日本でこんな恐ろしい犯罪が起きていた
◆きっかけはプルサーマル計画だった
「天下の関電(関西電力)の幹部から、ワシらが請け負わされた仕事は、
町長暗殺″でした。冗談ではありません。実際、その任務″を果たすた
めに町長を何日も寝ずに追いかけ回したこともあるんです・・・」
こう語るのは、関西電力(以下、関電)が保有する高浜原子力発電所(以
下、高浜原発)の警備を’99年から約8年間請け負っていた『ダイニチ』
の役員、矢竹雄兒(ゆうじ)氏(53歳)である。
彼が暗殺″を命じられた「町長」とは、高浜原発がある福井県大飯(お
おい)郡高浜町の今井理一(りいち)町長(75歳)のこと。今井氏は今も
高浜町長を務める現職(3期目)で、福井県の町村会長も務めている。
にわかには信じられない話だが、矢竹氏は、市民生活のライフラインを担
う電力会社の幹部から「自治体の首長を殺せ」と命じられたと告発するのだ。
そして、『ダイニチ』社長の加藤義孝氏(58歳)も口を揃える。
関電の誰が、どのような理由でそんな仕事″の発注をしたのか−−。
*
事の始まりは、9年前に溯る。99年夏、関電は日本初の事業計画に全社
を挙げて、取り組んでいた。それは、プルサーマル発電計画である。
プルサーマル発電とは、通常の原子力発電とは違い、燃料を繰り返し再利
用する方法のことだ。欧米などではすでに実用化されている発電方法だが、
日本ではいまだに試験段階で実行には至っていない。
関電は美浜(みはま)原発(3基)、大飯原発(4基)、高浜原発(4基)
の3原発を保有している。新年、関電はその高浜原発の3号磯と4号横でプ
ルサーマル計画を実行に移す了承を閣議決定で得た。実行予定は99年12
月。
そんななか、プルサーマル計画実現に向けて、関電は「原発内の警備」と
いう重大な問題に直面した。当時の状況を関電OBがこう説明する。
「ただでさえ日本では原発アレルギーが強い。そのうえ、放射能漏れなど
への不安を『グリーンピース』のような環境保護団体が煽(あお)る。それ
は全国どこの原発においても同じです。そのうえ、プルサーマル計画は、本
来ウラン燃料だけを使用するはずの原発(軽水炉)で、ウランとプルトニウ
ムを混合した燃料を使用することから、安全性が不安視されていました。そ
ういうなかで、日本初となるプルサーマル計画を行うのですから、原発反対
派が先鋭的になることが予想された。そんな反対派に対する警備の仕組みを
作り上げることが、急務だったのです」
実行日が迫るにつれて、地元・高浜町では次第に緊張が高まってきた。
そのとき、あるアイデアが関電から出された。提案したのは、当時の高浜
原発副所長・K氏である。
K氏は同志社大学を卒業後、73年関電に入社。本社の資材課を皮切りに
キャリアをスタートした。90年代後半に高浜原発に赴任し、同原発の副所
長に就任する。関電では通常、原発の所長は技術者が就任する。つまり、副
所長職に就いたK氏は、事実上、事務方のトップというわけだ。
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