◆「これは特殊任務や。町長を殺れ」
この頃からK氏は明確に暗殺指令″を下し始めたという。加藤氏が語る。
「若狭支社に異動になったKは、03年に初当選したある(高浜)町議の
経営する鉄工所内に仕立てた特別室に頻紫に出入りするようになりました。
Kはそこにワシらを呼び、『これは特殊任務や。あいつだけは絶対に許せん。
あいつがおったら高浜原発はやがてはなくなってしまうかもしれん。そやか
ら、あんたらで町長を殺ってくれんか』と深刻な顔で言いだしたのです。今
井町長が3選を果たした04年以降、何度も何度もワシらに『町長、はよ
(早く)殺れや』と言うようになったのです」
K氏が町長暗殺″のために目を付けたのが、高浜原発の警備のために飼
育していた猛犬だった。矢竹氏はこう語る。
「犬のトレーナーでもあるワシにこう言いよったんです。『(町長を殺す
のに)犬を使えばええやないか!犬はあんたの言うことならなんでも聞くや
ろ。犬で町長、殺ってくれ!』。冗談言うなと思いましたけど、Kは本気や
った。また、『そうせんと、これから警備の仕事でけへんなるで。ワシの裁
量ひとつであんたら干すこともできるんやで』とも言いました。そう言われ
たら、ワシも真剣に考えましたわ・・・」
K氏は、異常な指令を命じるため、加藤氏や矢竹氏にこのような圧力をか
けたという。
「犬の警備事業を他の原発にも順次拡大させていく、という条件を出して
きたのです。彼はそれを『水平展開』と言っていました。その言葉を切り札
のように使って、ワシらに町長を殺させるよう煽(あお)ってきたんです」
(加藤氏)
高浜原発の警備犬事業を、大飯や美浜にある原発にも広げるとK氏は提案
したのである。そして「町長を殺さなければ『水平展開』はない」と脅(お
ど)したのだった。矢竹氏はこの言葉を真に受けてしまう。
「何度も何度も『殺せ』と言われて、今から考えると、『自分でも頭がお
かしくなってたんやな』と思います。本当にやらねば、と思うようになって
いったんです。本気で町長殺ったろうと。そんだけ、気持ちが追い込まれと
ったんです。そんで『犬を使うなんてまどろっこしい。ワシがやれば、一番
早い』と思って、数日間、町長つけ回したこともありました。町長が行きそ
うな飲み屋の前で待っていたこともあります。幸いなことに、町長と鉢合わ
せする機会がなくて、未遂に終わりましたが、あまりのストレスで頭にはハ
ゲができ、家庭も不仲になってしまいました・・・」
|