こうした女性ファン拡大の動きは10年ほど前から始まっている。04年は球団再編などプロ野球が揺れた年だった。05年からは入場者数をそれまでの概算ではなく実数を公表するようになった。このため、セ・リーグでは1試合あたり04年の3万3261人から05年は2万6650人に、パ・リーグでは2万6800人から2万226人に激減した。昨年の入場者数は、セ・リーグで2万8245人(ピークは09年の2万9380人)、パ・リーグで2万2790人(過去最高)だった。パ・リーグは過去最高を記録したものの、6年連続で2万2000人台とまったくの横ばい状態が続いている。
女性ファン獲得に早くから動いた読売巨人軍が球団の女性職員による「プロジェクトヴィーナス」を立ち上げたのは05年3月。ちょうどプロ野球改革の波が押し寄せた時期に重なっている。
■ハードからソフトへ、女性のハートをつかめ
女性がプロ野球ファンになる以前の問題として、そもそも球場に足を運んでもらうにはどうすればよいのか?
読売巨人軍や広島東洋カープが実施したのは、まず球場に女性専用のシートやカップル向けのシートを作ることだった。トイレの配置や美化、喫煙スペースの分離、団体での観戦ができるスペースなど、各地の球場でハード面での改善が進められた。
こうした、誰かに連れて行ってもらった時のネガティブ要素の解消が図られたのが、女性ファン獲得アクションの第一段階だと言える。
先に紹介した広島東洋カープや北海道日本ハムファイターズの戦略は、「球場は自分から進んで参加するイベント会場」に位置付けが変わっている。そのためにイケメン、スイーツ、ネイルといった、男性ファンには無関係の女性専用のコンテンツが用意されてきた。いわばソフト面でも女性ファンに向き合うようになったのだ。札幌ドームでは「女性同士で球場に行けば、さらに女性の友達ができる」と言われるまでになっている。
ただ、プロ野球12球団を見るといまだにハード面すら男性客向けのところもある。業界の女性市場向けマーケティングはまだまだら模様と言えるだろう。
今回の事例から、ほかの分野にも共通する「ヒットの法則」を抽出してみると、「新規市場のカギは女性が握る」「新しいターゲットには新しい価値を提供すること」「嫌われる要素はまず取り除く」「みんなで盛り上がる参加型コンテンツ」といったキーワードが見えてくる。
渡辺和博(わたなべ・かずひろ)
日経BPヒット総合研究所 上席研究員。86年日本経済新聞社入社。IT分野、経営分野、コンシューマ分野の専門誌編集部を経て現職。全国の商工会議所等で地域振興や特産品開発の講演やコンサルを実施。消費者起点をテーマにヒット商品育成を支援。
[参考] 日経BPヒット総合研究所(http://hitsouken.nikkeibp.co.jp)では、雑誌『日経トレンディ』『日経ウーマン』『日経ヘルス』、オンラインメディア『日経トレンディネット』『日経ウーマンオンライン』を持つ日経BP社が、生活情報関連分野の取材執筆活動から得た知見をもとに、企業や自治体の事業活動をサポート。コンサルティングや受託調査、セミナーの開催、ウェブや紙媒体の発行などを手掛けている。
「日経トレンディ for ビジネスセミナー」を6月20日に開催する。テーマは「2014年下期のヒットはこれだ! 注目のキーワードはクンクン・プチプレ」(http://trendy.nikkeibp.co.jp/business/seminar/semi140620/)。
野球、女性、ヒット、広島東洋カープ、北海道日本ハムファイターズ、読売巨人軍、日本ハム
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