金曜プレステージ・松本清張スペシャル 死の発送 2014.05.30

(警察官)あっ。
あった。
あれだあれだ。
(警察官)先行ってけろ。
(警察官)はい。
(警察官)何だ?この重さ。
(警察官)やっぱりおかすなものでも入ってるんじゃ?
(警察官)おかすなもの?
(警察官)うん。
(警察官)開けろ。
(警察官)はい。
(警察官たち)うわーっ!?
(底井)えっ!?
(底井)そんな…。
「桃のセックス下半身祭り」書けちゃうんだよな。
それなりに面白く。
何やってんだか俺。
(津村)あーあ。
いつまでこんな仕事。
(津村)何が熱愛よ。
ハァー。

(野島)ため息つくと老けるよ。
(津村)野島さん。
早く文芸に異動させてくださいよ。
もう2年ですよ。
(野島)俺に言うなって。
そういうことは編集長に。
(津村)編集長に言っても無駄だからデスクに。
(野島)はいはい。

(鈴木)津村。
編集長が呼んでる。
底井。
お前もな。
何だろう?俺らに。
(鈴木)さあ?何だろうね?
(津村)
後に世間を震撼させることになる不可解極まりない異様なその事件は思えばこのときに始まっていました

(ノック)失礼します。
(津村)失礼します。
(山崎)岡瀬正平が出てきた。
(津村)岡瀬って?7年前公金横領でパクられた官僚だ。
(山崎)さすが底井。
ほい。
7年前の記事だ。
(津村)「公金横領」?「3年にわたり十億円」ああ。
あの10億円を使い込んだ。
(山崎)そいつ逮捕当時当然警察も検察もその10億の使い道を徹底的に調べたわけだが判明したのは7億円分だけで後の3億。
(山崎)どうしても行方がつかめなかった。
(岡瀬)《酒女ギャンブル》《とにかく湯水のように使いまくりましたからね》
(岡瀬)《何に幾ら使ったかなんていちいち覚えていませんよ》《まっ。
おおかたギャンブルに消えたと思うんですが》
(刑事)《ふざけんな。
どこに隠したんだ?3億円!》
(山崎)ギャンブルにむちゃくちゃな使い方してたのも事実なんで。
だから捜査当局としてもそれ以上の追及は諦めざるを得なかった。
だがその岡瀬ってやつは決して単純なバカじゃない。
いずれ横領が発覚して逮捕されることぐらい承知の上だ。
ということはその3億どこかに隠して出所後に使おうとしたに違いないんだ。
その岡瀬が7年の刑期を終えて昨日出所した。
だから?だからその隠しておいた3億を回収に行くはずなんだよ。
その瞬間を押さえろ。
ああっ。
記事にするんだよわが『週刊ドドンゴ』でどんっと。
(津村)無意味だと思います。
(山崎)えっ?
(津村)あっ。
その岡瀬は10億円の横領を認めて刑に服したんですよね?仮に3億円を隠していようといまさらどうでもいいことです。
(山崎)あのね国民の血税を食い物にするそういうやつ。
俺は大嫌いなんだよ。
それにな警察も検察も暴けなかった3億円の行方。
それをうちみたいなお前。
エロといんちきスキャンダルしか売り物のない三流週刊誌がすっぱ抜いてみろよ。
お前。
痛快ですかっとするだろうが。
まあ面白いとは思います。
(山崎)だろう?なっ?さすが俺と同じ元ブン屋。
うん。
あっそうだ。
これな。
岡瀬の親戚の住所だ。
やつはここに身を隠してるみたいだ。
2人で徹底的に張り続けろ。

(ドアの開く音)
(津村)ありませんでしたよ。
今日あのお弁当。
はい。
好きなの取ってください。
あっ。
もう2週間ですよ。
全然動かないじゃないですか。
岡瀬正平。
動いた。
動いた。
(津村)えっ?嘘?動いた動いた。
(津村)えっ。
ちょっ。
ちょっと。
待って。

(津村)3億円。
本気で信じてるんですか?いんちき書いてるよりは自分を嫌いにならずにいられる。
(津村)まあその点だけは。
でもな。
新聞社首にされた人の勘ですからね。
あっ。
すいません。
俺はタイムスを首になったが山崎さんは愛想を尽かして自分から東洋新聞を辞めたと言ってた。
(津村)そんな気骨のある人がエロバカ週刊誌の編集長なんかに落ちてくるわけないじゃないですか。
お前ホントあの山崎さん嫌いな。
だってだらしなくてやる気のない。
人間としてとうに終わってますよあの人。
ハァー。
どこ行くつもりでしょうね?岡瀬。
お願いします。
競馬馬のトレーニングセンター?あの2人知り合いなんでしょうか?何話してんだろ?えっえっ?もう帰っちゃうの?3億円を回収しに来たわけじゃないようだな。
水戸のトレーニングセンターでは厩務員の男と少し話しただけで岡瀬正平は東京へ戻りました
神楽坂。
そしてこの街で私たちは岡瀬を…
(男性)いやうまかったね。
すいません。
ごめんなさい…。
すいません。
そっち。
そっち。
はい。
くそ!見失った?何やってんだ!バカ野郎!
(鈴木)編集長が怒鳴った。
(山崎)もういい!
(通話を切る音)ハァー。

(ドアの開く音)
(山崎)おう。
まだ帰ってないようだな。
すいません。
うん?ぼんやりしてたわけじゃないんです。
岡瀬のやつな初めっから尾行がつくこと用心してたんだよ。
尾行されちゃまずいってことはつまり3億を…。
お宝を隠してるってこったろ?なっ?うん。
まあそういう解釈も。
ってか飲んでるんですか?いいや。
うん。
栄養ドリンクな。
くっ。
くっ。
あれ少しだ。
あっ。
君たちも栄養つけて頑張るか。
よし。
ほれ。
滋養と強壮だ。
ほら。
ありがとうございます。
なっ。
俺もだうん。
ヘヘッ。
ほい。
いや。
俺が東洋新聞にいたころにはさ三日三晩張り続けなんてのはざらでよ。
あるときなんざ役人と企業の癒着をすっぱ抜こうってんでさその密談を盗聴して録音したんだよ。
ところがそれがバレちまって。
こりゃまずいぞ。
その録音したこのチップを奪われちゃいけねえ。
俺はこれをとっさに隠したんだよ。
ヘヘヘ。
どこに隠したと思う?そう簡単には分かんねえぞ。
いいところに隠したんだよ。
このチップ。
うーん。
飲み込んでいいところ。
胃胃。
いいとこ…。
でもそのスクープ結局日の目を見なかったんですよね?うん。
結局な。
うん。
フフッ。
うん。
結局つぶされた。
目には見えねえ巨大な力ってやつによ。
くそ面白くねえ。
ああー。
あの記事が日の目を見てたら今ごろ俺はさ…。
なんてね。
フフッ。
おう。
元気つけて飲めよ。
飲め飲め。
いただきます。
なっ?いただきます。
ああー。
(山崎)それ。
・「ドンと鳴った花火は奇麗だな」何なんですかね?ああいう人って。
酔っぱらうと誰も信じるわけないでたらめな武勇伝の繰り返し。
よいしょ。
(山崎)《今どきまだいるんだ》《上からの取材中止命令無視して真相究明しようなんてすっとこどっこいがさ。
えっ?》《結局のところ問題児扱いされて首か》《うんうん。
いいいい》《そういうの俺好きだな。
ハハハ》《おっ。
飲め飲め》《えっ?うちに来たのも何かの縁だよ》《潜り込めるところが他になかっただけです》《いいぞうちは》《読者が求めてるものは面白おかしい嘘っぱちばかりだ》《それをな適当に書き飛ばしてりゃいいんだから気楽なもんだろ?うん》《なあ。
底井君よ》《そのうち必ずチャンスはある》《そんときにはお互いブン屋上がり同士お前と俺とで一旗揚げてみるか》《何ですかそれ?》《うん?》《一度は捨てたジャーナリスト魂もう1回火付けてさどかんと一発花火ぶち上げるのよ》底井さん。
私先に仮眠取らせてもらいますね。
よいしょ。
ちょっちょっ…。
底井さん!・
(ドアの開く音)底井さん!ちょっと。
起きて。
これ。
これ見て。
何だよもう。
(リポーター)この宗庵寺の墓地で絞殺死体で発見された岡瀬正平さんは7年前公金横領の罪で逮捕されていましたが…。
殺された?
(山崎)例の3億円がらみの殺しだ。
ないとは。
でも警察は単純な強盗殺人だって。
(山崎)単純な強盗殺人?財布が盗まれてたってことはそう思わせるための犯人の工作だ。
そうでしょうか?
(山崎)岡瀬は昼間に墓参りを済ませてたんだろ?そいつが夜墓地で殺されてたってことは…。
犯人に呼び出された可能性も。
(山崎)3億円がらみでな。
そしてそれに気付いたのは俺たち3人だけ。
全貌を暴いてスクープすりゃよ。
詳しい状況確認してきます。
底井さんお一人でどうぞ。
私はお二人のようにジャーナリスト畑の人間ではありませんし。
妄想の上に妄想を重ねられるほどロマンチストでもないので。
張り込みには交代要員が必要ですがその任務は終了したわけですから。
本来の業務に戻らせていただきます。
うん。
さみしいけど。
うん。
そうだな。
2週間ご苦労さん。
いえ。
行きます。
(山崎)おう。
頼む。
(鈴木)あの3人何やってるんですかね?ここんとここそこそと。
(野島)何かの取材らしいんだよな。
では誰かに呼び出されたのではなく?
(了全)ご自分でもう一度墓参りに。
(了全)確か夕方6時ごろに。
(岡瀬)《あっ。
とんでもない親不孝をしたのにわび方が足りなかったかと》
(了全)《日に二度のお参りとは見上げた心掛けです》
(岡瀬)《いえ》
(了全)私は出掛けたのでその後のことは分からんが。
夜10時ごろ帰ってきたら…。
(了全)《あっ!?》
(了全)警察の話では殺されたのは昨夜7時ごろだろうと。
来たのが6時ごろ。
なら岡瀬は殺されるまで1時間もここに。
(了全)よほど熱心にご母堂の墓を参っていたのかと。
はあー。
立派な墓だな。
(了全)7年前ご母堂が逝かれてすぐに正平さんがお建てに。
7年前?逮捕される2カ月前か。
岡瀬はこの墓に昼と夜二度も参った。
(了全)昼の様子についてなら植木屋にお聞きになるといい。
朝から夕方近くまでそこで作業を。
ああ。
そういうことか。
邪魔だったのか。
植木屋にいられたんじゃな。
邪魔とは?岡瀬ってのは怖い男だ。
自分の母親の死まで利用するとはな。
どういう意味です?あのな本来お墓っていうのはその人が亡くなって四十九日あるいは1年後に建てるもんなんだ。
そいつを岡瀬は自分の母親が死んだ直後に建ててる。
逮捕されるのを見越して急いで建てた。
お宝を隠すために地下金庫としてな。
3億円はその墓の中にずっと隠してあったんだ。

(作業員)《おっ。
アキちゃん。
あそこに…》
(山崎)ところが回収しようにも植木屋の目があった。
そこで夕方出直し…。
岡瀬は3億円を手に入れた。
1時間も墓地にいたのもそれなら説明が。
そっか。
やっぱりあったんだ3億円。
(山崎)岡瀬の勝浦行きはあらかじめ計画していたものとは思えない。
もし計画していたんだったら家を出て真っすぐそこに向かうはずだろう。
でも岡瀬はその前に水戸や神楽坂に立ち寄ってる。
おそらく犯人は岡瀬とどっかで接触しているはずだ。
そして3億円を回収しに行くように仕向けた。

(山崎)岡瀬はつけてきた犯人に殺されそいつにお宝を奪われた。
その犯人を底井。
お前と俺とで見つけだす。
水戸か神楽坂。
そこに犯人の手掛かりが。
うん。
まず水戸からだ。
よし。
3億円を追ってどこまでもだ。
(山崎)あっ。
出てくるわ。
編集長まさか3億円を横取りする気じゃ…。
(末吉)知り合いじゃないんですよ別に。
ならあのとき何を話してたんです?
(末吉)おいしい馬の情報があったら教えてほしいって。
(中本)末吉さん。
どっちのはみにします?
(末吉)ああ。
そんなことのためにわざわざ岡瀬がこんなところまで来るわけが。
(山崎)へえー。
地方へ移動ですか?あの車。
馬運ぶやつ。
馬運車っていうんでしょ?
(末吉)はい。
(山崎)ああ。
いい馬ばっかりですね。
えっ?さすが末吉さんのお世話のたまものですね。
(末吉)うちはもともといい馬が集まるんですよ。
先生が立派なんで馬主さんたちが信頼して預けてくれるから。
(山崎)先生って?
(末吉)調教師の西田隆三先生です。
ちんぴらだった俺を何とかここまで育ててくれた恩人です。
(山崎)ああ。
そうか。
ここ西田厩舎?西田調教師っていや有名ですもんね。
(末吉)このタテノポラリスなんかも西田先生だからこそ立山先生が預けてくださってるんでね。
その立山先生というのも調教師なんですか?馬主さんですよ。
立山寅平先生。
保守党の。
ああ。
あの代議士の?ああ。
何です?あっ。
いや。
(末吉)西田先生。
(西田)週刊誌がどうして?おととい見失ったのはここらです。
(山崎)ああ。
横領した公金で派手に遊び回ってた岡瀬だ。
そのころなじみだった店にでも潜り込んだんだろう。
歴史は夜つくられる。
そんな舞台となる街ですから口が堅くて聞いて回っても無駄ですしね。
そう。
無駄かもしれないな。
原稿チェックお願いします。
(野島)はい。
そうか。
底井。
はい。
(山崎)墓の中に7年間岡瀬が隠してたお宝っていうのは現金じゃないかもしれない。
まあ宝石なんかに換えていた可能性も。
3億の…。
いや。
使い方によってはそれ以上の価値を持つ全然別のものかもしれん。
使い方とは?しかしそうなるとな。
これが山崎編集長が岡瀬の3億円のことを話題にした最後でした
(山崎)ハハッ。
お前ホントにこの仕事向いてるんだな。
よくまあこれだけ嘘八百並べて書けるもんだ。
実に面白いや。
よし。
これ整理部に回しとけ。
こんな原稿より例の3億がらみの岡瀬殺しの件は?
(山崎)あっ。
あれはもういいんだ。
手引け。
えっ?ちょっ…ちょっと。
何言ってんですか。
岡瀬殺しの犯人見つけるって言ってたじゃないですか。
3億円の行方だって。
底井。
手を引けって言ってんだろ。
あの件はもう忘れろ。
はあ?
でも本当は何も終わってはいませんでした
神楽坂?何か気になってつけてみたら。
まあ見失っちゃったんですけど。
やっぱりまだ追い続けてるんですよ編集長。
それもこっそり一人でってことは狙っている獲物は一つしか。
犯人を見つけて3億円を横取りしようと。
バカバカしい。
えっ。
ホントにスクープ追ってるならどうして底井さんにまで隠すんです?・
(山崎)おはよう。
(一同)おはようございます。
編集長。
ちょっとお話が。
昨日神楽坂に行ってますよね。
津村がたまたま見掛けたらしいんです。
ああ。
人違いだよ。
よくある顔だからな。
どうしてごまかすんですか?なあ底井よ。
何ですか?馬ってのはさ1本でも脚を骨折したら安楽死させてやるしかねえんだよな。
人間ってのはどうなのかね?人間ってのはさどこへ落ちてもやり直しが利くと思いたいわな。
一度つまずいたら人間もそれで終わりなんですよ。

(末吉)よし。
(西田)末吉。
あした頼んだぞ。
(末吉)任せてください。
西田先生のためなら何だって俺はやりますよ。
(スタッフ)今日編集長に原稿チェックもらわないと間に合わないんだよ。
(スタッフ)いつも肝心なときにいないっすよねマジで。
やっ。
何かあったのか?あっ。
編集長まだ来ないんですよ。
(野島)出ないな相変わらず。
(鈴木)ああそうですか。
失礼いたします。
(スタッフ)どうしますか?
(スタッフ)間に合わねえ。
(鈴木)奥さん朝9時すぎには家を出たと。
(野島)もう昼だぞ。
参ったな。
お飾りの編集長だってチェックしてもらわないと進めらんないのに。
(鈴木)おっ。
仕事放り出して3億円を追ってるとか。
(鈴木)ああ。
先ほどは。
はい。
ああ。
えっ?ああそうですか。
奥さんからです。
さっき言い忘れたと。
(野島)何を?
(鈴木)けさ出掛けるときに編集長がこう言ったらしいんです。
2日ほど出張に出るかもしれないって。
(野島)出張?そんな予定聞いてないぞ。
(鈴木)あっ。
連絡すらつかないってことは計画的な失踪なんじゃ…。
(野島)失踪ってお前。
そんなわけないだろお前。
(鈴木)警察。
(野島)何を…。
(鈴木)警察に届けましょうよ。
(野島)おい。
ちょっと待て。
(鈴木)えっ?
(野島)当人が2日間の出張と言ったんなら取りあえずそれを信じてみよう。
失踪って。
あっ。
岡瀬を殺した犯人をもう見つけだして3億円を横取りして逃げたとか。
ちょっと出てきます。
えっ?
(野島)おい。
取材の予定入ってないだろお前。
このとき底井さんはまだ編集長を信じたかったんだと思います
でも…
編集長はホントに出張だと?
(文子)はい。
他に何か言ってませんでしたか?
(文子)別に。
底井さん。
山崎はいったい…。
結局次の日も一切連絡が取れず…
2日後の朝警察に捜索願を出すこととなりました
(メールの着信音)《突然失踪したとなると津村の言うような薄汚いまねをしたとでも考えるしか…》・
(鳥海)底井。
おう。
(鳥海)山崎さんって人のことを何人かに聞いてみた。
どんな人間だったんだ?
(鳥海)うん。
うちにいたころは不正を許さない筋金入りのジャーナリストだったらしい。
なら首にされたわけでも…。
(鳥海)自分から辞めたらしい。
7年前だか代議士の立山寅平を追っててそれがらみで。
立山?
(鳥海)うん。
あいつの何を追っていたかまでは分からない。
当時を知っている連中もその件は口にしたくないようで。
ただどうやら圧がかかってその取材は打ち切りにされたらしい。
その敗北感で辞めたのか?
(鳥海)うーん。
その取材がらみで他にも何かあったらしいんだが。
立山と因縁があったのか。
それと失踪が関係があるのか?
(野島)鈴木ちゃん。
(鈴木)はい。
(野島)カラーページのカンプだけ早く頼むよ。
(鈴木)やってますから。
急いでますから。
(野島)やってないじゃないそれさっきから。
(鈴木)いや。
上がってますから。
編集長の行方つかめました?行方を捜しに行ってたんじゃないんですか?ハァー。
底井です。
ああ。
こちらには相変わらずご主人から連絡は。
えっ!?そんな…。
分かりました。
(野島)どうした?奥さんからです。
編集長岩手県の水沢で発見されたそうです。
(警察官たち)《うわーっ!?》殺されて。
トランク詰めで。
底井といいます。
(臼田)捜査主任の臼田です。
とにかく発見現場に。
はい。
(臼田)ムラグチ。
(刑事)はい。
(臼田)おう。
トランクはそちらに。
昨日の朝最寄りの交番の巡査が発見しました。
鍵が掛かってたのでこじ開けたところ…。
中に山崎さんの死体が。
(臼田)頭部を鈍器で殴打された上での絞殺です。
遺体の状態から殺された直後にそのトランクに。
殺されてすぐ詰められた。
それっていつなのかは?
(臼田)司法解剖の結果では殺害されたのは3日前。
15日の夕方から夜半の間。
15日。
なら失踪したその日のうちに。
(臼田)15日の夕方5時から6時の間の犯行だとみてます。
どうしてそう絞れるんです?マスコミにもまだ伏せてますがそのトランクにはこれが貼られていたんです。
宅配便の送り状です。
確認したところ死体が詰まった重量65kgのそのトランクは…。
(従業員)《お荷物発送ですね?》
(臼田)15日の午後6時に東京上野の営業所から発送され…。
(臼田)翌16日開店直後の午前7時ごろ水沢の営業所で受け取られているんです。
つまり山崎さんは殺されてすぐトランク詰めにされただけでなく東京からこの水沢まで送られてきた?上野から発送されたのが15日の午後6時ですから殺害されたのはそれ以前ということに。
15日の午後6時以前。
(臼田)遺体には身元を特定する所持品が一切残ってませんでしたが上野から発送されたと分かって警視庁に照会したところ捜索願の出されていた山崎治郎さんだと。
でもどうして犯人はその山崎さんの遺体をわざわざここまで送る必要が?
(臼田)分かりません。
あっ。
この送り状の吉田三郎というのも架空の人物なんでしょうね。
(臼田)ああ。
実在しません。
指紋もすっかり拭き取られていてトランクには一切残ってません。
その宅配便業者には防犯カメラが設置されていないので記憶に頼って似顔絵を作ってみたんですが。
こっちが水沢でトランクを受け取った男ですがマスクしていてよく分からんですな。
でこっちが上野で発送した男です。
えっ。
これって…。
(臼田)ああ。
ああ。
おっしゃりたいことは分かります。
どこか似てますからね。
まあでもあり得ません。
自分の死体が詰まったトランクを自分が発送するなんて怪談か落語だ。
そうなんですけど。
でもよくこんなところにあるトランクを発見できましたね。
(臼田)不審なトランクがあると匿名での通報があったんです。
でもそもそもここは人が寄り付くようなところではないわけで。
なら匿名の通報者は犯人自身。
犯人は死体を発見させたかったということじゃ?そうなるんですがだとすると死体をわざわざ送ったり発見させたり犯人は何を考えてるのか。
ハァ。
訳の分からん事件です。
それにあの似顔絵。
(文子)来てくださったんですね。
あっ。
いらっしゃってたんですか。
(臼田)遺体確認のためゆうべのうちに。
山崎これから火葬します。
立ち会わせていただきます。
(文子)山崎何があったんでしょうね?何をしようとしてたんだろ?ここ半月ほどとてもいい顔してた。
昔みたいな。
取材に走り回ってたころみたいな。
いい顔といっても機嫌がいいんじゃないんです。
怒ってるんです。
許せないことがあるといつも怒ってた人だったのにいつの間にかただ穏やかな人になっちゃった。
それが本当に何年ぶりかで生き返ったみたいに。
ハハッ。
生き返ったら死んじゃうなんて。
笑っちゃいますよね。
《そのうち必ずチャンスはある》《何ですかそれ?》《うん?》《一度は捨てたジャーナリスト魂にもう1回火付けてどかんと一発花火を上げるのよ》《山崎さん。
あんたあれ本気だったんだな》《その犯人を底井。
お前と俺とで見つけだす》《あんたやっぱりやろうとしてたんだな》《ならどうして一人で?》
(文子)今ごろ山崎向こうで広松さんと飲んでるかもしれない。
あの人部下だった人を一人死なせてて。
事故死っていうことには一応なってますけど。
一応って。
それで新聞社を辞めたんですか?命のやりとりなんかするよりバカバカしい雑誌を作る方がずっとまともだとか言って。
でも嘘。
カッコつけだったから。

(係員)山崎さま。
間もなく集骨となります。
あっ。
もらってください。
いや。
でもこれ遺品じゃ?同じものがもう一つありますから。
いや。
俺にはもらう資格なんか。
底井さんのことは何度も山崎から。
あいつはバカだって。
自分に似てるって。
もらってやってください。
刑事さん。
捜査状況ぐらい教えてくれたっていいじゃないですか。
(刑事)しつこいぞあんた。
こっちは上司殺されてんだ。
頼みますよ。
何でもいいから教えてください。
(刑事)ハァー。
問題のトランクは宅配便の営業所までタクシーで運ばれてる。
この上野から程近い廃屋の前からだ。
廃屋で殺されてトランク詰めにされた?
(刑事)だからその周辺で目撃者探しを進めてる。
今に必ず何か拾える。
われわれに任せろ。
なっ。
・野島さん。
(野島)ああ。
ご苦労さん。
警察にはまだ何もつかめてないそうです。
(野島)そうか。
とにかく問題なのはその日の夕方殺害されることになる15日の編集長の足取りです。
朝自宅を出てからの。
(野島)まあそれが分かれば犯人も見えてくるんだろうが。
ですから当日編集長を見掛けた者があれば教えてくれるよう情報提供を求める告知を新聞に出しましょう。
懸賞金付きで。
(鈴木)えっ?懸賞金?
(野島)そこまでお前。
デスクがお嫌でしたら俺が上に直訴します。
(野島)おい。
待てよ底井。
掛け合やいいんだろ?ハァー。
面倒事は嫌だっつってんのに。
(スタッフ)懸賞金だってよ。
どうしてそんなにむきになるんです?編集長は岡瀬殺しの犯人から3億円を横取りしたことで逆に殺されたわけで言っちゃあれですけど自業自得じゃ。
痛っ。
ちょっと来い。
えっ?何?何です?山崎さんが追ってたのはやっぱり金じゃなかったんだ。
スクープだ。
スクープ?・
(ドアの開く音)おい。
思い過ごしですよ。
だったらどうして底井さんにまで隠して一人でこそこそ。
新聞記者のころあの人は部下を一人死なせてる。
その轍を踏むまいとだ。
途中であの人は気付いたんだ。
この一件はヤバいと。
だから俺を外して一人で追い続けた。
あっ。
私編集長にひどいこと。
お前はお前の妄想を口にしただけだ。
底井さん。
3億円がらみの岡瀬殺しの真相にあの人はすでにたどりついてた。
おそらく後は絶対の確証を握るだけだった。
そのためには2日という時間が必要だったんだろう。
出張って言ってたのが。
たぶん。
まあ何をしようとしたのかは分からんが。
それをすれば消されるかもしれないということもあの人は予感してた。
だから俺に遺言を残した。
《人間ってのはさどこへ落ちてもやり直しが利くと思いたいわな》あれは自分自身への。
そして俺への励ましだった。
岡瀬を殺しその真相に気付いたあの人を殺した犯人を俺は見つけだす。
そしてあの人の遺志を継いで俺は書く。
これは山崎さんと俺の事件なんだ。
(野島)フゥー。
掛け合ったよ上に。
週明け一発目。
月曜の朝刊に告知を打つ。
ありがとうございます。
デスク。
これからしばらく私たち仕事を外れます。
とは?編集長が殺されたんです。
犯人を捜すのは部下として当然じゃないですか。
犯人を捜す?はい。
そうだ。
この会議室俺たち専用にさしてもらおう。
2人だけの捜査本部。
いいですね。
あっ。
これ場所を取った印な。
それ編集長の。
人間はやり直しが利く。
俺はそう信じる。
何だ?
(スタッフ)確認お願いします。
あっ。
ねえねえ。
ねえ。
長谷川さんは?
(スタッフ)トイレじゃないですか?競馬担当に何か?西田隆三のことを知りたい。
あっ。
岡瀬はその厩舎を訪ねたわけですからね。
それだけじゃない。
立山寅平も馬主としてあそこに関わってる。
どうしていきなりあの金権体質で悪名高い代議士の名が出てくるんです?山崎さんは昔やつを追ってたらしい。
岡瀬も立山も同じ厩舎に関係があったとすれば山崎さんは当然何か引っ掛かったはずだ。
それのことだったんだあれ。
あっ。
はあ?あっ。
遺品を整理してたら引き出しの中にこれが。
岡瀬と西田と立山のことですよね?岡瀬と西田。
西田と立山。
西田を間に置けば岡瀬と立山がつながる。
編集長はこの3人のつながりを調べてたんですよ。
それが岡瀬殺しとどう結び付くのかだな。
(長谷川)おい。
何か用か?ああ。
長谷川さん。
(長谷川)おう。
西田隆三ってどんな人物です?
(長谷川)おお。
一流の調教師だよ。
(長谷川)今で言えばタテノポラリスかな。
人徳もある。
まっ。
これがいるのが愛嬌でね。
玉弥っていうよ売れっ子の芸者でさ神楽坂の。
神楽坂?
(長谷川)おう。
編集長が神楽坂に行ったのはその人から何かを探りだすためだったんじゃ。
その玉弥さんにはどうやったら会えます?
(男性)お見事。
(男性)さすが玉弥。

(女将)失礼いたします。
玉弥さんです。
玉弥さんは弊社の山崎編集長に会われてますよね?
(玉弥)一度だけ。
そのときと同じことをお聞きすることになると思いますが。
殺される前の日岡瀬正平はこちらの料亭に上がりあなたを呼んだそうで。
はい。
それは西田隆三さんと会えるようあなたに頼むためだったのでは?岡瀬さんは古くからのおなじみさんで。
私を呼んだのはただ昔話がしたかっただけかと。
いや。
そんなことのために…。
津村。
では別のことをお聞きします。
岡瀬と西田隆三さんは昔からの知り合いですよね?まあ調べれば分かることなんですが。
7年前。
岡瀬さんに求められて私が西田さんとお引き合わせいたしました。
岡瀬は西田さんを仲介役としてその向こうにいる人物…。
立山寅平代議士とパイプをつくりたかったのでは?あっ。
さあ私にはさっぱり分からないお話で。
(西田)それでいいんだ玉弥。
大丈夫。
お前は何も心配することはない。
全てうまくいったんだから。
岡瀬は立山とパイプをつくりたかった。
でも何のために?それを間に入った当人から探りだしてやる。
(中本)西田先生なら末吉さんと一緒に盛岡行ってます。
盛岡?
(中本)あした開催する盛岡競馬にタテノポラリスを出走させるんで。
立山の持ち馬だ。
ああ。
編集長が殺されたころの西田のアリバイ一応確かめといた方がいいですよね?あのう。
(中本)はい。
15日の夕方のことなんて覚えてます?
(中本)ああ。
ポラリスを盛岡に送り出したのがその日だから。
(横川)《よし。
長旅だよ》
(末吉)《出して》
(中本)《頑張れポラリス!》
(中本)夕方5時ごろに。
なら6時ごろは西田さんは盛岡へ向かってる途中ですね。
いや。
馬運車に同乗しとったのは末吉さんだけで西田先生が盛岡に行ったのは次の日だから。
じゃあ15日は西田さんもずっとここに?いや。
夕方まで東京で会合があってそのまま都内に泊まったんです。
翌朝飛行機で函館に飛ぶんで。
函館?えっ?盛岡にじゃなく?函館で馬主さんの立山先生と打ち合わせしてから盛岡に。
立山寅平が函館に行ってたから。
15日に西田さんが泊まったってのはあのう。
神楽坂の女性のところ?ああ。
ハハハ。
たぶん。
あの玉弥のとこか。
ええ。
15日は西田さんは私のところにお泊まりに。
会合終わりで待ち合わせをしてマンションに着いたのは6時ごろだったかと。
お調べくだされば分かることで。
(管理人)15日の6時ごろですよね?えー。
えー。
ええ。
間違いありませんよ。
(西田)《これ会合でもらったんですけどもね私も玉弥も食べないんで。
あのう。
どうぞ》
(管理人)《あっ。
どうも。
頂きます》《ご旅行で?》
(玉弥)《あした朝一で函館。
それから盛岡ですって》
(管理人)《ああ。
相変わらずお忙しいですね》
(西田)《いえいえいえいえ。
あっ。
それじゃあ》
(管理人)《あっ》6時か。
(管理人)翌朝玉弥さんに見送られていくのも見掛けましたよ。
どうも。
(管理人)あっ。
そうですか。
分かりました。
会合。
すぐ近くの飯田橋で4時から2時間ほどだったようです。
終わって真っすぐここに来て1泊して立山に会うために函館にか。
立山の方も気になりますよね。
15日のアリバイ。
それにどうして函館なんかに行ってたのかも。
(桑原)函館ですか?ああ。
それは党の函館支部の大会で講演するためですよ。
今日までそれに参加してあした盛岡へ回る予定です。
タテノポラリスの観戦に。
はあー。
立山先生は党の実力者ですからさすがお忙しいですね。
ああ。
15日なんかもやはり色々と?
(桑原)15日が何か?お見掛けしたものですから。
夕方6時ごろに上野で。
それは人違いですね。
その日は昼から陳情団が重なりましてね時間に間に合わないんじゃないかってひやひやしたんですから。
(男性)《では立山先生何とぞよろしくお願いいたします》
(立山)《ああ。
善処しますよ》
(男性)《お願いします》
(立山)《うん》
(男性)《よし。
では》
(桑原)《あっ。
お気を付けて》
(立山)《6時過ぎてる。
まずいな》
(桑原)《ホントよろしいんですか?お一人で》
(立山)《秘書やらをぞろぞろ連れていくなんて田舎大名だよ君》
(桑原)《ああ》
(アナウンス)《札幌行き寝台特急…》
(桑原)《ではお気を付けていってらっしゃいませ》
(アナウンス)《上野19時3分発。
間もなく発車です》
(桑原)先生は鉄道オタクですから函館には列車で行ったんですよ。
7時3分上野発寝台特急北斗星。
上野?やっぱり上野にいたんですか?いや。
だから6時ごろはまだここいたんですって。
7時3分に立山は上野から列車に乗った。
そのわずか1時間前の6時に同じ上野から例のトランクが発送されてる。
このニアミス偶然なのか?引っ掛かりますよね。
絶対何かこう…。
うん。
でも問題の15日の夕方のアリバイは完璧ですね2人とも。
3人だ。
えっ?西田隆三と立山寅平と?厩務員の末吉。
愛想のいい顔してあの男も何か隠してる。
山崎さんもそれに気付いてるようだった。
それで3人。
でも3人ともアリバイが。
まあとにかく会ってみるさ。
あしたまとめて3人に。
えっ?えっ?盛岡競馬場?タテノポラリスが走る。
馬主も調教師も厩務員も揃ってる。
(実況)スタートしました。
10レース道奥杯です。
関東競馬から参戦の5番タテノポラリスが内に切り込んで早くも先頭です。
2番手7番キャロットラバー。
続いて8番ダークメガ。
内から9番プリンセスハナコ。
外から2番タカノツメ。
1,000mを通過していきます。
さらに後方4番…。
タテノポラリス!いけ!よし!えっ?何買ってんだよお前。
(実況)ウルトラダイナソーが最後方です。
先団3頭の争いが続いています。
さあ第4コーナーを回って直線コースに入ってまいりました。
(実況)先頭5番タテノポラリス。
そこへ8番ダークメガ迫ってきた。
400m通過。
タテノポラリス逃げ切れるか?ポラリス自慢の逃げ脚が伸びない伸びない。
どうした?タテノポラリス。
えっ?嘘?
(実況)8番ダークメガがタテノポラリスをかわし先頭に躍り出た。
外から3番ドリームターボ突っ込んできた。
(実況)8番ダークメガ。
1着でゴールイン!タテノポラリスをかわして2着3番ドリームターボ。
3着5番タテノポラリス。
場内騒然としています。
無理もありません。
タテノポラリスまさかの3着。
惨敗だな。
(男性)何だべ。
やっぱポラリス病気だったんだな。
(男性)やられました。
無理だ。
病気だったんですね。
(西田)先生。
ふがいない結果申し訳ありません。
(末吉)まさかこんな予想外の結果になろうとは。
頭に血が上ってる。
申し開きがあるなら西田。
日を改めろ。
(末吉)立山先生待ってください。
(西田)末吉。
撮れた?はい。
よし。
・立山先生。
立山先生。
岡瀬正平をご存じですよね?何だ君は?ああ。
失礼いたしました。
こういう者で。
取材か。
すまんな。
レース結果に少し興奮していて。
いえ。
岡瀬正平をご存じですよね?
(立山)当然だ。
国民の血税を食い物にした木っ端役人だろう。
国政に携わる者であいつの名を知らん者はいないよ君。
いや。
個人的にという意味で。
(立山)ならば知るわけがないだろう。
聞けば強盗に殺されたらしいが私に言わせれば死んで当然。
天罰だよ。
いやいや。
いかんな。
興奮していて世間のひんしゅくを買いそうなことをどんどん口走りそうだ。
今のはオフレコだぞ。
取材は事務所を通してくれ。
いきなり岡瀬の名前をぶつけたらぎょっとしやがった。
それに底井さんの名刺にも。
いや。
『週刊ドドンゴ』という肩書にだろう。
えっ?あの立山もしかして編集長にも?会ってるな。
(記者)西田さん。
タテノポラリスが病気だったって話があるんですけど。
(記者)実際のとこどうだったんですかね?
(西田)まあ勘弁してくださいよ。
もうこれ以上。
ねっ。
あのう。
帰り支度もあるんで。
(記者)西田さん。
西田さん。
よし。
・末吉さん。
いつぞやは。
(末吉)ああ。
(西田)誰?ああ。
すいません。
底井といいます。
津村です。
(西田)ああ。
あなたたちが。
西田です。
お二人のことは玉弥から。
亡くなられた上司の方の足跡を追ってらっしゃるそうで。
その山崎さんを殺した犯人を見つけだすために。
(西田)なるほど。
西田さんは岡瀬正平をご存じですよね?
(西田)彼は競馬が好きでしたからね。
裏話を聞かしてくれとまあ何度か。
その岡瀬は殺される前の日西田さんの厩舎に行っています。
西田さんにお会いしたくてではないでしょうか?そのようですよ。
私は留守でいなかったんだが後でこの末吉からそう聞きました。
フッ。
馬の情報を聞きに来たわけではない。
やっぱり嘘。
まあ世間を騒がせるまねして逮捕された人間です。
そんな者と私が知り合いだと知られてはまずいとかばってくれたんだろ?まっ許してやってください。
岡瀬正平と立山寅平代議士の仲介役をあなたは果たしましたよね?その2人の間には面識はないと思うよ。
そうですか。
これを。
何だね?これは。
山崎さんが残したメモです。
真ん中のN。
これは西田さんでは?このことを確かめに山崎さんはあなたのところに行きませんでしたか?私は山崎さんという人とは一面識もないな。
鍵を握るあなたに編集長が会おうとしないはずがないんです。
(西田)山崎さんというのはよほど立派な人だったんだろうね。
憎い犯人を君らが懸命に見つけてあげようとしている。
バカにしてました。
あの人の価値が分かったのは失ってからでした。
(西田)見つけだせるといいね。
犯人。
申し訳ないがタテノポラリスの具合がどうにもおかしいんでね。
これから水戸まで連れて帰らなけりゃならないんだ。
立山代議士とは長いんですか?恩人です。
独立して厩舎を持って以来大変お世話になっている。
先生がいらっしゃらなければ今の私はない。
何かうまくはぐらかされたって感じですね。
そのうち俺たちが現れるのを見越して準備してたんだ。
どこまでは認めどこからは隠すか。
でも立山のことを口にしたときだけは本気でしたね。
まあ絶対の恩人なんだろう。
そしてあの西田のことをやはり恩人だと言っていた末吉だが…。
(末吉)はい。
行くよ。
何です?
(木戸)ポラリスがおかしいってのはホントだべ。
一番心を許してるはずの西田さんが近づくとえらぐ興奮して暴れんだもの。
えっ?調教師の西田さんに暴れるんですか?
(木戸)いやぁ。
病気の影響で精神的に不安定になってたんだべ。
その病気のことなんですが。
(木戸)いやぁ。
詳しくは知らねえけど運んでくる途中水沢辺りで発病して獣医を呼ぶとか大変だったみでえだな末吉さん。
あっ。
水沢?それトランクが発見されたとこですよね。
あっ。
輸送途中でということですが発病したのは16日の朝方で?
(木戸)ああ。
んだ。
底井さん!くそ。
一足遅かった。
どうしたんです?例のトランクが宅配便の水沢営業所で受け取られたのも16日の朝だ。
同じ日の朝水沢で2つのことが起こった。
トランクの受け取りとタテノポラリスの発病。
ところがさっき末吉が言ってたろ。
《まさかこんな予想外の結果になろうとは》ポラリスがホントに病気だったんならたとえ3着という結果に終わろうと予想外とは。
ってことは…。
(警察官たち)うわーっ!?編集長岩手県の水沢で発見されたそうです。
殺されて。
トランク詰めで。
16日の朝先生はタテノポラリスを往診されてますよね?
(佐々)んだ。
朝4時半ごろか。
末吉とかいう男にたたき起こされて行ってみたんだじゃ。
(佐々)《どごも悪いとこはねえようだけんどなぁ》
(末吉)《そんなことないだろ。
もっとちゃんと診てくれよ》
(佐々)《気休めに注射でも打てってか》
(末吉)《なあ先生。
3時間ほど様子見てもう1回往診に来てくれ。
頼むよ》
(佐々)あんましつこいからあれ7時半すぎか。
もう1回診に行ったのだ。
んだけんどやっぱどっこも。
病気ではなかったんですね?
(佐々)まあえらく興奮気味ではあったけんどな。
でも仮病だとしたら何のために?二度の往診。
(林)末吉とは顔なじみだけんとあんときはたまげた。
夜中にたたき起こされて盛岡さ運ぶ途中のポラリスが発病したっていうからまんず馬運車からポラリス降ろしてここの厩舎さ入れて。
あいつ獣医さん呼びに飛んでったんだっけ。
二度目の往診が来るまで林さんもずっとここに?
(林)俺?いや。
(末吉)《たたき起こして悪かったな》《また先生が来たら声掛けるから休んでくれ》《運転手も仮眠してるし》
(林)《ああ。
じゃあもう一寝入りすっか。
あーあ》つまりここには末吉さんとタテノポラリスだけだった。
(林)付きっきりにもなるべさ。
末吉は。
大切なポラリスだ。

(厩務員)おい。
林。
(林)ああはい。
あっすんません。
つまり二度目の往診が来る7時半までの3時間末吉がホントにこの厩舎にいたかは誰にも分からないんだ。
16日の朝トランクを受け取りに来た男性はこんな人じゃなかったですか?
(従業員)マスクもしてたし。
あのう。
体形とか雰囲気というか。
(従業員)まあそういえばこんな感じだったかな。
ありがとうございます。
吉田三郎と名乗ってここでトランクを受け取ったのは末吉。
そう考えれば説明がつく。
この水沢営業所が開くのは朝7時。
仮病を使って水沢競馬場で空白の3時間をつくったのは開店を待ってトランクを受け取りあの発見現場へ運ぶためだった。
まあ推測なんですけどね。
馬運車の運転手に確かめればもっとはっきりする。
(横川)水沢で高速を降りたのは何の不自然もないと思うけどなぁ。
(横川)仙台を越えたあたりからポラリスの具合が妙だったんだから水沢で降りますよ。
馬を診てくれる獣医なんて競馬場のある町にしかいないんだから。
でもポラリスの具合が妙だったというのは末吉さんがそう言ってるだけですよね?
(横川)ハッ。
病気を疑ってるんだ?ホントだよ。
どうしてそう言い切れるんです?
(横川)だってポラリスはもともとはその2日前に水戸を出る予定になってたんだよね。
2日前?
(横川)うん。
それが出発間際になって西田さんと末吉さんが出発を15日に延期させたんだよ。
えっ?いきなり予定を変更させた?西田さんと末吉さんが?
(横川)うん。
ポラリスの体調が悪いんで少し様子を見るからって。
それって病気だったってことでしょうが。
どうして予定を突然変更させたり…。
そうせざるを得ない何かがその日起きたんだ。
あっ。
それってお前が山崎さんを神楽坂で見失った日だよな?会ったのかもしれない。
その後山崎さんは。
あの宮永って料亭で。
立山や西田と。
(山崎)《そう考えれば全てに説明がつくんですがね立山さん》3億円がらみの岡瀬殺しに関し山崎さんは立山や西田を追及した。
その結果ポラリスの輸送を変更する必要が西田側に何か生じたんだ。
出発を15日に変えなきゃいけない何か事情が。
うん。
もしもし。
どうした?あっ。
分かった。
すぐ行く。
(通話を切る音)ああ。
俺東洋新聞行くわ。
えっ?あっ。
あっ。
ちょっと!金のばらまき?
(鳥海)それを追ってたらしい。
編集長。

(ドアの開く音)あっ。
何か分かったんですか?ああ。
そもそもだな。
えーと。
ああ。
これこれ。
こいつが違ってたんだよ。
違うとは?山崎さんは言ってた。
《墓の中に7年間岡瀬が隠していたお宝っていうのは現金じゃないかもしれない》お金ではないお宝って?岡瀬は立山とパイプをつくりたかった。
何のためにだ?岡瀬は公金横領が発覚して逮捕されるだろうことを予想していた。
刑を終え出所したとき何をするにしても政治家の後ろ盾があれば便宜を図ってもらえる。
そういう計算で。
ところがそのころ立山は落選中だったんだ。
えっ?代議士に返り咲いたのは7年前の7月の選挙でだ。
7年前の7月って岡瀬が逮捕されたのも。
岡瀬の逮捕はその選挙の1週間後。
落選中だからこそ岡瀬には狙い時だった。
まず西田と懇意になった上で頃合いを見て岡瀬は西田に切り出した。
(岡瀬)《そういえば西田厩舎の馬主さんのお一人あの立山寅平先生なんですよね?》《ああいう本当にこの国のために役立ってくださる方に政界に復帰してもらわないと困ります》《次の選挙私に協力させていただけませんか?》西田にとって立山は絶対の恩人だ。
政界復帰に力を貸したいという岡瀬を西田は喜んで立山に紹介したはずだ。
選挙協力ってつまり選挙資金の援助?
(岡瀬)《ご自由にご活用ください》使途不明とされてきた3億円のそれが行方だ。
あっ。
岡瀬から立山の手に渡っていた。
その3億円をばらまくことで立山は代議士に返り咲いた。
山崎さんがかつて暴こうとしていたのはそのばらまきの構図と金の出どころだったそうだ。
何としても尻尾をつかもうと動いていた山崎さんの部下が命を落とした。
不可解な事故死という形で。
だがそんな犠牲者を出したかいもなくどんな力が働いたのか上は真相究明を打ち切らせた。
で山崎さんは新聞社に愛想を尽かし辞めたと。
7年前に暴けなかった真相に編集長はたどりつけたんですね。
でもそのとき3億円を使っちゃったんなら岡瀬がお墓の中に隠していたお宝って何なんです?それも山崎さんは見抜いてた。
《3億の…。
いや。
使い方によってはそれ以上の価値を持つ全然別のものかもしれん》3億は貸し与えるという形だったんだ。
だから当然その金と引き換えに立山から岡瀬の手へ1枚の紙切れが渡された。
金3億円なりの借用書。
それが岡瀬のお宝だ。
立山はそれが横領した公金だとは知らずに借りた。
ところが選挙に勝った1週間後岡瀬が逮捕された。
立山はぎょっとした。
毒まんじゅうを食っちまったんだからな。
一方岡瀬は借用書があるんだからいつでも立山から3億円を回収できる。
毒まんじゅうを食ったという証拠品だ。
3億はおろかどんなものだって岡瀬は立山から引き出せる。
あっ。
立山にとってはその借用書と岡瀬の存在自体がこの世にあっては困るもの。
だから岡瀬は消され借用書も奪い返された。
立山自身にか。
恩義を感じている西田か。
その西田を恩人と思っている末吉に。
だが問題は山崎さん殺しだ。
ああ。
ですよね。
編集長が殺されトランク詰めにされて上野から発送された15日の夕方この3人とも完璧なアリバイが。
(立山)《善処しますよ》
(男性)《お願いします》立山は昼からずっと自分の事務所にいた。
(西田)《それじゃあ》
(管理人)《あっ》西田は会合に出席し真っすぐ玉弥のマンションへ。
(末吉)《ああ…》
(男性)《いってらっしゃい》末吉は5時には水戸から盛岡へと向け出発してる。
崩しようがありませんね。
3人とも第三者のアリバイ証人がいるんですから。
あっ。
共犯者を雇ったとか?人を雇えばそいつに弱みを握られることになる。
やるなら自分たちでだ。
完璧なアリバイ。
突破口はどこに…。
(鈴木)ここ最近底井と津村がいないですけど何やってんですか?あいつら。
この忙しいときに。
(野島)犯人捜しだと。
犯人!?・
(野島)はい。
『週刊ドドンゴ』・
(由香)お金もらえるのよね?はい!?・
(由香)お金。
ホントにもらえるんでしょう?
(野島)どちらにおかけです?・はい。

(野島)例の情報提供。
あっはい。
情報提供です。

(操作音)・
(由香)もしもし?代わりました。

(由香)新聞に出てた男の人その日うちに来てたのよ。
そちらは?上野?ええ。
はい。
えっ?ああ。
じゃあ違いますね。

(通話を切る音)あっ。
空振りか。
期待したんですけどね。
上野のお店だっていうから。
でも来たのは6時すぎだって言うんです。
編集長なわけないですよ。
(由香)ああー。
似てると思うんだけどな。
6時すぎに来たんですよね?
(由香)そうよ。
時間がないとか言ってカレーにどぼどぼとしょうゆ掛けてかっこんでた。

(男性)あのう。
すいません。
(由香)はい。
もしもし。
先日お世話になった底井です。
ちょっと確認したいんですが山崎さんが殺害されたのって15日の夕方から夜半の間ですよね?
(臼田)司法解剖の結果上は。
んでも6時には死体はトランクに詰められて発送されてたわけですからね。
でしたよね。
ああ。
ところで胃の中の残留物から殺されたのは最後に食事を取ってからどれぐらいかは?
(臼田)えー。
ちょっと待ってください。
ああ。
食後4時間前後ですね。
4時間。
その最後に食ったものとは何だったんでしょう?カレーライスです。
カレー?ああ。
いえ。
ちょっと気になっただけで。
はい。
失礼します。
はい。
6時にこの上野からあのトランクを発送した人物。
山崎さんに似てるのずっと引っ掛かってたんだよ。
怪談でも落語でもなくやっぱり山崎さんだったんだ。
ということは?山崎さんは6時にはまだ生きてた。
生きててここでカレーを食った。
殺されたのはその4時間後。
ホントは夜10時前後だったんだ。
なら…。
何が完璧なアリバイだよ。
6時以前なんて何の意味もなかったんだ。
問題は夜10時前後のアリバイだ。
懸賞金。
懸賞金今度ちゃんと払いますから。
(由香)ああ…。
はい。
ありがとうございました。
殺されたのは夜10時。
そのとき山崎さんはどこにいたんだ?そうか。
列車に乗ってた。
例えば7時3分上野発の北斗星に。
それですよ。
時間がないって急いでカレーを食べてたのもそれで説明が。
立山と一緒に。
そうなら立山になら車内で殺せます。
うーん。
北斗星の10時前後というと。
あっ。
あった。
夜9時52分郡山着ですからその郡山辺りを走っていたわけです。
きっと北斗星の中で編集長は立山に迫った。
(山崎)《使途不明とされてた3億はあなたの選挙資金になったんでしょ?立山さん》その結果郡山辺りで口封じのため立山に。
殺害することは立山にも可能だった。
でも殺害後立山はその死体をどうやってあのトランクに詰めたんだ?あのトランクが発送されたのは山崎さんが殺される4時間も前だ。
ですよね。
それに発送したのは山崎さんなんだから当然中身は自分の死体なんかじゃなかった。
(従業員)《お荷物発送ですね?》自分の体重と同じ65kg分のがらくたでも詰まってたんだろう。
それが水沢に着いたときには中身はがらくたから山崎さんの死体に変わってた。
いったん発送された荷物の中身を途中で詰め替えるなんてまね誰にもできるわけがない。
でも犯人はそれをしたわけですよね。
何かからくりがあるはずだ。
犯人側の工作。
15日の夜山崎さんと立山を乗せた北斗星が北へと向け走っていた。
そしてあのトランクを積んだ輸送トラックも北へと向け走っていた。
うん。
あっ。
それともう一つ。
タテノポラリスを積んだ馬運車もです。
そうか。
ポラリスの輸送も予定を変更してまで同じこの夜にしてるんだ。
その夜3つのものが北へと向け走っていた。
それもたまたまなんかじゃなく犯人側の作為によってだ。
そうする必然が犯人側にあった。
3つのものを同時に同じ方角へと走らせる必然。
そこにどんなからくりが?
(立山)ああーうまい。
最近ヨコタ先生来てる?
(末吉)あんな成績だったのも無理ないよな。
お前の気持ちを気遣ってやれなくてごめんな。
ポラリス。
待てよ。
こいつ。
この馬運車もそのころ郡山辺りを走っていた可能性もあるんだよな?
(横川)10時ごろっていったら。
ああ。
ちょうど休憩してたころだ。
9時半ごろから1時間ぐらい。
三春西のサービスエリアで。
三春西っていうと…。
(横川)うん。
よいしょ。
えーと。
ああ。
ここ。
えっ?ここって。
郡山のすぐ近くですね。
馬運車はここで9時半から10時半まで休憩してた。
そして北斗星は9時52分。
この郡山に到着した。
その瞬間。
北斗星と馬運車が同じエリアに。
そうさせるためにポラリスの輸送予定を変更させたんだ。
北斗星と馬運車をこの一点に集中させるために。
必然が見つけだせましたね。
底井さん。
肝心なのはこの先だ。
山崎さんと立山を乗せた北斗星。
末吉の乗った馬運車。
2つのこまをここへ揃え何をさせた?
(横川)ねえ?何の話?ああ。
ああそうだ。
その休憩中末吉さんもずっと一緒に?
(横川)そうだよ。
でもトイレには立ちましたよね。
それぞれ。
(横川)そりゃ。
って何が聞きたいわけ?いや。
といってもせいぜい2〜3分か。
うん。
北斗星と馬運車。
こまを揃えてそこで犯人はどんな工作をした?トランクにどうやって編集長の死体を詰めたのかと関係あるんでしょうけど。
トランクへの死体詰め。
それも殺害してすぐにだ。
《遺体の状態から殺された直後にそのトランクに》でも立山は翌朝予定どおり函館に到着しているから北斗星は降りてはいない。
末吉には運転手のアリバイ証人がいる。
西田はまあ神楽坂に泊まっていたとはいっても愛人の証言だから当てにはならないけど死体を詰め替えられない点では一緒だろうし。
ああー。
あとあれも分かんない。
自分の死体が詰められることになるトランクをどうして山崎さんは発送したり…。
知恵貸してくれよ。
山崎さん。
これ俺たちの事件だろ?うん?底井さん?
(文子)《もらってください》《いや。
でもこれ遺品じゃ?》《同じものがもう一つありますから》残してくれてたんだな。
そのヒントまであんた。
って分かったんですか?からくりが。
答えは初めからここに。
俺たちの目の前にあったんだよ。
こんな単純なことに気付かなかったなんて。
(鈴木)いいんですか?底井と津村。
いつまでもサボらせといて。
上からもつつかれてて。
痛てて…。
郡山駅に着くのは9時52分ですよ。
そんなこと時間的に不可能なんじゃ?これだ。
いや。
郡山駅から三春西サービスエリアは2km。
走れば10分だ。
そして東京に戻るためのやまびこの最終便は郡山10時24分発。
やってできないことはない。
そうですね。
それにそう考えれば病気でもないのにタテノポラリスが3着なんて結果に終わってしまった説明も。
そっか。
見てしまったんですね。
その光景を。
それで。
この馬こそ山崎さん殺しの唯一の目撃証人だったんだ。
でも証言してもらおうにも馬には人間の言葉は…。
まあな。
ああー。
やっと全貌が見えたがどう証明する?消されるかもしれないと予感していた山崎さんだ。
残したはずだよな。
自分の命と引き換えに何か。
何か証拠を。
それがどんなものでも当然敵。
犯人に見つけられて処分されるだろうことは編集長は分かっていたはずで。
隠した。
うーん。
そう思うんだが。
敵に悟られない隠し場所なんて。
武勇伝。
武勇伝。
《どこに隠したと思う?そう簡単には分かんねえぞ》《いいところに隠したんだよ。
このチップ》あれがホントでも今回は無理だと思います。
うーん。
まあ確かにあんなもんが胃の中にあったら司法解剖でとっくに見つかってるよな。
フッ。
やっぱりタテノポラリスに証言してもらうしかありませんね。
ポラリス。
底井さん!?《上げさせろ。
一度ぐらい俺たちに花火》待ってくれ!待って!頼む!待ってくれって。
待って待って待って!ちょっと待て待て。
ストップストップストップ。
待ってくれ!・西田さん。
15日の夜7時3分。
上野発北斗星には立山代議士に同行して山崎さんも乗っていた。
そしてもう一人。
岡瀬正平を葬ったその手で山崎さんも葬るためにあなたも。
刑務所を出た岡瀬がここに顔を見せたとき全ては始まった。
あなたや立山にとって岡瀬はいわば疫病神だ。
会いたくないあなたは末吉さんに居留守でも使わせた。
そこで岡瀬は神楽坂へと回り宮永に上がって玉弥さんを呼びあなたを呼ぶよう求めた。
旦那であるあなたにとってもあなたが恩人としている立山にとっても岡瀬が疫病神なのは玉弥さんももちろん承知していた。
でも岡瀬が立山の弱みを握っている以上逆らえずに玉弥さんはあなたを呼んだ。
《お待ちしてましたよ。
西田さん》
(西田)《ちょっと下がってろ》
(岡瀬)《例の3億円。
返していただくときが来ました》
(岡瀬)《立山先生に会わせてほしい》
(岡瀬)《直接先生を訪ねてもいいんだが俺には尾行がついてる恐れがある》《ご迷惑を掛けるかと控えてあげてるんだ》あなたは思った。
たとえ3億円を返してもこの男はずるずると立山を脅し利用し続けるだろう。
消すしかないと。
そこであなたは岡瀬に一つの出任せを言った。
《分かった。
あしたにでも会ってくださるよう先生にお願いする》《早速あしたか》翌日会うとなればどこかに隠してある借用書を岡瀬は急いで取りに行くはずだ。
狙いどおり岡瀬は動きそれをつけていたあなたは…。
岡瀬を殺害して借用書を奪い返し単なる所持金目当ての強盗の仕業に見せ掛けようとした。
これで疫病神は消えた。
立山を守れたとあなたは思った。
ところがやがて玉弥さんからとんでもない話を聞いた。
うちの山崎編集長が必死に調べ回って岡瀬とあなたと立山。
3人の関係に気付いたらしいと。
あなたたちにとって山崎さんは新たな疫病神だった。
とにかくどこまでかぎつけているのか知るため立山も交えて3人で会った。
(立山)《3億の借金と殺し?何のことかさっぱり分からんね》《どうせうちは三流週刊誌ですから裏付けなんかなくたって平気で書きたてるんですよ立山さん》《名誉毀損でも何でも訴えてください》《法廷で争いましょう》
(立山)《待ちなさい》時間を引き延ばすため立山はもう一度話し合おうと15日の北斗星に同乗するよう山崎さんに求めた。
了解した山崎さんが帰った後であなたと立山は相談した。
口封じのため消えてもらうしかないと。
一番簡単なのはこっそり殺して死体を山の中にでも埋めることです。
でも相手が相手だ。
それはできない。
三流どころでも編集長は週刊誌の編集長だから失踪したとなれば警察も事件がらみじゃないかと懸命に捜査するはずですから。
ならば絶対のアリバイをつくった上で殺しさっさと死体を発見させた方が得策だろうとあなたたちは考えた。
そこであなたが必死になってひねり出したのがトランク詰めにした死体の発送というからくりだった。
急いであなたは予定していたタテノポラリスの輸送を自分たちが北斗星に乗る15日へと変更させた。
輸送を延期させたのはポラリスの体調が優れなかったからだよ。
当日15日。
あなたはまったく同じトランクを2つ用意した。
(西田)《すまんな末吉。
巻き込んで》
(末吉)《西田先生は俺の恩人じゃないですか》一つは空のまま馬運車に積みもう一つには山崎さんの体重と同じ65kg分の中身を詰め宅配便の送り状を貼り上野近くの廃屋に隠した。
一方山崎さんは編集部にも顔を出さずその夜の対決の策でも一人で練り続けていたんでしょう。
通話記録によると山崎さんの携帯電話に午後5時公衆電話から一本の電話が入ってるそうです。
その電話であなたは廃屋に置いてあるトランクを発送してくれるよう山崎さんに依頼した。
当然山崎さんは何かたくらみがあると察した。
でもその依頼を拒む気はなかった。
神楽坂であなたたちと会ったときから編集長はもう引き返せないところへと足を踏み入れてしまったんですから。
真相を暴くためあの人は突き進むしかなかった。
(従業員)《お荷物発送ですね?》午後6時に山崎さんはそのトランクを発送し…。
腹ごしらえをして…。
(アナウンス)《札幌行き寝台特急…》北斗星に乗り込んだ。
(アナウンス)《19時3分発。
間もなく発車です》立山とあなたと山崎さんを乗せ7時3分。
北斗星は上野を出発した。
そして走るその車内で山崎さんは決定的な証言を何とか引き出そうとした。
《当時あなたは選挙に返り咲くために金を必要としてた》《その選挙資金が横領した金とあっては岡瀬の口封じをするしかありませんよね?》でも立山もあなたも知らぬ存ぜぬを通し続けた。
そして郡山への到着が迫ったころ…。
(アナウンス)《間もなく郡山です》あなたに連絡が入った。
(末吉)《打ち合わせどおり三春西のサービスエリアに入りました》《何!?分かった》
(アナウンス)《郡山に到着します》
(西田)《馬運車の末吉からです。
ポラリスの調子がおかしいと》
(立山)《私の一番大切な馬だ。
すぐに見に行け》
(西田)《はい》
(立山)《君もこの郡山で降りろ》
(山崎)《立山さん。
私はあなたに話が…》
(立山)《西田君抜きにして話す気はないよ》《君もこの西田君と行動を共にしあした函館で落ち合ってもう一度3人で話そう》《それまでに私も腹を決めておくと言ってるんだよ》
(西田)《先生もこうおっしゃってるんだ》《山崎さん早く。
駅に着きます》
(西田)《あっ。
山崎さん。
あんたここで待っててくれ》
(山崎)《待てって》《30分。
いや》《1時間で必ず戻るから。
なっ》
(山崎)《おい》山崎さんは危険を覚悟であなたを追った。
(横川)《微糖でよかったよね?》
(山崎)《うわ!?》
(ポラリスのいななき)
(ポラリスのいななき)
(ポラリスのいななき)《やっぱり録音してたか》《よし》
(アナウンス)《22時24分発東京行き最終やまびこ60号》《間もなく発車いたします》東北新幹線やまびこの最終便で東京に戻ったあなたは裏口からでも玉弥さんの部屋に入ったんでしょう。
これであなたの工作は終了し第2幕を受け持ったのは末吉さんだった。
(横川)《出すよ》トランク詰めにした山崎さんの死体を載せた馬運車で末吉さんは出発し…。
タテノポラリスが発病したと偽ってその馬運車を水沢で高速から降ろさせ水沢競馬場へと向かった。
(佐々)《どごも悪いとこはねえようだけんどなぁ》
(末吉)《そんなことないだろ。
もっとちゃんと診てくれよ》《なあ先生。
3時間ほど様子見てもう1回往診に来てくれ。
頼むよ》獣医への二度の往診依頼で空白の3時間をつくった。
その3時間の間に末吉さんは…。
上野から発送させたトランクを受け取り…。
それに貼られていた送り状を死体が詰まっている方のトランクへと貼り直した。
この工作で15日の夕方6時に上野から発送された時点でトランクの中に死体が詰まっていたと思わせようとしたんです。
狙いどおり警察はそう思い込んだ。
《上野から発送されたのが15日の午後6時ですから殺害されたのはそれ以前ということに》つまり夕方6時以前のアリバイをつくっておけば容疑者にはなり得ない。
その線で立山も末吉さんもあなたも完璧なそれをつくった。
後はあなたか末吉さんが不審なトランクがあると匿名で警察に通報するだけだった。
死体の発見が遅くなり過ぎると死亡推定時刻が割り出せずせっかくつくったアリバイが意味を持たなくなりますからね。
それで?話は終わりかね?君の並べた推理は何もかも妄想だ。
君の推理は全て15日北斗星に立山先生と私と山崎さんの3人が同乗していたことを前提としている。
しかしあの日先生はお一人で乗られた。
山崎さんももちろん私も乗ってはいない。
あなたは山崎さんを見くびっている。
どういう意味かね?残したんですよ。
あの人はこれを。
ICレコーダーの録音チップです。
(立山)君もこの郡山で降りろ。
(山崎)立山さん。
私はあなたに話が…。
(立山)西田君抜きで話す気はないよ。
君もこの西田君と行動を共にしあした函館で落ち合ってもう一度3人で話そう。
それまでに私も腹を決めておくと言ってるんだよ。
(西田)先生もこうおっしゃってるんだ。
山崎さん早く。
バカな。
録音機は始末したのに。
郡山で北斗星から降ろされたとき何かのわなじゃないかと山崎さんは思った。
だからレコーダーからチップだけを抜き取っておき亡くなる間際に隠したんです。
何か残していないかと思って探したんだよ。
だが馬運車のどこにも…。
胃袋の中にです。
そのとき山崎さんはとっさに放ったんです。
飼い葉おけに。
ポラリスが食ってたのかよ。
ポラリスの胃の中に。
あの馬が一番かわいそうです。
誰よりも心を許していたあなたが目の前で人を絞め殺すのを見てしまったんですから。
(ポラリスのいななき)殺人の意味なんか分からないかもしれない。
でもそれがどれほど恐ろしいことなのかは感じますよ。
その精神的ショックでレースの結果は3着に終わりあなたが近づくと興奮して暴れるようにもなった。
馬はデリケートなんですから。
(西田)ぼろぼろだな私は。
トランクの発送を山崎さんにさせたところからすでに破綻していました。
(西田)苦肉の策だった。
共犯者を増やすのは危険だ。
でもその役ができる人間が他にいない以上山崎さん当人にやらせるしかなかった。
今回の一件立山先生には一切関係ない。
岡瀬をやったのは私だ。
山崎さんを手に掛けたのも私だ。
先生の預かり知らないところで俺が勝手にやったんだ。
直接手にかけたのはあなただし手伝ったのは末吉さんだ。
でもね西田さん。
俺が本当に許せないのはあなたや末吉さんより自分の保身のため恩義に厚いあなたを利用して殺人に走らせた立山なんだ。
俺がというより山崎さんが本当にたたきたかったのはあいつなんです。
金をばらまくようなずるいまねをして権力を手に入れ威張ってるやつがあの人には許せなかった。
それでも先生は…。
立山先生は俺には本当に恩人だったんだ!んっ!だから何ですか?山崎さんを。
俺の恩人を殺しておいてほざくな!
7年前の公金横領に端を発する公選法違反と現在の2つの殺人事件のスクープは大きな話題となり立山寅平も逮捕された
(鈴木)うちがスクープなんて初めてですね。
(野島)それに署名入りの記事も創刊以来初めてじゃないか?
(鈴木)名前出せるような記事書いてませんからね。
今ごろ編集長喜んでくれてますかね?宝物ですね。
盗まれないように隠しておくか?墓の中にでも。
私もらっちゃおう。
駄目だって。
何で!?いいじゃないですか。
駄目だよ。
ちょっと見せてくださいよ。
駄目だって。
えっ?何で?2014/05/30(金) 21:00〜23:12
関西テレビ1
金曜プレステージ・松本清張スペシャル 死の発送[字]

清張名作初のドラマ化!上野〜岩手まで送られた絞殺遺体・失踪消えた3億円…完璧なアリバイと巧妙なトリックに若き記者が挑む!!▽向井理 比嘉愛未 寺尾聰

詳細情報
番組内容
 出版社「週刊ドドンゴ」で働く記者の底井武八(向井理)と津村亜紀(比嘉愛未)は編集長の山崎治郎(寺尾聰)から、刑期を終え出所したばかりの元官僚の岡瀬正平(矢柴俊博)を監視するように命じられる。岡瀬は7年前に10億円の横領罪で逮捕されたが、当時の捜査では7億円の使い道しか判明せず、山崎は、岡瀬が使途不明金3億円を出所後、隠し場所へ回収しに行くと予想していた。
 岡瀬は競走馬トレーニングセンターを訪れ
番組内容2
た後、神楽坂の料亭街へ向かうが、そこで底井と津村は岡瀬の姿を見失ってしまう。
 その後、岡瀬が千葉県勝浦の墓地で、絞殺死体で発見されたというニュースが飛び込んでくる。山崎は使途不明金がらみで殺されたとにらみ、底井と2人で岡瀬が立ち寄った「西田厩舎」へ行く。そこで厩務員の末吉秀夫(山中崇)から、厩舎主が西田隆三(寺島進)、馬主が代議士の立山寅平(大杉漣)であることを聞く。
 その日を境に、山崎は岡瀬
番組内容3
の件について全く話さなくなる。底井は急な態度の変化に戸惑いを感じて理由を問いただすが、何も答えない山崎。
 その後、岩手県水沢の林の中でトランク詰めにされた死体が発見されるという不可解な事件が起きる。岡瀬の事件との関連は?なぜ死体はトランク詰めにされたのか?謎に包まれた不可解な事件をさらに追跡する底井たちは、どこに行きつくのか…?
 犯人と底井たち「週刊ドドンゴ」記者の魂を賭けた闘いが始まる…!
出演者
底井武八(「週刊ドドンゴ」記者): 向井理 
津村亜紀(「週刊ドドンゴ」記者): 比嘉愛未 
西田隆三(「西田厩舎」調教師): 寺島進 
末吉秀夫(「西田厩舎」厩務員): 山中崇 

山崎文子(山崎の妻): 朝加真由美 
横川修(馬運車運転手): 松尾諭 
野島(「週刊ドドンゴ」デスク): 玉置孝匡 
鈴木(「週刊ドドンゴ」編集部員): 中村靖日 
岡瀬正平(元中央官庁職員): 矢柴俊博
出演者2
玉弥(神楽坂の芸者): 伊藤裕子 
臼田与一郎(岩手県警警部補): ベンガル 

立山寅平(代議士): 大杉漣 

山崎治郎(「週刊ドドンゴ」編集長): 寺尾聰
スタッフ
【原作】
松本清張「死の発送」(角川文庫刊) 

【脚本】
扇澤延男 

【編成企画】
水野綾子(フジテレビ) 

【プロデューサー】
千葉行利 
宮川晶 

【演出】
国本雅広 

【制作】
フジテレビ 

【制作著作】
ケイファクトリー

ジャンル :
ドラマ – 国内ドラマ

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz

OriginalNetworkID:32724(0x7FD4)
TransportStreamID:32724(0x7FD4)
ServiceID:2080(0×0820)
EventID:9983(0x26FF)