週刊現代(2008年3月29日と4月5日号)


<驚愕スクープ>


     関西電力・高浜原発「町長暗殺指令」

(その4)前編



                                   

   ◆「これは特殊任務や。町長を殺れ」

                                                 この頃からK氏は明確に暗殺指令″を下し始めたという。加藤氏が語る。                                      「若狭支社に異動になったKは、03年に初当選したある(高浜)町議の  経営する鉄工所内に仕立てた特別室に頻紫に出入りするようになりました。  Kはそこにワシらを呼び、『これは特殊任務や。あいつだけは絶対に許せん。 あいつがおったら高浜原発はやがてはなくなってしまうかもしれん。そやか  ら、あんたらで町長を殺ってくれんか』と深刻な顔で言いだしたのです。今  井町長が3選を果たした04年以降、何度も何度もワシらに『町長、はよ   (早く)殺れや』と言うようになったのです」                                                    K氏が町長暗殺″のために目を付けたのが、高浜原発の警備のために飼  育していた猛犬だった。矢竹氏はこう語る。                                                     「犬のトレーナーでもあるワシにこう言いよったんです。『(町長を殺す  のに)犬を使えばええやないか!犬はあんたの言うことならなんでも聞くや  ろ。犬で町長、殺ってくれ!』。冗談言うなと思いましたけど、Kは本気や  った。また、『そうせんと、これから警備の仕事でけへんなるで。ワシの裁  量ひとつであんたら干すこともできるんやで』とも言いました。そう言われ  たら、ワシも真剣に考えましたわ・・・」                                                      K氏は、異常な指令を命じるため、加藤氏や矢竹氏にこのような圧力をか  けたという。                                                                   「犬の警備事業を他の原発にも順次拡大させていく、という条件を出して  きたのです。彼はそれを『水平展開』と言っていました。その言葉を切り札  のように使って、ワシらに町長を殺させるよう煽(あお)ってきたんです」  (加藤氏)                                                                    高浜原発の警備犬事業を、大飯や美浜にある原発にも広げるとK氏は提案  したのである。そして「町長を殺さなければ『水平展開』はない」と脅(お  ど)したのだった。矢竹氏はこの言葉を真に受けてしまう。                                              「何度も何度も『殺せ』と言われて、今から考えると、『自分でも頭がお  かしくなってたんやな』と思います。本当にやらねば、と思うようになって  いったんです。本気で町長殺ったろうと。そんだけ、気持ちが追い込まれと  ったんです。そんで『犬を使うなんてまどろっこしい。ワシがやれば、一番  早い』と思って、数日間、町長つけ回したこともありました。町長が行きそ  うな飲み屋の前で待っていたこともあります。幸いなことに、町長と鉢合わ  せする機会がなくて、未遂に終わりましたが、あまりのストレスで頭にはハ  ゲができ、家庭も不仲になってしまいました・・・」           



   ◆今井町長も知っていた暗殺指令

                                                 高浜原発の実力者として特定業者と癒着の疑いがあるばかりか、業務の定  着と拡大というニンジン″を鼻先にぶら下げて、暗殺指令″を下したK  氏。その背後には関電という巨大組織の影が見え隠れする。加藤氏は、関電  の責任についてこう言及する。                                                           「K一個人の話なら、われわれは聞く耳すら持ちませんでした。しかし、  Kは高浜原発の事務方のトップです。高浜原発で仕事をする人間にとって、  彼の言葉を関電の言葉と考えてもおかしくはありません。この暗殺指令=@ に関電首脳部の関与があったのか、そうでないとしても、一社員の暴走を許  した関電の責任はあまりに重い」                                                          関電は雇用者としての責任をどう考えているのか。同社は本誌の取材にこ  う答えた。                                                                    「(暗殺″を)指示したのか確認したところ、本人(K氏)は否定しま  した。当時の上司と部下にも確認しましたが、誰も認識していません」(広  報室報道グループ・島田佳明報道課長)                                                       K氏が否定し周囲も認識していないから、社の見解としても、暗殺指令″ はなかったと言いたいのだろう。                                                          ところが、暗殺″の対象になった今井町長でさえも、驚くべきことに自  分を標的にした暗殺指令″を認識しているという。                                                 「私にシェパードをけしかけて、喉元を食いちぎらせようとする動きがあ  ったことは、知っています。それが関電の原発事業にからんでいたことも。  ある(高浜)町議の経営する鉄工所の密室で行われた謀議″に参加した、  別の(高浜)町議からそれを聞きました。どのような理由があって私を殺そ  うとしたのか、真意はわかりませんが、私は今、町長として行政を取り仕切  っていくことのみを考えています」                                                         「実行者」も「標的」も認める暗殺指令″−−。常識的に考えれば、そ  のような言動を行った社長は会社をクビになるのが当然だろう。しかし、K  氏は06年12月に関電の100%子会社に出向になり、昨年3月に関電を  退職したものの、現在も出向先だった子会社の部長職を務めている。                                          3月10日、同社に取材を申し込んだが、3月12日現在、K氏はいっさ  い取材を受けようとしない。                                                            結局、高浜原発の警備犬事業は07年4月をもって契約終了となった。加  藤氏は、今回この告発に踏み切った動機を改めてこう語る。                                              「ワシらはこの警備事業に命を懸けていました。それを『もういらん』と  ばかりに、まるで鼻をかみ終わったあとのちり紙のように、ゴミ箱に捨てた。 こんなこと、いくら天下の関電でも許されるはずがありません。しかし、今  になっても関電は一つも誠実な態度を示さない。だから、ワシらは名前も身  分も明かして告発することにしたんです」                                                      今年1月30日、西川一誠(いっせい)福井県知事は森詳介(しょうすけ) 関電社長の訪問を受け、プルサーマル計画の準備再開を了承した。同社は、  2010年の実現を目指すという。                                                         だが、町長暗殺″という恐るべき行為を指示した幹部の在籍していた関  電に、その資格はあるのか。次号ではさらに、K氏の犯罪を庇(かば)  う関電の欺瞞(ぎまん)を暴いていく。                 

(次ページに続く)