【スピーカー】
言語学者/心理学者/起業家/作家 Chris Lonsdale(クリス・ロンズデール) 氏
【この記事のヘッドライン】
・どうすれば学習を高速化できるか?
・”真似”が人間を進化させてきた
・例えば絵なら、原則を守れば5日間で上達する
・語学勉強には才能も現地留学も必要ない
・外国語を修得するための5つの原則
【動画もぜひご覧ください!】
How to learn any language in six months: Chris Lonsdale at TEDxLingnanUniversityst
どうすれば学習を高速化できるか?
クリス・ロンズデール氏(以下、ロンズデール):皆さんには、ある疑問を長い間ずっと考え続けているうちに、それが自分の思考の一部になってしまった、という経験はおありでしょうか? そして、その疑問が人格の一部になってしまったというようなことは?
実は、私には長年考え続けてきた問題があります。それは、「どうやったら学習を高速化できるか?」というものです。これはおもしろい疑問だと思いませんか? なぜなら学習を高速化すれば、学校に行く期間が短くて済むし、もし学習をものすごく高速化できれば、学校に通う必要が全くなくなるかもしれません。
私は幼い頃、学校が嫌いというわけではありませんでしたが、「学校が学習の邪魔になっている」とよく思っていました。ですから、「どうすればもっと速く学習出来るか?」という疑問を抱いていたのです。私がこう思い始めたのは、まだ本当に幼い頃でした。
11歳ぐらいの時、私はソ連の研究者に手紙を書き、「睡眠学習法」について質問しました。睡眠学習法とは、テープレコーダーをベッドのそばに置き、真夜中寝ている間に電源が入って、それで学習できるというものです。アイディアは良かったのですが、残念ながら、上手くはいきませんでした。
しかしこの睡眠学習法は、実際に他の研究分野への扉を開き、「どうやったら学習を高速化出来るか?」という最初の疑問から、学習についての素晴らしい発見までの道筋を作り出しました。そこから私は心理学に情熱を燃やすようになりました。以来、現在に至るまで、私は心理学にいろいろと関わってきました。
1981年、私は中国に行き、2年以内に中国語をネイティブスピーカーのレベルまで話せるようになる、と決心しました。ひとつ申し上げておきたいのは、1981年にはまだ、中国語はすごく難しくて、西洋人が10年以上勉強してもほとんど上達しないだろう、と思われていたことです。
しかし、私は違った考えを抱いていました。その時点までの心理学研究から得られたあらゆる結果を用いて、それを学習プロセスに応用しようとしたのです。
その結果、私は6ヶ月間で北京語をマスターし、それよりももう少し長くかかりましたが、ネイティブスピーカーのレベルに達しました。実に素晴らしかった。しかし周りを見渡すと、様々な国々の人々がみんな、中国語を学習するのにさんざん苦労し、中国人もまた、英語や他の言語を学習するのにさんざん苦労しているのを見ました。
そこで、最初の疑問が進化して「どうやったら、普通の大人が新たな言語を速く、容易に、効率よく学べるように出来るか?」となりました。
さて、これは今の時代、非常に大切な問題です。私たちは環境という非常に大きな課題を抱えています。ほかにも大きな社会的混乱や戦争など、ありとあらゆる大きな課題を抱えているのです。もしも私たちがコミュニケーションをとることが出来なければ、このような問題を解決するのは非常に困難になるでしょう。だから、私たちは互いの言語を話せるようになる必要があります。これは本当に大切なことです。
“真似”が人間を進化させてきた
ロンズデール:では、どうすればそれが可能なのでしょう? 実は、それは簡単です。周りの語学に堪能な人を探し、成功事例を調査し、そこから原則を導いて、適用すればいいのです。
それは「モデリング(何かしらの対象物をモデルに、そのものの動作や行動を見て、同じような動作や行動をする)」と呼ばれるもので、私はもう15年から20年間近く、言語習得やモデリング言語習得を研究しています。これにより導き出された私の結論、見解とは、これです。
どんな大人でも6ヶ月間で、外国語が堪能になれるのです。こんなことを言うと、たいていの人は私の頭がおかしい、そんなことは不可能だと思うでしょう。そこで、皆さんに思い出してもらいたいのが、人間の進歩の歴史は、限界を乗り越えることが全てだったということです。
1950年には、1マイル(約1.6km)を4分以内で走ることは不可能だと思われていました。しかし1956年にロジャー・バニスターがそれをやってのけて以来、記録はますます縮まっています。100年前、重たい物は空を飛べない、と信じられていました。実際は空を飛べるし、私たちはそのことを知っています。どうして重たい物が空を飛べるのでしょう? 自然から学んだ、飛行機の場合は鳥を観察することによって学んだ原則を使い、部材を組み直したからです。
今では、そこからさらに進んで、自動車を空に飛ばすことだって出来るのです。数千ドルで空を飛ぶ自動車を買うことが出来るのです。今や、空飛ぶ車が手に入るだけではありません。ムササビから学んだ、また別の空の飛び方もあります。
空を飛ぶムササビを真似た「ウイングスーツ」を作りジャンプすれば、ムササビのように空を飛べるのです。
例えば絵なら、原則を守れば5日間で上達する
ロンズデール:さて、みんなとは言わずともたいていの人は、自分が絵が描けない、と思いこんでいます。しかし、いくつかの主要な原則、絵の学習に適用できる5つの原則に従えば、実際に5日間で絵が描けるようになるのです。例えば、このような絵を描いたとします。
この原則を5日間学んでそれを適用すれば、5日後にはこんなふうに描けるようになるのです。
これは本当です。なぜかというと、これが私の最初の絵で、これらの原則を適用して5日後にはここまで描けるようになったのです。
ロンズデール:これを見て「わあ!」と思いました(笑)。ものすごく集中していて、脳が爆発している時の私は、こんな顔をしてるのですね。
ですから、誰でも5日間で絵が描けるようになるのであれば、同じ方法と同じ論理で、誰もが6ヶ月間で外国語を学ぶことができるのです。どうやって?
語学勉強には才能も現地留学も必要ない
ロンズデール:それには、5つの原則と7つのアクションがあるのです。実際にはもう2つ、3つあるかもしれませんが、これらがまさに核心なのです。さて、これらの原則とアクションについて述べる前に、2つの思い込みについてふれ、その思い込みを捨て去りたいと思います。
一つ目は、語学には才能が必要、という思い込みです。ゾーイという女性のことをお話しましょう。ゾーイはオーストラリア出身で、オランダに行き、オランダ語を覚えようとしました。非常に奮闘しましたが、人々からは「全く役に立たない」「才能がない」「あきらめなさい」「時間の無駄使いだ」と言われ、ものすごく落ち込みました。
そんな時、ゾーイはこの5つの原則に出会い、ブラジルに移住し、この原則を適用して、半年でポルトガル語が堪能になったのです。ですから、才能は関係ないのです。
また、外国語を学ぶには、その国でのイマージョン(外国語に浸してしまうことでその外国語を習得させてしまう方法)が一番だ、とよく思われています。
でも、香港を考えてみてください。10年間香港に住んでいても、中国語を一言も話さない西洋人もいます。アメリカ、イギリス、オーストラリアやカナダに10年、20年住んでいても、全く英語を話さない中国人もいますよね。イマージョンそれ自体は効果的ではないのです。
なぜかって? 「溺れかけている人は泳ぎ方を学べない」からです。ある言語を話せないのは、赤ちゃんになったようなものです。周りがみんな大人で、自分に理解できないことを話しているという状況に放り込まれても、言語は学べないでしょう。
1.自分に関係する言語内容に集中する
ロンズデール:それでは、集中するべき5つの原則とは何かというと、まずここに4つの語「注意」、「意味」、「自分との関係」、「記憶」、があります。
この4つには重要な相互関連性があります。特に学習という点で大事です。
私と一緒に森の中を歩いてみましょう。あなたは森の中を散歩しています。最初このようなものを見かけるとします。
木の幹に小さな跡があります。気づくかもしれないし、気がつかないかもしれません。もう50m歩くと、これが見えてきます。注意を払っているべきですね。
さらに50m歩くと、この時点で注意を払っていなくても、これを見てください。
この時点では、いやでも注意を払っていますね。これが大事だということがわかったでしょうか。木についた跡、イコール、近くに熊がいる、という「意味」だから、「自分に関係」があるのです。
自分の生存に関わること、関わる情報には、人は「注意」を払うものであり、だから「記憶」するのです。
もしも、自分の個人的な目標についてであれば、それに注意を払うでしょう。自分に関係があるからこそ、記憶出来るのです。
ですから、語学学習の1つ目のルール、1つ目の原則は「自分に関係する言語内容に集中する」ことです。
2.学習初日からコミュニケーションツールとして活用する
ロンズデール:そこで、ツールの話になります。私たちはツールを使うことによってその使い方を習得し、それが自分に関係がある時には、一番速くツールを使えるようになるのです。
ここで一つ、話をしましょう。キーボードはツールです。
中国語を入力するのには方法があります。それが「ツール」です。何年も前ですが、ある同僚の女性が夜間学校に通い、火曜日の夜と木曜日の夜、2時間ずつ練習して、家でも練習しました。9ヶ月経ちましたが、それでも中国語を入力出来ませんでした。
ある晩、危機が起こりました。48時間で中国語の研修マニュアルを納品することになったのです。彼女がその仕事の担当でした。確かに、彼女は48時間で中国語を入力出来るようになりました。なぜなら、自分に関係があり、有意義であり、大事なことでもあり、彼女は価値を生み出すためにツールを使っていたからです。
ですから、語学学習の2つ目のルールは、学習初日からその言語をコミュニケーションのためのツールとして使いなさい、というものです。子どもがするのと同じように。
3.理解すること自体に効き目はない
ロンズデール:私が初めて中国に着いた時、私は中国語を一言も話せませんでした。中国に来て2週目に、夜行列車に乗る機会を得ました。私は食堂車に座り、車掌の一人と8時間話をして過ごしました。彼はなぜか私に興味を持ったようで、一晩中、中国語でおしゃべりしました。彼は絵を描いたり、手を動かしたりし、また顔の表情などから、私は一語一語、だんだんと少しずつわかるようになったのです。
何より素晴らしかったのは、その2週間後、私の周りで人々が中国語を話していると、その内容が少しわかるようになりました。学ぶための努力も何もしていなかったというのに。なぜわかったのでしょうか? 私はその晩、列車の中で中国語を吸収していたのです。
そこで3つ目の原則です。最初にメッセージを理解したら、無意識のうちに言語を習得出来る、というものです。これについては、とてもたくさん本が書かれています。「理解可能なインプット」と呼ばれ、20年から30年分の研究の蓄積があります。この分野で指導的役割を果たしているStephen Krashenは、このことについて様々な本を出版していて、これはそのうちの1冊からとったものです。
この紫色の棒は、様々な語学試験の成績を示しています。紫色の部分は、文法中心の正規の授業によって学んだ人、緑が理解可能なインプットで勉強した人です。理解することには効き目があります。理解することが鍵なのです。語学学習とは、たくさんの知識を蓄えることではありません。語学学習は、多くの点で、生理的なトレーニングのようなものです。
4.表情筋が痛くなるまで話してみる
ロンズデール:私の知り合いの台湾出身の女性は、学校で英語が得意でした。大学までずっと英語は”優”でしたが、アメリカに行ったら、人々の話すことが理解できなかったのです。それで「耳が不自由なのですか」と聞かれるようになりました。実際、彼女は「英語耳が不自由」だったのです。脳の中にフィルターがあり、聞き慣れた音だけを聞き取り、聞き慣れない音はシャットアウトしてしまうのです。
だから聞こえないと、理解できません。理解できなかったら、学習出来ないのです。ですから、実際に音を聞き取れるようにならなければなりません。そうする方法はありますが、それは生理的なトレーニングなのです。
話すためには筋肉を使います。
私たちの顔には43の筋肉があります。その筋肉を、他の人が理解できるような音を出すために調整する必要があるのです。新しいスポーツを2、3日試したことがあれば、身体がどうなるかおわかりでしょう。痛みますよね。だから顔が痛むようであれば、正しく動かしているということです。
5.曖昧さに耐える
ロンズデール:最後の原則は「状態」、精神心理的状態です。
悲しい時、怒っている時、心配な時、気が動転している時に、学習することは出来ません。ジ・エンドです。ハッピーでリラックスしていて、脳がアルファ波の状態で、好奇心を持っている時は、すごく速く学ぶことが出来るでしょう。
具体的に言うと、曖昧さに耐えられることが必要です。聞こえる単語を100%理解出来ないと満足できない人であれば、頭がおかしくなってしまうでしょう。完璧に聞き取れず、常にものすごくフラストレーションがたまるからです。聞こえなくても聞こえてもかまわないと思って、理解できる内容にさえ注意を払えば、大丈夫です。リラックス出来るし、速く学べるのです。
【後編は明日公開!】
[実践編]外国語をたった6ヶ月でマスターできる「7つのアクション」とは?