障害者の法律相談
性同一性障害者のトイレ使用と住居等侵入罪の関係性について
性同一性障害者性別取扱特例法による戸籍上の性別変更が済んでいないMtF(男性から女性へ移行する)性同一性障害者が女性用トイレを使用する行為と刑法上の住居等侵入罪(§130)の関係性について、お願いいたします。
トランスジェンダーとしての実生活で、特に(戸籍上の性から見て)異性装中に外出先でお手洗いを利用する際、男性用か女性用しかない場合、どちらに入るべきか悩むことが多々あります。いつも極力利用している身障者用やいわゆる「誰でもトイレ」が無い施設では状況に応じて判断していますが、法律上の問題にどこか怯えて生活しています。
文献を改めてみますと、石原明,大島俊之編著『性同一性障害と法律―論説・資料・Q&A』晃洋書房 (2001) P.275では、MtFプレオペラティブ(性別適合手術前、戸籍性別変更無)が女性用のお手洗いを使用することは軽犯罪法において問題はないが、一条二十三号の規定は存在するのでトラブルに巻き込まれないように注意したほうが良い旨、簡易に記されていました。
それでも疑問なのですが、刑法の住居侵入罪の構成要件に該当する可能性はないのでしょうか。状況にもよるとは思いますが、たとえばショッピングモールなどの建物で、定期的に設置者や清掃員が巡回している場合は、「人が看守する建造物」とされ、戸籍上男性のものが女性用お手洗いに入る場合は侵入とされてしまうのではないかと心配です(「正当な理由がない」という文言も、法的解釈上どのように扱われるのかが気になります)。
素人考えですが、侵入の意義を「意志侵害説」でとらえると、社会通念上お手洗いの区別は社会的性別(Gender)ではなく身体的性別(Sex)を基準にして考えているようですから、一般的には管理者の意思に反しているとされ侵入にあたると判断されてしまうのではないかとも思います。素人考えほど危険なこともありませんし、専門家のご意見をお聞きしたく思います。
過去の質問・回答を見ましたが、同様の質問はあっても法的解釈をともなった回答はありませんでした。お手数をおかけしますが、どたなか回答をお願いいたします。
きわめて先進的な議論であり、あくまでも法解釈に関する私見にすぎませんが、相談者様のような見解は法解釈的には十分に成りたつ解釈であると考えます。
もっとも、さらに一歩進んで、これが実務になるとどう処理されるかという問題を想像してみると、
そもそも「トイレへの侵入」という行為のみが問題となり、その他性犯罪的要素が全くないのであれば、違法性自体がきわめて低い事案となるでしょう。
加えて、性同一性障害等を立証することができるのであれば、「構成要件該当性に関し、センシティブなセクシャルマイノリティーに対する差別を検討する。」必要がでてきますし、そもそも「可罰的違法性が認められない。」という立論も成り立ちうるのではないでしょうか。
結果的に、捜査機関としても、複雑な問題に立ち入ることを嫌い、「微罪処分」や「単なる注意」として扱うことで送検するという形では処理しないのではないかと思います。
そう考えると、念のため、お守りとして「診断書の写し」を常にかばんに入れておくことが、相談者様の私生活にとってプラスになるのではないかと考えます。
以上はあくまで私見にすぎませんのでご了承ください。
松島先生
敏速に回答していただき、恐れいります。
違法性、可罰的違法性の問題を考えていると、どうしても当事者としての考えを排除できず、客観的にはどうなのだろうと悶々としていましたが、今回専門家である先生のお考えを知ることができ、大変うれしいです。
法的解釈だけでなく、実務上のことまでお教えいただき、(私見とは仰っても)非常に参考になります。生活にかかわるため、その点も本当に気になっていました。
解釈上、トイレ使用が住居等侵入となる可能性が残るのはトランスジェンダーとしては少々残念ではります。法的にも何の心配もなく、トランスジェンダーや性同一性障害を有する者がお手洗いに行けるような社会が来ることを願います。
先生の仰る通り「診断書の写し」はあったほうがよさそうですね。
性同一性障害医療は、いわゆるブルーボーイ事件もあり、一部の医師を除いて診断には慎重になっているようで、口頭では「性同一性障害だろう」とされても診断書をだすことには慎重なようです(たしか医師法では、求められれば診断書を発行する義務があったとは思いますが……)。当事者の中でも医療や診断書を社会的なツールとして位置づける主張が倫理的な議論の対象となっていますが、「お守りとして」診断書をもっておくのが、もしものときのためにベストなのかもしれませんね。この点も迷っていましたが、お陰様で一つの客観的な回答を得ることができました。
詳細で素早い回答、本当にありがとうございました。
2013年01月23日 16時04分
インターネット問題分野が得意な弁護士
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