週刊現代(2008年3月29日と4月5日号)


<驚愕スクープ>


     関西電力・高浜原発「町長暗殺指令」

(その5)後編


   <週刊現代(2008年4月5日号)から本文転載>



  関電執行役員も”暗殺計画”の存在を認めた!

                                            

   「実行者」が決意の実名告発

                                                 「町長を殺れ」−−。”高浜原発の天皇”の命令に追い込まれて、下請け業  者は仕方なく木刀を手に取った・・・。関電は”暗殺指令”を否定するが、  事実はどうか。06年7月、下請け業者は関電側に直談判を行い、その席で  関電側から驚愕の発言が飛び出していた−−。                                     ジャーナリスト 斉藤 寅 



   ◆「木刀を車の助手席に置き町長を探した」

                                                 「あんただけに頼むことや。町長、殺(や)ってくれや、あんたの得意な  犬を使って。成功したら、事業の展開は約束する−−」                                                00年初夏、福井県大飯(おおい)郡高浜町にある、国道27号線沿いの  飲食店でのことだ。その場で、関西電力(以下、関電)の高浜原子力発電所  (以下、高浜原発)のK副所長(当時)は、高浜原発内の犬による警備を請  け負っていた『ダイニチ』の役員で、犬のブリーダーでもある矢竹雄宕兒   (ゆうじ)氏(53歳)に暗殺″を依頼したという。「標的」は、96年  から高浜町長を務めている今井理一(りいち)氏(75歳)だった−−。                   *                    本誌は前号で、関電幹部が下請け業者に命じた高浜町長の暗殺指令″を  報じた。3月20日現在、関電は本誌に対してまともな反論をしていない。  したくてもできないというのが実状だろう。K氏が矢竹氏と『ダイニチ』の  社長である加藤義孝氏(58歳)に町長暗殺″を命じたという事実を、関  電の執行役員が約2年前から把握していたばかりか、それを揉み消そうとさ  えしていたというのだから。                                                            事の始まりは99年のことだった。この年、高浜原発では日本初となるプ  ルサーマル発電計画が着々と進行していた。だが同年12月、プルサーマル  発電に欠かせない「MOX燃料」のデータが、製造元である英国の核燃料メ  ーカーによって改竄(かいざん)されていたことが発覚し、計画は頓挫(と  んざ)する。プルサーマル計画の受け入れを了承していた今井町長が、安全  性への危惧から、計画実行に慎重な態度をとるようになったのだ。                                           00年4月、その今井町長が再選されると、高浜原発副所長としてプルサ  ーマル計画の早期再開を目論むK氏は、次第に今井町長を目の敵にするよう  になった。冒頭の暗殺指令″があったのは、この頃のことだという。矢竹  氏が回想する。                                                                  「Kが約束した『(町長暗殺≠ノ)成功したら、水平展開″は絶対に  やらしたる』という言葉。今から思えば、あれは悪魔の囁き∴ネ外の何物  でもなかった」                                                                  プルサーマル計画実行に先駆けて、99年夏から高浜原発内では警備犬に  よる監視が始まっていた。K氏はその犬を使った町長暗殺″と引き替えに、 警備犬事業を関電の大飯原発と美浜(みはま)原発へ拡大することを約束し、 これを「水平展開」と呼んでいたという。                                                      K氏の「悪魔の囁き」に意を決した矢竹氏は「標的」を求めて高浜町を彷  徨(さまよ)った。                                                                「ワシは高浜での町長の動向を調べて、数日間一人で張り込んだんです。  ある時は警備の仕事を抜け出して、ある時は仕事が終わった後の明け方に・  ・・。いつも、木刀を車の助手席に置き、すぐに飛び出せるように目を光ら  せていました。                                                                  結局、幸いなことに町長と対面することはありませんでした。もし、誰も  いないところで、パッと鉢合わせするようなことがあったら、間違いなく殺  っとったでしょう・・・」                                                             矢竹氏の異変に気付いた加藤氏は、社長の立場から町長の暗殺計画″を  打ち切らせ、警備犬の仕事から外したという。加藤氏がこう振り返る。                                         「矢竹をそのまま放っておいたら、ほんまに町長を殺っとったと思います。 それほど、事業の拡大に懸命になっていましたからね。                                                Kは高浜原発内で原発の天皇″と呼ばれるほどの実力者で、関電が発注  する高浜の仕事は彼が牛耳っていました。Kの言うことを聞けば、事業は拡  大できたかもしれません。しかし、われわれの仕事は警備であって、町長を  殺すことではない。首根っこをつかむようにして、矢竹を高浜から引きずり  出したんです」                                                                  加藤氏の説得でようやく矢竹氏は、木刀から手を離した。ところが、K氏  の暗殺指令″がこれで終わることはなかった−−。           

(次ページに続く)