安全はタダではない。コストが掛かるものだ。しかし、韓国社会は「安くて安全なもの」もあるという錯覚がまん延している。甚だしくは政府から「もっと安く」と要求され、安全を犠牲にする社会をつくり出している。安全に対する投資をないがしろにした結果、事故が起きれば、何倍ものコストと犠牲が生じるにもかかわらず、政府からして「安全経営」のマインドは皆無だ。
セウォル号の惨事は、船会社が船体の購入から運航に至るまで安全には全く投資を行わず、低コストばかり追及した結果起きた代表的な安全事故だ。セウォル号を運航していた清海鎮海運は、収益が上がる貨物をできるだけ多く積むことに躍起となり、運賃収入が相対的に少ない乗客の安全を疎かにした。
■乗客より貨物重視
事故当時、セウォル号は3608トン(車両を含む)を載せており、運賃として7000万ウォン(約694万円)以上を受け取っていたとみられる。一方、乗客446人が支払った運賃は総額で3000万ウォン(約298万円)台だ。貨物のほうがもうかる結果、乗客より貨物が重視される「主客転倒」が起きていたことになる。
セウォル号では過積載が日常化しており、いかに多くの荷物を積み込むかが重要だった。事故当時の積載貨物は積載限度(978トン)の3.7倍に達していた。事実上「貨物船」に等しく、乗客は「高価な積み荷」の上についでに乗せられたに等しい状態だった。
セウォル号では、3等船室の乗客の運賃が7万1000ウォン(約7040円)だったのに対し、4.5トントラックの輸送料金(貨物積載状態)は59万3100ウォン(約5万8800円)だった。トラック1台で乗客8人分以上の収入を挙げられる計算だ。セウォル号は車両も限度の148台を32台上回る180台積んでいた。さらに貨物を多く積み込むため、船のバランスを取るためのバラスト水を抜いていた。
船長のイ・ジュンソク容疑者(69)も清海鎮海運に月給270万ウォン(約26万7800円)で雇われた契約職だった。沿岸旅客船の船員の平均月給(306万ウォン)を下回る額だ。海洋水産部(省に相当)の関係者は「ひどい待遇なので、船長としての責任感を感じろといっても無理があったのではないか」と語った。
2012年にセウォル号を導入した際にも、掛けたコストは最低限だった。日本で建造されてから18年が経過した船で、契約書上の価格は116億ウォン(約11億5000万円)だった。同じサイズの貨物船を新たに建造する場合、600億-1000億ウォン(約60億-99億円)の費用が掛かるため、老朽船を導入した格好だ。