巻頭インタビュー

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日本が移民を拒むのは何故か堺屋 太一(作家)
2008年7月号 連載〈巻頭インタビュー〉

 ---日本は外国からの移民がほとんど皆無という世界で稀な国ですね。

 堺屋  私が経済企画庁長官だったとき、日本の将来が危ないと感じ、当時の経済審議会で移民受け入れの積極策を打ち出しました。しかし、その後は入国管理を扱う官 僚の通達行政で就学生の受け入れ数まで減らされています。官僚の権力と宣伝に押され、移民に関する議論すら盛り上がらないままです。日本は少子高齢化の進 行が世界一であり、外国のマンパワー導入を決断すべき時期だということは、自明なのです。

 ---流入外国人の犯罪が多い、とか。

 堺屋  一般社会から排除され、劣悪な労働・生活環境に置かれれば犯罪率は高まります。だったら犯罪が起こらない環境をどう整えるか、という提言施策を考えるべき です。官僚発表を検証せずに報じるメディアにも責任がある。不法入国を防ぐためにも、秩序ある外国人導入制度が必要です。

 ---日本人には外国人差別のDNAがしみ込んでいるのでしょうか。

 堺屋  日本は古来、外国人の血と知恵を取り入れて国力を伸ばしてきました。第一は飛鳥時代から平安初期まで。奈良の大型文化は帰化人の貢献なしに成立しなかったでしょう。第二は戦国時代から徳川幕府の初期。鎖国までですね。当時は医者や右《ゆう》筆《ひつ》(文官)、工芸家に朝鮮や中国の人が多かった。忠臣蔵の 討ち入り浪士にも中国人の二世がいます。そして第三期は大正から昭和初期です。相撲や歌謡曲など、純粋に日本文化と思われているものでも、移民やその二世 三世に支えられている部分が大きい。今日の日本人はそうした歴史的事実に無関心です。その反面、外国人排除の感情は強まっている。

 ---牢固な排他性の原因は?

 堺屋  一つには水稲文化の影響でしょう。水の流れに沿って乏しい平地を拓き、村人総出の労働集約的な生産をするのが、かつての日本の米作です。必然的にそこには 排他的な地縁社会が生まれた。外部から新しい人間や考え方が入ってくると米作の需給が狂う、というムラ意識が、外国人を疑い恐れる感情にもつながっています。

 ---現在も事情は変わらない?

 堺屋 むしろ酷くなっています。第二次大戦後は終身雇用制に よって労働の流動性が小さくなりました。終身雇用の仲間しか信用できないという職縁社会が外国人を恐れる感情を倍加しているのです。閉鎖的な職縁社会で は、実力より仲間の評判が大事です。政治も同様で、リーダーシップの強い指導者よりも仲間を大切にする調整型リーダーが好まれる。みんな怠惰で臆病、外国 人との競争を恐れている。

 ---突破口はどこに。

 堺屋 官僚とマスコミから刷り込まれている外国への恐怖性を捨てる必要があります。例えば文化的に大発展しているアジアをよく見てください。上海や香港には多くの高層ビルがありますが、その担い手である都市デザイナーの名を一人でも挙げられますか。

 ---真の開国をしなければ......

 堺屋  医療、介護、教育、労働など日本の現状と合致した秩序ある移民政策を研究する必要があります。心地よく活躍できる環境がこの国にあれば、海外から多様な人 材が来てくれるはずです。日本人が考えているほど言語の壁は大問題ではない。今後の四半世紀で一千万人の外国人が住める国を目指すべきです。そうしなけれ ば日本の繁栄と日本人の幸せはないでしょう。

〈インタビュアー 本誌・伊藤光彦〉


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