2014.5.30 FRI
INTERVIEW AND TEXT BY MIKIRO ENOMOTO
「生きててよかったレヴェル」の音を誰もが楽しむ時代が来るかもしれない。PHOTO BY EUGENIO MARONGIU/SHUTTERSTOCK
音楽を楽しむには、音の良さよりも利便性の方が大事。音質なんて一部のオーディオファイルしか求めてない。それがこの15年、ミュージックラヴァーたちの常識だった。だがテクノロジーが進歩し、音質と利便性の両方を追求できる時代が来たのならどうなるだろう?
ニール・ヤングが今年のSXSWで発表したハイレゾプレーヤー、Ponoはアメリカに議論を巻き起こした。「ハイレゾなんてふつうの人は聴き分けられない」と各メディアが非難する中、KickstarterでPonoに550万ドル(約6億円)が集まった。
関連記事:ニール・ヤングの新音楽システム「Pono」:Kickstarterで2億円超を集める
SXSWの翌月には、iTunesストアもこの夏、ハイレゾ音源を出すらしいというニュースが流れた。
ハイレゾのムーヴメントは日本が早かった。昨年12月に登場したソニーのハイレゾ・ウォークマンNW-ZX1は市価7万円前後という価格にも関わらず、国内で毎週、売上首位を独走。在庫切れを起こす人気を博した。
かつてパソコンおたくが密室で楽しんでいたインターネットは、いまでは世界の常識となっている。同じことが音楽で起こらない理由があるだろうか。オーディオファイルだけの特権だった「生きててよかったレヴェル」の音を、誰もが楽しむ時代が来るかもしれない。
ハイレゾはスペック至上主義にすぎないのか。インターネット時代に出来た音楽の常識を覆すイノヴェイションなのか。ハイレゾムーヴメントの先頭を走るソニーと鼎談をおこなった。
──2年以上前でしょうか。ソニーのみなさんとお会いした時、「これからハイレゾを全力でやっていこうと考えているが、どう思われるか」と質問をいただきました。そのとき、ぼくは率直に不安を申し上げました。ハイレゾはオーディオファイルのもので、ふつうのミュージックラヴァーからソニーが離れていくことになるのではないかと。
それで次にお会いしたとき、「SpotifyやPandoraのようなストリーミング配信に集まっているミュージックラヴァーたちのことを忘れないようにしてほしいです。LTEが十分に普及すると、いずれストリーミングでもハイレゾができるようになります」とアドヴァイスさせていただきました。
そうは申し上げてみたのですがミュージックラヴァーとハイレゾがほんとうに結びつくのか、自分が正しいことを言っているのか、不安が消えなかったのです(笑)。しかし昨年末、オーディオファイル向けにつくったはずのハイレゾWalkman(ZX1)が毎週、連続首位を取るという結果が出ました。あれはPonoのようにイヴェントを打ったわけでもなかったですよね。
中川克也(ソニー事業本部 事業部長) 過剰な宣伝はしておりません。購入者が口コミで広めてくださったケースだと認識しております。
──宣伝もあまりせず、在庫切れが続いたということはソニーにとっても予想外だったと。
中川 はい。お蔭様で大変好評をいただきました反面、在庫切れとなってしまい、お客様には大変ご迷惑をおかけしてしまい申し訳なく思っております。販売してみて潜在需要を発見した典型的なケースだったと思います。
──「イノヴェイションを起こす7つの機会」をドラッカーは提唱してますが、予想外の成功がいちばんイノヴェイションにつながっていると言っています。予想外の結果の発生は、アイデアや新技術よりもイノヴェイションにつながっているんだと。
今回のZX1のことを振り返ると僕は、オーディオファイルだけの楽しみだった「最高に気持ちいい音」が、ミュージックラヴァーに解放される機会が訪れたのではないか、と。
中川 実はわれわれも社内で、榎本さんの心理と同じプロセスを辿ったんですよ。
──そうなんですか(笑)。ハイレゾ路線はどんな経緯で?
ARCHIVE
SPECIAL
コメントをシェアしよう