いけどね手水廻しとくんなはれ」。
「あの〜お客さんここで廻すんですか?」。
「ここやがな」。
「今すぐですか?」。
「すぐやがな」。
「分かりました。
ほな廻させて頂きます。
私人前でこんな事するの初めてです。
大坂から来たんですか?たっぷり見て帰って下さい。
ほな廻させて頂きます。
よっこいしょ!」。
・「頭を廻す長い頭は長頭」・「頭を廻す長い頭は長頭だよ」「ヘヘヘヘッ!旦さんこんなもんでどうです?」。
「ちょっと変な人入ってきたで。
おい!あんた何をしてなはんねや?手水をはよ廻しとくんなはれ」。
「もっと速うでございますか?頭を廻す…」。
ビュンビュンビュ〜ン!ドタッ!「喜助あれ間違いやで。
お前そこ座れ。
あの大坂のお客さんむちゃくちゃ怒って帰ったで。
『こんなとこ二度と来るか!アホ!ボケ!カス!』。
えらい剣幕やったわ。
市兵衛泡吹いて倒れてるし。
わしもおかしいな思たんや。
何で朝から頭廻さんならんねん。
またあのお寺のど坊主これ何を書きくさったんじゃ。
何が長い頭で長頭じゃ!ほんまにもう!そやけどこれまた困った事が出来たで。
また大坂のお客さんが来てやで『チョウズ廻してくれ』言うたらこれ困るがな。
どないしよ?おう。
何?おう。
はい。
私らが大坂行って『チョウズ廻してくれ』言うたらほんまもんのチョウズが出てくるがな!こらええ事思いついた。
何事も勉強じゃ。
早い事用意しなはれや」。
「旦さんおはようさんでございます。
大坂の朝がやって参りました。
私どんなもんが出てくるんやろかドキドキドキドキして全然寝てません」。
「お前もそうか。
わしも全然寝てへん。
ほな今から呼ぶさかいな。
これ呼ぶ前に言うとかなあかんけどほんまもんのチョウズが出てきても普通にしとかなあかんで」。
(せきばらい)
(手をたたく音)「これすんませ〜ん!誰ぞ来てもらえませんかいな?これすんませ〜ん!」。
「はいお客さん何でございますかいな?」。
「あ〜すんませんけどねここへこの〜…。
フフフフフ。
チョウズを廻してもらえませんかいな?」。
「承知しました。
すぐにお廻し致しますんで」。
「聞いた?さすが大坂やで。
主人に相談もせんと自分で廻す言うたで。
うわ〜どんなもんが出てくるんやろかな?」。
待っておりますところへ昔の大きな銅の金だらい。
洗面器でございます。
これにお湯をなみなみといっぱい入れましてその横のお盆の上には塩。
ただいまで申します歯磨き粉でございます。
その横には総楊枝。
ただいまで申します歯ブラシでございます。
これをつけまして…。
「お客さんここに置かさせて頂きますんで」。
「えらいすんまへんな。
おおきに。
ありがとうさんでございます。
えらいすんまへんな」。
「見てみ見てみ見てみ!さすが大坂のほんまもんのチョウズやがな。
長い頭とえらい違いやで。
見てみほんまもんのチョウズ」。
「うわ〜さすがは大坂でございますな。
立派な器でございますな」。
「別に器はどうでもええねんけどな。
横に何か白いもんが盛ってあんねんけどこれ何や?」。
「恐らくそれは私らの村でも一緒でございます。
恐らく塩でございます」。
「ほんまかいな?お前。
ちょっとこれなめてみようかな。
しょっぱい!間違いない。
これ塩やな。
せやけどこれ何に使うねん?」。
「恐らくそれは中へ入れて味付けに使うんでございます」。
「塩味かい。
横に竹の棒がついてあんねんけど」。
「よくかき混ぜるんでございます」。
「何するもんや?」。
「飲むんでございます」。
「えっ飲み物!?一人で来たら分からんとこやった。
板場連れてきてよかった。
ほな悪いけどこのチョウズ早い事こしらえとくんなはれ」。
「かしこまりました」。
あるだけの塩を中へぶわ〜っと入れまして総楊枝でもって…うわ〜っ!「旦さん出来上がりました。
正真正銘のチョウズでございます」。
「あ〜おおきにありがとう。
うわ〜。
これまたぎょうさん入ってあんな。
これ1人ではよう飲まんと思うねんけどこれ大坂のお方は毎朝飲みなさんのんかい。
とてもやないけど後でごはん食べられんと思うねんけどな。
朝食の代わりかい?このチョウズっちゅうのは。
せやけどこれやっぱり1人ではよう飲まんと思うわ。
ちょっと残すかも分からんけどなこれ残したらあんた残りいってくれるか?あ〜そうかそうか。
ほんならちょっとまずこれお先頂くで。
お先」。
「ヘヘヘヘヘヘヘヘ…。
お先」。
「ぶ〜っ!」。
「ぶわっ!思たとおりや。
これ以上よう飲まんわ。
えっ何?味かいな?さっぱ分からん。
何や海水みたいな味するわ。
お前ちょっとこれ飲んでみ」。
「えっ!これ私皆全部頂いてよろしいんですか?うわ〜村帰ったらみんなに自慢したらなあきまへんな。
ほな頂戴致します」。
ぐ〜っと空けますというと…。
「お客さんもう一つここに置かさせて頂きますんで」。
「また出た!これまた出た!これどういうこっちゃねん!?分かった分かった。
先来た分が私の分で後に来たのがお前さんの分じゃ。
私おなかチャッポンチャッポンでよう飲まんわ。
悪いけどあんた残り全部いってくれるか?あかんのかいな。
なんちゅう顔すんねんな。
分かった分かった。
私がなんとかしましょう」。
(手をたたく音)「これすんませ〜ん!誰ぞ来てもらえませんかいな?これすんませ〜ん!」。
「はい。
お客さん何でございますかいな?」。
「あ〜すんませんけどねあとの1人前のチョウズお昼ごはんで頂きます」。
(拍手)そうばさんの「手水廻し」でございましたがいかがでした?いいですね。
あのそうばさんのキャラクターと頭の長い男が何かこうピッタリ合うんですよね。
どんな人間やいう…。
豪快な九州男児が頭をブンブン振り回すのが壮快でしたね。
結構でございました。
笑いました。
喜ばれると思います。
ありがとうございます。
さて後半は笑福亭松枝さんの登場でございます。
出し物は「住吉駕籠」です。

(拍手)NHK大阪ホール。
かくの多数のご来場いかに入場無料とは申せ感激感謝に堪えません。
皆様のご厚意ご熱意決して無には致しません。
今日この日この所より出演者一同生まれ変わります。
これまでの自堕落淫とうなる日々を反省し刻苦勉励奮闘努力芸道に精進致しますれば近い将来誰か1名文化勲章受章人間国宝認定。
その暁にはそうならしめた原動力は本日お運びの皆々様お一人お一人。
どうかお客様方もこの事を心の糧とされよりどころとなしこれまでの極悪非道の日々を悔い改め真人間と立ち返られる事を心より祈念。
内閣総理大臣の挨拶と致します。
(拍手)さようなら。
帰ったらあきませんが駕籠屋さんの話でございます。
駕籠屋さんというのはこの駕籠を損料を払て借りてたそうでございますね。
お客にあぶれるとその分損をせんならん。
大変でございます。
住吉大社住吉街道でございますね。
鳥居の前一生懸命参詣客目当てに呼んでおりますが…。
「へえ駕籠!やらしてもらいまひょか!お駕籠はどんなもんで?へえ駕籠!お駕籠はどんなもんで?あっおかみお供…。
へえ駕籠!やらしてもらいまひょか!お駕籠はどんなもんで?あっ旦那お供…。
へえ駕籠!へえ駕籠!へえ駕籠!へえ…。
おい!おい!」。
「ひっ?」。
「『ひっ?』やないがな。
あのなわし一人で担いでるやないねん。
お前と2人でやってんねや。
わしにばっかり呼ばさんとお前も呼んだらどや」。
「うん」。
「『うん』やないわい!頼りないガキと組んだもんやで。
ええか?わしははばかり行ってくる。
呼んどけ。
分かったな?」。
「うん。
そらまあ呼べっちゅうのやったら呼ばん事ないけどなわし頼りないで。
分かってんねん自分で。
お前思ってる以上にわし頼りないで。
呼ぶけどな知らんで。
はよ帰ってきてや。
へえ駕籠〜。
やらしてもらいまひょか。
へえ駕籠〜。
お駕籠はどんなもんで?へえ駕籠〜。
あっ!旦那」。
「何じゃい?」。
「へえ駕籠〜」。
「何を?」。
「へえ駕籠〜」。
「けったいなやっちゃな。
あ〜そう。
確かに腹張ってんねや。
気張ったら出ん事もないやろな。
後ろへ回れ。
しゃがめ」。
「ひっ?」。
「『ひっ?』やないがな。
『屁ぇ嗅ご〜』ちゅうのやろが。
前でぼけっと立ってたら嗅がしにくいわい。
後ろへ回れ。
しゃがめ」。
「んなアホな。
誰がそんな事言うてますねん」。
「今お前言うたやないか『屁ぇ嗅ご〜』」。
「違いますがな。
わたいの言うてるのはな『屁ぇ嗅ご〜』。
そやないのんで『お駕籠はどんなもんで?』尋ねてますので」。
「『お駕籠はどんなもんで』?お前自分で担いでて分からんのかい。
駕籠ってのはそんなもんやないかい。
棒が通してあってやぞ男2人で担ぐ」。
「誰がかる格好聞いてまんねん。
駕籠に乗ってやっとくんなはれ頼んでますのんで」。
「駕籠に乗れちゅうのんかい。
それやったら置こう置こう。
わしゃな駕籠に乗る手間で歩いた方が早い」。
「皆それやりまんねん。
『乗る手間で歩いた方が早い』。
そんな事おまへんねん。
乗ったっとくんなはれ。
朝からあぶれてま。
人2人助けると思て…」。
「何かえ。
わしが駕籠に乗ったらお前ら助かんのかい。
それを先に言え。
わしゃこう見えても情のある人間や。
人の難儀は見過ごしにできん性分や。
乗ったら助かんのか。
何でもないこっちゃ。
乗ったろ。
さあ乗ったで。
これでええか?」。
「助かりま。
どちらまでやらしてもらいまひょ」。
「どこでもええ。
乗ったら助かるちゅうから乗ったったんや。
どこでもええ。
好いたとこやれ」。
「そんな訳いけしまへん。
行き先言うてもらわんと。
こないしまひょ。
おうちまで送らせてもらいまひょか」。
「ありがたいな。
家帰ろう思たやさきや。
家までやってくれ」。
「へいおうちはどちらでやす?」。
「そこの茶店や」。
「あっそこの茶店で一服して…」。
「そやないわい。
そこの茶店がわしのうちや言うてんねん」。
「いやそこの茶店ならそんなもん駕籠に乗る手間で歩いた方がはよおまっせ」。
「言うてるがなそやさかい。
乗る手間で歩いた方が早いっちゅうて。
乗ったら助かるから乗ったってん。
何でもええやれ!」。
「んなアホな。
たかだかそこまで駕籠担ぐってのはアホらしや」。
「『アホらしい』?抜かしやがったなこのガキが。
おうおう!この街道に出てけつかってな茶店のおやじのわしの顔知らんとは言わさんぞ!毎日日にちたばこを吸うさかい火ぃ貸せの弁当つかうさかい茶ぁくれの2遍や3遍来ん事がなかろうが!わしの顔を知らん?ぼ〜っとしてけつかったらな踏み潰すで!」。
「あ〜怖っ!相棒助けて」。
「どけそこ。
親方堪忍したっとくんなはれ。
こいつ昨日この街道へ降ってきよりましてなまだお顔存じまへんのでよう言うて聞かしますさかいに」。
「われの相棒かい。
また頼りないガキと組んだもんなぁ。
こんなガキ一人置いてどこ行ってけつかった!?」。
「へえそこのはばかりに」。
「くそったれめが!」。
「ええ。
そのとおりで」。
「ほんまにもう!今日はこらえたるがな今度しょうもない事抜かしやがったら承知せんで!ざまぁ見されカスめが!」。
「あ〜怖〜っ!相棒怖いおやっさんやな」。
「『怖いおやっさん』やないわい。
お前も相手見て声掛けい。
茶店のおやじに駕籠勧めてどないすんねん!」。
「知らんがな。
お前言うたとおりわし昨日この街道来たんやで。
相手が茶店のおやじかどうか顔知らん…」。
「顔知らんちゅうたかて格好見たら分かりそうなもんやろ。
あれが駕籠に乗る格好かえ?高下駄履いて前掛け締めてんねやで?左手にちり取り右手にほうき持ってるがな。
今そこまでゴミ放りに来たんや。
どこの世界にゴミ放った帰りいちいち駕籠に乗って帰るアホがいてんねや!見たら分かるやろ」。
「あ〜なるほど」。
「『なるほど』やないわ」。
「そう言われると…」。
「『そう言われると』やないで!仕事もせんうちにボロクソに言われてけったくその悪い!駕籠の向き変えとけ。
験直しや。
駕籠の向きを変えとけ!」。
「あ〜駕籠人。
あ〜駕籠人」。
「お侍やで今度は。
駕籠人…大層に言いなはるな。
へい!」。
「お駕籠が2丁じゃ」。
「ありがとうさんで。
へえ。
吉に知らせたれ。
裏門に出てる。
向こうもあぶれてるはずや。
早い事行け!走っていけ!早い事行けよ!」。
「更に両掛けが2丁でのう」。
「わ〜い分持ちや分持ちや!為と梅にも知らせたれ!早い事行け!走っていけよ〜!」。
「前なる駕籠はお姫様。
後ろの駕籠はお乳母殿。
供回りが4〜5人付き添うての。
そのような駕籠このところお通りにはならなんだか?」。
「はあ?お〜い!戻ってこい戻ってこい。
違う違う!尋ねてはんねやこのお侍。
え〜一向に」。
「さようかならばいまだお通りではないと見ゆるな。
しからば拙者あれなる茶店にて休らいおるゆえお通りあらば知らせてくれい。
頼んだぞ」。
「何でそんな番してんならん。
アホらしなってきたほんまに。
駕籠の向き変えとけ!駕籠の向きを!」。
・「チャチャ〜ンチャ〜チャントハア」・「一でなしが二でなし三でなし」・「四五でなしが六でなし七でなし」・「ねえ八九十でもなし」・「十一十二十三十四」・「十五でもありません」・「十六十七十八十九」・「二十二十一」「この歌終わらんわ」。
・「チャチャ〜ンチャンチャ」「けったいな歌歌うとる。
相当出来上がっとる。
あんなんな絡まれたらえらい目に遭う。
知らん顔しときや」。
「駕籠乗ってくれるや分からん」。
「乗れへん乗れへん。
乗ってもろくな事ない。
知らん顔しときや」。
「へえ駕籠」。
「呼びなおい!」。
「へえ駕籠」。
「言いなちゅうのに!」。
「あっ駕籠屋!駕籠屋!わしになんぞ用事か?」。
「気ぃ付きよったがなもう!何でもおまへんねん。
どうぞお通り。
どうぞお通り」。
「『どうぞお通り』?通ってたんやわしは。
そこへ『へえ駕籠』て声掛けてきたんそっちの方と違うのんかい!?」。
「向こうに分があるがな。
もう!何でもおまへんねん。
ええご機嫌でんなちゅうたんで…」。
「何を!?」。
「ええご機嫌でんなちゅうたんで…」。
「『ええご機嫌でんな』?そうするとお前何か?一目見ただけで相手がやぞええ機嫌で飲んでるか悪い機嫌で飲んでるか分かるのん?なるほどええ機嫌で飲んでりゃええわい。
ひょっと面白ない事があってヤケで飲んでるとこやぞ。
見ず知らずの駕籠屋から『ええご機嫌でんな』。
腹にもないベンチャラ言われて気のええもんか悪いもんか。
このガキ一番わしにけんか売る…」。
「こないなるやろうがな!えらいすんまへん。
しょうもない事申しました。
このとおりでおます」。
「あら?謝ってよる。
青うなって謝って…。
ハハハハ!正直な駕籠屋真っ青になって!アハハハハ!アハハハハ!うそやうそや!駕籠屋!わしええ機嫌で飲んでんねや。
青うなってかわいそうに。
アハハハ!いやいやこっちの言葉過ぎたや分からんわな。
気ぃ悪うされたら困る。
このとおりやで。
わしの方こそ頭下げんならん。
このとおりやで!駕籠屋!堪忍してや!このとおりやで!」。
「あびっくりした!さようか。
大将もうよろしいがな」。
「『もうよろしいがな』?何やその言い方。
『もうよろしいがな』。
何やその言い方。
大の男が悪いと思えばこそ頭下げて謝ってる。
『もうよろしいがな』。
何やその言い方。
堪忍するもんなら堪忍する。
できんもんならできんと男らしゅう抜かしたらどや!」。
「何からでも引っ掛かってくんねやなもう!ほな堪忍させてもらいま」。
「ヒック!はよ!」。
「堪忍させてもらいます」。
「堪忍してくれる?駕籠屋ほんまにこのわしを堪忍してくれる?おおきに駕籠屋!よう堪忍してくれた!おおきに!おおきに!わしなひょっとお前が堪忍してくれなんだらどないしょうかしらと思てな。
駕籠屋。
よう堪忍してくれた!おおきに!おおきに!」。
(泣き声)「しかし駕籠屋。
わしこない泣いて謝らなならんような悪い事何したん?」。
「知りまへんがな。
弱い駕籠屋でおます。
どうぞなぶらんように」。
「ハハハ。
はあ〜駕籠屋わしちいと酔うてるな」。
「そんな様子でおますな」。
「こない酔うつもりやなかったんや。
朝目ぇ覚めたら天気がええ。
せや久しぶり住吉さんお参りしたろ。
参詣済まして出てきたら『もし旦さん』『誰かしら?』。
見たらおそでや。
知ってるやろ?」。
「いえいえ。
そんなお方は存じまへんので」。
「知ってるて。
前磯屋裏に住んでたがな。
顔に薄みっちゃの…。
これ言うたら分かる。
河内の狭山治右衛門さんの孫」。
「知らんちゅうのに」。
「難儀やなぁ」。
「こっちが難儀やで」。
「『久しぶりやな。
どないしてんねん?』。
『ここで働いてまんねん。
上がっとくんなはれ』。
『よっしゃ』。
トントントンと三文字屋の2階。
『酒持ってこい』ちゅうやっちゃ。
よう飲んだで。
ごちそう並べて銚子がずら〜っと17本。
残った料理竹の皮包まして『勘定は?』ったらポチも入れて2分1朱ってのは安…。
駕籠屋わしの言うてるこれうそや思てるな?」。
「思てぇしまへん。
ほんまや…」。
「うそやと思てるわ。
こんなしみったれおやじ2分1朱もよう払いよるか思うとる。
よっしゃ!うそでない証拠見せたらぁな。
三文字屋の料理竹の皮へ包ました何よりの証拠や。
見てみい。
いかの鹿の子焼きや。
ヒック!プゥ〜ッ。
卵の巻き焼きや。
ハハハハ。
ヒック!プゥ〜ッ。
えびの鬼殻焼き。
ヒック!プゥ〜ッ。
焼き焼き焼きちゅうやっちゃ。
ヒック!プゥ〜ップゥ〜ップゥ〜ッ。
お前らこんな食うた事ないやろ。
あ〜そこのやつ物欲しそうな顔して。
一つやろう。
食え」。
「結構でおます」。
「欲しいくせに!遠慮はいらん。
食え!」。
「ほんまに結構でおます」。
「お前も愛想でやな一つぐらいもろたらええやないかい」。
「嫌やがな!あんな酔いたんぼのプゥ〜ッ。
つばのかかった薄汚い…」。
「何!?」。
「何でもない!」。
「聞こえた!薄汚い抜かしやがった!誰がやるか!包め!」。
「せやさかい言うたやろ。
声掛けたらあかんちゅうてんのに。
懐入れときまっせ」。
「ありがとう」。
「ふう〜。
駕籠屋わし酔うてるな」。
「そんな具合でおますな」。
「こない酔うつもりやなかったんやて。
朝目ぇ覚めたら天気がええ。
せや久しぶり住吉さんお参りしたろ。
参詣済まして出てきたら『もし旦さん』『誰かしら?』。
見たらおそでや。
知ってるやろ?」。
「知りまへんねやがなそのお方」。
「知ってるて!前磯屋裏に住んでたがな。
顔に薄みっちゃが…。
これ言うたら分かるわ。
河内の狭山治右衛門さんの孫!」。
「知らんちゅうのに」。
「難儀やなぁ」。
「ほんまに難儀やで」。
「『久しぶりやな。
どないしてんねん?』。
『ここで働いてまんねん。
上がっとくんなはれ』。
『よっしゃ』。
トントントンと三文字屋の2階。
『酒持ってこい』ちゅうやっちゃ。
よう飲んだで。
ごちそう並べて銚子がずら〜っと17本。
残った料理竹の皮包まして『勘定は?』ったらポチも入れて2分1朱ってのは安…。
お前これうそやと思て…」。
「思てぇしまへん。
ほんまや…」。
「うそやと思てるわ。
うそでない証拠…」。
「また出してきたがな!」。
「三文字屋の料理何よりの証拠や。
見てみい。
いかの鹿の子焼きや。
ヒック!プゥ〜ッ。
卵の巻き焼きや。
ヒック!プゥ〜ッ。
えびの鬼殻焼き。
プゥ〜ッ。
焼き焼き焼きちゅうやっちゃ。
ヒック!プゥ〜ップゥ〜ップゥ〜ッ。
一つやろう。
食え。
要らん?誰がやるか!包め!」。
「一生お前恨んだるわほんまに!声掛けたらあかんちゅうてるのにもう!懐入れときまっせ」。
「ありがとう。
ふう〜」。
「駕籠屋わしだいぶに酔うてるな」。
「むっちゃくちゃ酔うてなはるあんさん。
ボロボロでっせ!」。
「こない酔うつもりやなかったんや。
朝目ぇ覚めたら天気がええ。
久しぶりに住吉さんお参りしたろ。
参詣済まして出てきたら『もし旦さん』『誰かしら?』。
見たらおそでや。
知ってるやろ?」。
「もう今度はよ〜う知ってますそのお方。
他人とは思えまへんわ。
何でっしゃろ。
前磯屋裏に住んでなはったんや。
顔に薄みっちゃのある河内の狭山治右衛門さんの孫でっしゃろ。
『久しぶりやな。
どないしてんねん?』。
『ここで働いてまんねん。
上がっとくんなはれ』。
『よっしゃ』。
トントントンと三文字屋の2階上がりなはった。
『酒持ってこい』ちゅうやつでおますがな。
よう飲みなはったな。
ごちそう並べて銚子がずら〜っと10と7本でしたな。
残った料理竹の皮包まして『勘定は?』ったらポチも入れて2分1朱。
安いこっだすがな。
うそでない証拠に言うて懐から料理出してきなはんのやな。
いかの鹿の子焼きや。
プゥ〜ッ。
卵の巻き焼き。
プゥ〜ッ。
えびの鬼殻焼き。
プゥ〜ッ。
焼き焼き焼き。
プゥ〜ップゥ〜ップゥ〜ッ。
『一つやろう。
食え』。
『要らん』ちゅうたら『誰がやるか!包め!』。
包み直さして懐へ差してほかなんぞおましたかいな!?」。
「プゥ〜ップゥ〜ップゥ〜ップププッ」。
「え〜ん!駕籠屋わしもう何にも言う事ない」。
「なかったらよろしいがな!もう帰んなはれ!家でおかみさん待ってはりまっせ」。
「えらい事を言うた。
うちで嬶待っとんねや。
うちの嬶貞女やぞ。
うん。
そのわしと嬶のなれ初めの話聞かしたろ」。
「アホな事を」。
「今頃嬶待っとんねん。
わしゃこれでいぬさかいに」。
「あれ?相棒確かあれ南から出てきたな。
南へ戻っていくで。
ええ〜?もう方向も見えてないねやがな。
もし旦那!旦那!」。
「え〜い何じゃい?まだなんぞ用事かい?」。
「あんさん南から出てきなはって南へ帰ってなはるで」。
「何かい?南から来て南へ戻ったらいかんのんかい?」。
「憎たらしい酒やで。
あんさんな大坂向いて出てきなはったら大坂へ帰りますねやろが。
そっちは堺でっせ!」。
「それでええねや。
わし堺綾之町や」。
「堺綾之町?何で北向いて出てきなはった?」。
「いや〜えらい飲み過ぎた。
酔い過ぎた。
どこぞで酔いさまさんならん。
あっちょうどええ。
あんなとこまぬけ面した駕籠屋2人おる。
あれなぶったろ」。
「初めからなぶりに来はったんや。
バカにしやがってもう!駕籠の向き変えてばっかりやがな!」。
「駕籠屋」。
「へいへいへい。
あら?相棒呼んだように思ったがな」。
「駕籠屋」。
「へいへいへい。
呼んでるがな。
呼んでるな。
声はすれども姿は見えん。
ほんにあんたは…」。
「何を言うてる。
中や中や。
駕籠の中や」。
「駕籠の中?え?あ〜入ってなはったんか。
いつの間に」。
「えらいのに絡まれて。
ええ?いや〜こっちに風向きが来たらいかんと思てな分からんように」。
「さようで」。
「悪けりゃ出よか?」。
「出てもうたら困りますわ。
そのままそのまま。
どちらまで?」。
「堂島までやってんか」。
「堂島。
ジキでやすか。
ありがたい。
朝からろくな事なかったんでな。
いっぺんに験直りました。
喜んでやらしてもらいま」。
「なんぼで行く?」。
「『なんぼで行く』?堂島の旦那相手にそらお任せ致しま」。
「そらいかん。
こういうのはきちっと決めとこ。
なんぼで行く?」。
「お任せしたいとこでやすけどなほな堂島まで1分張り込んでやっとくんなはるか?」。
「1分?1分は高い。
駕籠屋ものは相談や。
そこを2分にまからんか?」。
「へえ。
1分お願いしたいと…」。
「ものは相談。
1分は高い。
2分にまからんかちゅうねん」。
「1分は高い。
2分にまからんか…。
相棒わし起きてるか?」。
「起きてぇでかい。
違うがな。
1分と決めてもな走り増しよこせ酒手よこせ。
こないなんねん。
ゴチャゴチャなし。
あっさり2分で行けちゅうてんねん」。
「なるほど。
さすが堂島の旦那話はよおまっすわ。
喜んで2分でやらしてもらいま」。
「そうと決まったらな不景気な顔してるやないかい。
さあこれでなそこの茶店で1杯ずつ引っ掛けて景気ようやってもらおうか」。
「ありがとさんで。
こんな御酒代頂いた。
お礼申せ。
なら早速」。
「ようけ飲むなやで。
1杯ずつにしときや。
はよ帰っといでや!今のうち田中屋はん出といなはれ」。
「行きよりました?」。
「行きよりました。
今のうち早い事早い事!さあ分からんように2人乗りしたりまひょ。
入って入って。
さあ履物直してな。
よろしいか?今のうち…。
帰ってきよった。
垂れ下ろしまっせ。
静かにしてなはれや」。
「旦那。
おおきにごっつぁんで。
お履物直って垂れ下りて。
やらしてもうてよろしいかいな」。
「うん。
やってんか」。
「へい。
相棒肩入れぇ。
いくぞ。
よっこら!」。
「アホんだら。
僅か1杯や2杯の酒で足がへろつくんはみっともない。
ええか?しっかり腰入れぇ。
いくぞ。
よっこら!何年駕籠かいとんねん。
棒の真下へ腰持ってくるのじゃ。
ええか?よっこら!重たいなおい!痩せた旦那やと思たがな。
え?千両箱でも抱えてなはったんかいな。
いくぞ。
ええか?エイホッ!エイホッ!エイホッ!エイホッ!」。
「行きよる行きよる。
2人乗りしてんのも知らんと。
おもろおますな」。
「おもろおます。
わたいな駕籠2人乗りするってな生まれて初めて」。
「誰かてそうでんがな。
こんな窮屈な思いせんならんちゅうのも元はといえば京の祇園のお茶屋で隣座敷聞き覚えのある声やがな。
様子見たらあんさんだした。
さあそれから一座をしてよう飲みましたわい。
三十石船の中も飲み続けしゃべり続け大坂へ帰っても北から南。
とうとう住吉さんまで足延ばして。
もうこうなったらとことんや。
堂島までしゃべりまくって帰りまへんか。
こんなはめに…」。
「駕籠2人乗りして帰ってきた。
皆びっくりしよりますわ」。
「さいな。
ええ土産話が出来ましたな」。
「ちょっと待て相棒。
おかしな具合やで。
話し声聞こえんねやがな。
こんなおかしな…。
下ろせ下ろせ。
へえ旦那ちいと垂れ上げさせてもらいまっさ。
やっぱりや!2人乗りしてなはる」。
「はあ〜バレたか」。
「『バレたか』やおまへんで。
何をしなはんねん」。
「ごちゃごちゃ抜かすな。
お前初め駕籠賃なんぼや言うた?」。
「へえ確か1分お願いしたいと」。
「そやろ。
そこ2分払うねんで。
勘定は合うてある」。
「合うてますわそら。
こっちは1人やと思うさかい…」。
「分かっとる。
なにも金が惜しくてやってんねやないねん。
趣向や。
シャレや。
構へん。
こんなりやれ。
あと悪いようにせんさかいに」。
「さようか?どないする相棒。
あと悪いようにせん言うてなはる。
そら間違いないわい堂島の旦那や。
それ楽しみにやらしてもらうか?ならやらしてもらいますけれどもな垂れしっかり下ろしといとくんなはれや。
嫌やさかいにな。
『見てみあの駕籠屋欲張って人2人も乗せてるで』ってな。
おいいくぞ相棒。
よっこら!2人やと分かったら余計重たいな。
いくぞ。
ええか?エイホッ!エイホッ!エイホッ!」。
「行きよる行きよる。
もうバレてしもたらなこんな垂れ上へはね上げときまひょ。
こっちかて。
よっ!風が通って涼しいな〜。
見てみなはれ。
皆目ぇむいて通っていきよるで。
おもろいな。
しかしよう遊びましたな」。
「よう遊びました。
ええ。
明日からまた一生懸命働かんなりまへん」。
「さようさよう。
今度あんさんと一緒というたら相撲でやすな」。
「相撲相撲。
相撲だけはあんさんと話が合わん」。
「合いまへんねや。
あんたがいかん」。
「何が?」。
「あんた小さい相撲取りばっかり贔屓にする」。
「何で?よろしいがな。
相撲はな小さいのが大きいのを相手に技で力で負かす。
そこが面白い」。
「何言うてなはる。
やっぱり大きい方が連れて歩いても見栄えがします」。
「何を言うてなはる。
わたいの贔屓にしてる緋縅。
体は小さいが手取り力強いわい。
あいつがな相手の懐へこう潜り込んでな左でまわしをつかんだら…」。
「何をしなはんねや。
ふいに人の帯を…。
えらい力やな。
離しなはれ!」。
「こう取ったら離さん」。
「『離さん』て…。
そんな小さい者が潜り込んだってなわたいが贔屓にしとるのは大きいわい。
あれがな上からグイっとのしかかったら相手潰れてしまうねやさかい!」。
「なかなか!それを頭ではね上げる!」。
「相棒えらい駕籠揺れるがな。
おい!」。
「揺れるはずやがな。
中で相撲取ってなはんねや。
ちょっとむちゃしなはんな。
あ〜っ!」。
「相棒急に駕籠軽なったで」。
「軽なるはずや。
底抜けてしもうたんや。
下ろせ下ろせ。
ええさかいに。
旦那むちゃしなはんな」。
「はあ〜抜けたか」。
「『抜けたか』おまへんで!どないしてくんなはるこの駕籠」。
「ごちゃごちゃ抜かすない。
こんな駕籠の1丁や2丁なんぼでも償ったるわい!」。
「そらなお金においとらへんお方やさかいなその心配はせやしまへんけれどもこれでは担がれしまへんわ。
降りとくんなはれ」。
「何!?」。
「降りとくんなはれ」。
「降りぃ!?こらこら!相手を見て物を言えよ。
わしらを誰や思とんねん。
堂島の相場師の中でも強気も強気。
ガチガチの強気で売った2人やぞ!一旦乗った駕籠底抜けたぐらいで降りられるかい!」。
「『降りられるかい』ちゅうたかてほなこれどうなりまんねん」。
「こんなりやれ。
わしら中で歩く」。
「歩く!?聞いたか相棒。
『中で歩く』言うてなはるで。
おもろいな。
歩いてもらおうか。
どないなんねやろ?ほな歩いとくんなはるか?知りまへんで。
おい相棒肩入れ。
よっこらしょ!軽いな〜!こんな軽いの初めてや!ほないくで。
ええか?エイホッ!エイホッ!エイホッ!エイホッ!」。
「あんた突っかけてきたらあかんで。
前塞がってはんねやがな。
横木が足に当たって痛いさかいなチョコチョコ走りでいかななりまへん。
突っかけてきたらいかん!」。
「追われてきよりまんねん後ろから。
わたいかてあんた足だけやおまへんねやがな。
天井に頭つっかえて背の高い分。
あ〜えらい!あ〜えらい!」。
「楽でええなこの駕籠。
旦那ちいと走らしてもらいま!」。
「あかん!走ったらあかん!」。
「立てなくなった!」。
「おとっつぁん。
駕籠て足何本あんねん?」。
「何を言うとる。
2人で担ぐねん。
足は4本に決まっとる」。
「向こうへ行く駕籠足8本あるで」。
「アホな事を…。
あ〜っほんに!せがれ覚えとけ。
あれがほんまの蜘蛛駕籠じゃえ」。
(拍手)笑福亭松枝さんの「住吉駕籠」でございました。
どうでした?ややこしい酔っ払いを演じさせたら天下一品ですね。
あれは演じてるというよりあのままの男ですね。
そうなんですか。
また男性のお客さんもひと事ではないっていう感じで大ウケでしたよね。
奥さんムカムカしてはるでしょう。
横で見てたら。
かもしれません。
また次回も来てくれはりますか?是非。
よろしくお願い致します。
ではまた次回までさよなら。
2014/05/30(金) 15:15〜16:00
NHK総合1・神戸
上方落語の会「手水廻し」桂そうば、「住吉駕籠」笑福亭松枝[字]

▽「手水廻し」桂そうば、「住吉駕籠」笑福亭松枝▽NHK上方落語の会(26年5月8日)から▽ゲスト:河島あみる(タレント)、ご案内:小佐田定雄(落語作家)

詳細情報
番組内容
NHK上方落語の会から桂そうばの「手水廻し(ちょうずまわし)」と、笑福亭松枝の「住吉駕籠(かご)」を、ゲストの河島あみるのインタビューもまじえてお送りする。▽手水廻し:地方の宿屋に泊まった大阪の客、部屋で顔を洗おうと「手水を廻してくれ」と願うが、宿屋の一同意味がわからなくて…▽住吉駕籠:住吉神社で客待ちをする駕篭屋に色々な客が声をかけてくるが商売にならない。堂島の相場師を客にしたのだが…
出演者
【出演】桂そうば、笑福亭松枝【ゲスト】河島あみる【案内】小佐田定雄
キーワード1
落語

ジャンル :
劇場/公演 – 落語・演芸
趣味/教育 – 音楽・美術・工芸

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz

OriginalNetworkID:32080(0x7D50)
TransportStreamID:32080(0x7D50)
ServiceID:43008(0xA800)
EventID:44589(0xAE2D)