日本統治のおかげで、高い教育を受け、貧困から抜け出した人も多いはずだが、現在の韓国ではそういう話はほとんど聞かないから不思議だ。日本による併合や統治を全体として否定的に見たとしても、教育を普及させ、身分社会を打破したことは、以前の韓国や北朝鮮の人々は認めてくれていた。子供の世代になると忘れてしまったようだ。
ただし、この韓国における封建主義への郷愁を日本人は笑えない。
貧しくひどい身分社会だった江戸時代への肯定的な評価と、明治維新への否定的な見方の蔓延(まんえん)にみられる、儒教社会再評価は日本にもある。徳川幕府や李氏朝鮮の封建社会や鎖国を肯定的に評価すれば、明治日本の急速な近代化は否定されるべきものになるのだ。
中国でも儒家の始祖、孔子が再評価され、指導者たちは親類縁者を取り立てたり、地位にふさわしい生活を誇ることが良いことのように思いつつある。沖縄でも琉球王国への郷愁が強まっているが、すべて根は同じだ。日本人自身が「東洋の不幸の種」である封建主義への誤った郷愁を否定しない限り、この問題に活路はない。
■八幡和郎(やわた・かずお) 1951年、滋賀県生まれ。東大法学部卒業後、通産省入省。フランス国立行政学院(ENA)留学。大臣官房情報管理課長、国土庁長官官房参事官などを歴任し、退官。作家、評論家として新聞やテレビで活躍。徳島文理大学教授。著書に「本当は偉くない? 世界の歴史人物」(ソフトバンク新書)、「日本史が面白くなる『地名』の秘密」(洋泉社)など多数。