日本の話芸 落語「崇徳院」 2014.05.31

どうもお話ありがとうございました。
ありがとうございました。
明日はご覧のテーマです。
明日も是非ご覧下さい。

(テーマ音楽)
(出囃子)
(拍手)
(拍手)
(入船亭扇遊)お運びで御礼を申し上げます。
どうぞ一席おつきあいを願います。
世の中がどんどんどんどんとこう進んでおります。
いろんなものが発達発展をする。
中で医学の発達というこれは大変にありがたい事ですな。
まぁ医学の発達一進一退ございますんでしょうがまぁありがたい。
昔は難病と言われていた病気でも今では治してくれるという。
いい薬ができるお医者様がどんどん進む。
これはまぁ何よりもありがたい事なんですがでもまぁ急に体が悪くなったりなんかするとこれは驚く事がございますな。
おかみさんが急に苦しみだしましてびっくりしたご亭主がいつもの掛かりつけの先生を頼んでる間がない。
しかたがない。
近所に新しくできた先生に来てもらいまして…。
「すみません診てやって下さい。
急に苦しみだしましてびっくりしちゃいましてね。
で本来ですと私ここに居ていろいろお手伝いをしなくちゃいけないんでしょうが店のほうが空っぽになっちゃいまして近頃のことで物騒ですから私は店のほうに居りますがご用がございましたら遠慮なくそう言って頂いて」。
「あ〜そうですか。
はいはい拝見しましょう」。
「お頼申します。
あ〜どうも新しい先生ってのは気心が分からねえからないままでの先生だったら遠慮なくいろんな事が言えるんだけど。
あ〜だいぶ唸ってるようだな。
よっぽど苦しいのかな?」。
「あの〜栓抜きありますか?」。
「栓抜きですか?ええ。
ありますが。
じゃあ先生こんなのでどうでしょう?」。
「はあはあ。
よろしいでしょう」。
「栓抜きね。
あんな物何に使うのかな?いままでの先生は栓抜きなんか使わなかったよ。
なんか心配になってきちゃったなこれは」。
「あの〜やっとこありますか?」。
「やっとこですか?そりゃあることはありますがこんなのでどうでしょう?」。
「はあはあ。
あ〜いいでしょう」。
「おい冗談じゃねえ。
荒っぽくなってきたねおい。
やっとこでどうしようってんだい?まさか後ろへ回ってあれで背中かなんかつねってる訳じゃねえだろうな?そんな事された日にゃ丈夫な者だってたまらないよ。
こりゃ大丈夫かな?」。
「あの〜鑿と金槌ありますか?」。
「鑿と金槌ですか?へえ。
まぁあることはありますがね先生こんなのでいかがです?」。
「はあはあ。
よろしいでしょう」。
「おい冗談じゃねえ。
鑿と金槌でどうしようってんだい?体壊されちまうよ。
おいちょいと聞いてみよう。
先生さっきからだいぶ家内の唸りがひどいようなんですがどこが悪いんでしょう?」。
「あ〜ハハハ分からないんです」。
「えっ?」。
「分からないんです」。
「あの〜分からないんですか?」。
「分からないんですよ〜まだ鞄の鍵が開かないんですから」。
(笑い)これじゃ分かる訳はありません。
でこの病にもいろいろと種類がございまして「夏痩せと答えてあとは涙かな」なんてぇと大変に色っぽいですがね昔は恋患いというのがよくございました。
今は聞きませんですね恋患い。
ね〜。
なんか思ってる事が告白できないというそこに男と女ってなぁまぁいいところがあるんじゃないかと私ぐらいの年代は思うんでございます。
ええ。
昔「君の名は」というのがございましてこれが昭和27年から29年までNHKラジオ「連続放送劇」というやつですな真知子と春樹ね〜この二人が数寄屋橋で擦れ違い擦れ違いで会いたくても会えないというこれが実にいいんですよ。
ですからその時分は放送の時間になりますと銭湯の女湯が空っぽになっちゃったなんという伝説が残っておりますね。
そういうもんでしょ男と女ってなぁ。
ええ?「本当に会いたい会いたい」と思っててもこれが会えない。
これがまたね恋というのは燃えてくるんでございます。
ええ。
こんなに力入れて言う事はないんですが。
(笑い)まぁそんな気が私は致しますな。
これが恋患いってぇのがだんだんこういうようなのがなくなってきたというのが一つがですね私は携帯電話というのがございます。
これがなんかひとつこのネックになってると思うんですな。
今の若い方たちというのはというか携帯を持ってる方はですな人と会うのまぁ例えばデートをする時に例えば「明日午後2時渋谷」。
これだけなんだそうですな。
私には考えられない。
というのは明くる日2時ごろ渋谷へ行ってお互いに携帯電話で相手を捜す。
「今この辺にいるんだけどどこにいるの?あっそう?じゃあそっちの方角行くからね。
あ〜いたいた。
ここここ。
じゃあお茶飲みに行こうか」。
面白くも何ともないですなこんなものは。
そうじゃないでしょう。
デートでも何でもそうですが「明日の午後2時渋谷のハチ公の頭のほうか尻尾のほうか」ここまでちゃんと約束したもんです我々は。
それが今だんだんこういう事がなくなりましてねええもう本当公衆電話なくなるというのは弱ったもんでございます。
ええ。
時代が変わっていくんですな。
ウ〜ン。
ええ。
(笑い)閑話休題。
という事で恋患いというのが昔はあったんでございますな。
ええ。
とにかく「男女七歳にして席を同じうせず」というもう男女が7つになるってぇと一緒に表歩く事もできなかったてんですね。
そういう訓がありましたからですから今でも昔気質の人になりますってぇと結婚してもまだ奥さんと一緒に歩く事ができない。
旦那が新宿かなんか歩いてまして…。
「おや?こりゃお珍しい所でお目にかかりましたな。
今日はなんですか?こちらのほうへお仕事で?」。
「いえいえ。
家内がね買い物を一緒に見てくれなんてそう言いましてね」。
「あっ奥様が?あ〜そうですか。
ええ〜?奥様のお姿見えないようですな?」。
「ヘヘ〜今品川歩いてます」って…。
(笑い)そんなに離れて歩く事はありませんが。
まぁ思ってる事が胸の所へつかえちまってこれが表へ出てこない積もり積もって病みたいになってしまうという「お医者様でも草津の湯でも…」歌にまで残っておりますが。
「熊さんかい?よく来てくれた。
さぁさぁこっち入っとくれ」。
「どうもすっかりご無沙汰して相すみませんね。
ええ?いやいや若旦那お加減悪いって伺ってたんでねお見舞えに伺わなくちゃならねえと思いながら『貧乏暇なし』ってやつでとうとう今日までうっちゃり放し。
でどうです?若旦那」。
「ありがとありがと。
熊さんの前だがね家の伜にも弱ったよ」。
「あっそうですか。
そりゃとんだお気の毒な事を致しました。
じゃあなんですか?寺だの葬儀社はもう人が回りましたか?」。
「何だい?寺だの葬儀社…。
いや家の伜は死んだ訳じゃないんだよ」。
「ア〜ア〜あっまだ死なねえ」。
「何だまだ死なねえって。
とにかくね病名が分からない。
これが一番始末が悪い。
いろんな先生に診て頂いたんだがな昨日来て下さった先生が大変にご名医と見えてね『こりゃ何かお胆の中に思ってる事がある。
薬をのませるよりもそれをしてあげたほうが治りが早い』とこう言うんでな昨晩も私と番頭さんでいろいろに責めてみたが内気ってのもしょうのないもんだね。
どうしても口を割らない。
しまいに『熊さんになら話をしてもいい』というところまでは追い込んだ。
でお前さんに今日来てもらったのはね伜が何を思ってるかそれを聞いてやってもらいたい」。
「あ〜なるほどそういう事ですか。
へいへい。
ええ承知しました。
で若旦那ね大概の事は私に話してくれるんですよ。
どこに寝てらっしゃるんです?」。
「それからなその先生の話では伜の体はもうだいぶ弱っていてあと5日ぐらいしかもたないとこう言うんだ。
でお前枕元であんまり大きな声なんぞ出してねそれが体に障るといけないからそこのところはよく気を付けてな」。
「へいへい。
分かりました。
離れ?へい。
承知しました。
冗談じゃねえやええ?枕元で大きな声をしたぐれえで体に障る訳はねえじゃねえか。
ここの家もどうでもいいけどね大事にし過ぎるんだよ。
だから余計病人病人しちまうんだ本当に。
あ〜障子立て切ってだいぶ唸ってるようだな。
よっぽど苦しいのかな?ウフン」。
「若旦那。
若旦那!」。
「大きな声を出しちゃいけないというのに。
ア〜ッアア〜ッ熊さんかい?」。
「こりゃ葬儀社行ったほうが早そうだね。
ええ?お前さん病名が分からねえってね〜」。
「医者には分からないが私にはよく分かっている」。
「医者に分からなくてお前さんに分かってんの?お前さんが医者になったほうがいいよそりゃ。
ええ?どこが悪いんです?言ってごらんなさいな」。
「言ってもいいけどお前笑うから」。
「冗談言っちゃいけねえ若旦那。
人が病気で苦しんでんだよ?笑う奴は無えやな。
きまりの悪い事は無えから言ってごらんなさいよ」。
「本当に笑わないかい?」。
「笑わない」。
「それじゃあ言うけどもねあの〜実はあの〜実は…。
ウフ〜ンウフ〜ンウフ〜ンウフウフウフ笑う…」。
「お前さんが笑ってんじゃねえか。
きまりの悪い事は無えから言ってごらんなさいよ。
どこが悪いんです?」。
「それじゃ言うけども私の病気は恋患いなんだ」。
「ウフッウフフ」。
「ほらほら笑っ…」。
「すみません。
一遍だけ笑わせてもらいましたがねまた恋患いたぁ古風な病気をどこで背負い込んできました?」。
「二十日ばかし前に上野の清水様へお詣りに行きました」。
「あ〜いい事をしなさったね。
『信あれば徳あり』またあそこは高台で見晴らしがいいやね〜。
下見るってぇと弁天様の池が見える。
向が岡湯島の天神神田の明神ね左のほうを見てくってぇと聖天の森から待乳山が見えていい所だああ。
あっ茶店へ腰掛けましたか?おつな家でしょ?あそこが。
苦いお茶に羊羹を出してくるんですがねその羊羹のまたうめえのうまくねえのって。
羊羹いくつ食べました?」。
「羊羹なんざ食べやしない。
私が腰を下ろす。
間もなく私の前にお供を3人連れてお嬢さん風の人が腰掛けましたがその人の顔を見て驚いた。
水の垂れるような人」。
「ひでえ顔だねそりゃ。
じゃあ早え話が蜜柑踏んづけたような顔?」。
(笑い)「違うよいい女の人の事を『水の垂れるような』と言うんですよ。
私がお嬢さんを見る。
お嬢さんも私を見ていたがやがてお嬢さんが立ち上がる。
膝に茶袱紗という物が載っていた。
これを落として知らないで歩き始めたから私がその袱紗を拾いました」。
「それだ。
ね?『信あれば得あり』今袱紗だってね安くは買えませんからね」。
「拾いっ放しにしやしない。
私が拾ってお嬢さんに渡してあげる。
と誰が結んだのか桜の枝に短冊が一枚掛かっていた。
これが風で糸が切れたとみえてヒラヒラっと落ちてきたのを今度はそのお嬢さんが拾ってジ〜ッと見ていたが何を思ったのかその短冊を私の傍へ置くと軽く会釈をしてお帰りになる。
その短冊を見るとご覧『瀬を早み岩にせかるる瀧川の』と書いてある」。
「泣かなくたってようがすよ。
ええ?『瀬を早み岩にせかるる瀧川の』?ホオ〜ッ都々逸だね?」。
「都々逸じゃない」。
(笑い)「これは崇徳院様のお歌でな下の句が『われても末に逢むとぞ思ふ』『今こうしてお別れしても後にはきっと夫婦になりましょう』という心の歌だ。
これをもらって帰ってきましたがさぁそれからってものは何を見てもお嬢さんの顔に見える。
早い話が掛け軸の達磨さんがお嬢さんに見える。
鉄瓶がお嬢さんの顔に見える」。
「またいろんな物がお嬢さんの顔に見え…。
そうか。
じゃあなんですね?そのお嬢さんってのを捜してきてあなたと夫婦になれりゃ病気は治るってやつだ。
何だな若旦那。
あなたそんな事でメソメソしてちゃしょうがねえな本当に。
男でしょ?どうしてそういう事を早く私に教えてくれねえんだよ。
私が聞いたからにはねこれから大旦那に掛け合いますんでね安心して下さいよ。
ね?それからねその短冊ってぇのちょっと貸して下さいこれ。
ええ。
いや。
すぐお返しに上がります。
ね?大事にしてんでしょ?それからね若旦那また顔を出しますがね昔から『病が3分気が7分』って事を言うよ。
気をしっかり持たなくちゃいけねえ分かったね?それじゃあねまた顔を出しますへいごめんなさい。
オホッ驚いたねおい。
恋患いだってやがら。
笑かしやがら本当に。
な〜。
大旦那」。
「あ〜熊さん。
伜は何ってったい?」。
「ええ。
伜はね…」。
「お前が伜ってぇ事はない」。
「なんでもね二十日ばかし前に上野の清水さんにお詣りに寄ったってんですよ。
またあそこは高台で見晴らしがいい上に茶店がおつなんですよ。
苦いお茶に羊羹を出してくるんですがねその羊羹のまたうめえのうまくねえのってね」。
「あっそうかい。
あっじゃあありゃ下戸だから伜はその羊羹が食べたい?」。
「いえ。
エヘヘ羊羹は私が食べたい」。
「何を言ってるそんな事はいい。
どうした?それから」。
「それからね若旦那が茶店へ腰を下ろす。
間もなく若旦那の前をお供の人を3人連れてねお嬢さん風の人が腰掛けたってんだがこの人の顔を見て驚いたてんだ。
ああ。
蜜柑踏んづけたような顔」。
(笑い)「ハア〜お気の毒に」。
「いやいや。
気の毒じゃねえんですよ。
よく言うでしょ?あの〜いい女の事を何だかこうなんかビショビショビショビショって言うでしょ?それ」。
「まぁ我が国では古くから『水の垂れるような』」。
「あっそうそれだよ。
ああ。
何か垂れると思ったんですよ。
それでね若旦那がねお嬢さんを見る。
お嬢さんも若旦那を見ていたがやがてお嬢さんが立ち上がると何か膝にね茶袱紗ってやつが載ってたらしい。
これを落としてお嬢さんが知らねえで歩き始めた。
若旦那ああいう親切な方だ。
その袱紗を拾ってお嬢さんに渡してあげる。
と誰が結んだのか桜の枝に短冊が掛かってたってんだね。
これが糸が切れたとみえてヒラヒラっと落ちてきたのを今度はそのお嬢さんが拾ってジ〜ッと見ていたがそれを若旦那の傍へ置くとそのまま帰っちゃった。
さぁその短冊をもらってきた若旦那。
それからってものは何を見てもお嬢さんの顔に見えるってんですよ。
早え話が掛け軸の達磨さんがお嬢さんに見える。
鉄瓶がお嬢さんの顔に見えると大旦那こういう訳ですよ」。
「そうかあっそうかね〜。
まだまだ子供だと思ってたがな〜。
親馬鹿ちゃんりんなんてなぁうまい事を言うもんだ。
そうか。
ありがとありがと熊さん。
でその短冊ってなぁ?」。
「ええ。
私はね借りてきましたよ。
これなんですがね」。
「どれどれ。
『瀬を早み岩にせかるる瀧川の』」。
「都々逸だと思うでしょ?」。
「そんな事を思やしない。
これは崇徳院様のお歌でな下の句が『われても末に逢むとぞ思ふ』」。
「そうそうだよ。
ひでえもんだね〜。
親子だと言う事は似てますね」。
「親子でなくたって似てる。
熊さん。
お前さんにもうひと骨折ってもらいたい。
このお嬢さんってのを捜してきておくれ。
いやただ頼まないよ。
もしお前がうまく捜してきてくれたらねうんお前が住んでる三軒長屋あれをそっくりあげますよ」。
「えっ?あの長屋を?私に下さる?イヨ〜ッしめた。
いやしめたはいいけどね大旦那だって相手のお嬢さんってぇの名前も分からなきゃええ?住んでる所も分からねえ。
まるで雲を掴むような話」。
「いや。
これが何よりの手がかり。
おいおい。
そこにな筆と紙があるだろ?ちょいと書いておくれ。
いいかい?『瀬を早み岩にせかるる瀧川のわれても末に逢むとぞ思ふ』。
書けたかい?じゃあそれこっち貸しておくれ。
それからなこれは伜に返しといておくれ。
大事にしてるそうだからな。
さぁ熊さんこれが何よりの手がかり。
お前そんな事を言わないで捜しておくれ。
お前さんと伜とは友達じゃないか。
おいおい清お前ぼんやりしてちゃいけない。
そこに草鞋が10足ばかりあるだろ?それを熊さんの腰巻き付けて」。
「おい何だよ?おいお清さんなんて事をするんだ。
ア〜ア〜何だこれは仁王様の申し子みたいになっちまったな。
じゃあまぁできるかできねえか分からねえけどやってみますんで」。
「そんな心細い事を言っちゃいけない。
いいかい?熊さん伜の体はあと5日しかもたないとこう言うんだ。
もしお前が5日の間にそのお嬢さんを捜してこないで伜の体に万が一の事があったらね私ゃお前さんを伜の敵として名乗って出るからね」。
「冗談じゃねえや。
さいなら。
ア〜ア〜えれえ事を請け合っちゃったなこらぁ。
だけど親なんてなぁそういうもんかもしれねえな。
親馬鹿ちゃんりん蕎麦屋の風鈴フフフなるほどね。
お〜おっ嚊今帰った」。
「お帰りなさい。
どうしたんだい?お店は」。
「いやそれがよほら若旦那が患ってるって話でおお聞いたらこれが恋患いだってんだよ。
笑わかしやがら本当に。
ええ?でその相手のお嬢さんってのを大旦那が俺に捜してこいってんだよ。
ところがお前これがよ名前も分からなきゃ住んでる所も分からねえってんだ。
だけどああいう大旦那ただ頼まねえよ。
ね?もし俺がねうまく捜してきたらこの住んでる三軒長屋。
これをそっくり俺に下さるとよ〜」。
「まあ〜ちょいとこの人はしっかりしておくれ。
お前さんにもいよいよ運が向いてきたんだよ。
いままでは長屋の熊さんだったけど今度は大家さんの熊さんになれるんじゃないか。
私だって大家さんのおかみさんになれるんだよまあ〜うれしい。
どうしたんだい?腰に大層草鞋がぶら下がって。
ええ?『歩いて捜すから』って?『草鞋を10足』?10足じゃ足らないよ〜。
ここにもう10足あるからお前の腰…」。
「おい何だよおい嬶まで一緒になって。
あ〜荒物屋の店みたいになっちゃったなこれは。
じゃあまぁとにかく行ってくらぁ」なんてんでその日は方々を捜したが分からない。
その明くる日は朝早くから弁当持ち。
その次の日も分からない。
またその翌日も分からない。
「どうしたんだよ?じれったいね」。
「何を言ってんだ。
俺だって一生懸命捜してんだよ」。
「どんな捜し方してんだよ〜?」。
「だから『この辺に水の垂れるのはありませんか?』」。
「ばかだねこの人はお前さん水道の壊れたの探してんじゃないんだよ?歌書いてもらったんだろ?それが何よりの手がかりじゃないか。
大勢人が集まってる所があったらね少しはきまりが悪くてもその歌を大きな声で読むんだよ。
大勢の人の中には『あっその歌だったらどこそこのお嬢さんが』『どこそこの娘さんが』それがみんな手がかりになるんだよ。
そうでなかったらお湯屋へ飛び込むとか床屋へ入るとかお湯屋も床屋もね空いてる所はいけないんだよ。
なるべく混んでる所を探して入るんだよ本当に。
もう今日捜してこなかったら家入れないからね」。
「勝手にしやがれチクショウメ。
あ〜冗談じゃねえやええ?毎日毎日こうやって表ほっつき歩いて足は棒みてえになっちまうしお前家帰りゃ嬶にポンポンポンポン言われるしあ〜駄目だこりゃ下手すると若旦那より俺のほうが先逝っちまうかもしれねえや。
あ〜あっ…。
あ〜随分人が歩いてやんなここ。
ちょっとやってみるかな〜。
こんな所で大きな声出した事は無えからきまりが悪いな。
アハッア〜ッウ〜ンせ瀬を…アハッウ〜ンウ〜ン瀬をは…瀬をは…ウムッあいチクショウ瀬を…」。
「納豆屋さ〜ん」。
「違う違う」。
(笑い)「今頃納豆屋が通るかよ。
ウ〜ン?せ『瀬を早み岩にせかるる瀧川の』。
『瀬を早み岩にせかるる瀧川の』。
ウフンだんだん出てきやがったな声。
『瀬を早み岩にせかるる瀧川…』。
随分子供がついてきたねおい。
ええ?おじさん紙芝居じゃねえんだから向こうへ行ってろ向こうへ。
何?飴?飴なんざ売ってねえ。
もう子供は向こうへ行ってろてんだよ本当に。
あっそうだおっ嚊床屋へ入れっつったな。
こんちは」。
「いらっしゃい」。
「お宅は床屋さんですね?」。
「ええ。
そうですよ」。
「今混んでますか?」「今ちょうど空いたとこなんですよ」。
「さようなら」。
「ちょっとあなたあなた空いてんですよ」。
「空いてちゃいけねえんだ。
こっちは混んでる所を探して入らなくちゃいけねえ。
アア〜ッあっ…。
すみません」。
「へい」。
「お宅は床屋さんですね?」。
「ええ。
そうですよ」。
「今空いてますか?」。
「今ちょうど5〜6人つかえてるんですがね」。
「ええ?そのつかえてるのを探してんです」。
「溝掃除みてえな人だねこの人は。
まぁまぁ上がってそれでよかったら一服おつけなさいな」。
「あ〜そうですか。
どうもすみませんじゃあちょっと…。
あっ恐れ入ります相すみません。
いえいえ。
いやお天気が続いて結構でございますな。
ええ。
やっぱりね表を歩きます者はね雨も降らなくちゃいけませんがね。
ええ。
あ〜どうも相すみませんありがとうございます。
ええ。
へいへいどうもへいへいアハハ」。
「フウ〜ッ」。
「『瀬を早み…』」。
「びっくりした何です?あなた」。
「すみません。
いろいろ都合があるもんですから。
どうぞお気になさないで。
『瀬を早み岩にせかるる瀧川の』『瀬を早み岩にせかるる瀧川の』」。
「あの〜もしあなたそれあの〜崇徳院様のお歌じゃありませんか?」。
「ええ。
そうですがあなたよくご存じで」。
「ええ。
どこで覚えてきたんですかね家の娘が近頃そればっかり言ってましてね」。
「お宅のお嬢さんが?お宅のお嬢さん水垂れますか?」。
(笑い)「えっ?」。
「蜜柑踏んづけましたか?」。
「いや。
蜜柑はどうですか?この間大福を踏んづけたようですが」。
(笑い)「おいくつです?」。
「8つです」。
(笑い)「『瀬を早み…』」。
まだやってる。
お湯屋へ18軒床屋へ36軒もう夕方までにはフラフラになっちゃって。
「こんちは〜」。
「いらっしゃい」。
「お宅床屋さんですね?」。
「そうですよ」。
「やってもらえますか?」。
「ええ。
やらない事はありませんがねあなたさっき一遍来た人じゃありませんか?」。
(笑い)「そうかもしれません。
もう36軒目顔なんざヒリヒリしちゃってどこもやる所はないんですよ。
すみませんお宅で少し植えてくれませんか?」。
「植えた事はありませんがねまぁ上がってお休みなさいな」。
「どうもすみません。
ええ。
『瀬を早み…』」。
「おいだいぶくたびれてきちゃったね」。
「こんちは」。
「どうしたい?頭。
しばらく顔を見せねえで。
ええ?家の嬶なんざ心配してんだよ。
『ふだん来る人が来ねえってのはさみしいもんだ』って『患ってでもいるんじゃねえか』ってさぁ」。
「そうじゃねえんだよ俺じゃねえんだ。
実はお店のお嬢さんが患っちまってさぁ。
病名が分からねえってんだよ。
こっちは出入りなもんだから朝起きるってぇと『あっちの先生が大層名医だそうだ』『こっちの薬が効きそうだ』ってんで朝から晩まで方々駆けずり回ってさもう髭あたってる間も湯へ入ってる間も無えって始末だ。
ところがねえ〜3日4日前に分かったんだけどばかばかしいね。
これがお前恋患いだてんだよ〜。
なんでもね23〜24日前に上野の清水さんにお詣りに寄ったってんだいおうでお嬢さんがね茶店へ腰を下ろす。
とお嬢さんの前に若旦那風のいい男が腰掛けてたそうだ。
お嬢さんその若旦那に見とれているうちに遅くなっちゃいけねえってんで立ち上がる。
膝に茶袱紗ってやつが載ってたらしい。
これを落として知らねえで歩き始めたらその若旦那風の男がその袱紗を拾ってお嬢さんに渡してくれたってんだがね。
まぁ色男ってなぁ何をしても得なもんだよ。
お嬢さんその袱紗受け取る時には体がビュ〜ッと震えてね3日震えが止まらなかったてんだお前。
ええ?そんな調子だ家へ帰ってきたってお飯が喉を通らねえ。
お飯ばっかりじゃないよ。
おじやが通らねえ。
お粥が通らねえ。
重湯が通らねえ。
お湯が通らねえ。
水が通らねえ。
もう体は糸みてえに細くなっちまってさぁ。
奥の一間でシクシクシクシク泣いてるんだってよ〜。
ああいうきれいなお嬢さんが奥で泣いてるなんてなぁこらぁ色っぽいもんだよお前。
本当に胆から泣いてんだからな〜。
そこへいくってぇと吉原の花魁はいけないね」。
(笑い)「『吉原の花魁と春の雲雀は胆
(原)で泣
(鳴)かずに空で泣
(鳴)く』ってぇが全くだ」。
(笑い)「大旦那は心配しちまってさぁ『なんとかその若旦那ってのを捜してきてくれ。
捜した者にはね酒樽を積もう』ってんだよ。
それも一っ樽や二っ樽じゃねえぞ。
二十本から積んでくれようってんだい。
長屋は喰らい意地の張ってる連中が揃ってるよ。
『俺が酒樽』『我が酒樽』ってんで方々捜したが分からねえんだ。
『日本人に違えねえから日本中捜せ』ってんでね一昨日の朝九州代表が発ってねうん。
昨日の朝北海道代表が発って私が四国代表で…」。
「のど自慢だねまるで。
ええ?で何か手がかり」。
「何だかね訳の分からねえ歌書えて寄こしたんだ。
あ〜これこれこれ。
ね?え〜『瀬を早み岩にせかるる瀧川のわれても末に逢むとぞ思ふ』これがお前ただ一つの手がかりよ」。
「三軒長屋三軒長屋三軒長屋」。
「何だ?手前」。
「お前を捜そうと思ってお湯屋へ18軒床屋へ36軒顔なんざヒリヒリしちゃって。
『瀬を早み岩にせかるる瀧川の』」。
「あれ?何でお前その歌知ってんだよ?お前んところのお店の?若旦那?ここに酒樽が転がってようとは思わなかった」。
(笑い)「もう少しで四国へ行っちまうところ。
手前をうちのお店」。
「お前をうちのお店」。
「手前をうちのお店」。
「お前をうちのお店」。
「おい駄目だよ頭そんな取っ組み合いなんぞしちゃ。
話をすりゃ分かるんだ。
あっホ〜ラ言わねえこっちゃねえ鏡を壊しちめえやがって。
どうしてくれるんだい?」。
「な〜に親方心配するねえ。
割れても末に買わんとぞ思う」。
(拍手)2014/05/31(土) 04:30〜05:00
NHK総合1・神戸
日本の話芸 落語「崇徳院」[解][字][再]

落語「崇徳院」▽入船亭扇遊▽第657回東京落語会

詳細情報
番組内容
落語「崇徳院」▽入船亭扇遊▽第657回東京落語会
出演者
【出演】入船亭扇遊,斎須祥子,小口けい,古今亭半輔,三遊亭遊松,瀧川鯉○

ジャンル :
劇場/公演 – 落語・演芸

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
日本語
サンプリングレート : 48kHz
2/0モード(ステレオ)
日本語(解説)
サンプリングレート : 48kHz

OriginalNetworkID:32080(0x7D50)
TransportStreamID:32080(0x7D50)
ServiceID:43008(0xA800)
EventID:15056(0x3AD0)