ある日、あなたが目を覚ますとそこは火星でした。
目の前には見たこともない2体の異星人が立っており、自分に何かしら話しかけていますが、いかんせん言葉が通じません。ただ、しばらくのあいだ接しているうちに彼らがとても友好的であること、そしてパッパとマッマという名前であることが分かりました。
パッパとマッマは、あなたを家の外へと連れ出しました。
目の前にはぐにゃりと曲がった建物がいくつも立っていて、空飛ぶ車が行き交っていました。頭上には赤い空がどこまでも広がっています。あなたはしばらくのあいだそれらに見とれていました。
珍しいのはそれだけではありません。パッパとマッマに手をつながれて外を歩いてみると、金色の砂が広がっていて、その中にダイヤモンドのような輝きを放つ石ころを見つけました。あなたは思わずしゃがみこんで、それらを手に取りました。マッマが強くあなたの手を引いて歩かせようとしましたが、とても美しい砂と石はあなたを魅了して止みませんでした。マッマは困ったようにため息をつきましたが、しばらくのあいだあなたの好きなようにさせてくれました。
やがてしびれを切らしたパッパに、あなたは抱き上げられました。
「ちょっと待ってくれー、あそこにどでかいダイヤが落ちている!」
そう叫びましたが、残念なことにあなたの言葉はパッパには届きませんでした。
やがてパッパとマッマは、あなたをホイークエンと呼ばれる場所に連れて行きました。そこにはたくさんの火星人がいました。パッパやマッマとちがって、目つきのこわいやつもいます。どうして自分はこんなところに連れてこられたんだろう、あなたが不思議に思って振り返ると、なんとパッパとマッマがどこかへ行こうとしているではありませんか!
「パッパー! マッマー!」
あなたは声の限り叫びました。恐怖のあまり大粒の涙も落ちてきます。しかし、パッパとマッマは手をあげるだけでどこかへ姿を消してしまいました。あなたはパニックになりましたが、どうしようもありませんでした。
幸いにもホイークエンの火星人たちはあなたに危害を及ぼそうとはしませんでした。それどころか食事を出してくれました。ただ、青い色をしたスープにトゲトゲの物体が入ったものを出されてもまったく食べる気になりませんでした。周りの火星人はというと、その不思議な食べ物をおいしそうに食べています。おまえは食べないのかい?という視線を感じましたが、やはりどうしても食欲がわきませんでした。
やがてパッパとマッマがあなたのもとへ戻ってきました。思わずあなたが駆け寄ると、パッパとマッマが細長い腕を伸ばしてぎゅっと抱きしめてくれました。あなたはとても安心しました。
ホイークエンを去って家に帰ると、服を脱がされました。そうか火星人にもお風呂の習慣があるのだとあなたは気がつきました。しかしパッパとマッマとお風呂に入ろうとすると、湯船がまるでマグマのようにぐつぐつと煮えたぎっていました。いやいや冗談じゃないっすよ、ダチョウ倶楽部じゃないんだから、とあなたは思いました。しかしパッパは気持ちよさそうに浴槽に入り、マッマもよかれと思ってかは分かりませんが、あなたを抱きかかえてお風呂に入れました。
やめでぐれー! しぬー!!
あなたは必死にもがきましたが、10秒数えるまではダメだと言われました。
のぼせたもののなんとかお風呂からあがることを許されると、どうやら晩ご飯のようでした。しかしなんと、食卓に並べられたのはホイークエンで食べさせられたあの青いスープにトゲトゲ物体ではないですか。あなたは「いらない、これだけはぜったいいらない」と首を横に振りました。見かねたマッマが、トゲトゲを砕いて小さくしてくれましたが、そういう問題ではないのです。あなたは食卓から離れました。パッパもマッマもあきらめたのか、あなたを追ってはきませんでした。
玄関のほうに向かっていると、なにかが落ちているのが見えました。こりゃまたなつかしい、竹とんぼかな、そう思って拾い上げると微妙に違います。それがなにか気がついたとき、あなたは思わず声をあげそうになりました。
こ、これは……タケコプター!!
ま、まさかマンガの中だけだと思っていたあのタケコプターがこうも無防備に落ちているではありませんか。思えばここは近代的なテクノロジーに満たされた火星なのです。タケコプターがあってもなんの不思議もありません。興奮したあなたは、これを頭の上につけずにはいられませんでした。
いざ外に出て頭につけてみると、まさしくそれはタケコプターでした。満点の星空を自由に飛び交えます。あなたはうれしくてうれしくて、縦横無尽に飛んでいました。
自分はいま、風になっている。
そんなふうに酔いしれていると「グボー!!!」という叫び声が地上から聞こえました。見下ろすと、家の外に出てきたパッパがすごい剣幕で怒っています。あなたはあわてて下へと降りていきました。
あなたはパッパからこっぴどくしかられました。よくは分かりませんでしたが、どうやらとてもキケンなことをしていたようです。ちょっと空を飛んだだけじゃん、あなたはそう思いましたが口ごたえをできるような雰囲気じゃなかったのでとりあえず反省の意を示し、家の中へと戻りました。
もっと珍しいものが家の中に落ちているのではないかとあさっていると、マッマがやってきてあなたの手を引きました。連れて行かれた先にはベッドがありました。いやいや、全然まだ眠くないんすけど。あなたはそう思いましたが、着々と寝る準備は進められました。
無理矢理ベッドに寝かされて、 天井を見つめていましたがやはり寝つけず何度も寝返りを打ちました。体は疲れているのですが、あまりにもエキサイティングな出来事ばかりで興奮していたのです。やがてマッマがあなたの隣に横たわり、頭をやさしくなでてくれました。そうして、ようやくあなたは眠りにつくことができました。
・・・というような感じなのかなあと、イヤイヤ期まっただ中の息子と、保育園に通い始めたもうすぐ1歳になる娘のことを考えながら書いてみました。
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