旅客船「セウォル号」沈没事故が起こる前、多くの人々がそれぞれの持ち場で、偶然かつ致命的な過ちを一つか二つずつ犯してきた。そしてその一人一人が犯した大小のミスが積み重なった結果、大きな災難がもたらされた。
しかし、これは果たしてセウォル号だけの問題だろうか。セウォル号沈没事故が現在進行形である今このときも、韓国社会のあちこちに「もう一つのセウォル号」が幾らでもある。
消防防災庁の管理室の勤務日誌を見ると、セウォル号が沈没する前日(4月15日)、全国で144件の火災が発生した。また、救急隊の出動件数は721件で、それによって生命の危機から逃れられた人は190人に達した。セウォル号の事故が起こった後も、この数字はほとんど変わらない。セウォル号が沈没した日やその翌日はもとより、チョン・ホンウォン首相が辞意を表明したとの知らせが伝えられた28日にも、事件や事故の件数は減ってはいない。さして大きくない国土のある場所で大惨事が発生し、人々の慟哭(どうこく)が響く一方で、別の場所では大なり小なりの事件・事故が繰り返されているというわけだ。
「実際のところ、あらゆる分野に安全上の問題がある。経済成長ばかり追求する一方、安全性の確保をおろそかにした結果、それが積み重なり、何もかもがめちゃくちゃな『安全後進国』になってしまった」(ソウル科学技術大学安全工学科のキム・チャンオ教授)
■人にぶつかっても70メートル走り続けたトラック
4月27日午後7時20分ごろ、昌原地裁居昌支部のキム・ホンボム所長が、光州市から126キロの地点の高速道路上で交通事故に遭い、即死した。
キム所長を乗せた乗用車が大雨のためスリップし、ガードレールにぶつかって止まったのが災いの元だった。車の中にいた人たちが降りる前に、後ろを走っていた25トンのダンプトラックがぶつかり、70メートルも引きずって走行した。キム所長のほか、同乗していた海印寺(慶尚南道陜川郡)のソンアン師と、車の運転手も死亡した。
翌28日午後2時、シャンプーやリンスが山のように積まれていた大田市内のアモーレ・パシフィック社の物流倉庫(広さ1万8082平方メートル)で火災が発生した。消防官322人が消防車53台に分乗して現場に出動したほか、山林庁の消防ヘリコプター3機が空から消火活動を行った。それでも火は秒速5メートル前後の強風にあおられて燃え続け、倉庫内部の約4分の1(4400平方メートル)を焼いてようやく鎮火した。倉庫にあったシャンプーやリンスは、それ自体に引火性はないが、容器はプラスチックでできている。出火から鎮火までの4時間の間、化学物質が燃えることで生じた黒い煙が立ち上り続けた。
さらに大きな会社でも同じような事態が起こった。4月20日、サムスン・グループの金融機関のデータを集めているサムスンSDSの果川センター(京畿道果川市)で火災が発生し、マンションを20-30棟建てられるほどの空間(2700平方メートル)を焼き尽くして、7時間後に鎮火した。一般の消費者が利用するサービスは1週間後に復旧したが、内部のシステムは現在も修理中だ。21日には蔚山市の現代重工業の液化石油ガス(LPG)運搬船建造現場で火災が発生し、2人が死亡した。