滋賀県の最高峰、伊吹山は標高1377m。日本百名山の一つに数えられ、滋賀県と岐阜県との県境にそびえます。山頂からは、北に若狭湾、南に伊勢湾を望むことができ、日本海側の気候と、太平洋側の気候が入り混じる山です。 山にはこの気象と地理に育まれた動植物が数多く生息しています。伊吹山では約1000種類もの植物が確認されており、その中にはここではじめて発見され、名前の一部に「イブキ」とつく植物が30種近くもあります。 また、山には数多くのカタツムリが生息しています。 伊吹山は約3億年前に海底火山としてでき、サンゴ礁が変化した石灰岩の塊です。炭酸カルシウムを必要とするカタツムリの殻はその石灰岩からできています。伊吹山の地質はカタツムリにとって恰好のすみかなのです。 番組では、伊吹山の地形、地質、そして気象をうまく利用して生きる動植物の夏を紹介します。 |
日本百名山の一つでもある滋賀県の最高峰・伊吹山です。 |
夏、山頂にはおよそ 200種類の花が咲く「お花畑」が現れます。 |
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ルリトラノオです。 お花畑の中には世界でも伊吹山にしか分布しない植物が10種類近くもあります。 |
石灰岩の山肌です。花々を育んできたのは、伊吹山独特の気象と地質です。 |
石灰岩をなめるカタツムリです。炭酸カルシウムからできている殻の成長に石灰岩はなくてはならないものです。 |
(語り) |
掛川雅夫アナウンサー (NHK大津放送局) |
(取材地・取材時期・交通手段) |
●取材地 :伊吹山(滋賀県坂田郡伊吹町) ●取材期間:平成15年8月5日〜8月14日 ●交通手段: ※公共交通機関JR東海道線近江長岡駅下車 湖国バス「伊吹登山口」下車 ※自動車名神高速自動車道米原・関ヶ原、北陸自動車道長浜 各インターから15分。 伊吹山9合目までは伊吹山ドライブウェイでいけます(普通自動車3000円) |
(登場する生き物、植物) | ●お花畑・・・・伊吹山山頂付近 伊吹山山頂に広がるお花畑。植物研究上、重要な植物も数多く分布することから2002年、国の天然記念物に指定されました。 山頂へは、車の場合、岐阜県の関ヶ原から伊吹山ドライブウェイで9合目まで行き、そこから3通りある遊歩道で行くことができます。どの遊歩道も足元は石灰岩と土のためすべりやすく、注意が必要です。山頂へは麓から歩いて行くこともできます。登山口は滋賀県の伊吹町にあります。山頂までの所要時間は約3時間です。風の通り道になっていますので気をつけてください。 ●メタカラコウ(キク科) 湿気の多い草地や谷間に生える多年草です。伊吹山のお花畑では優占種になっていて、黄金色の大きな穂が何万本も一斉に開花するようすはほかの山では見られません。 ●コオニユリ(ユリ科) 山地の日当たりのよい適湿の草原に生えるユリの仲間です。7月〜9月頃、黄赤色で黒の斑点の ある花が咲きます。 ●オオバギボウシ(ユリ科) 山地の草原や林縁にも生える多年草です。北海道と本州中部以北に分布します。葉が大きく、つぼみの形が橋の欄干の擬宝珠に似ていることから名前が付けられました。 ●ルリトラノオ(ゴマノハグサ科) 伊吹山頂のお花畑のみに自生し、特産種とされる多年草です。名は瑠璃(るり)色で、花穂が虎のしっぽのように長いことからつけられました。 ●イブキコゴメグサ(ゴマノハグサ科) 日当たりのよい山頂や稜線付近のガレ場の草地に生える一年草です。伊吹山と霊仙山の石灰岩地 のみに生える特産種です。白い小さな花がつくことから名がつきました。 ●ユウスゲ(ユリ科) 山地の草原に生え、花茎の高さが1〜1.4mになる大型の多年草です。7〜9月に花茎の先に分岐した長い花序をつけ、きれいな橙黄色の花を次々と咲かせます。夕方から開花するのでこの名がつきました。伊吹山の中でも滋賀県側の3合目の草原に多く生えています。 ●ニホンカモシカ 特別天然記念物です。日本の本州、四国、九州の山地に分布。ニホンカモシカはカモシカ属のなかでも最も原始的な種であるといわれています。 ●イヌワシ(タカ科) 全長80〜90p、翼を広げると200p以上になります。山地の生態系の頂点に位置します。豊かな自然が残っていないと生き延びることが出来ません。山の開発が進んできた現在、個体数は年々減少しており、国の特別天然記念物に指定されています。 ● ヤコビマイマイ 体長1cmほど。殻は白く半透明で表面は光沢があります。体は驚くほどよく伸びます。伊吹山の特産種です。ヤコビとは研究家のヤコビ氏に由来する名前です。 ●ミカドギセル 体長2cmほど。日本にすむ200種類のキセルガイの中で、最も殻の巻き数が多く、17〜18層にもなります。昔タバコを吸う道具にキセルがあり、これによく似ていること、そして細長く、淡い紅色の優雅な姿がキセルガイの王様とういうことでミカドギセルの名が生まれたと言われています。 ● ヒルゲンドルフマイマイ 体長1cmほど。ドイツの貝類学者ヒルゲンドルフ氏の献名です。中型のカタツムリで伊吹山系の特産種です。伊吹山のお花畑には無数にいます。 ●石灰岩・・・・伊吹山山頂付近 約3億年前に赤道近くで海底火山として誕生した伊吹山。その山頂部分にサンゴ礁が発達しました。その後、プレート移動で今の位置まで動いてきた伊吹山。長い年月をかけてサンゴ礁は石灰岩へと形を変えていきました。 伊吹山の大部分は石灰岩で出来ているのです。山ではいたるところに石灰岩をみることができます。 |
(より詳細な情報の入手先) | ●伊吹町役場 企画観光課●(滋賀県坂田郡伊吹町春照490-1) пF0749-58-1121(代) fax:0749-58-0055 ●伊吹文化資料館●(滋賀県坂田郡伊吹町春照77) 「伊吹山地とその山麓の自然と文化」をテーマに、伊吹山の自然と山麓の暮らしや文化を理解できるように、展示物がおかれている。 п蒜ax:0749-58-0252 開館時間:9:30〜17:00 入館料:大人100円 休館日:毎週月・火、祝日の翌日、12月27日〜1月5日 |
「いつも霧で覆われている山」 これが伊吹山のイメージでした。めまぐるしく変わる天気。10日間の取材で気持ちよく晴れたのは3日ほど。おまけに台風も伊吹山を通過していきました。それでも伊吹山は魅力的な山です。霧の中で花が風にゆれる姿は幻想的です。そして伊吹山の上空を悠々と翼を広げて飛ぶイヌワシ。何度訪れても飽きない山です。 |
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でも、ちょっと足元に目を向ければもっともっと伊吹山の虜になります。伊吹山はカタツムリの宝庫なんです。取材するまで全く知りませんでした。でもその理由を聞いて納得。霧と、そして何よりもカタツムリの象徴である殻を作るのに必要不可欠な石灰岩がいたる所にあるのですから。 そういえば昔、ブロック壁にカタツムリが這っていたなぁ、と子供時代を思い浮かべたりもしました。 |