とんかつQ&A「2つのランドセル」
先日、近所を散歩していたら、ゴミ捨て場に赤いランドセルが2つあるのを発見しました。丁寧に並べてあったので、「ああ、大事にしていたランドセルを、中学生になったから残念に思いながら捨てたのかな」と微笑ましく思うと同時に、何故か唐突に「ロースおじさんに教えてあげないと!」思ってしまい、自分の思考にビックリしてしまいました。
でも2つのランドセルが並んでゴミ捨て場に置いてある光景はちょっとシュールな感じで、ぜひお見せしたかったです。写真を撮っておいた方がよかったでしょうか?
お名前:チキンカツ大好きさん
A
おじさんはその日、近所のリサイクルショップで手に入れた赤いランドセルを抱えて上機嫌やった。軽くて丈夫な人口皮革「クラリーノ」の使い込まれ感、サイドにあるフックのつや消し加工、A4クリアファイルもすっぽり納まるその収納性、おじさんの査定で「B+」は軽々と越えてくる申し分のない逸品やったんよ。これで収納スペースの隙間に子供さんが学校でもらったプリントの切れ端でも残っていれば、「七賢者」の一つとして数えてもいいぐらいやった。
あ、ごめん。読者さんを置いてきぼりにしちゃったけど、「七賢者」っちゅうのはおじさんがコレクションしとるランドセルの中でも美品として評価してる7つを指してそう呼んどるのね。「七賢者」の上には「五老星」、その上には「三輝神」、そしてすべてのランドセルの頂点に輝く逸品中の逸品を「至玉(しぎょく)」と呼んで敬っとる。「七賢者」の下にも「十六闘神」や「三十二鬼将」なんかが控えとって、一年に二回ほど経年による劣化や、香り・風味の変化などをテストしつつ、おじさん一人だけで「入れ替え総選挙」を行っとるんよ。この話をちゃんとし始めると2日間はぶっ続けで話さんといけなくなるんで今日は省略するけど、ともかくおじさんはその日、良品のランドセルを手に入れてウキウキやったんよ。
そして家路を辿る道すがら、ゴミ捨て場に赤いランドセルが置いてあることに気づいたんよね。何たる僥倖! 天佑、我にあり! タダでランドセル拾えるんやったら、その分他のグッズに資金を回すんやった! 様々な思いを胸に、おじさんは慌ててランドセルに駆け寄り、ひと目見るなり一瞬で気づいたんよね。
「姉妹さんや」
って。もう理屈抜きで分かった。おじさんが持っとったランドセルと、ゴミ捨て場に置かれてたランドセルは姉妹さんだったんよ。確証なんてもちろんないで? でも十万個を越えるランドセルと長い時間を過ごしてきたおじさんの経験が、2つのランドセルを結ぶ「つながり」を感じさせてくれたんよ。ああ、おじさんは今日、このかわいい姉妹さん達を出会わすためにランドセルを買うたんやなって自然と納得できて、気が付いたらゴミ捨て場のランドセルの隣に持ってきたランドセルを置いとった。
そう、あなたが見た赤いランドセルを置いたのはおじさんなんよ。
写真を撮って送ってくれんでも、二つの赤いランドセルが五月の陽光に照らされ輝いているあの光景は、おじさんの目にしっかりと焼きついとるよ。世界には所有することでは味わえない美しさもあるって、その時気づいたんよね。この年になってもランドセルには教えられることばっかりや。おじさんすっかりいい心持ちで、その後「今日はいける!」って気がして日高屋でニラレバ定食を食い逃げしようとしたら捕まった。