週刊現代(2008年3月29日と4月5日号)


<驚愕スクープ>


     関西電力・高浜原発「町長暗殺指令」

(その6)後編



                                   

   ◆テープに録音された執行役員の発言

                                                  MOX燃料のデータ改竄事件のほとぼりもさめた04年3月、関電のプル  サーマル計画がようやく再開されたが、わずか半年で暗礁に乗り上げる。同  年8月、美浜原発で死者5名を出す大事故が起こったのだ。今井町長は再び  プルサーマル計画への態度を硬化させ、関電のプルサーマル計画は白紙撤回  された。                                                                     この頃、K氏はすでに福井県美浜町にある若狭支社(現『原子力事業本   部』、三つの原発を統轄する)の副支社長に昇格していたにもかかわらず、  加藤氏に対しても露骨に町長の暗殺″を命じるようになったという。前号  で報じたとおり、「標的」であった当の今井町長もまた、その暗殺計画=@ を認識している。                                                                 「実行者」も「標的」もその存在を認める暗殺指令″について、関電は、                                      「(暗殺≠)指示したのか確認したところ、K本人は否定しました。  当時の上司と部下にも確認しましたが、誰も認識していません」(広報室報  道グループ・島田佳明報道課長)                                                          と回答した。しかし、これは、事実に反する。                                                   関電の執行役員が、K氏による町長暗殺計画″を認めていたというのだ。 矢竹氏が事の経緯を解鋭する。                                                           「ワシは06年7月中旬に、福井県美浜町にある関電の原子力事業本部を  訪ねて、執行役員と面会し、直談判に及びました」                                                  その場に立ち会った関電側の人間は、原子力事業本部に所属する執行役員  のA氏と部長2名(写真左下はその名刺)だった。                                                  「A執行役員に、Kの暗殺指令≠ノついて、洗いざらいぶちまけたんで  す。そのうえで、「ワシらの本業である警備犬事業が結局、Kによってまっ  たく違った方向に行ってしまい、尻すぼみになったことを会社として認めて、 謝罪して下さい』とお願いしました」                                                        矢竹氏に対する回答があったのは約2週間後。矢竹氏は7月31日に再び  原子力事業本部を訪れ、A執行役員ら前出の3名と面会した。ここでのやり  取りを矢竹氏はテープに録音している。その一部を再現しよう。                                            A 事実関係を調査した結果、そのようなこと(K氏による高浜町長暗  殺計画=jはあったようです。しかし、それはあくまでK個人がやったこと。                                      矢竹 Aさん、それは、あなたの考えですか?それとも関電としての答え  ですか?                                                                     A 関電としての答えです。矢竹さん、一つ言っておきますが、この件に  ついて、今後K個人とどのような話をしてもらってもええです。しかし、関  電には受付の窓口はありません。                                                          矢竹氏がこう憤る。                                                               「まったく無茶苦茶な論理じゃないですか。Kによる暗殺計画≠事実  として認めながらも、会社としてはまるで関係ない、だから会社として謝ら  んと言いよったわけです」                                                             この面談の結果を矢竹氏から聞いた加藤氏も憤りのあまり、直談判に及ん  だ。                                                                       「ワシがA執行役員ら3人に会ったのは、8月7日のことです。しかし、  私が聞いても彼らの答えは同じでした。平たくいえば『K個人がやったこ   と』、そう言うだけです。関電として事実関係は認めても、Kの言動につい  て『会社の意向でした』とは口が裂けても言えんのやろうね」       



   ◆関電側が提示した姑息な懐柔策

                                                 それだけではない。その場で関電は加藤氏に、姑息ともいうべき懐柔策 まで提示したというのだ。                                                             「A執行役員は、私にこう言いました。『(関電と)ダイニチさんとは、  固い絆で結ばれると信じております。だから、これからも私どもとのお付き  合いをお願いしたい。私の部下とこれからのことをなんなりと話し合って下  さい』と。Kのことは脇に置いて、警備犬事業はこれからも続けてくれとい  うわけです。それを聞いて、ワシは怒るよりも『この件を暴露されると困る  から、懐柔策に出てきよったな』と呆れました。ワシは『御社との仕事は、  一切お断りします。警備事業も何もかも全部こちらから止めさせてもらいま  す』と言いました。結局、関電側は今まで一度も誠意ある態度を示していま  せん」                                                                      加藤氏の直談判から約8ヵ月後、K氏は定年を前に関電を退職したものの、 現在、関電の100%子会社の部長職に収まっている。本誌は直接取材を試  みたが、K氏は3月10日から「私用」を理由に会社を休み、いっさい取材  を受けようとしない。そこで、再び関電に問い質したが、                                               「当社が(Kが暗殺≠指示したと)認めるような発言をするはずがあ  りませんし、そのような事実はありません」(前出島田課長)                                             と答えるのみだった。                                                              K氏を庇(かば)い、暗殺指令≠揉み消そうとさえした関西電力。日  本を代表する電力会社として、その責任はあまりに重い。